最強の元王子様は怠惰に過ごしたい?
お家事情
またしても更新を忘れてしまっていたので今日も2話更新です。
2話目は22時更新です。
「ね、ねぇレンヤ。リオンはどんな戦い方をするの?」
「あ? そういうのは説明役のアリシアに聞け」
恐る恐るメルは問いかけるがレンヤは案の定面倒臭がる。
「そんな役目を担った覚えは無いわよ。セリアにでも頼みなさい」
「ふぇ!? わ、私!?」
「アリシア様、セリア様が可哀想です。説明をお願いできませんか?」
「姫様に頼まれたら断れるわけないじゃない。ずるいわよ」
一応は『機関』の者はヴェンダル帝国の国民ということになっている。皇女様のお願いを無下には出来ない。こほん、と一拍置いてからアリシアは話し始める。
「リオンは一言で言えば『無茶苦茶』ね。臨機応変に型にはまらない動きで相手を翻弄して、汚い手も普通に使うわ。レンヤみたいに」
「おい」
「そもそも武器を振るのにはある程度決まった型みたいなのが存在しているのはメルも知ってるわよね?」
「うん、がむしゃらに振ったって当たらないし、すぐ疲れちゃうだろうし」
「そ。過去から現在へ、時を経て着実に無駄の無い効率的なものにそれは洗練されていったの。だけど足らないものがあった。何だと思う?」
「うーん……実践経験とか?」
「半分当たりよ」
ピン!と人差し指を立てるアリシア。気分は教え子の相手をする教師だ。
「魔物にならいくらでも試せるけど人に対してはそうもいかない。人殺しは犯罪だから一歩間違えれば犯罪者になるんじゃないかって怯えてしまう腰抜けばっかり。真剣じゃなければいいのかもしれないけど、それだと気持ちの持ちようとか緊張感とかが全然違うのよ。それに戦争もしばらく無かったせいで平和ボケしてるのも辛いところね」
アリシアは手にしていた飲み物を一口飲み、続ける。
「ヴェンダル帝国が大陸屈指の武力を持つ国だという認識がされてるのもいけないわね。この前の魔物の大群と国軍の戦いを見たでしょ? どう思った?」
「苦戦してるなぁって……」
「それが現実。この国が武力的に強いっていうのは過去の出来事からそう言われてるのであって、今の事を言ってるわけではない。過去は過去、今は今。なのに勘違いする人が続出する。御三家なんかが良い例ね。血筋のおかげか無駄に才能が有ってそれなりに強い。家柄もよくてちやほやされ、決められたエリートコースで出世していく。要は調子に乗ってるの。馬鹿みたい」
「辛辣だ……」
「あぁ、なんか話が逸れてたわね。リオンの話に戻るわ」
アリシアは舞台に立つリオンに視線を向け――
「あいつは幼少期から勝負の世界で生きてきた元剣奴よ。無理矢理戦わされて、負ければ死ぬっていう過酷な環境で生き抜いてきた。生き抜く術として敵の戦闘技術を吸収して自分に合うように最適化して、死なないように死ぬ気で戦い抜いてきたの。あいつの能力は全部実戦で培ってきたものなのよ」
リオンの過去を明かした。
※※※
観客もいなくなり、どことなく重い雰囲気が漂う中で第二試合が始まろうとしていた。
「…………」
「あはは、緊張してるのかな? 楽しくいこうよ」
「…………」
「うーん、困ったねこれは」
先程のサクヤの戦いを見て警戒心を強めたミレーヌはリオンを睨みつけたまま黙っていた。どうしたもんかとリオンは苦笑する。
「話せそうもないし、さっさと始めちゃおうか」
互いに剣を構える。
『そ、それでは第二試合始め!』
「はぁ!」
先手を取らせてはいけないとミレーヌはすぐさま間を詰め、斬りかかる。
「中々鋭い攻撃だね」
そう言いながらもリオンは笑顔を浮かべて捌いていく。剣戟の音が連続して響く。
「くそっ! 防いでばかりとは軟弱な!」
「君の剣が速すぎていっぱいいっぱいなだけだよ」
「抜かせ!」
リオンが笑顔を崩さぬ一方、ミレーヌは焦り始めていた。学園での授業においても剣を一振りすれば防ぎきれずに相手の剣が吹き飛び、また早く鋭い一撃に防御が間に合わずに斬られてしまうものばかりだった。所詮相手はまだ青臭い学生達とはいえ、その中でも自分は圧倒的な実力を持っているのだ、お前達とは違うのだと自負していた。
――なのに。
目の前の同い年ほどの少年は余裕綽々としているではないか。防ぐのでいっぱいいっぱいだと本人は言っていたがそれが嘘に思えて仕方ない。何度斬りかかっても通る未来が見えない。
魔法を使うか?と考えてみたが止めた。元々御三家は魔法ではなく武技において突出的な力を見せたことで国の目に留まったのだ。ここで名も知れぬような平民に魔法を使うのは矜持が許さない。
この状況を打破するための解決策を模索していた、その時だった。まずい!と反射的にバックステップしてリオンとの距離をとった。頬に違和感を感じて触ってみると薄らと皮が切れており、血が流れていることが分かった。原因は一つしかない。
「もうちょっと出来ると思ってたんだけど残念だなぁ。御三家っていってもこんなものか」
笑顔から一転、軽蔑の視線と共に失望の色が顔に浮かんでいた。
「本当につまらない。もう終わりにしようか」
刹那、ミレーヌの視界に何かが映る。自分の顔めがけて飛んでくるそれは一体何か。
(剣だ!)
