最強の元王子様は怠惰に過ごしたい?
万能執事
ヴェンダル帝国総合学園は学園祭初日を迎えていた。帝都でも名の知れた大規模な学園だけあって開始直後から多くの客が訪れている。
そんな中で最も盛り上がりを見せていたのがレンヤ属する2-Cだった。
教室は外からの光を全て遮断しわざと室内照明のみで少し薄暗くすることでモダンな雰囲気を醸し出している。教室前の廊下には行列が出来たため整理券を配るはめになり、本来は決めていなかった時間制限を設けなければなければならないほどの人気ぶりだ。
そしてたった今、二人組の女性客が入っていったところだ。
「お帰りなさいませ、お嬢様方」
入店直後に執事服を着こなした少年――レンヤが迎えてくれた。
レンヤは女性達の持っている荷物を預かった。
「どうぞこちらへ」
席まで案内すると椅子を引き、座りやすいようにする。そして空いてる席へ荷物を置き、着席した女性達の膝と荷物の上に布をかける。その際に近付いてきたレンヤとの距離に、緊張で体が硬くなっているのを察したのか、レンヤは気を抜くようにという意味を込めて微笑みかけた。
ズキューン!とそんな音が聞こえた気がしなくもないが、レンヤは気にせず対応を続ける。女性達の頬は赤く色付いていた。
メニューの説明を簡潔に済ませて注文を取る。決めかねているようなので用の時はテーブルの上にあるベルを鳴らすよう伝えて去っていく。
次にレンヤはティーカップが空になった客の元へ向かい、おかわりを注いでいく。もちろん笑顔を添えて。
一つ一つの動作が流麗。まさに本物の執事のようだ。
「あいつ学生の他に執事もやってるんじゃないか?」
「流石にそれは無いかと……多分ですけど」
「様になってるね」
「すごい……」
ギルにルリス、クートにジーナが漏らした呟きが聞こえたメルは呆れ笑いをしていた。
執事よりも重大な、国を支えるような仕事をしているとは誰も思わないだろう。
「やあ、休憩に来たよ」
「お疲れさまっす、レンヤ先輩」
昼前、これから混み始めるであろう時間帯に知り合いが執事&メイド喫茶に訪れた。
「お帰りなさいませ王子様、お嬢様方。相変わらずお熱いようで」
「あはは……」
アンネにべったりと寄り付かれ腕まで組まれているリオン、そしてエビルだ。
とりあえず三人を席まで案内するとリオンが口を開く。
「そういえばもうすぐミクルーアが来るよ」
「そうか」
特に反応することなくレンヤは仕事を続けていたが、心なしかその足取りは軽かった。
※※※
学園の正門前にて、人の目を集めている四人組がいた。
「ふぁぁ……凄い盛り上がりです!」
「活気がありますね」
「ひ、人が多い……」
「セリアは相変わらずですねぇ」
この国の皇女であるシルフィーナ、そしてアリシアを抜いた超越者の女子勢だ。
制服を着たサクヤが案内役兼護衛をしているその集団は誰もが目を引く美しさを持っている。
そんな注目の視線に気付いているかは分からないが、ある場所を目指して足を進めていく。
「レン兄に早く会いたいです!」
「ふふ、そうですね」
目を輝かせる妹のような少女の姿に微笑ましくなり、ミクルーアは優しく頭を撫でるのだった。
ちなみにアリシアは先に並んで人数分の整理券を確保していた。
※※※
リオン達が来てから数分後、廊下がざわつき始めていた。どこからともなくシルフィーナ様という声が聞こえてくる。
そして入って来たのは五人の女性。
「お帰りなさいませお嬢様方」
「あ、レン兄です!」
タタタタと駆け寄りレンヤの胸にぽふんとおさまる。当然周りの客は何事かと見てくるが、シルフィーナは幸せそうに頬を緩めている。
「来ちゃいました」
「いらっしゃい、ミア」
学園に通い始めてから一緒にいる時間が減ったからか、自然と見つめ合い二人だけの世界に入りつつあった。
「あの……案内を……」
「いいのよセリア、こうなるとしばらく戻ってこないから。メル! 案内お願い!」
