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竜の肉を喰らう禁忌を犯した罪人はその命を賭して竜を鎮めよ

ゆきんこ

――006―― 王子のお披露目

 フランシスに初めての王子誕生に国中が喜び、浮かれる中、フランシスだけが悲しみにくれていた。結局ニネットが助かることはなく、リュカと名付けられた王子は母の温もりを知らずに生きていかなくてはいけない。
 父となったフランシスは、ニネットの忘れ形見であるリュカの顔を見る度に彼女を思い出す。彼にとってリュカは悲しみの象徴だった。
 まだ産まれたばかりの赤子は感情も乏しく、フランシスの相手が出来るような訳もなく寝てばかりいる。フランシスが持て余すのも仕方がない。
 だが、 彼は王なのだ。彼に子を育てる力がなくても、代わりに育てる者がいる。
 リュカの乳母カロルはそれでも時を見ては何度もリュカをフランシスの前へ連れ出す。
 小さな成長一つも見逃させまいとする姿は献身的だ。だが、それがフランシスに伝わることはなかった。

「お父上様はお仕事がお忙しいのですよ。殿下……の笑顔を見れば陛下も御心が安まるでしょうにね」

 カロルのかける声はいつも寂しそうだった。
 リュカの隣で一緒に寝ている自身の子のように父に抱いて貰うことも出来ないのかと、哀れんでしまう。リュカの父が国王でなければ引き取ってしまいたいと思うほどにカロルは王子に同情的だ。
 父親仕事がが忙しくて子供を顧みないということは往々にしてあることだが、リュカが近づけば顔を背けて逃げてしまうのだ。フランシスは未だにリュカを抱いたことがなく、小さな手に触れたことすらなかった。

 ニネットを思い出すと逃げてばかりいるフランシスに、カロルはマリーとの婚約破棄を思い出す。
 まだ婚約者だった夫にエスコートされて参加したパーティーでの出来事は今でも忘れられない。憧れだった二人の姿を見られたと喜んだのも束の間、フランシスの言葉に驚きと怒りを覚えたものだ。
 マリーを庇おうともせず、顔を背けてしまう姿はリュカへのそれと同じようだ。

 悲しみに暮れるフランシスを支えたのはただ寝ているだけの赤子ではなく、王妃カロリーヌだ。
 以前のように仲睦まじい姿に第二子も近いと噂が立つほどだ。カロリーヌとの間に御子が出来れば跡継ぎ問題が起こると危惧する声もあったが、リュカ王子一人では後継者として心許無いのも事実だった。
 その様子にカロリーヌはほくそ笑む。
 彼女にとって跡継ぎ問題など些細な事だ。子供を望むのは女として当然のことだろう。それが愛する男の子供ならばだ。
 今まで子が出来なかったのは間が悪かっただけと、子を望む彼女は形振り構うことなく行動を起す。

 マリーを見つけ出し、城へ招くといった実績のあるリュックが一番の邪魔だった。宰相である父が手こずる程の相手だ。生半可なものでは返り討ちもありえるのだ。

「スンドグレーン伯爵、ご機嫌麗しゅう」

 笑顔を向けるカロリーヌにリュックはあからさまに顔を顰める。それをカロリーヌは気にする様子もなく、彼の肩先に手を伸ばす。

「ゴミが付いておりましたわ。伯爵はフランシスの一番の側近なのですからお気を付け下さいな」

 政敵ともいえる存在のカロリーヌに素直に感情を出す彼に、思うほどの男ではないかもしれないと笑みが溢れる。リュックが警戒していようと関係ない。そのくらいで怯むようならば女を追い落とし、王妃の座など手にしてはいないだろう。
 悲しみにくれるフランシスを公務から遠のかせ、仕事でリュックと二人になる機会を作ることは簡単だった。

 そして、その先も……

「リュックの黒い瞳はあの人と同じ。金茶の髪色は、私と……」
「……どうか、二人きりの時に他の男の話はおやめ下さい」

 二人の仲をフランシスが疑うはずもなく、そして、カロリーヌは第二王子となるシャルルを産んだ。
 母子共に元気な姿を国民の前に見せるカロリーヌとシャルル王子に国は安泰だと誰もが喜んだ。第一王子リュカの存在などなかったかのように、人々は歓喜に酔いしれていた。

 ダミアンは近衛騎士に配属されてその日が初出勤だった。
 身だしなみもいつも以上に気をつけ、前日には散髪するくらいだ。気合いの入りようが違う。
 高揚する気持ちを落ち着けようと何度深呼吸したのだろうか。遠目から見ていた憧れの国王と王妃の側にいられるのだ。
 心躍る思いのまま出勤した先は第一王子リュカの護衛だった。

 憧れていた場所とは違うが、これも仕事と割り切るしかないのだ。
 その日はシャルル王子お披露目の祝い日だというのにリュカには祝いの服もなく、いつもと何一つ変わることなく過ごしていた。
 第一王子といってもリュカはまだ幼子だ。今日がなんの日かなんて気にすることもなく遊んでいる。
 なんでもない日であれば微笑ましいと過ごせるが、今日は弟王子のお披露目の日だ。兄王子はなにをしているのかと気になるのは仕方ないだろう。
 正直に顔に出ているダミアンにカロルは失笑してしまう。笑われていると気が付いたダミアンは顔が真っ赤だ。
 寂しげな微笑みに変えてカロルはダミアンに本日の予定表を見せた。
 幼子といってもリュカは第一王子だ。この国の要人であることは変わらない。
 それでも今日という日でなければ気にならなかっただろう。

 ――いつもと変わることなく過ごすように

 たった一言だけの予定表にダミアンはカロルの顔と予定表を見比べてしまう。

「アブラハムソン伯爵夫人、リュカ王子は祝賀会に出られないのですか?」

 カロルの微笑みは切ない。微笑みを絶やさないのは近くにリュカが居るからだろうか。

「殿下はまだ幼子です。大人と過ごすにはまだ早いのです」

 屈託無く笑い、部屋の中を走り回るリュカをカロルは抱き上げる。自身の子が羨ましそうに見上げた。

「……殿下にはお披露目の機会すらありませんでした」

 カロルの言葉にダミアンは言葉に詰まる。
 愛人の子はどこでも、どんな地位であっても愛人の子なのだ。正妻の子が優遇され、愛人の子が冷遇されるというのはどこでもある話だろう。 市井でも王侯貴族でも変わらない。
 今は王位継承権第一位の地位であってもそれは保証されたものではないのだ。今まで見えてこなかった、見ていなかった国王一家の姿を垣間見ることになった。

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