最強の元王子様は怠惰に過ごしたい?
可愛い依頼
「なにこれ……」
指令部にたった一人残されたメルはそう呟いた。
レンヤがミクルーアの元に向かうと部屋を出ていってからメルはモニターで戦況を監視していた。自分自身は入るとは言ってないが『機関』のメンバーに加えられてしまったし、何もせずぼーっとしてるのも違うと思ったので監視していたわけだ。そして『超越者』の戦いとも呼べるのか怪しいものを見て思う。
――――恐ろしい。
魔法を使用するには魔力がいる。それは強力な魔法ほど大量に必要となり、使い切ると意識を失う。では底をつくギリギリまでなら消費しても大丈夫なのではないかというとそうではない。魔力は体を構成しているものの一つであり、当たり前にあるはずのそれが減るのだから体にも異変が起こり始める。といっても体が少し重く感じるようになるといった程度のものだが。
しかしそれは戦闘においては命の危機へと繋がる。だからこそ個々人においては自身の魔力量をきちんと把握して魔法を扱う。
そしてリオンやサクヤ、アリシアやセリアが使ったような高威力、広範囲の魔法は大量の魔力を要するはずだ。魔法に特化した兵でも一発撃ったら即気絶のような魔法。それを撃ったにも関わらずケロッとしている彼等。
これだけでも有り得ないようなことだが、まだ他にも驚くべきことはあった。
それは無詠唱だということ。本来なら魔法を使う際には詠唱が必要となるがそれを彼等は行わなかった。 
しかし今の時代、無詠唱はそこまで珍しい事ではない。
戦闘中に詠唱するのは相手の攻めに対処しながらでは難しすぎる。必然的に前衛に出る者達は魔法を使わなくなり、後衛に魔法専門の者を配置して戦うというのが一昔前の主流だった。しかし魔法はやはり強力であり、どうにかして前衛の者も使えるようにはなれないかと研究が進められた。
そしてついに新しい技術が開発された。本当に偶然の発見だった。手当り次第に探したのは魔法の発動を補助してくれる媒介になるもの。それを武器などに付けておくことで無詠唱で使えるようになるのではと考えた。
そして見つけたのが一見ただの綺麗な宝石。これがなんと魔力を吸い取る性質を持っていた。自身の魔力を流し込み、その宝石を手に魔法名だけを口にするとその魔法が発動した。さらに研究を進めると宝石の色によって吸い取れる魔力が異なっていることも判明した。今ではその宝石、『魔唱石』という安直な名前が付けられたそれを武器に取り付けることで簡単に魔法を使えるようになった。宝石の色を見ることで相手がどの属性の使用者かも分かるようになった。
なので無詠唱は珍しくないことだ。しかしレンヤ達は『魔唱石』の取り付けられた武器を持っていなかった。
――――これが精霊王と契約せし者。
バカスカと強大な魔法を連発出来るのだ。単騎で一国を滅ぼせるという噂も嘘ではないように思える。
そして何よりも思うこと。
――――自分はそんな化物達の仲間なんだ。
理由は教えてくれなかったが、その化物達のトップの妻にならないかと誘われているのだ。たった数日の間に変わりすぎた日常に頭が痛くなってくる。
頭痛に悩まされているとポケットに入れていた携帯端末が震えた。確認するとレンヤから喫茶ラスクへ集合という連絡が来ている。
重い足取りでメルは集合場所へ向かった。
超越者の溜まり場になっている喫茶ラスクの二階にて緊急会議が行われていた。
「リオン、流石にやりすぎだ」
「そうかな?」
「魔法だけなら使い捨ての魔道具を使ったとでも言っておけばいいが、姿を見せればあいつは誰だとなるのは当然だろ? やったことがやったことだしな」
「反省してるよ。護衛人形《ガーディアン》は出来なかったしレンヤには怒られるし、今日は散々だね」
レンヤがリオンに上司らしいことをしている姿は新鮮に感じるが、それよりも気になる事がメルにはあった。
「セリア様、あれから進展はありましたか?」
「うぅ……ないです……」
「それでは駄目です! もっと積極的に行かないとレン兄は振り向いてはくれませんよ!」
「シルフィ、無理強いは駄目ですよ」
「あ、ごめんなさいミア姉」
なぜか第一皇女がそこにいる。幻覚かと思い瞬きを幾度か繰り返すが変化は起きない。
「なに変顔してるのよ」
「いやだってシルフィーナ様がそこに……」
「メルは知らなかったようですね」
アリシアとサクヤの説明によるとシルフィーナは超越者と交流があり、中でもレンヤとミクルーアには妹のように懐いている。更にはレンヤに対しては惚れている。あの男、モテモテである。
それにしても皇女様を射止めるとはあの男は何をしたのだろうか?
