竜の肉を喰らう禁忌を犯した罪人はその命を賭して竜を鎮めよ
――29―― 一時撤退していた
ドラゴンから一時撤退していたジルは目の前を走り抜けていく赤い髪に驚き、思わず手を伸ばす。
引き寄せたオーロルは肩で大きく息を吸い、今にも泣きそうな顔だ。彼女がこんな顔をする理由はリュカしか思い浮かばない。
話を聞くオーロルの印象はドラゴンにも向かっていく強気な女性だ。だけど、ジルが知る彼女は愛おしい人のために頑張る人だ。
リュカが絡むと彼女はいつも心配そうに泣きそうな顔をしている。
息も落ち着かない内に話そうとするオーロルを落ち着かせようと、その場に座らせた。
「ゆっくりねぇ、王子がどうかしたのぉ?」
ジルの言葉に深呼吸をし「リュカが」と口にしたところで、劇烈な爆発音に二人は顔を上げる。
ドラゴンがよろめく姿に目を見張った。今まで何をしても効果がなかった攻撃にドラゴンが体勢を崩したのだ。周囲からは歓声までも沸き上がった。
ドラゴンへの一撃はリュカだとすぐに見当がつく。だが、それは心配の元だ。あれだけの攻撃に、リュカの体への負担を思えば心配に決まっている。今すぐにでもリュカを止めなくてはと、オーロルはジルに視線を戻した。
「ジル! そこにいるか?」
馬で駆け寄ってきマリユスにジルは立ち上がる。
「オーロルさんもいますか」
マリユスのホッとしたような顔にジルは拳を打ち込む。
突然、騎手を無くした馬は前足を上げて抗議を示す。
「マリユス班長! アレは王子じゃないんですかぁ?」
ドラゴンを指し地に転がるマリユスに問いただす。怒りを露わにするジルは珍しい。
それもそのはずだ。マリユスはリュカの看病を、魔法を使わないように見張っていたはずなのだ。
リュカ以外に古代竜に一矢報える者は考えられない。
ジルを含め、王都からの魔法使いが幾ら攻撃を仕掛けても古代竜に傷を負わすことすら敵わなかったのだ。
彼の強さに嫉妬を覚えると同時に、自分の無力さに打ちのめされていた。
「……殿下があれ程とは思わなかった」
今の攻撃をそう立て続けに出来るはずがないと思うが、あのリュカだ。どれだけの力を内包しているのか、わからない。
このまま同じような魔法を何度も使えば本当に彼の身は持たないだろう。
「ジル、僕が不甲斐ないのは今に始まったことじゃありません。だけど殿下を……」
「王子を思っているのはオレもぉ一緒」
プイッと背けた視線の先ではオーロルが心配そうに上空を、リュカを探していた。
リュカの命を守るだけではダメなのだ。彼の穏やかでいられる日々を守らなくてはいけない。その為にはオーロルだ。彼女の安全は考えなくてはいけない。
「オーロルさんは」
「嫌です」
話も聞かず返答するオーロルに呆気にとられてしまう。彼女の想いを知らないわけではないが、魔法使いでも、騎士でもない彼女はなん役にも立たないのだ。
それならばせめて安全な場所にと思うのも無理はない。
耳をつんざくような咆吼がしたかと思えば、ドラゴンを中心に稲妻が集約していく。なにが起きようとしているのか、考える間もなくオーロルは走り出す。
あの稲妻がリュカに向かえば、ただでは済まないだろうと、いてもたってもいられないのだ。
追いかけてくるジルに手を取られる。彼はそのままオーロルを自分の錫杖に跨らせた。
「馬とは違うからしっかり掴まってねぇ」
ピリピリとする肌にただの攻撃で済むはずがないと、ジルは空を急ぐ。
少しでもリュカをドラゴンから遠ざけなくてはと思うも、オーロルを連れている事に不安はある。だけど、リュカのことも心配だ。オーロルが彼の側にいることで、魔法を使う牽制になればと思う。
ジルも魔法使いだ。ドラゴンに対抗出来る力はあるのだ。
今から向かう場所はなによりも危険だろう。相手は古代竜で、今まで遭遇してきたドラゴンとは違う。肌に感じるものが全く違うのだ。
ドラゴンから放たれた稲妻はリュカがいる空で、一カ所に収束していく。
空を飛ぶジルはそれに引きずり込まれないように必至だ。少しでも気を抜けば飲み込まれてしまいそうだ。
収束した稲妻は音もなく爆発し、二人をはじき飛ばす。
振り落とされ無いようにと掴まるだけで精一杯の中、オーロルはリュカの姿を探す。今のこの爆発にリュカは無事と信じていても心配なものは心配だ。
「あ……ジル! あそこにリュカが……」
稲妻を受けたのか、体から煙を噴きながら空に浮くリュカの姿を見つける。表情まではわからないがドラゴンに対峙するようにいることから大事にはいたらなかったのだろう。
リュカの元にジルは全力を傾ける。このままリュカ一人でドラゴンに相対させるわけにはいかないのだ。
自分は魔法使いだと自負がある。
孤児になったのはドラゴンのせいだと孤児院で誰かの話を聞いたことがあった。孤児というだけで魔法使いになるしかなかった。
魔法使いになりたくないと駄々をこねた仲間はきっと……一緒に竜の肉を喰らった仲間は、みんなその時に死んだ。一人だけ生き残ったと嘆いていた人生で、リュカに出会って世界を知った。彼の不幸に比べれば、ジルの不幸なんてどこにでも転がっている石ころと一緒だ。
