五つの世界の端々で

とっとこクソ太郎

魔人の憂鬱 6

「ん?関根ではないか?」
「え?」
掴まれた拳から先、声の聞こえる方へ目を向けると真っ赤な髪の美しい女性がいた
「誰だ?何故俺の名前を…」
「1番最後に会った人間の顔を忘れるものか無礼者」
「お前はどこから来た?何故こいつを知っている?」
「白い髪に賢しい目付き、お前が岩村だな?話に聞いた通りだな。まずはこの子天使をどうにかしろ。気が散る」
「アリス、やめろ」
女性が指差した先でアリスが身の丈ほどの槌を手に天井付近へと飛び上がっていた
岩村が声をかけなければ今にも振り下ろそうと言わんばかりの勢いだったが、岩村の一声で再びベッドに腰かける


「と言うより、本気で分からんのか?」
「あなたの様な美人とお近付きになった覚えは無い!」
「無礼な様で礼儀正しい奴だな。人間界ではこういう格好が好まれるのでは無いのか?」
身体のラインが綺麗に出たドレスは髪の色に合わせて血のように赤い。
警戒はしつつ関根と岩村は思考を巡らせる
誰だ?年はそんなに変わらないような気もする、しかし見覚えは一切ない。学校の生徒でもない。そしておそらく自分達より強い。向かってこられたら無傷では済まない。何とか小さいアリスだけでも逃がして…
「むぅ、ならこれで分かるか?」
考えても思い出せないでいる2人に女性からの提案
足下の影が液体のように女性の身体にまとわりついて行き、どんどん硬さを帯びていく
影は鎧の形を成し、みるみるその華奢な全身を包み込んだ
「これで分からぬか?」


















黒い鎧と顔を覆い隠す荘厳な兜
近くの椅子に腰掛け足を組むその姿に関根は見覚えがあった


「あ!!」
途端に関根の顔が青くなるとそのまま身体を二つ折りになりそうな勢いでお辞儀をする
「ぉぉぉおおひさひさりさ久しぶりです魔王様!!先程は大変な御無礼を申し訳ござらんでござる!!」
「うむ、苦しゅう無い」
「こいつが魔王?」
「そうだ魔王デュラン様だ。敬え人間」
日本語が不自由になった関根を捕まえ魔王に聞こえないよう岩村が耳打ちする
「どうしてこんな奴がここに来た?と言うより何でお前が顔見知りなんだよ」
「前に魔界に行った時カライドと一緒に少しだけ話したんだよ!その時社交辞令で良かったら遊びに来て下さいねって…」
「別に暴れたりするつもりは無いから安心せよ。後丸聞こえだぞ、人間」
「まぁ別に来たところでかまわんが、何も無いぞ?」
「そんな事は無かろう?カー君が店を放ったらかして帰ってこないぐらい楽しい所なのだからな!」
ガシャガシャと鎧のまま笑うと不気味な魔王そのものなのだが、中身を知ってしまった以上そう怖くもない岩村
「そうは言うが魔王、お前ら魔族はあまり長居出来ないんじゃないのか?」
「我をそこら辺の魔族と一緒にするでない。確かに本来の力は出せんが消えてなくなる訳では無いわ」
「そうか、なら好きにさせてもらおう」
そう言うと影の中に鎧と一緒に身体ごと溶けていく
「待て待て、こちらとしても無視できる物ではない。せめて上の方に事情を説明したいから一緒に来てくれ」
「私は一刻も早くカー君に会いたいんだが…」
「そのカー君が誰か知らんが人探しなら尚のことだ。手伝えるかも知れん」
「いや近くにいるのだが…」
「うるせぇぞ魔王!大人なら聞き分けてくれ」
「我はまだ167歳じゃ!お前らと変わらんだろう!」
「こっちからすりゃギネス級のババアだよ!」
「ババアじゃと!?カー君にも言われたことないのに!」
「だからカー君て誰だよ!!」
…!
……!!




「今年の夏は荒れそうだなぁ…」
『ひやけとすいぶん、きをつけて』

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