「うちの者がすいません……」
まるで息子の不手際を謝る親のようなメルがレンヤの代わりに席へと案内する。案内された隣の席にはリオン達がいた。
「リオンじゃないですか、お熱いことで」
「やあサクヤ。さっき同じことをレンヤにも言われたよ」
「エビル、こんなところで奇遇ね」
「それはおかしいっす! リオン先輩に自分を押し付けたのはアリシアちゃんのはずっすよ!」
「そうだったかしら?」
「そろそろ何か頼んだ方が……」
セリアの一言で会話を中断しメニューに目を通し始める。その間にちゃっかりとシルフィーナとミクルーアが戻ってくる。
そしてシルフィーナは一つの商品名が目に留まった。
「メル様、この本日限定特別メニューとはなんですか?」
「め、メル様……ごほん。特別メニューは当店一の腕前を持った者によって出される料理です。担当はレンヤとなっています」
「レン兄が! ミア姉、これにしましょう!」
「そうですね、では紅茶とこれを……」
同じテーブルの人に目を向け確認を取る。頷きが返ってくるので全員同じにするようだ。
「五つお願いします」
「かしこまりました。レンヤ! 特別メニュー五人前お願い!」
「あいよ。……めんどくさ」
「ミクルーアも食べるのよ?」
「すぐ用意してくる」
目にもとまらぬ速さでレンヤが去っていく。すると一分もしないうちに戻って来た。
「こちら、本日限定メニューのフルーツタルトでございます」
出されたのはフルーツがこれでもかと盛り付けられたタルトだ。見た目はプロ顔負けの綺麗さ。
レンヤはミクルーアに差し出したタルトに自らフォークを差し込み一口大の大きさにする。そしてフォークを刺し、口元へと持っていく。いわゆるあーんだ。
「お嬢様、口をお開けください」
「……はい」
やや遠慮気味に口を開くと入ってくるタルト。口にするとサクッとした食感とフルーツの瑞々さ、しつこすぎない甘さが口いっぱいに広がる。見た目もさることながら味も完璧だ。
「美味しいです」
「ありがとうございます」
薄らと頬を染めながらも微笑むミクルーアに、レンヤも微笑みを返す。再び漂う甘い雰囲気。この夫婦は場所など関係なくイチャつくようだ。
「レン兄! 私にもお願いします!」
「はいはい、ほらよ」
「あーん……ふむふむ、美味しいです!」
「そりゃどうも」
執事らしからぬ態度ではあるがシルフィーナは満足そうだ。
「レンヤ、私にもお願いね?」
「私にもお願いします」
「……かしこまりました」
仮にも今は執事であるため、普段なら断るお願いも断れない。アリシア、サクヤ、ちゃっかりと混ざっていたセリアにも食べさせていく。
女性陣は大満足、レンヤはお疲れの中で緩やかに時間は過ぎていこうとしたが――――
「やめてください!」
「いいじゃねぇかよ、なぁ?」
女の拒否の声。そちらに目をやるとメイドの腕を掴む柄の悪そうな男がいた。どのような状況か一目でも分かる
「メイドはご主人様の言うことは聞かねぇとなぁ」
「ひっ……」
卑しい顔をしながら強引に引っ張ろうとする男。だが次の瞬間には男は体ごと宙に浮いていた。
「離れろ、この下衆が」
「ぐっ、がはっ……」
レンヤが片手で男の首を掴み持ち上げていた。
「さっさと消えろ」
睨みを利かせた後に手を離す。男は躓きそうになりながらも出ていった。
恐怖からか、ぺたんと座り込んでしまっていたメイドにレンヤは手を差し伸べ、立たせる。
「大丈夫だったか?」
「う、うん……」
「掴まれたところは?」
「少し痛みはあるけど、大丈夫だよ? ありがとう」
「そうか」
それだけを確認するとレンヤはミクルーア達の所へと戻る。助けた少女の熱い視線には気付かずに。
「うわ、また一人レンヤのファンが出来たわね」
「無自覚なのがタチ悪いですよねぇ」
「格好良いなぁ……」
「レン兄はいつも格好良いですよ?」
