運命には抗えない

あぶそーぶ

16話 想い人②

 -立花 優希side-

 4月、それは出会いの月。新年度の始まりの月。

 そんな季節に落胆を感じてしまうのは、きっと私だけだと思う。

 なぜなら世界最高峰と謳われるこの学園、終魔学園でさえ授業の進度が遅すぎるからだ。初等部だから仕方ないとか、大人はそんなことしか言わない。

 仕方ないので、先生に許可を取って授業中、図書室に行ってもいいということになった。定期的に試験を行わなくてはならないが、無為に授業に拘束される時間に比べれば微々たるもの。

 時々、同い年と思われる男子が入ってきたけど、お互いお辞儀をする程度で話をすることはなかった。今日、この日までは,,,。

「なあ」

 それはある日唐突に耳に入ってきた音だった。図書室には私と男子しかいない。そうなれば、その男子が私に話しかけているのだろう。そういえばまだ名前も知らないな、と思いながら私は顔を上げた。

 目の前には、これといった特徴のない男子の顔があった。そう、目の前に。

「何?それと顔近い。もう少し離れて頂戴」

「ん?あ、ごめん」

 彼は、そう呟いて、

「いつも図書室に来ると君がいるなって思ってさ。授業はどうしたの?」

「授業は免除してもらってるわ。条件付きだけど。で、そんなつまらないこと聞くためにわざわざ私の読書の時間を奪ったわけ?」

 少しイラつきながら言うと、

「そうだけど?」

 当たり前でしょ?とでも言いたげに、いや実際そうなのだろうという結論に至ったため、ため息をつき、こう言った。

「私はそんな無駄な時間に付き合ってられないの。友達ごっこがしたいなら、よそに行ってくれないかしら。小さい時って知識を沢山つけられるって、あなたも知ってるでしょ?」

「そっか、だから君はこうして図書室になんかこもっているんだね」

「そうだけど?何か悪いことでも?」

 そろそろ本格的に邪魔になってきたので、素っ気なく返事をすると、

「いや悪くないよ。それより、さっき君が言ってた条件ってなんなの?」

 何のために聞くのだろうと思いながら、

「定期的に試験を受けること、それが条件。だから私は時々先生にクラスの授業の進行度を聞いて、それの大体10時間先を進んでるようにしてるわ。だけどそんなことを聞いてどうするの?」

 と言った。それを聞いた彼は、

「ありがとう。参考にするよ」

 とだけ言って姿を消した。静かになった図書室で、やっと読書ができると思うのだった。

 まさか、その次の日から彼と図書館で一緒に過ごすことになるなんて思いもしなかったが。






 ー立花 優希side ー

 それからまた時が経ち、中等部へ入学する事になった。

 終魔学園は変わった学校で、中等部以上は普通の学校と同じく1箇所にしかないが、初等部だけは各地に点在している。初等部だけ自宅から通う事になっている主な理由はこれらしい。

 その為、中等部の入学後は見知らぬ人が周りに沢山現れる。

 そんな色々な理由が噛み合って、中等部からイメチェンする人がほとんどだった。私もその1人。初等部では友達という友達を作らず、ただ図書室に入り浸ってるだけだったから。

 まずは口調から変えてみようかな?うん、こんな感じで大丈夫。

 自分で言うのもなんだけど、容姿は平均より上、というかかなり良い方だと思う。

 あとは、、、ま、いいか。あとあと決めればいいことだしね。

 てことで、

「行ってきます」

 誰もいない部屋に向かってそう言った。

 が、入学式の会場に入った途端、その人の多さにイメチェンし切れるか心配になってきた。

 その数、1000人を超えているんじゃないかってくらい。まあ、実際は600人位だったけど。先輩達も数えてたからかな?

