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竜の肉を喰らう禁忌を犯した罪人はその命を賭して竜を鎮めよ

ゆきんこ

――13― 滑りついた先には

 オーロルが滑りついた先にはカレンデュラの街から派遣させれた兵達がおり、ドラゴンから逃げてきた人達の保護に邁進していた。
 ドラゴンが現れたと報告を受け、討伐に動いたのがカレンデュラ街の騎兵団だ。
 一番近い街だったこともあるが、ドラゴンに対抗出来る魔法使いが常駐していることもあり対処に当たっているのだ。

 騎兵団に優しく差し伸べられた手にオーロルは助かったのだと安堵し、氷の上を滑ったことにより冷えた体が震えだす。
 まだ日の高い時間であり、花の咲く暖かな季節だというのに焚き火が用意されていた。季節外れというような光景だが、冷えた体には嬉しい。
 オーロルと同じように体を冷やした様子の人はなく、ドラゴンから逃れられたと安堵の表情を浮かべる人達が焚き火の揺らめきに癒やされている。
 オーロルは兵士となってから初めてドラゴンと対峙した。未だに興奮が冷め止まず、何も出来なかったことが歯がゆい。
 ドラゴンに出会うこと事態が災害と同じで、怪我を負わされ、命を奪われたところで誰かを責めることも出来ない。仕方ない事なのだ。
 オーロルの側でドラゴンに大事な人を奪われたのか、名を呼び泣きじゃくる人がいる。
 なにか出来るわけでもなく、慰める言葉をオーロルは持たないし、運命だったと割り切るしかない。わかっていても、側でその人を見てる事が辛かった。兵士をやっているのだ。人の死に触れることは何度かあるが、いつまでも慣れることは出来なかった。
 自分は兵士なんだと、保護される側ではなく保護する側だと、その人の側から逃げるように、オーロルは兵士に身分を明かす。

 兵士はオーロルを労りながら陣頭指揮を取る騎兵団長ダミアンの許へ案内した。ダミアンのオーロルに向けられる同情というのか憐みの視線に戸惑うが、ドラゴンであれば仕方がないと甘んじる。

 ドラゴンとはこの世界における厄災のようなものだ。
 硬い鱗に覆われた蜥蜴のような蛇に似た巨大な躰に、鋭い爪と牙を持ち、役に立っているのかわからない蝙蝠のような翼で空を飛ぶ生物だ。
 オーロルの遭遇した『炎竜』のように口や鼻から放たれるドラゴンブレスは脅威以外のなにものでもなく、人の身でドラゴンに対抗出来るのは『魔法使い』だけで、他の人はドラゴンの姿を見かけただけでその場から逃げ出すのが懸命というものだ。

 アンテリナム王国でも比較的往来の多いカレンデュラ街道に出現したドラゴンの被害は存外に少ないものだった。
 出現した場所が街中ではなったということもあるが、魔法使いの到着が早かったことに尽きる。
 ドラゴンから人々を守らなくてはいけないはずの兵士が、ドラゴンから逃げ出したという事例はいくらでもあり珍しいものではなく、オーロルのように兵士の一人がその場にいたくらいではなんの役にも立たない事が殆どだ。
 そんな中、勇敢……無謀にもドラゴンに立ち向かったオーロルは兵士とし褒められて然るべきものだが、浴びせられたあの怒号が胸に引っかかり時間が経つにつれ怒りがふつふつと沸き上がってくる。

「……オーロル? 聞いてますか?」

 騎兵団宿舎母のクレールはボーとして見えるオーロルに少し強い口調で声を掛ける。話を聞いていると、手元の書類から慌てて目を上げた。
 笑顔に見えるクレールだが、目の奥は笑ってはいない。騎兵団の男たちの胃袋を掴む彼女だ。母親のように優しく、厳しい。

「あ! その赤毛はさっきドラゴンに向かっていった……」

 聞き覚えのある声の方にオーロルは顔を向け、見忘れるはずのない金髪の青年に目を丸くする。

「殿下! 話はまだ終わっていません」

 兵士の制服とも違う似た格好した魔法使いを伴ってリュカはオーロルに詰め寄っていく。リュカも魔法使いと同じ格好であるにも関わらず、身に付けているアクセサリーの多さに軽薄そうな印象を与えていた。

「ここにいるってことはお前、兵士だったのか。それでも、ドラゴンに対してさっきの行動はないいだろう!」

 リュカが言わんとしていることは理解できるが、自身の職務をまっとうしようとしたに過ぎず、文句を言われることに納得がいかない。
 オーロルの反論を聞こうともせず、リュカはドラゴンに対する注意を並べ立てていく。
 オーロルを心配しての言葉と受け取るにはしつこく、兵士でなく子供でも知っているような事まで並べ立ててくるリュカを、側にいる魔法使いのマリユスが止める。

「殿下、僕の話はまだ終わってません。偉そうに説教をする前に貴方には……」

 華奢な体つきに構わず、マリユスはリュカを引きずるように連れて行く。周囲の呆気にとられている様子などお構いなしだ。
 圧倒され、何事かと見ているのオーロルにクレールはいつもの事だと、宿舎の説明に戻った。

 マリユスの腕を引く手の力はいつもに増して強かった。リュカの痛がる様子など気に掛けもしない。
 腕を振り払い、逃げるようにリュカはマリユスから離れる。

「マリユス、痛い」
「……痛いで済めばいいですよ。で、その右耳の護符はどうしたんですか?」

 今まで今まで気が付いていなかったのか、リュカは右耳に触れる。朝確かに付けたはずの耳飾りが無くなっていた。

「魔法の師である僕を話を蔑ろにするばかりか、ドラゴン退治に錫杖を置いて行ったり、その護符だって……」
「俺がどうなろうと」

 マリユスはリュカの両肩を力強く掴み、縋るような顔を向ける。

「僕はあなたの死を望んでいません! お願いですから、御自愛下さい」

 マリユスの心配を申し訳なさそうに顔に背けるリュカに同じ言葉を何度も掛ける。リュカの生い立ちを当然のようにマリユスは知っていた。
 王妃のようにリュカの苦しみを死を望んでいないと、いくら伝えて足りないくらい。

「先程の彼女……誰かを心配する前に、ご自身の事を心配して下さい」

 人の事よりも自分の事をと願うのマリユスにリュカはなにも言わなかった。

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