「レンヤは女の子にモテるからね」
「おい、変なことを言うな」
説教終わりの二人が会話に加わる。
「この前だってこんなことがあってね――」
※※※
超越者の女子達は頻繁に女子会なるものを開いている。なんでも女の子同士でしか話せないようなことを打ち明けることで仲を深めるのが目的だという建前はあるが、ぶっちゃけ異性の目を気にせずはしゃぎたいだけだろう。
そしてリオンの「僕達も男子会でもしてみようか」という提案により残った男二人も男子会を開くことになった。
男子会の定番パターンは適当に選んだ飯屋で食事しながら雑談をするだけ。リオンが話を振りレンヤが適当に答えるのだ。
今回も適当な場所を選び集合した。席につき注文を済ませ品が来るのを待っていた時のことだった。
「まだ飯は出てこねぇのか!」
「すいません、すぐにお出ししますからお待ちください!」
声を荒らげる強面の男にぺこぺこと頭を下げる給仕の女の子。
「こっちは急いでんだよ! さっさとしろ!」
「すいません! すいません!」
ひたすら謝る女の子を見て男はニヤニヤとしている。
「イチャモンつけて悦に浸りたいだけの矮小な男だねあれは。どうする?」
「……仕方ないな」
レンヤは立ち上がると女の子と男の間に割り込む。
「少しいいか? こいつは謝ってるんだし許してやれよ」
「あ? 急にしゃしゃり出てきやがって、なんだテメェ」
「『フリーデン』だ。面倒臭いからさっさと消えろ」
ちゃっかりと『フリーデン』の名を出す。こうすれば後処理は丸投げできるからだ。
「女を助けて正義のヒーロー気取りってか? 俺はそういうのが一番嫌いなんだよ……なっ!」
言い切ると同時に男の拳が飛んでくる。しかしレンヤにとってはあまりにも非力で遅すぎる。
手で簡単に拳を受け止め、そしてそのまま握り潰すように力を込める。
「消えろって言ったのが聞こえなかったのか?」
「あああ!! わ、分かった! 消えるから手を離してあだだだだ!!」
「ふんっ」
望み通りにすると男はふらふらと店を出ていった。出る際に出口近くにあったテーブルを蹴飛ばして壊していってしまう。
男がいなくなると緊張の糸が切れたのか給仕の女の子はぺたんと座り込んでしまう。レンヤは手を差し出す。
「大丈夫か?」
「は、はい」
レンヤの手を取り立ち上がる。女の子の頬が少し色づいているようにも見える。
「これは騒がせた詫びだ」
「え……」
レンヤはそっと金を握らせる。
「こ、これは頂けません!」
「いいんだ。先程の騒ぎで何人か店を出ていったようだしな。その分の詫びだ。それでも納得しないんだったら俺達の料理を多少豪華にしてくれればいい」
「あ、ありがとうございます!」
礼を聞くとレンヤは席に戻った。
「お疲れ様」
「労る気持ちがあるなら今度の仕事変わってくれ」
「僕とレンヤでは方向性が違うから無理だね」
レンヤは軽いため息をついた。
※※※
「ピンチを救ってくれた。しかもイケメンで『フリーデン』という優良企業に務めてる。性格も良し。確かに普通の女の子だったら惚れてもおかしくないですね」
「あの後ずっとレンヤに熱い視線を送ってたからね」
「レンヤって無自覚たらしよね。たちが悪いわ」
「お前らも充分たちが悪いぞ」
「「「どこが?」」」
「そういうところだよ……」
リオンが過去の話を語り始めた頃からひしひしとミクルーアの視線をレンヤは感じていた。嫉妬しているのかは分からないが、居心地はすこぶる悪い。
リオン達もわざとミクルーアに聞こえるように話している。
メルは同情半分、嫉妬半分のなんとも言えない気持ちになっていた。
「レン兄の話ですか!」
「ああ、お前はあいつらに似ないでくれよ」
「? 分かりました!」
目を輝かせているシルフィーナを見てレンヤの心が癒される。褒めるように頭を優しく撫でるともっとと頭を擦り付けてくる。このまま純真に育って欲しいものだ。
ついでとばかりにメルの紹介を済ませる。姫を前に緊張で硬くなっているのが笑いを引き起こす。
「ところで何故シルフィーナ様が?」
「そういえば連絡無しで来てたな。何の用だ?」
「そうです! 仕事の依頼を持ってきました!」
レンヤは露骨に嫌そうな顔をする。これで他国へのお使いだったりしたら身を隠そうとさえ思える。
「学園祭? なるものに私を連れて行って欲しいのです!」
なんとも可愛らしいお願いだった。
指令部にたった一人残されたメルはそう呟いた。
レンヤがミクルーアの元に向かうと部屋を出ていってからメルはモニターで戦況を監視していた。自分自身は入るとは言ってないが『機関』のメンバーに加えられてしまったし、何もせずぼーっとしてるのも違うと思ったので監視していたわけだ。そして『超越者』の戦いとも呼べるのか怪しいものを見て思う。