それを弾くとリオンの姿が消えていることに気付く。
「じゃあね」
後ろから声が聞こえると同時に頭部に回し蹴りが当たる。鈍い音と共に衝撃が走り、そのまま吹き飛び壁に叩きつけられた。
「――――っ!」
蹴りによる頭部へのダメージに壁にぶつかった際の身体へのダメージ。意識は朦朧とし、身体が言うことを聞かない。
「まだ……だ……」
「終わりだよ」
ミレーヌの目に映ったのは剣を振り上げたリオンの姿だった。
※※※
「ふむ……」
エドガーは感心していた。
「あのような者達もいるのだな……」
サクヤとリオンの試合。ただの平民に負けるわけがないと思っていたが、結果は予想とは逆だった。
表に出てこないだけで猛者は存在していたようだ。どうしてももったいないと感じてしまう。
「リオンにレンヤ、か……」
エドガーが考えているのはキャンベル家の次期当主問題について。キャンベル家は武の家系なだけにその時最も実力があるとされるものが次期当主に選ばれる。長男だからといって絶対なれるわけではない。
エドガーには何人もの子がいるが、体が弱い、才能が無いなど恵まれなかった。後継者を誰にするか悩んだ時もあった。
そんな時、ロゼッタが生まれた。
幼い頃から可能性を感じさせる、まさに神童。教えたことをみるみる吸収していく彼女に興味が湧き、エドガーは厳しく接し、鍛え上げていった。
だが学園に入る頃になるとロゼッタの成長が止まった。壁にぶつかったのか、伸び悩み始める。今のままではまだ次期当主にするわけにはいかない。
もう一つ問題はあった。エドガーは気にはしなかったが、キャンベル家は代々男が当主を務めあげてきた。つまりは性別の問題だ。周りからはロゼッタに対して反対の声が上がっていた。
エドガーの悩みは尽きなかったがそんなある日。レンヤという少年の存在を知った。ロゼッタを相手に反応すらさせずに勝利したという。
これを聞いてエドガーは最終手段に出ることに決めた。ロゼッタを嫁とし、レンヤを無理矢理婿養子としてキャンベル家に迎え入れ、跡継ぎとする。娘より強い者の血を取り込めば家の更なる発展に繋がるだろうと考えた。
エドガーがこの模擬戦に参加したのはレンヤを実際にこの目で見る為だった。
「ロゼッタ、分かっているな?」
「はい……」
エドガーから前もって言われていたことの確認にロゼッタは俯きながら返事をする。
これから行うのはミクルーアの殺害。レンヤを貰うにあたって邪魔な存在を排除する。
模擬戦中に槍が当たった際に不幸にも結界が解けており、ミクルーアはそのまま即死してしまう。今から不幸な事件が起きようとしていた。
ロゼッタに逆らう様子はなく、完全に親の操り人形と化していた。全ては実力不足のせいなのだからと自身に言い聞かせて。
エドガーは内心でほくそ笑む。
そんな親子のやり取りを見て不審に思っている者がいるとは知らずに。
「レンヤくん? どうかしましたか?」
「なんでもない。それよりミア、少し頼みごとがあるんだが……」
2話目は22時更新です。
「ね、ねぇレンヤ。リオンはどんな戦い方をするの?」
「あ? そういうのは説明役のアリシアに聞け」
恐る恐るメルは問いかけるがレンヤは案の定面倒臭がる。
「そんな役目を担った覚えは無いわよ。セリアにでも頼みなさい」
「ふぇ!? わ、私!?」
「アリシア様、セリア様が可哀想です。説明をお願いできませんか?」
「姫様に頼まれたら断れるわけないじゃない。ずるいわよ」
一応は『機関』の者はヴェンダル帝国の国民ということになっている。皇女様のお願いを無下には出来ない。こほん、と一拍置いてからアリシアは話し始める。
「リオンは一言で言えば『無茶苦茶』ね。臨機応変に型にはまらない動きで相手を翻弄して、汚い手も普通に使うわ。レンヤみたいに」
「おい」
「そもそも武器を振るのにはある程度決まった型みたいなのが存在しているのはメルも知ってるわよね?」
「うん、がむしゃらに振ったって当たらないし、すぐ疲れちゃうだろうし」
