運命には抗えない

あぶそーぶ

ep.2 13話 薄幸

 ーアネモニーsideー

 今、城主の立っている後ろの壁が破壊された。すぐにでも安否を確認したいけど、目の前にいる鬼が邪魔している。

 それに壁を壊した元凶が分からない以上、近寄るのは得策じゃない。

 、、、いや、よく見ると先程まで戦っていた片手剣持ちのゴブリンは、壊れた壁の方を見ていてこちらには目を向けていない。壁を壊したのが鬼なら、今目の前にいるゴブリンよりも強敵なはず。

 一気に間合いを詰めれば一太刀でいける。

 そう確信し、飛び込もうとしたその瞬間、壁が壊れた影響で埃が舞っていた部屋に大声が響いた。

 その声は鼓膜が破れそうなほどの音量で、辺りに舞っていた埃を吹き飛ばした。視界が晴れた先に立っていたのは2メートル程のゴブリンだった。手には亜種の証とも言える武器を何も持っていなかった。

 いや、正しくは持っていたんだと思う。壊れた壁の向こう側に金色に光る大剣があった。おそらく、オリハルコンで出来ている世界でも最高峰の武器だ。でもなぜ、そんな代物を、、、。

 大声が止まってから、武器を構える刹那の瞬間でここまで思考した。そして行き着いた答えは「目の前の敵はこれまで戦った鬼の中でも最強クラスだ」ということ。

 本気で戦っても勝てないと思った瞬間、その鬼が動いた。思考に集中していた分反応が遅れ、殺されるかと思ったけど、何故かその鬼は仲間であるはずのゴブリンを攻撃していた。

 片手剣持ちのゴブリンはそれに反応出来ず、まともにその拳を受けた。体は爆散し、原型を留めていなかった。

 その光景に息を飲んでいた僕に、まるで心の内が分かっているかのようにその鬼はニヤリと笑った。そうして、転がっていた片手剣を持ち上げ、

「おマエ、殺サナい、、、。アのお方ノ指示。喜ベ」

 そう言い放った。そう、鬼が言葉を発した。だが、そんなことを忘れるくらい僕の体は恐怖に支配されていた。

 なぜなら、鬼の中でも強いと言われる亜種が群れをなして攻めてきた。それだけでも絶望を感じるというのに、その亜種をまるで赤子の手をひねるかの如く殺した鬼が目の前にいるんだから。

 既に刀を持つ手や、脚は震えもはや立っているのも不思議なくらいだ。

 だから僕には、その鬼が僕に何もせず立ち去っていく理由が分からなかった。








「団長、少し耳に入れたいことが」

「進行に支障をきたしたの?」

「いや、むしろ良行です。しかし、ここから東の城、トラデリーの様子がおかしいのです。普段のこの時間なら、行商をする人が大勢いるのですが、今は見当たりません。何か城で起こっているのかもしれません」

「そうか。だけど、問題自体起こってるか分からないのに軍の進行を止める訳にはいきませんね。、、、少しの間任せられない?」

「もしや、団長自ら?」

「もし、鬼が原因だとしたら、大変なことになる。だから、私とあの班員で行く」

「、、、任されました。ではお気をつけて」








 ーアネモニーsideー

 鬼が立ち去ってから数分が経った。あの後、すぐに瓦礫に埋まっている城主を救い出そうとしたけど、ダメだった。おそらく壁の破片が直接頭に当たって即死したんだと思う。

 その後あの鬼を追いかけようとしたけど、城内がやけに静かなのが気になった。結局あの鬼はもちろん、ゴブリン1匹いなかった。そして、生存者も、、、。

 色んなことがありすぎて、もはや何も感じられなかった僕は何となく、1階の広場に来た。昨日、そう昨日はここでみな楽しく祭りを開いていたんだ。

 子供は騒いで、それを大人が制し、お年寄りはその光景を微笑ましそうに見ていた。そんな当たり前な事があったんだ。なのに、そんな当たり前は最初から無かったかのように無惨に終わりを告げた。

 そう思いながら辺りを見回した。すると数歩先に何か落ちているのに気付いた。僕は何かに縋るようにそれに近づき拾い上げた。

 それは仮面だった。ありふれた、それこそその辺の射的屋で置いてありそうな猫の仮面・・・・だった。

 そこで僕は泣いた。そして気付いた。彼女、イアが大事な存在だったことに。

 多分心の底ではすぐ側の木陰からでもイアが声をかけてくれると思っていたんだろう。その心が今打ち砕かれた。

 実は物心ついた時から、声を上げて泣くと言うことを僕はした事がなかった。それを今しているという事は、それだけ衝撃を受けたんだと思う。

 「男なら、泣くな」とよく人は言う。だけど今この瞬間だけは許して欲しい。こんな悲しいことは後にも先にも無いだろうし、どうせ誰も見ていないとだから。








 1人の少年が泣いていた。が、それはいつしか無くなり、穏やかな寝息をたてていた。

 そこに近づく数人の人達がいた。彼らは少年を保護した。

 彼らはその後、少年を王都まで連れ帰った。少年は王都に着き、1週間もの間目を覚まさなかった。

 そして、それを見ていたモノがいた。


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