 その後自分達のクラスに案内され、私は無事に自己紹介を終えた。のだが、私の前の時に彼、図書室で一緒に過ごしていた男子も同じクラスだった事に少し驚いた。

 その時初めて彼の名前を知った。音無おとなしれい、何ともまあ性格に似合わない名前だなあと思った。だって、あんなに話しかけて来て、一切大人しくなんかないんだもん。いっその事騒我師さわがしれいに改名したらどうかしら。

 そんなくだらない事を考えていた。

 翌日から授業が始まった訳だが、やはり初等部とは違って授業の進度が早い。他生徒は辛そうな顔をしていたが、私からすれば丁度いい。むしろ、もう少しペースアップしてもらっても良いくらい。

 入学後すぐだからか、授業合間の休憩時間に話す人は多くなかった。そんな中私と彼、零は話していた。

「んー、なんだか教室静かだな」

「だって、入学式翌日だよ?だから、緊張してて中々話せないんだよ」

 今考えたら図書室にいた時から名前で呼びあわなかったような気がする、、、。よく会話出来てたなあ。

 そんな感傷に浸っていると、

「あれ?なんか話し方変わった?」

「あ、やっと気づいた?私も中等部からイメチェンしようと思ってね。どう?不自然じゃない?」

「いや、普通自分からイメチェンがどうなんて、、、。うん、不自然じゃないよ」

 前半何を言っていたか聞こえなかったけど、自然体だって言ってくれたし気にしなくっていいか。

「ちょっといいか?」

 後ろの席からそんな声を掛けられた。ちなみに今は私の席に零が来ている感じ。出席番号が零と私ではかなり離れているため、零から来てくれた。そして、後ろから声を掛けられたわけで、振り向くと、

「ん?なんですか?」

「あ、いやな、二人とも仲良さげだから初等部から一緒なのかなって思ってさ」

「そーだぞー」

 私が答える前に零が答えた。

「それじゃあ、どっちの方が頭良いとか知ってるのか?」

 そこで私たちは向かい合い、声を揃えて、

「「知らない」」

 といった。今考えれば当たり前な話でどちらもテストの点数を知らない。それにテスト受けても点数なんて気にしなかったから、比べることも無かった。それは零も一緒だったみたい。

「え?じゃあ、自分の偏差値は分かるだろ?それすら分からないって言わないよな?」

 だから、自分の偏差値すら分からない。それすらも、確認する暇があったら、知識を増やすことを優先させてたから、

「「知らない」」

 と答えるしかなかった。

「というか、あなた、、、確か偏田へんた維真いしんだっけ?唐突にそんな事言ってどうするつもりだったの?」

 そういや、私「た」なのにその次の人の出席番号の頭文字が「へ」なのは結構珍しかったりするのかな?とまた変なことを考えて、

「だって、競走したいじゃん?」

「競走?」

 とそこで零は疑問を言って、偏田君が答えるには、

「あぁ、そうか。君達はそうだったな。んまあ簡単に言えば、自分と他人で勉強の成績を競い合うんだよ」

「それに一体なんの意味があるんだ?」

「ないけど?」

 以前にも似たような体験をしたことがあるような気がしなくもないけど、この際置いておく。






 ー立花 優希side ー

 入学式直後はこんな感じだったと思い返して、思えば初等部の図書室で彼、零が話しかけてくれなければ、人との会話を楽しむことを覚えなかったかもしれない。

 いわば、零は私の人生の救世主だ。人との会話の楽しみ、友達の価値、それら「友情」と呼べるものを教えてくれたのは零だった。

 だから、ここで彼や彼の仲間たちに恩返しをするの。自分にできる最大の恩返しを。

 例えそれが自らの身を滅ぼす事になったとしても、私は、私は、、、

 貴方の事を守ります。






 はいと、2回連続3000文字超えです。疲れました。そりゃもう、、、

 でもなんだか、見てくれる人がいるって本当に活力になるんです。

 だから、最後まで付き合ってくれるとうれしいです。

 最後に今週2回上げたのには理由があります。この作品見てくださってる方々は桃色展開に期待していないと思います(少しは出します)。ですので前回と今回のような甘い物語を出す週は2回出そうと思います。

 ちなみに、物語終盤までの構成は大体出来てます。文にするのが難しいんです。更新速度週1なのはそれが原因です。

 誤字等ありましたら報告宜しくお願いします。

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