「そ。過去から現在へ、時を経て着実に無駄の無い効率的なものにそれは洗練されていったの。だけど足らないものがあった。何だと思う?」
「うーん……実践経験とか?」
「半分当たりよ」
ピン!と人差し指を立てるアリシア。気分は教え子の相手をする教師だ。
「魔物にならいくらでも試せるけど人に対してはそうもいかない。人殺しは犯罪だから一歩間違えれば犯罪者になるんじゃないかって怯えてしまう腰抜けばっかり。真剣じゃなければいいのかもしれないけど、それだと気持ちの持ちようとか緊張感とかが全然違うのよ。それに戦争もしばらく無かったせいで平和ボケしてるのも辛いところね」
アリシアは手にしていた飲み物を一口飲み、続ける。
「ヴェンダル帝国が大陸屈指の武力を持つ国だという認識がされてるのもいけないわね。この前の魔物の大群と国軍の戦いを見たでしょ? どう思った?」
「苦戦してるなぁって……」
「それが現実。この国が武力的に強いっていうのは過去の出来事からそう言われてるのであって、今の事を言ってるわけではない。過去は過去、今は今。なのに勘違いする人が続出する。御三家なんかが良い例ね。血筋のおかげか無駄に才能が有ってそれなりに強い。家柄もよくてちやほやされ、決められたエリートコースで出世していく。要は調子に乗ってるの。馬鹿みたい」
「辛辣だ……」
「あぁ、なんか話が逸れてたわね。リオンの話に戻るわ」
アリシアは舞台に立つリオンに視線を向け――
「あいつは幼少期から勝負の世界で生きてきた元剣奴よ。無理矢理戦わされて、負ければ死ぬっていう過酷な環境で生き抜いてきた。生き抜く術として敵の戦闘技術を吸収して自分に合うように最適化して、死なないように死ぬ気で戦い抜いてきたの。あいつの能力は全部実戦で培ってきたものなのよ」
リオンの過去を明かした。
※※※
観客もいなくなり、どことなく重い雰囲気が漂う中で第二試合が始まろうとしていた。
「…………」
「あはは、緊張してるのかな? 楽しくいこうよ」
「…………」
「うーん、困ったねこれは」
先程のサクヤの戦いを見て警戒心を強めたミレーヌはリオンを睨みつけたまま黙っていた。どうしたもんかとリオンは苦笑する。
「話せそうもないし、さっさと始めちゃおうか」
互いに剣を構える。
『そ、それでは第二試合始め!』
「はぁ!」
先手を取らせてはいけないとミレーヌはすぐさま間を詰め、斬りかかる。
「中々鋭い攻撃だね」
そう言いながらもリオンは笑顔を浮かべて捌いていく。剣戟の音が連続して響く。
「くそっ! 防いでばかりとは軟弱な!」
「君の剣が速すぎていっぱいいっぱいなだけだよ」
「抜かせ!」
リオンが笑顔を崩さぬ一方、ミレーヌは焦り始めていた。学園での授業においても剣を一振りすれば防ぎきれずに相手の剣が吹き飛び、また早く鋭い一撃に防御が間に合わずに斬られてしまうものばかりだった。所詮相手はまだ青臭い学生達とはいえ、その中でも自分は圧倒的な実力を持っているのだ、お前達とは違うのだと自負していた。
――なのに。
目の前の同い年ほどの少年は余裕綽々としているではないか。防ぐのでいっぱいいっぱいだと本人は言っていたがそれが嘘に思えて仕方ない。何度斬りかかっても通る未来が見えない。
魔法を使うか?と考えてみたが止めた。元々御三家は魔法ではなく武技において突出的な力を見せたことで国の目に留まったのだ。ここで名も知れぬような平民に魔法を使うのは矜持が許さない。
この状況を打破するための解決策を模索していた、その時だった。まずい!と反射的にバックステップしてリオンとの距離をとった。頬に違和感を感じて触ってみると薄らと皮が切れており、血が流れていることが分かった。原因は一つしかない。
「もうちょっと出来ると思ってたんだけど残念だなぁ。御三家っていってもこんなものか」
笑顔から一転、軽蔑の視線と共に失望の色が顔に浮かんでいた。
「本当につまらない。もう終わりにしようか」
刹那、ミレーヌの視界に何かが映る。自分の顔めがけて飛んでくるそれは一体何か。
(剣だ!)
