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竜の肉を喰らう禁忌を犯した罪人はその命を賭して竜を鎮めよ

ゆきんこ

――007―― 竜の肉を喰らうということは神から見放される禁忌である

 外の賑やかさなど関係ないとばかりにリュカの過ごす部屋はいつもと同じ空気が流れていた。
 カロルの子ユーグと部屋の中を駆け回り、飽きればカロルに絵本を読ませ、見慣れないダミアンにちょっかいを出しては笑っていた。

「ダミアンは『えいゆーおう』しっている?」

 先程までカロルが読み聞かせていた絵本だ。
 このアンテリナム王国の成り立ちをかみ砕いた童話の主人公で初代国王の話だ。幼子ならば誰もが一度は憧れる英雄譚。ダミアンも当たり前のように憧れたものだ。
 同じモノを好きな人が近くにいれば嬉しく思うのは子供も大人も一緒だろう。
 たったそれだけの事でリュカはダミアンを認めてしまった。幼子の戯れというにはリュカの地位が高すぎる事を彼はまだ知らない。

「本日のお食事をお持ち致しました」

 カロルはいつもより早く、いつもと違う給仕の男に眉を曇らせた。

「いつもの人はどうしたのですか?」
「はい。本日はシャルル殿下の祝賀会に人員を取られておりますので私が参りました」

 男は手慣れた様子で食事の準備をしていく。怪訝な視線のカロルに男は肩を竦ませる。国中の貴族がシャルル王子の為に王城に集まっているのだ。人手が足りないことは仕方がないが、気になるのだ。
 近衛騎士は見るからに新人で、給仕がいつもと違う。カロルが世話している相手はこの国の第一王子だ。気にしすぎるということはない。

 大人の事情など子供には関係なく、美味しそうな匂いを漂わせる食事にユーグは手を伸ばしては給仕の男に阻止されていた。

「坊ちゃまお行儀が悪いですよ」

 しょんぼりとするユーグに男は内緒だといって水菓子を一欠片口に入れてやる。子供の扱いが上手いなとダミアンが感心しているうちに食事の用意は整う。
 そつなくこなした男の手際にカルロは満足したのだろう。子供達に向ける笑顔は嬉しそうだ。
 リュカが祝賀会に出なくても、食事は同じモノを用意されていたのだ。嬉しく思わないわけがない。

「殿下、今日はシャルル王子のお祝いですからお料理も、ほら立派ですね」
「ほんとうだ! おいしいね」

 リュカとユーグ二人で嬉しそうに食事を進めていく姿は微笑ましい。もう少しすればリュカとシャルル兄弟仲良く食事をする日も来るのだろうと、近い未来に思いを馳せる。
 そこにフランシスは居るのだろうかと、子供の成長を喜んでくれるのだろうかと不安にも思う。子供が苦手というにも限度があると思うほどに、フランシスはリュカに興味を寄せないのだ。

 リュカが落としたフォークに視線が向く。

 がさつな音を立て、リュカが体を揺らしながら倒れた。
 だらしなく開いた口からは涎が零れ、大きな瞳は焦点が合わない。
 カロルの悲鳴が響いた。
 リュカの食事に毒が盛られていたのだ。

 痙攣していたかと思うえば、体は体温を無くしたように冷たくなっていく。
 ダミアンは食事を運んできた給仕の男を押え、カロルは毒を吐かせるためリュカに水を飲ませようとする。
 冷たく痙攣する小さな体にカルロは涙が滲む。泣いてはいられないと、水を飲むよう必至に声を掛け、だらしなく開く口に水を流し込む。水が零れ、服が濡れようと関係ない。目の前のリュカを助けたいのだ。

 二人の行動は毒を盛られた要人に対して当然の行動だ。薄ら笑う男に怒りが湧く。

「……無駄だ。王子が口にしたのは『竜の肉』だ」

 『竜の肉』その単語で、カロルのその手は止まる。血の気が引いていく様をしかと感じ、苦しむリュカから視線をユーグに移す。
 目の前の出来事に驚き、恐怖を覚えたのだろう。体を震わせ、しゃっくりを上げて泣きじゃくる様子に安堵してしまう。それは母として当たり前の感情であるはずなのに、嫌悪感が押し寄せてくる。

 ダミアンに押さえつけられいる状況だというのに男は笑う。なにが可笑しいのかと気味が悪い男だ。彼は嘲笑うかのように話す。

「これで王子が死ねばよし、仮に生き残ったとしても……」

 先に続く言葉に背筋が凍り付く。

「リュカ王子は国王にはなれない」

 後継者問題はもう事が起きたのかと青ざめる。
リュカはまだ物心の付いたばかりで、シャルルは産まれたばかりの乳飲み子だ。これからどう育つかなんて誰にもわからないものだろう。
 これを誰が仕組んだのだろうかと、幾人かの顔は浮かぶ。
 怒りに任せてダミアンは男に手を上げてしまう。そんなことをしても、リュカの運命は変わらない。

「芳しきかの麗人に栄光あれ!」

 給仕の男は隠し持っていた毒で自害を果たす。
 男は麗人と言った。これを仕組んだ首謀者に浮かんでしまうのは、王妃カロリーヌだ。
 第一王子が王妃に疎まれているかもしれないと思い至った二人は、リュカを前に茫然自失と黙ってしまう。固唾を呑みお互いに顔を見合わせるものの、『竜の肉』相手に何をどう施したところでどうにもならないと気が抜けてしまったのだ。
 正確には助ける術がないために動きようがないのだが。
 ユーグの泣き声に何事かと、部屋に人が来るまで二人の時は止まったようだった。

 ――竜の肉を喰らうということは神から見放される禁忌である。

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