涙

ペイペイちゃんが部屋にやって来た。これはほぼ毎日の日課になっている。

「ハグして」

優しく彼女をハグすると彼女の柔らかい肉体の感触が伝わって来る。特に今日はパジャマだからかもしれない。いつもならここで終わりなのだが。ハグが終わろうとした時

「めぐみ君、私のことどう思っているの？」

「どうって？」

「好きなの？嫌いなの？」

好きでもなく嫌いでもないなどと言える雰囲気ではなさそうだ。ペイペイちゃんの真剣な顔を見るといい加減な答えは許すはずもなさそうだ。かと言って好きということも言えない。

「どうなの？」

「あ…」

答えに困っている俺に業を煮やしたのか

「やっぱり！！沙織さんのことが好きなんでしょ！！」

「それは…」

そこまで言いかけて俺は言葉を失った。ここで違うと言えば、答えは簡単なのだが、それをすると沙織さんに迷惑をかけてしまう。どうしたらいいんだ？

「こんな…」

ペイペイちゃんが言葉に詰まっていると同時に彼女の顔を見ると涙が…俺は言葉を失った途端

「ばか！！」

そう言い残して、部屋を後にした。彼女の涙にどきりとしたのは言うまでもなかった。

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今度は、沙織さんが俺の部屋にやって来た。

「ちょっといい？」

「いいけど」

「めぐみくん。正直に言ってね」

「はい・・・」

「私のことどう思っているの？」

沙織さんのこの質問に俺は困った。彼女は大切な人であることは間違いない。それは、俺の母という側面と学校で夫婦を演じているという点で運命共同体であることは間違いなのだが、正直どう思っているのという質問はかなり難しい。

「どうなの？」

戸惑っている暇はなさそうだ。

「あ・・・きれいで、いつもよくしてくれて、本当に感謝の言葉しか浮かばないんだけど、俺にとっては大切な人だよ」

するとかなり不満げな表情をしている。というより目は少し怒っているような気がする

「それだけなの？」

「だから、大事な人なんだ」

「はぁ・・・」

ため息をつかれてしまった。そして、キッと俺を睨んだかと思うと

「じゃぁ…私がほかの人を好きになってもいいの？」

彼女の言葉の真意がわからない。はっきり言って、彼女を束縛する権利は俺には全くない。学校では夫婦のふりをしているけど、実際には親子の関係だ。更にいうとオヤジのやつが日本の法律上死んだことになっているので、沙織さんは未亡人ということになって、自由にしていいとオヤジも言っていた。だから、なおさら、俺には彼女を束縛する権利はない。

「そ・・・それは・・・沙織さんの自由だ」

「本当にそう思ているの？」

彼女は困惑の表情を浮かべているが、なぜ浮かべているのか、

「俺には君を束縛する権利はない」

「本気で言っているの」

「ああ・」

ぱちーん！！

「！！」

「ばかー！！」

左の頬に伝わるジーンと痛い感触を残して、沙織さんは部屋を出て行った。

「なぜ？」