五つの世界の端々で

とっとこクソ太郎

魔術師舐めんな 11

「お嬢さんちょっとやり過ぎですぜ」
眼前のミリアはオレを見ているはずなのに何故か目が合わない
見ていると言うよりはただ目を前に向けているだけに思える
綺麗な翡翠の瞳はひどく濁って見えてなんとなく怖い
「ここに敵いないでしょ?落ち着きなよミリア」
「ミリー!」
「ほら下から美空も呼んでんぞ。オレのせいで弱ってるけど」
「ソラ…いじめた!!」
ダランと垂れた刃先がとてつもない速さで頭上に振り下ろされる
手で防いだって余裕で切り落とされるのは目に見えている
と言うより反応がそもそも出来ない
力量差を数字で表すならオレ1ミリア10ぐらいの差がある
真っ向から挑んでも勝てるわけがない
「だから脳筋は嫌いなんだよ」
なのでフラっと前のめりに倒れてみる
息遣いすら聞こえそうな距離にいたので詰められるとリーチの長いミリアの攻撃は当たりづらい
そのまますっぽりと振り下ろされた両腕の間に頭を通す
もちろん腕にも速度が乗っているのでめっちゃ痛い
「痛い痛い痛い痛い!やめろやボケェ!」
こうなればもう後は簡単だ
ギュッと抱き締めて耳元で囁くとかそんなもんじゃ無理
ミリアの片腕にしがみつきながら引き締まったお腹に手を当て魔力を流し込む


人間の身体には魔力が血液のように絶えず循環している
そして他者の魔力は人それぞれ合う合わないが存在しており、それが体内に入るとあまり良いとは言えない
属性同士が合えば何ら問題は無いため美空と片瀬ちゃんからの譲渡でオレは魔力を扱える


で、この場合
相手が精霊であった場合
「ッッ!!」
ビクンとおおきく痙攣を起こしてミリアの身体から力が抜け、ぐったりとのしかかってくる
気絶と言って相違ない状態になる


精霊は体内に魔力が『存在しない』
マナと言われる魔力に似た何かが循環しているらしい
その精霊に魔力を注ぎ込むと身体が拒絶反応を示して体外に無理矢理排出しようとして体力を持っていかれる
「何を…」
「あれ?起きてんの?」
誤算。気絶はしなかった
なんでだ?
「落ち着いたかい?」
「亮太さん…」
空中で足場をいくつか作ってミリアを抱える
「お前自分が何したか分かってる?」
「亮太さんがいじめられてて助けようと…そこからは曖昧で」
「どんな怒り方だよそれ。めっちゃ人に迷惑かけてんぞ」
「すみません…」
返事をする声には力が一切こもっていない
まぁ本当に力が入らないんだから仕方ない


ともあれ危ない状況に見えた喧嘩もこれで事なきを得たはず
氷柱の足場を溶かしながらゆっくりと地面に降り立つと高井の周りに人だかりが出来ていた



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