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竜の肉を喰らう禁忌を犯した罪人はその命を賭して竜を鎮めよ

ゆきんこ

――16―― 兵士は気を利かせたつもり

 兵士は気を利かせたつもりでリュカとオーロルに巡回を任せ子供を連れて行く。手を引かれながら子供は何度もリュカをちらちらと見返していた。

「リュカって優しいのね」

 初めて会ったときの事を思えば自然に出てくる言葉だ。今だって魔法使いと蔑まれたのだ。怒った って、卑屈になってもおかしくないというのに、感情のままに振る舞うことがない。夜空を飛んだ時の彼の笑顔を知っていれば、蔑まれることもないのではと、オーロルは兵士と子供を見送る。

「……あの子、ドラゴンが来なければパンを盗むことなんてなかったのにな」

 リュカの呟きにオーロルは返す言葉が見つからない。
 貧困層の子供がその日食べる分の食料を盗むという話はよくあり、全てをドラゴンのせいには出来ない。その子の家庭環境など一介の兵士が立ち入る問題ではないのだ。

「そう、なの?」
「洗濯された小綺麗な格好をしていただろう。貧民街にいる子供とは格好が違う」

 リュカの観察眼に感心しているオーロルにリュカは補修工事中の建物を指し

「あの建物だってドラゴンが来なければ壊れる事はなかった」

 ここ最近カレンデュラ街ではドラゴンの襲撃が頻発しており、問題となっていた。
 ドラゴンに襲撃を受けてなおこの街には活気があるが、普通ドラゴンの襲撃があれば小さな街ならばあっという間に壊滅する。
 この街が比較的大きな都市であり、リュカら魔法使いが常駐しているから損壊程度で済んでいた。
 それでも家や職を失い、親や子大事な人を亡くしてしまった人もおり、今回の子供の盗みもドラゴンの襲撃に起因する。
 オーロルがこの街へ赴任することになったのも兵士の補充の為だった。

 『氷笑の公子』が巡回している。魔法使いが兵士を伴って街を歩いているだけで人々はドラゴンが現れたのかとびくびくする。ドラゴンの咆吼も無ければ、足音もない。警戒感のない穏やかにみえる様子に緊張をほぐしていく。
 そんな中オーロルは一人緊張していた。
 リュカとの仲を噂されていると知った今、気になるようになってしまったのだ。リュカの事、周りからの視線、彼に対して自分は何を気にしているのだうか。

 ずっと俯いているオーロルの様子にリュカは訝しむように顔を覗き込む。
 眼前に晒されたリュカの均整の整った顔に緊張がさらに高まる。この綺麗な顔だけで『王子』と揶揄されることも頷けるものだと明後日の方向へ思考が向く。

「な、なにもないわ」

 上ずってしまう声に緊張を見抜かれたのではと肝を冷やす。
 仕事とはいえ二人きりで街を歩いているのだ。あんな噂などなければ気になることもなかった。噂に翻弄されている自分が恥ずかしい。
 リュカの府に落ちない様子にオーロルは言い訳を探すも、そう簡単に見つからずまごつく。

「王子だぁ!」

 遠くから掛けられる声にリュカは顔を顰めた。
 リュカを呼ぶ声に振り向いたオーロルの手を引いて足を早める。オーロルが足を縺れさせても関係なく歩く。

「王子、恋人が出来たって聞いたよぉ? 赤髪の……この子?」

 リュカと同じ魔法使いの格好をした彼は親しげにリュカに抱きつき、氷のような表情で払われる。
 ものともせずに笑顔を浮かべる彼はオーロルに手を差し出す。

「可愛いー。よろしくねぇ」

 挨拶にと差し出されていた手をリュカが払い落とす。

「触るな。ジル」
「痛いよぉ? 王子」

 リュカに対して親しげに振る舞う相手を初めて目にした。
 みんなリュカに遠慮があるように感じていた中、ジルは新鮮だ。少し距離の近過ぎる気がしなくもないが、子供のようにリュカにじゃれるジルに翻弄される姿は微笑ましい。

「恋人って、オーロルに失礼だろ! 俺なんかじゃ……」
「オーロルっていうんだぁ。オレはジルだよぉ」

 人懐っこい笑顔を向けるジルの距離の近さに動揺しつつも、オーロルは引き攣った笑顔を返す。初対面にしては距離が近すぎるのだ。

「ねぇ、王子のどんなとこがいいのぉ? やっぱり……」
「おい! ジル」

 リュカが思いっきりジルの肩を引く。

「今、オレはオーロルと話しているんだよぉ? オレがいない間に彼女を作るなんて……ジルは寂しいなぁ」
「かの……彼女って、何を言っているんだ?」 

 ジルの言葉にオーロルはリュカ以上に狼狽していた。火照ってしまう顔を隠すように俯くのは、対処のしようがないからだ。
 オーロルだって年頃の娘だ。恋の話に一喜一憂したことくらいあるが、それが当事者となるのは初めてのこと。
 コレをどう納めたらいいのか分からなく顔を上げられない。

「もう、勝手に言ってろ!」

 ジルの追求を面倒臭そうにリュカは飛び上がる。引き止める声えを聞こえないふりして上へ。二人の姿が見えなくなってリュカは後ろを振り返った。
 ジルと二人にしてよかっただろうかと、思うが後の祭りだ。あの場に耐えられなくなり飛んできてしまったのはリュカなのだ。今さら戻ることも出来ずに空を一人で浮遊する。
 ジルの人との距離の近さに辟易するものはあるが、『氷笑の公子』と揶揄されるリュカに、隔たりなく接するオーロルなら大丈夫だろうとも思うのだ。

 手にかいていた汗を服に擦りつける。オーロルと一緒にいることに緊張したなんて人には言えないと、一人で赤面していた。
 優しいと彼女が言ってくれた一言に、リュカは心が躍るように弾んだ。他の誰に言われても緊張するほど心を動かされることはないのではないだろうか。
 初めて彼女を見たとき、ドラゴン側で翻る赤い髪が花のようだと思った。咲き誇る赤い花が無残に散らされると慌てたことを忘れられない。
 あの時のことを思うと心臓がバクバクするのだ。
 寄宿舎で彼女が無事だとわかってどれだけ安心したのだろう。

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