「そうですね、レンヤくんはいつも格好良いです」
結果的に一連の流れを見ていた客からのクチコミなどもあり、大繁盛で学園祭一日目が終わった。
そんな中で最も盛り上がりを見せていたのがレンヤ属する2-Cだった。
教室は外からの光を全て遮断しわざと室内照明のみで少し薄暗くすることでモダンな雰囲気を醸し出している。教室前の廊下には行列が出来たため整理券を配るはめになり、本来は決めていなかった時間制限を設けなければなければならないほどの人気ぶりだ。
そしてたった今、二人組の女性客が入っていったところだ。
「お帰りなさいませ、お嬢様方」
入店直後に執事服を着こなした少年――レンヤが迎えてくれた。
レンヤは女性達の持っている荷物を預かった。
「どうぞこちらへ」
席まで案内すると椅子を引き、座りやすいようにする。そして空いてる席へ荷物を置き、着席した女性達の膝と荷物の上に布をかける。その際に近付いてきたレンヤとの距離に、緊張で体が硬くなっているのを察したのか、レンヤは気を抜くようにという意味を込めて微笑みかけた。
ズキューン!とそんな音が聞こえた気がしなくもないが、レンヤは気にせず対応を続ける。女性達の頬は赤く色付いていた。
メニューの説明を簡潔に済ませて注文を取る。決めかねているようなので用の時はテーブルの上にあるベルを鳴らすよう伝えて去っていく。
次にレンヤはティーカップが空になった客の元へ向かい、おかわりを注いでいく。もちろん笑顔を添えて。
一つ一つの動作が流麗。まさに本物の執事のようだ。
「あいつ学生の他に執事もやってるんじゃないか?」
「流石にそれは無いかと……多分ですけど」
「様になってるね」
「すごい……」
ギルにルリス、クートにジーナが漏らした呟きが聞こえたメルは呆れ笑いをしていた。
執事よりも重大な、国を支えるような仕事をしているとは誰も思わないだろう。
「やあ、休憩に来たよ」
「お疲れさまっす、レンヤ先輩」
昼前、これから混み始めるであろう時間帯に知り合いが執事&メイド喫茶に訪れた。
「お帰りなさいませ王子様、お嬢様方。相変わらずお熱いようで」
「あはは……」
アンネにべったりと寄り付かれ腕まで組まれているリオン、そしてエビルだ。
とりあえず三人を席まで案内するとリオンが口を開く。
「そういえばもうすぐミクルーアが来るよ」
「そうか」
特に反応することなくレンヤは仕事を続けていたが、心なしかその足取りは軽かった。
※※※
学園の正門前にて、人の目を集めている四人組がいた。
「ふぁぁ……凄い盛り上がりです!」
「活気がありますね」
「ひ、人が多い……」
「セリアは相変わらずですねぇ」
この国の皇女であるシルフィーナ、そしてアリシアを抜いた超越者の女子勢だ。
制服を着たサクヤが案内役兼護衛をしているその集団は誰もが目を引く美しさを持っている。
そんな注目の視線に気付いているかは分からないが、ある場所を目指して足を進めていく。
「レン兄に早く会いたいです!」
「ふふ、そうですね」
目を輝かせる妹のような少女の姿に微笑ましくなり、ミクルーアは優しく頭を撫でるのだった。
ちなみにアリシアは先に並んで人数分の整理券を確保していた。
※※※
リオン達が来てから数分後、廊下がざわつき始めていた。どこからともなくシルフィーナ様という声が聞こえてくる。
そして入って来たのは五人の女性。
「お帰りなさいませお嬢様方」
「あ、レン兄です!」
タタタタと駆け寄りレンヤの胸にぽふんとおさまる。当然周りの客は何事かと見てくるが、シルフィーナは幸せそうに頬を緩めている。
「来ちゃいました」
「いらっしゃい、ミア」
学園に通い始めてから一緒にいる時間が減ったからか、自然と見つめ合い二人だけの世界に入りつつあった。
「あの……案内を……」
「いいのよセリア、こうなるとしばらく戻ってこないから。メル! 案内お願い!」
「うちの者がすいません……」