それを弾くとリオンの姿が消えていることに気付く。
「じゃあね」
後ろから声が聞こえると同時に頭部に回し蹴りが当たる。鈍い音と共に衝撃が走り、そのまま吹き飛び壁に叩きつけられた。
「――――っ!」
蹴りによる頭部へのダメージに壁にぶつかった際の身体へのダメージ。意識は朦朧とし、身体が言うことを聞かない。
「まだ……だ……」
「終わりだよ」
ミレーヌの目に映ったのは剣を振り上げたリオンの姿だった。
※※※
「ふむ……」
エドガーは感心していた。
「あのような者達もいるのだな……」
サクヤとリオンの試合。ただの平民に負けるわけがないと思っていたが、結果は予想とは逆だった。
表に出てこないだけで猛者は存在していたようだ。どうしてももったいないと感じてしまう。
「リオンにレンヤ、か……」
エドガーが考えているのはキャンベル家の次期当主問題について。キャンベル家は武の家系なだけにその時最も実力があるとされるものが次期当主に選ばれる。長男だからといって絶対なれるわけではない。
エドガーには何人もの子がいるが、体が弱い、才能が無いなど恵まれなかった。後継者を誰にするか悩んだ時もあった。
そんな時、ロゼッタが生まれた。
幼い頃から可能性を感じさせる、まさに神童。教えたことをみるみる吸収していく彼女に興味が湧き、エドガーは厳しく接し、鍛え上げていった。
だが学園に入る頃になるとロゼッタの成長が止まった。壁にぶつかったのか、伸び悩み始める。今のままではまだ次期当主にするわけにはいかない。
もう一つ問題はあった。エドガーは気にはしなかったが、キャンベル家は代々男が当主を務めあげてきた。つまりは性別の問題だ。周りからはロゼッタに対して反対の声が上がっていた。
エドガーの悩みは尽きなかったがそんなある日。レンヤという少年の存在を知った。ロゼッタを相手に反応すらさせずに勝利したという。
これを聞いてエドガーは最終手段に出ることに決めた。ロゼッタを嫁とし、レンヤを無理矢理婿養子としてキャンベル家に迎え入れ、跡継ぎとする。娘より強い者の血を取り込めば家の更なる発展に繋がるだろうと考えた。
エドガーがこの模擬戦に参加したのはレンヤを実際にこの目で見る為だった。
「ロゼッタ、分かっているな?」
「はい……」
エドガーから前もって言われていたことの確認にロゼッタは俯きながら返事をする。
これから行うのはミクルーアの殺害。レンヤを貰うにあたって邪魔な存在を排除する。
模擬戦中に槍が当たった際に不幸にも結界が解けており、ミクルーアはそのまま即死してしまう。今から不幸な事件が起きようとしていた。
ロゼッタに逆らう様子はなく、完全に親の操り人形と化していた。全ては実力不足のせいなのだからと自身に言い聞かせて。
エドガーは内心でほくそ笑む。
そんな親子のやり取りを見て不審に思っている者がいるとは知らずに。
「レンヤくん? どうかしましたか?」
「なんでもない。それよりミア、少し頼みごとがあるんだが……」
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