運命には抗えない

あぶそーぶ

20話 呪歌玲音

 しばらく主人公には休んでもらいます。






 ー呪歌 玲音sideー

 私は天才を追い越す為に幼少からあらゆる努力をした。勉強は勿論、休みの日は午前中塾に行き、午後は家庭教師を雇っていた。

 それだけではない。長期休暇の時は、勉強合宿にも出かけた。

 それだけやって、やっと天才に追いつける頭脳になれる。しかし、これだけやっても追い越せない。

 睡眠時間は削れない。勉強している時は常に集中している。これ以上何を削り出すのかと考えた末、こう結論づけた。

 ーー友達との遊ぶ時間を削る。

 最初はたまに断る程度だった。でもそれでも少しだけど、確かな成果が現れた。その変化が心地良かった。そうして過ごしていき、遂に私は中学校2年の時、学年の首位に躍り出た。そこで私は初めて満足感というものを手に入れた。

 しかし、それは一瞬のことで次に感じたのは空虚すぎる自尊心だけだった、、、。

 そんなある日、終魔学園という学校から手紙が届いた。私が知っている中で最高級の学校機関で、また、行きたいと思いながら無理だろうと諦めていた学校だった。なぜならそこは天才の為の学校、それも天才の中でも厳選された者達が通う所、、、。

 その壁はあまりに高かった。そう高かった。

 ーー今なら届く。

 それは他でもないこの手紙が証明していた。内容は、

「今の学校で満足しているかい?もし、満足しきれていないなら、終魔学園に来て欲しい。ここで君が満足出来るまで勉強の高みへと導いてみせよう」

 あとは連絡先や、執筆者が云々と続いていたが、どうでも良かった。終魔学園に、世界最高峰の1つの学校に認めて貰えたという事実が嬉しかった。

 その手紙に二つ返事で了承し、晴れて私は終魔学園中等部2年に転校した。

 そこでまたも私は驚愕した。今まではクラスの生徒のほとんどのやる気がなかったが、終魔学園では逆だった。やる気のない生徒がいなく、そればかりか皆が皆やる気に満ち溢れていた。

 実際に勉強して分かったことなのだが、私の成績はクラスでも平均以下だった。そこで私はまた努力することが出来た。それも今まで以上のやる気で今まで以上の集中力で勉強をこなしていった。

 それでも追い越せない壁があった。音無おとなしれいという男子で普段はクラスでもあまり目立たない生徒。しかし、先生からは信頼されているらしく、よく親しげに話している。

 私も少しだけ会話する時があったので、それとなく成績を伸ばす秘訣のようなものはあるのかと聞いた所、

「呪歌さんって、いつも息抜きしてる?」

「してないの」

 そこで彼は何か閃いたようで、

「それじゃあ、たまにで良いから遊びに行くことをオススメするよ」

「、、、参考にするの」

 やっぱり、天才は天才だった。何を考えてるのか分からない。でも天才の言ったことなのだから、1度は試してみるのもいいのかもしれない。

 そうして実践した次のテストの時、彼との差が少しだけ縮まった。

 そう、前にも同じような感覚に囚われたことがあった気がする。でも、テスト後の休日は1日だけ遊ぶことにしよう。

 それから数年、高等部3年になった時、私は彼を越えた。そのころには遊ぶ時の友達もいて、自分でも理解できないくらいに騒いでいた。後に聞いた話、友達に「あんた一体なんだってあんなにはしゃぐのよ、、、」と困惑されたくらいだ。

 今でも考えることがある。もしかしたら、彼は学年の首位をとった後の私が1人になることを防いでくれたのではないのかと。まあ、実際には聞かないけど、、、。

 そんな中9日前私に彼が訪れた。内容は、優希救出に協力して欲しいというもの。何だか、彼が本当の意味で私を頼ってくれたみたいで嬉しかった。元とは言え、学年の首席から頼られたのだ。

