五つの世界の端々で

とっとこクソ太郎

魔術師 夏の陣

赤黒く、明るくも暗くもないが気分が滅入るような空
魔界の天気は一定で雨が降ることもなく、時折血の雨が降ることはあったがそれも昔
「ここ20年は平和なものだ」
豪華な椅子に腰掛けた鎧姿の魔物が呟く
「デューちゃんが頑張ったからだよね!」
「無論だ」
ふふん、と鎧姿の魔物は鼻を鳴らす
その横ではエプロンをつけた魔物がニコニコと機嫌良さそうに取り巻いている
「兄ちゃんはデューちゃんに任せて行っちゃうし、もう何ヶ月も帰ってこないから退屈!」
「寂しいのか?」
「全然!お店の看板が傾いても私は良いけどお兄ちゃんが困るだけだし!」
ニカッと歯を見せて笑いながらエプロンを翻す
「ふむ、カー君の店が無くなるのは私としては悲しくある」
「デューちゃんは優しいなぁ!」
「よし!ちょっと迎えに行ってやるか」
ガシャガシャと重そうな金属の音を立てるが足取りは軽く、デューちゃんと呼ばれた魔物は兜を持ち上げて椅子の上に投げ捨てる
「カー君はいつでも来いと言っていた。なら今から行ったとて問題無かろう!」
「なかろー!」
篭手、脛当とどんどん鎧を脱いでいき、全身の鎧を外し終えた所で指を鳴らす
真っ赤な霧がドレスのようにまとわりついていき同じく真っ赤なピンヒールまで生み出される
「デューちゃんきれー!」
「これなら人間界でも怪しまれまい」
肩甲骨辺りまで伸びた赤髪とドレスの裾を靡かせながらカツカツと勇ましく歩む姿は絶世の美女
「魔王様の出陣だー!デューちゃん行ってらっしゃーい!」
「シストは来ないのか?」
「兄ちゃん店番サボったら怒るだろうしやめとくー」
「そ、そうか。では行ってくる」
ここにいる時点でサボってるのは間違い無いのでは。とは口にせずドレスの女性は屈強な魔物が開けた大きなドアをくぐる




「どんな所だろうなぁ人間界。楽しみだ」

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