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竜の肉を喰らう禁忌を犯した罪人はその命を賭して竜を鎮めよ

ゆきんこ

――18―― 部屋は重たい空気で

 部屋は重たい空気でどんよりとしていた。
 頻発しているドラゴンの襲撃に対して全てが後手に回ってしまっている。この事にカレンデュラ街の市長のルイゾン・ルンベックをはじめとする面々は眉間に皺を寄せていた。
 相手はドラゴンだと、自然災害と同じだと、仕方が無いことだと、自身に言い聞かせて納得するしかないのだが、人々の生活を預かる身でそれを公言することは憚れる。
 魔法使いを抱えているにも関わらず、ドラゴンの襲撃を許してしまっている騎兵団長のダミアン・マルムクヴィストに当たり散らすしかこの鬱憤としたものを発散させることしか出来なかった。
 当たり散らしたところでダミアンがどうにかしてくれるわけでもないのだが。

「トーチリリー山にドラゴンの集落が出来ているというのは本当か?」

 ドラゴンの生態が解明されているわけではないが、時折集落のようなドラゴンの群れが確認されることがあった。集落と比喩されるくらいに規模の大きなものはそう滅多にあるのもではない。今回見つかった群れは今まで以上に規模が大きかった。

「はい。通常ドラゴンの群れは種でまとまっていることが多いのですが、今回見つかったものは『炎竜』『氷竜』『緑竜』『天竜』とほぼ全ての種が確認されました」

 兵士の報告にどよめきが起こる。
 集落というだけでも脅威であるのに、種を越えて群れている。
 これは街を放棄して逃げるということも視野に入れて行かなくてはいけない事案だ。
 この場で聖竜へ祈りを捧げ始める者まで現れ始めた。

「あの……それと」

 言いどよむ兵士の先をダミアンが促す。

「探索に向かった魔法使いのジル・ニークヴィストが『古代竜』も居たと言うのですが、何分証言がジル一人だけなので……」
「不確かなものをここで報告に上げるな!」

 市議の怒鳴り声に兵士は肩を竦める。
 ドラゴンの集落ともいえる規模の大きさに旋律を覚えるなか、『古代竜』までいるとなれば話は別だ。数十年に一度あるかというような災害級の相手だ。暢気に議論している場合ではないだろう。
 今にも逃げだそうと腰を浮かしている者もいるなか、議論など出来るはずもない。誰かが魔法使いがいると言えば、『氷笑の公子』だと声を上げる。注目はダミアンへと集まっていく。
 黙って腕を組んだまま動かないダミアンへ近くに居る兵士が小さく声を掛けるも、返答はない。
 ダミアンたち騎兵団は報告にこの場へ来たに過ぎないのだ。彼には毛頭より会議に参加する意識はなく、命令を待っていた。
 ダミアンがなにを思い、話したところで彼らが耳を傾けるとは思えないのだ。街の事よりも自分達の身の安全、保身が見え透いていた。『古代竜』と聞けば仕方がないのかもしれない。
 ……ダミアンだって街の事を一番に考えているわけではない。

「騎兵団からはなにか提案はないのか?」

 組んでいた腕をおろし、ダミアンは兵士にちらりと視線をやるが、肩を竦ませかわされてしまう。

「戦えと言われたら戦いますよ? 逃げろと言われたら逃げますし」

 投げやりな言葉に騎兵団を追求する言葉まで放られる。ドラゴンの襲来は仕方がないものだというのにだ。
 魔法使いを抱えているのだからドラゴンをどうにかしろと、全てを騎兵団へ任せ、いや正確には面倒ごとを押しつけた。
 考える事を放棄した市議たちは自分だけでも、家族だけは安全な地域へ逃がそうと動きだす。
 ルンベック市長は席を立つ者達を忌々しそうに見送る。肩を落とす市長を余所にダミアンは場を後にする。

 ダミアンの懸念はドラゴンだけではない。
 これだけ大きな事案となると王都の騎兵団へ報告しないわけにはいかない。ドラゴンの襲撃に関することであれば事後であっても報告すればいいだけなのだが、群れが見つかった場合はすぐに報告し、指示を仰がなくてはいけないのだ。
 今回見つかった集落は王都から騎兵団の派遣があることが予想され、ダミアンには頭が痛いことだ。頭が痛いで済めばいいが、騎兵団は王都から来るのだ。カロリーヌの手の者が来ると考えねばならないだろう。
 同じように魔法使いのマリユス・リンドフォーシュも頭を悩ます。二人は王都にいた頃からリュカに仕えてきたのだ。リュカの数少ない臣下である二人はカレンデュラの街よりもリュカの身を一番に考えていた。

「まずいですね。これは……殿下の事を考えれば街の放棄が一番ですが、それは難しいでしょうね」
「カレンデュラは大きいからな。人々の逃げる先を探すことは難しい」

 リュカの魔法使いとしての力の大きさを考えれば、前衛の配置になることは必至だ。まだそれだけならどうにでも出来る。

「騎士の派遣が一番の問題ですか。これだけの事となれば必ず来ますし、王妃一派でなければいいのですが、それはありえないでしょう」
「だろうな。この機会にと、考えるだろう」
「頭が痛いですね。殿下の無茶は今に始まったことじゃありませんが、魔法を使うことを控えて欲しいこの時に……」

 ダミアンは椅子を倒しマリユスに詰め寄るように声を荒げる。今までリュカの魔法に関する報告を受けていなかった。

「大事には至っていません。魔法の負荷が大きいせいで護符が今まで以上に、すぐ壊れてしまうというだけですから」

 幼くして多くの竜の肉を喰らったリュカは他の魔法使いとは違って、体に魔法の負荷が大きくかかる。そのせいで倒れたことは何度もあり、心配事は増すばかりだ。
 自身を落ち着かせるようにダミアンは倒した椅子に座り直す。眉間を指でつまみ口にするのは恨み言だ。マリユスしかいないから話せることだが、誰がどこで聞いているかわからない事を口にするべきではない。
 リュカに竜の肉を喰わせた者は皆死んでいる。
 カロリーヌがそれを命令したなど、どこにも証拠はないのだ。王政批判と投獄されてもやむを得ない話だ。

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