まるで息子の不手際を謝る親のようなメルがレンヤの代わりに席へと案内する。案内された隣の席にはリオン達がいた。
「リオンじゃないですか、お熱いことで」
「やあサクヤ。さっき同じことをレンヤにも言われたよ」
「エビル、こんなところで奇遇ね」
「それはおかしいっす! リオン先輩に自分を押し付けたのはアリシアちゃんのはずっすよ!」
「そうだったかしら?」
「そろそろ何か頼んだ方が……」
セリアの一言で会話を中断しメニューに目を通し始める。その間にちゃっかりとシルフィーナとミクルーアが戻ってくる。
そしてシルフィーナは一つの商品名が目に留まった。
「メル様、この本日限定特別メニューとはなんですか?」
「め、メル様……ごほん。特別メニューは当店一の腕前を持った者によって出される料理です。担当はレンヤとなっています」
「レン兄が! ミア姉、これにしましょう!」
「そうですね、では紅茶とこれを……」
同じテーブルの人に目を向け確認を取る。頷きが返ってくるので全員同じにするようだ。
「五つお願いします」
「かしこまりました。レンヤ! 特別メニュー五人前お願い!」
「あいよ。……めんどくさ」
「ミクルーアも食べるのよ?」
「すぐ用意してくる」
目にもとまらぬ速さでレンヤが去っていく。すると一分もしないうちに戻って来た。
「こちら、本日限定メニューのフルーツタルトでございます」
出されたのはフルーツがこれでもかと盛り付けられたタルトだ。見た目はプロ顔負けの綺麗さ。
レンヤはミクルーアに差し出したタルトに自らフォークを差し込み一口大の大きさにする。そしてフォークを刺し、口元へと持っていく。いわゆるあーんだ。
「お嬢様、口をお開けください」
「……はい」
やや遠慮気味に口を開くと入ってくるタルト。口にするとサクッとした食感とフルーツの瑞々さ、しつこすぎない甘さが口いっぱいに広がる。見た目もさることながら味も完璧だ。
「美味しいです」
「ありがとうございます」
薄らと頬を染めながらも微笑むミクルーアに、レンヤも微笑みを返す。再び漂う甘い雰囲気。この夫婦は場所など関係なくイチャつくようだ。
「レン兄! 私にもお願いします!」
「はいはい、ほらよ」
「あーん……ふむふむ、美味しいです!」
「そりゃどうも」
執事らしからぬ態度ではあるがシルフィーナは満足そうだ。
「レンヤ、私にもお願いね?」
「私にもお願いします」
「……かしこまりました」
仮にも今は執事であるため、普段なら断るお願いも断れない。アリシア、サクヤ、ちゃっかりと混ざっていたセリアにも食べさせていく。
女性陣は大満足、レンヤはお疲れの中で緩やかに時間は過ぎていこうとしたが――――
「やめてください!」
「いいじゃねぇかよ、なぁ?」
女の拒否の声。そちらに目をやるとメイドの腕を掴む柄の悪そうな男がいた。どのような状況か一目でも分かる
「メイドはご主人様の言うことは聞かねぇとなぁ」
「ひっ……」
卑しい顔をしながら強引に引っ張ろうとする男。だが次の瞬間には男は体ごと宙に浮いていた。
「離れろ、この下衆が」
「ぐっ、がはっ……」
レンヤが片手で男の首を掴み持ち上げていた。
「さっさと消えろ」
睨みを利かせた後に手を離す。男は躓きそうになりながらも出ていった。
恐怖からか、ぺたんと座り込んでしまっていたメイドにレンヤは手を差し伸べ、立たせる。
「大丈夫だったか?」
「う、うん……」
「掴まれたところは?」
「少し痛みはあるけど、大丈夫だよ? ありがとう」
「そうか」
それだけを確認するとレンヤはミクルーア達の所へと戻る。助けた少女の熱い視線には気付かずに。
「うわ、また一人レンヤのファンが出来たわね」
「無自覚なのがタチ悪いですよねぇ」
「格好良いなぁ……」
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