思い

―――親父が家にいる

　最近珍しいことではなくなったのだが、ゴールデンウィーク後からちょくちょくオヤジが家に帰ってきている。何をしに帰っているのかと思えば、自室に籠って、何やら仕事をしているようだった。俺の家の状況を簡単に説明すると各自の部屋はおやじ、沙織さん、ペイペイちゃん、紗耶香ちゃん、瀬里奈さんに割り振られていて、俺は、１回の和室コーナーでいる状況だ。
　そんなある日のことだった。親父が和室コーナーに入って来た。

「めぐみ…ちょっといいか？」

「なんだよ。おやじ」

「知っての通り、俺は死んだことになっている。このことで、沙織は未亡人となっている。よって、沙織には自由にしていいと言っている」

「おやじ、そんな身勝手なことを言うなよ。沙織さんが困惑しているだろう」

オヤジは首を傾げた

「学校では、めぐみと沙織は結婚していることになっているんだってな。だったら、そのまま素直に結婚して…」

バン！！思わず机を叩いてしまった。ぎろりと睨むと少したじろいだ様子を見せたのだが、実際の所、何を考えているのかよくわからい。

「いい加減にしろ。一度は結婚して夫婦になったんだろう！！少しは沙織さんの気持ちを汲んでやれよ」

「わかった。沙織には俺から言っておくよ。めぐみからそんな言葉が出るとは思わなかった」

そう言い残して親父は部屋を後にした。そんな俺たちの会話を沙織さんが聞いていたとは、夢にも思わなかった。

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嬉しかった。めぐみ君があそこまで私のことを考えてくれていたなんて…二人の会話を聞いて、思わず涙が出そうになって慌てて自分の部屋に戻った。

あの日から…

めぐみ君のことが好きなんだ。そう実感する私、今にも抱きしめたいと思っているけど、中々、実行できない。それは、やはり亮さんとの関係がまだ残っているから
法律上は死んだことになっている亮さん。しかし、現実的には彼は生きていて、私の周りでうろちょろしている。一度は夫になった人物。夫婦生活は一度も無かったけど、夫になった事は紛れもない事実だった。そんな私の元に亮さんがやって来た。

「沙織…入っていいか？」

「どうぞ…」

「すまなかった」

部屋に入ってくるなり亮さんは、頭を深々と下げたのだった。

「君をこんな形で傷つけることになるなんて、ただ、親友の瀬里奈を助けたかっただけなんだ」

「あなたの言っている意味が解らない。もし、お母さんを助けたかったら、お母さんと結婚すればよかったのではないでしょう」

すると

「あの状況で彼女とは結婚できなかった。それは、彼女と結婚したら、莫大な借金が俺の所に来ることになる。俺自身としては良かったのだが、瀬里奈がそれだけはできないと言っていたのだ。瀬里奈のこともわかってほしい」

「それって、お母さんの我儘じゃないの？」

「違うんだ。瀬里奈は、自己破産することで借金から逃れ、沙織と紗耶香を助けたんだ」

「その意味が良くわからないんですが」

「実は、彼女の元に沙織と紗耶香と芸能関係者がスカウトさせようという話が舞い込んできていた。しかし、その会社は、結構、裏のうわさも絶えない事務所だった。そこで彼女は俺に話を持ち掛けてきたんだ」

「それとこれとどういう関係があるのですか？」

「実は、俺の会社も芸能関係に関係がある会社だ。つまり、俺の親族になれば、誰も手出しできないということになる。本当はめぐみと結婚させたかったんだけど、君が一途だったから」

「確かに・・・そうでした」

あの時は、自分が結婚することで家族が救われるそう信じていた沙織にとって、助けてくれる人の息子と結婚することより、本人と結婚することの方が大事だと思っていたのだから、そのことに彼女は後悔はしていなかった。

「だったら、今こそ、自分の気持ちに素直になりなさい」

「…」

亮の言葉に沙織は迷っていた。それは、一度結婚したということに起因していた。亮はそのことに気付いていたかは定かではないが

「迷っているのか？悪いことをした。けど、それも今日までだ。今から俺の秘密をおしえてやるよ。これを知ったら、その迷いもなくなるよ」

亮から知らされた真実を見て、沙織の迷いは消えたのだった。

「このことはめぐみには絶対言わないでほしい」

「わかった」

量の秘密を知ってしまった沙織、そして、沙織は決断したのだった。