運命には抗えない

あぶそーぶ

ep.2 25.5話 惨敗

「貴方がそちら側にいたとは、、、。残念です」

 銀髪の女騎士は目の前の男に言った。

「現実などこんなものだ。オレはこれ以上の悲惨や惨劇を目の当たりにした事がある。お前達人間たちによって、な」

 対して男はそう言い返した。そして、これ以上の問答は不要と言うかのように背負っていた大剣を構えた。

 呼応するように女騎士も剣を構え、風をその身に纏った。

 この状況は戦線が切り開かれてから一時間も経っていない時に訪れた。

ーー数時間前

 予定通り鬼滅団を主とする部隊が編成され、王都正門に集合した。各々が話している中部隊の前に立つものがいた。

 そう、攻略等の大規模作戦における指揮を一番の得意とする人間、ジーニスだ。彼は作戦中に絶対の原則を一つ設けている。

「定刻だ。これより正体不明の敵、悪魔・・に対し交渉を行う。諸君らにはこれが否決され、悪魔が敵対行動をとった場合の反撃を命じる。決してこちらから手を出すな。相手の戦力が分からないまま戦闘を開始することの愚かしさは分かっているだろうからな」

 彼の演説にもその原則は言葉として現れていて、それを必ず最後に言う。

「諸君らの任務はあくまで迎撃だと思え。攻撃ではなく迎撃だ。無理に前に出る必要は無い。そして、毎度言っているが作戦の要は生きることだ。諸君らが生きれば生きるほど我々の作戦の成功確率は上がる。生に執着しろ、醜くとも生き延びろ!」

「「「うおおぉぉ!!」」」

 彼は生きて欲しかった。鬼滅団やスレイヤーに属する人間達はほぼ例外なく生に対する関心がない。

 彼らの目には鬼しか映っていないのだ。彼らを激励する人の声すら届かないほどに。

 だから、このジーニスの言葉も無意味なのだ。無関心なものに強制的に関心を持たせようとしても出来ないように、彼らに生きようとする心を芽生えさせることは出来ないのだ。

 そうして遠征が開始し、数時間後に問題の森の一歩手前で部隊が整列した。見る限りでは至って平凡なこの森に数千の悪魔が潜んでいるという。

 舞台が揃ったことを確認して、今度はグランブレイバーが全員に向かって話し始めた。

「この森の中に悪魔がいる。既に斥候を放っているが先に我々団長で交渉を行いに森に入る。我々が戻ってくる間の攻撃行動は禁止とする。もし、万が一にも我々が帰ってくる前に悪魔からの攻撃行動が確認された場合のみ反撃を許可する。我々がいない間の全指揮は鬼滅団第10師団団長ヴァルキリーが務めるものとする」

 その指示に対して異論は出てこなかった。そのことを確認して、一行は森に入っていった。

 それから数分が過ぎそろそろ報告の1つが来ようとするタイミングに問題が起きた。

「、、、だからな、その時俺は言ってやったんだよ。それは意見の食いちが、、、」

ーーバタッ、、、

「おいおいどうしたよ、悪魔と戦う前に失神でもしたか?」

 問題とは部隊の人間が倒れた事だ。それも一人ではなく二人三人とどんどん増えていった。ヴァルキリーがその異変にいち早く気づいたが既に遅かった。

 なぜなら、声を上げた時には既に部隊の半数が倒れていたからだ。

「総員、戦闘開始!辺りに目を向け異変に対処しろ!」

 その声に反応するというより、本能的に行動を取り始めていたが、その異変が終わる頃には更に三割、合計にして約八割が地に伏していた。数にして16000人が倒れた事になる。

 そして、その数を殺った悪意が姿となって彼らの目の前に現れた。

「これはこれは人間の皆さまよくおいでで。しかし、本日はこのような大人数の中どうしてこちらへ参ったのです?」

 現れたのは悪魔の風貌をした執事とメイド数人だった。まるでさっきまでのことは無かったかのように振る舞うそのもの達をヴァルキリーは敵と認識し、声を上げた。

「敵を包囲しろ!一人一人確実に、、、」

「少し待ってもらおうか」

 だが、その声は一つの声によって遮られた。その声の主とはかつてヴァルキリーを救った人物、スミスであった。

 思わぬの再会にヴァルキリーが唖然とする中スミスはあわあわと告げた。

「貴様らの上に立つもの、団長共は既に始末した」

 そして、突然そんな発言をした。もちろんこれには他の団員たちも驚いた。

「、、、今この場で逃げるのなら後は追わない。十数え、、、」

「うるせえ!団長たちが殺られるわけがねぇ!」

「そうだそうだ、お前らは負けて逃げてきただけだ!」

「負けて逃げてきたお前らに俺たちは負けない!行くぞ!」

「辞め、、、」

 止めようとしたヴァルキリーだが、冷静さを失っていた隊員たちにはその声は届かなかった。

 迫ってくる敵に対し、スミスはため息混じりに剣を振った。

「、、、悪魔回帰デビルモード・改、刹那」

 一瞬体が黒いオーラで覆われたが、すぐに散っていった。だが、それと同時に攻撃した隊員はすべて亡きものに変わった。

「はあ、、、。分かっていたことだが、仕方がない。全員殺せ」

 スミスの命令通り傍に仕えていた執事とメイドは部隊の残党を狙いその刃を振るった。が、それが彼らに届くことは無かった。

 なぜなら突風が吹いたからだ。しかしただの突風ではない。神器を使った突風だ。

「全員退却!戦域から一刻も早く退け!」

 言葉通り引いていく隊員たち。その背中が見えなくなった頃ようやくヴァルキリーは執事とメイド全員を倒すことに成功した。

「貴方がそちら側にいたとは、、、。残念です」

 息を整えながらヴァルキリーはスミスに言った。

「現実などこんなものだ。オレはこれ以上の悲惨や惨劇を目の当たりにした事がある。お前達人間たちによって、な」

 対してスミスはそう言い返した。そして、これ以上の問答は不要と言うかのようにファントムカイザーを構えた。

 呼応するようにヴァルキリーもアヴェンジャーエッジを構え、風をその身に纏った。

「一太刀で決めます」

「言われなくともそうするつもりだ」

 互いに発言したあと両者の間には一陣の風が吹いた。そして、どちらとも知れぬ足が地面と擦れる音がした瞬間、一気に相手に詰め寄り敵を斬った。

 その時ヴァルキリーは「取った」と感じた。確かに相手の胴を斬り裂いた感触が手に残っていたからだ。

 スミスが倒れているだろうと思い後ろを向いたヴァルキリーだがその目には信じられない光景が映っていた。

 地面にはおびただしい量の血溜まり。だが、それは問題ではない。確かに斬ったスミスの胴体が何事も無かったかのように治っていたからだ。

「やはりか、、、。残念だったな、ヴァルキリー。お前は勝負には勝った。だが、」

 ヴァルキリーがその言葉の先を聞くことは無かった。なぜなら、既に事切れていたのだから。

「だが、戦いには勝てなかったようだな。お前の敗因はオレの情報を持っていなかった事だ」

 ファントムカイザーをしまったあと、残った悪魔全員に告げた。

「作戦は予定通り遂行だ」

 思ったより被害が大きかったが問題ない。誓いを果たすのに一切の支障はない。むしろ、彼らの襲撃は好都合だったな。


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