異世界に転生されたので異世界ライフを楽しみます!

クロ猫のクロウ

◇第10話◇ 招かれざる者


「ユーリ、具体的にどうするんだ?」

今も刻々とベルフの軍勢は逐うと目指し進軍してる。なら…。

「クラリアの森で迎え撃とう」
「クラリアの森で迎え撃てば?」
「アイ…あ、いやレイン…。どうしてそれを…?」
「誰でもわかるわ。それよりどうする気?討伐するの?それとも」
「きっと話せばわかってくれる」
「"話せば"…か。どうしてそう言える?」
「ベルフは一見狂暴だけど、実は意外と臆病なんだ。そのベルフがここまでして王都に来るってことは、それだけ大事な主がいなくなったんだと思う…」

レインが静かに歩み寄る。その手にはオカリナのような笛を持っていた。

「もし、話し合いで解決しなかったらこれを使って。ベルフの嫌い音だから…」
「ありがとう…。でも要らないよ。俺が何とかしてみせる」

何とかなる。きっとできる。その甘い考えが間違いだったことをこの数時間後に遭う羽目になる。






ーークラリアの森ーー

「本当にここを通るのか?」

エフリートが馬に乗りながら聞いてきた。

「たぶんね。俺が王都に攻めるならここを通る」
「それは…何故?」
「侵攻をうまく隠れながら攻められる絶好のスポットだからかな…」

そう言っている間も森の奥からベルフ達の足音は近くなっている。地響きは威力を増し、更に凄まじい足音が俺達のところへ迫っていた。

「エフリート、念の為に刀を抜いておいて…」
「何を…?」
「来た…!」

森を林を木を全て無視するように、雪崩のようにベルフ達が迫ってきた。先頭を先行していた一頭のベルフが俺の目の前で止まった。

「退いてくれ…!」
「出来ない」
「我等は行かねばならない…!」
「主の元へか?」
「…!何故それを…!」
「やっぱりそうか…。お前達の主は誰なんだ?」
「何故…言わねばならぬ…?貴様等、"奴等"の仲間か…?」

マズイ…ベルフ達が怒ってる。小さい魔力が群れを成して強大なものになってる…。

「ベルフよ、聞いてくれ」

エフリートが一歩歩み寄る。
左手に持っていた筈の長刀は既に腰の鞘に仕舞われていた。
こういうところは流石隊長だと感心させられる。

「我が名はエフリート。王都ヴァッフルベルの魔族守護部隊の隊長だ。これまでの経緯とどこに向かっているかを聞きたい」
「エフリート…。聞いたことがある…。魔物を討伐せず守護する存在…。貴様になら話してもいいだろう…」
「ありがたい。では、まずお前達の主についてだが…」
「我らが主は東の森の神者ベオウルフだ…」

ベオウルフ…?聞いたことない名前だな…。
東の森は有名だけど、ベルフの主が人間だったとは…。

「そのベオウルフ様が誰に?」
「それはわからん。フードを被っていたから顔も見えなかった。奴等は突如としてやって来たのだ…」

我等ベルフがあの日ベオウルフ様より命の儚さについて語っていただいていたある時、黒いフードを被った奴等は、森に入ってくるやいなやベオウルフ様を魔法で縛り上げ、我らに目もくれず主を奪い去っていった。
跡を追いかけようとしたが奴の魔法をもろに食らい、暫く動けずにいたのだ。
3日たったある日、漸く体が動くようになり、我等は森を出た。奴等の匂いは王都へ向かっていたのでな。

「おいおい…」
「エフリート?」
「なぁ、ベルフさんよ…。もしかしてその魔法使いは頬にデカイ傷がなかったか?」
「…!確かにあった!」

エフリートが大きくため息をはき、エリンに近づいた。エリンの首に巻かれていたスカーフを指先で摘まみ、ベルフの方を向いた。

「その黒いフードはこれと似てないか?」

ベルフはゆっくり近づくとスカーフをじっと見つめたが、すぐに離れた。

「あぁ…似ておる…」
「バルングだ…」
「バルング…?」
「フレオ団の団長だよ…。いただろう?あの若い団長だよ」

確かにいた。でも、団長が今回の事を…?何故…何のために…?

「しかも、奴の魔法は拘束魔法だ。頬に傷があり黒の魔法ローブも羽織っている。もう疑いようがあるまい」
「そんな…。一体何のために…」

エフリートが咄嗟に刀に手をやった。
林の中をじっと睨み、鍔に親指をかけた。

「エフリート…?」
「流石は国王直轄の護衛部隊の隊長さんだァ…、俺っチが来たことを感じとるとはなァ…」
「誰だ貴様…」

林の奥から半分魔物の人間が姿を現した。背中には無数の刀、至る所に刀で出来た切り傷が目立っていた。

「クラリアの森はイイ所だなァ…。自然が豊かで…」
「…」
「燃やしたくなる…!」
「ユーリ…ベルフと共に放れろ…」
「え…」
「今すぐにだ…!」
「あ、あぁ…」

あんなに怒った表情のエフリートは始めてみる。それにあの男も相当強い。溢れ出る魔力がクラリアの森の木を少しずつ焦がしていた。

「耐えてくれよ…焦熱剣<イフリート>…」
「紅烈のエフリートォ…おもしれェ…来なァ…」
「奴に地獄の烈火を与えよ…!」

『極限魔法<エクストラスキル>、地獄の業火<イフリート・レ・アスタージャ>!!』

エフリートの剣から放たれた業火が奴の体を覆い、燃やし尽くした。強大すぎる炎は周りの芝生や林をも犠牲とするほどだった。

「ユーリ…王都へ戻るぞ…!エリン!空間魔法で王都までの道を形成してくれ…!」
「はい…!」

凄まじい魔法だ…。放たれた炎がずっと奴の体を燃やし尽くしている。

「ん…?ずっと…?」
「どうしたユーリ…?」
「あの炎って"いつまで"あの火力のままなんだ…?」

炎は一定の火力で燃え続け、奴の体に纏わりついている。一向に消えない炎はまるで掃除機のように奴の胸へと吸い込まれた。

「なん…だと…」
「俺ァ…爆焔獣<アモン>に育てられたもんでなァ…。焔は俺っチの食事なんだわァ…」

ゆっくりと近づいてくる奴の魔力にその場にいる全員が動けなかった。

「お前の焔…旨かったぜェ…♪」
「化け物め…!」
「うめェもん喰わしてくれた礼だァ…」

奴は左腕を振り上げると、手の爪が魔物のそれになった。
爪から炎が出ると、今度はそれをエフリートの方に振り落とした。
炎を纏った爪はエフリートの右肩を裂き、体を引き裂き、振り抜いた。足元にエフリートからでた血が飛び散った。

「礼は返したぜェ…♪」

真っ赤に濡れた左腕のまま、エリンが開いていた空間に入り、そのまま姿を消した。
一歩も、そう一歩も動けなかった。ただ目の前でエフリートが裂かれるのを見ていることしかできなかった。

俺は"最弱の村民"だ…。



◇第10話◇ 招かれざる者      fin.

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