 またそれが私の心に火をつけた。今まで以上に特訓した。それでも実際に人に向けて魔法を使ったことがないので全てが思い通りになるとは思えないけど、、、。

 それで今、私はゆうちゃん(立花優希)のお父さん、立花英樹さんと一緒にいる。通路を走っているけど、音がだんだん大きくなってくる。近くに行くにつれて、ハッキリとしてきて、驚いた。

 歌、、、そう、歌を歌っている。

 それもライブ会場のような所で、、、。声が反響しているので多分そうだと思う。

 そこは、ドアが開けっ放しになっていて、直接中を見れるようになっていた。罠を警戒し、ゆっくりと近づいていく。

 やがて、扉につき、中の様子を伺ってみて予想が外れていないことを確信した。今まさにライブを行っていて、大勢の観客がいる。ステージに立っているのが女の子だからか、観客は皆男性だった。

 それを確認すると、英樹さんが、

「素通りするぞ」

 と言った。

 正直私もわざわざこっちから攻撃しようとは思わなかったので、うなずこうとしたその瞬間、

「あっれれ〜?まだミレイのライブ終わって無いのに帰ろうとしている人がいるなぁ?」

 と言う声が響いた。その声は、ステージに立つ女の子、、、いや、ミレイと名乗る人から届いていた。

 誰か男達の中から席を立った人がいるのだろうか。まあ、何にしろ私たちには関係ないことなので、無視して進んだ。

「およ?今度は無視されちゃったぁ。流石にミレイちゃんも怒っちゃうよー。ミレイ直々にお仕置きしちゃうよー。それ!」

 そんな掛け声が響くと同時に、突如天井から鉄格子が降ってきた。その鉄格子は私と英樹さんを分断する形で降りてきていた。ライブ会場のあるドア、つまり、今まで進んできていた通路側とこれから進む予定だった通路側に分けられた。

 また、英樹さんが鉄格子を壊そうとしているが、ビクともしない。

「あははー☆何をやっても無駄だよ〜。何せそれは現地球技術の中でも最高級の硬さを誇るんだからねー。ほらほら、そんな事よりそこの君、こっちに来なよ〜」

 どうやら、この鉄格子を壊すのは難しいらしい。事実、壊そうと奮闘している英樹さんだが、鉄格子には傷一つついていない。そこで私は決心した。

「英樹さん、先、行ってなの」

 そこで壊すのを止めた。その後に続く言葉なんて大体予想できるので、英樹さんが話す前に付け加えた。

「でも、少ししか戦えないの。だから、早くここまで戻ってきて欲しいの。それまでは戦うから、、、。」

 そこで言葉を切った。

「、、、わかった」

 英樹さんはそういった後直ぐに行動を開始した。この先は通路を右に曲がる方向しかないので、それまでは見送った。

 やがてその背中が見えなくなって、深呼吸1つしてから、自らの敵に向かい合った。

 その少女、ミレイの顔は今までの人生の中で見た顔で1番歪んで見えた、まるで、映画のワンシーンみたいだと思っているかのような、、、。それは十日前に見たサイ・エンサーのようで、それでいて彼よりも醜かった。

 ステージまではドアから一本道が通っているが、その周りにはこれから起こる何かを期待しているような顔をしている男達がいる。

 その道を通るのは気が引けるが、こちらの持っている手札を相手に見せる訳には行かない。ここは我慢して、通ることにした。通っている間常に私の体中を舐め回すかのような視線を感じて、不愉快に思っていたが、何とか耐えて、ステージまで辿り着いた。


 そこでミレイは言葉を発した。

「それじゃあ、今回は特別ゲストの飛び入り参加だよー!みんなー、盛り上がるよー!」

「「「おおおーーー!!!!!」」」

 なんだか、すごい熱気だ。行ったことないけど、ウィード星のアイドルライブなんかもこんな感じなのだろうか。

「それじゃあ、初めに!特別ゲストちゃんに死んでもらうよー!」

「「「うおおぉぉぉぉ!!!!!」」」

「え?」

 そう呟いた時には既に遅く、私は檻に捕まっていた。






 彼女・・は死にません。

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