「王子ぃぃぃ!」
リュカは二人に顔を向けた。
引き寄せたオーロルは肩で大きく息を吸い、今にも泣きそうな顔だ。彼女がこんな顔をする理由はリュカしか思い浮かばない。
話を聞くオーロルの印象はドラゴンにも向かっていく強気な女性だ。だけど、ジルが知る彼女は愛おしい人のために頑張る人だ。
リュカが絡むと彼女はいつも心配そうに泣きそうな顔をしている。
息も落ち着かない内に話そうとするオーロルを落ち着かせようと、その場に座らせた。
「ゆっくりねぇ、王子がどうかしたのぉ?」
ジルの言葉に深呼吸をし「リュカが」と口にしたところで、劇烈な爆発音に二人は顔を上げる。
ドラゴンがよろめく姿に目を見張った。今まで何をしても効果がなかった攻撃にドラゴンが体勢を崩したのだ。周囲からは歓声までも沸き上がった。
ドラゴンへの一撃はリュカだとすぐに見当がつく。だが、それは心配の元だ。あれだけの攻撃に、リュカの体への負担を思えば心配に決まっている。今すぐにでもリュカを止めなくてはと、オーロルはジルに視線を戻した。
「ジル! そこにいるか?」
馬で駆け寄ってきマリユスにジルは立ち上がる。
「オーロルさんもいますか」
マリユスのホッとしたような顔にジルは拳を打ち込む。
突然、騎手を無くした馬は前足を上げて抗議を示す。
「マリユス班長! アレは王子じゃないんですかぁ?」
ドラゴンを指し地に転がるマリユスに問いただす。怒りを露わにするジルは珍しい。
それもそのはずだ。マリユスはリュカの看病を、魔法を使わないように見張っていたはずなのだ。
リュカ以外に古代竜に一矢報える者は考えられない。
ジルを含め、王都からの魔法使いが幾ら攻撃を仕掛けても古代竜に傷を負わすことすら敵わなかったのだ。
彼の強さに嫉妬を覚えると同時に、自分の無力さに打ちのめされていた。
「……殿下があれ程とは思わなかった」
今の攻撃をそう立て続けに出来るはずがないと思うが、あのリュカだ。どれだけの力を内包しているのか、わからない。
このまま同じような魔法を何度も使えば本当に彼の身は持たないだろう。
「ジル、僕が不甲斐ないのは今に始まったことじゃありません。だけど殿下を……」
「王子を思っているのはオレもぉ一緒」
プイッと背けた視線の先ではオーロルが心配そうに上空を、リュカを探していた。
リュカの命を守るだけではダメなのだ。彼の穏やかでいられる日々を守らなくてはいけない。その為にはオーロルだ。彼女の安全は考えなくてはいけない。
「オーロルさんは」
「嫌です」
話も聞かず返答するオーロルに呆気にとられてしまう。彼女の想いを知らないわけではないが、魔法使いでも、騎士でもない彼女はなん役にも立たないのだ。
それならばせめて安全な場所にと思うのも無理はない。
耳をつんざくような咆吼がしたかと思えば、ドラゴンを中心に稲妻が集約していく。なにが起きようとしているのか、考える間もなくオーロルは走り出す。
あの稲妻がリュカに向かえば、ただでは済まないだろうと、いてもたってもいられないのだ。
追いかけてくるジルに手を取られる。彼はそのままオーロルを自分の錫杖に跨らせた。
「馬とは違うからしっかり掴まってねぇ」
ピリピリとする肌にただの攻撃で済むはずがないと、ジルは空を急ぐ。
少しでもリュカをドラゴンから遠ざけなくてはと思うも、オーロルを連れている事に不安はある。だけど、リュカのことも心配だ。オーロルが彼の側にいることで、魔法を使う牽制になればと思う。
ジルも魔法使いだ。ドラゴンに対抗出来る力はあるのだ。
今から向かう場所はなによりも危険だろう。相手は古代竜で、今まで遭遇してきたドラゴンとは違う。肌に感じるものが全く違うのだ。
ドラゴンから放たれた稲妻はリュカがいる空で、一カ所に収束していく。
空を飛ぶジルはそれに引きずり込まれないように必至だ。少しでも気を抜けば飲み込まれてしまいそうだ。
収束した稲妻は音もなく爆発し、二人をはじき飛ばす。
振り落とされ無いようにと掴まるだけで精一杯の中、オーロルはリュカの姿を探す。今のこの爆発にリュカは無事と信じていても心配なものは心配だ。
「あ……ジル! あそこにリュカが……」
稲妻を受けたのか、体から煙を噴きながら空に浮くリュカの姿を見つける。表情まではわからないがドラゴンに対峙するようにいることから大事にはいたらなかったのだろう。
リュカの元にジルは全力を傾ける。このままリュカ一人でドラゴンに相対させるわけにはいかないのだ。
自分は魔法使いだと自負がある。
孤児になったのはドラゴンのせいだと孤児院で誰かの話を聞いたことがあった。孤児というだけで魔法使いになるしかなかった。
魔法使いになりたくないと駄々をこねた仲間はきっと……一緒に竜の肉を喰らった仲間は、みんなその時に死んだ。一人だけ生き残ったと嘆いていた人生で、リュカに出会って世界を知った。彼の不幸に比べれば、ジルの不幸なんてどこにでも転がっている石ころと一緒だ。
「王子ぃぃぃ!」
リュカは二人に顔を向けた。
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