――――恐ろしい。
魔法を使用するには魔力がいる。それは強力な魔法ほど大量に必要となり、使い切ると意識を失う。では底をつくギリギリまでなら消費しても大丈夫なのではないかというとそうではない。魔力は体を構成しているものの一つであり、当たり前にあるはずのそれが減るのだから体にも異変が起こり始める。といっても体が少し重く感じるようになるといった程度のものだが。
しかしそれは戦闘においては命の危機へと繋がる。だからこそ個々人においては自身の魔力量をきちんと把握して魔法を扱う。
そしてリオンやサクヤ、アリシアやセリアが使ったような高威力、広範囲の魔法は大量の魔力を要するはずだ。魔法に特化した兵でも一発撃ったら即気絶のような魔法。それを撃ったにも関わらずケロッとしている彼等。
これだけでも有り得ないようなことだが、まだ他にも驚くべきことはあった。
それは無詠唱だということ。本来なら魔法を使う際には詠唱が必要となるがそれを彼等は行わなかった。 
しかし今の時代、無詠唱はそこまで珍しい事ではない。
戦闘中に詠唱するのは相手の攻めに対処しながらでは難しすぎる。必然的に前衛に出る者達は魔法を使わなくなり、後衛に魔法専門の者を配置して戦うというのが一昔前の主流だった。しかし魔法はやはり強力であり、どうにかして前衛の者も使えるようにはなれないかと研究が進められた。
そしてついに新しい技術が開発された。本当に偶然の発見だった。手当り次第に探したのは魔法の発動を補助してくれる媒介になるもの。それを武器などに付けておくことで無詠唱で使えるようになるのではと考えた。
そして見つけたのが一見ただの綺麗な宝石。これがなんと魔力を吸い取る性質を持っていた。自身の魔力を流し込み、その宝石を手に魔法名だけを口にするとその魔法が発動した。さらに研究を進めると宝石の色によって吸い取れる魔力が異なっていることも判明した。今ではその宝石、『魔唱石』という安直な名前が付けられたそれを武器に取り付けることで簡単に魔法を使えるようになった。宝石の色を見ることで相手がどの属性の使用者かも分かるようになった。
なので無詠唱は珍しくないことだ。しかしレンヤ達は『魔唱石』の取り付けられた武器を持っていなかった。
――――これが精霊王と契約せし者。
バカスカと強大な魔法を連発出来るのだ。単騎で一国を滅ぼせるという噂も嘘ではないように思える。
そして何よりも思うこと。
――――自分はそんな化物達の仲間なんだ。
理由は教えてくれなかったが、その化物達のトップの妻にならないかと誘われているのだ。たった数日の間に変わりすぎた日常に頭が痛くなってくる。
頭痛に悩まされているとポケットに入れていた携帯端末が震えた。確認するとレンヤから喫茶ラスクへ集合という連絡が来ている。
重い足取りでメルは集合場所へ向かった。
超越者の溜まり場になっている喫茶ラスクの二階にて緊急会議が行われていた。
「リオン、流石にやりすぎだ」
「そうかな?」
「魔法だけなら使い捨ての魔道具を使ったとでも言っておけばいいが、姿を見せればあいつは誰だとなるのは当然だろ? やったことがやったことだしな」
「反省してるよ。護衛人形《ガーディアン》は出来なかったしレンヤには怒られるし、今日は散々だね」
レンヤがリオンに上司らしいことをしている姿は新鮮に感じるが、それよりも気になる事がメルにはあった。
「セリア様、あれから進展はありましたか?」
「うぅ……ないです……」
「それでは駄目です! もっと積極的に行かないとレン兄は振り向いてはくれませんよ!」
「シルフィ、無理強いは駄目ですよ」
「あ、ごめんなさいミア姉」
なぜか第一皇女がそこにいる。幻覚かと思い瞬きを幾度か繰り返すが変化は起きない。
「なに変顔してるのよ」
「いやだってシルフィーナ様がそこに……」
「メルは知らなかったようですね」
アリシアとサクヤの説明によるとシルフィーナは超越者と交流があり、中でもレンヤとミクルーアには妹のように懐いている。更にはレンヤに対しては惚れている。あの男、モテモテである。
それにしても皇女様を射止めるとはあの男は何をしたのだろうか?
「レンヤは女の子にモテるからね」
「おい、変なことを言うな」
説教終わりの二人が会話に加わる。
「この前だってこんなことがあってね――」
※※※
超越者の女子達は頻繁に女子会なるものを開いている。なんでも女の子同士でしか話せないようなことを打ち明けることで仲を深めるのが目的だという建前はあるが、ぶっちゃけ異性の目を気にせずはしゃぎたいだけだろう。
そしてリオンの「僕達も男子会でもしてみようか」という提案により残った男二人も男子会を開くことになった。
男子会の定番パターンは適当に選んだ飯屋で食事しながら雑談をするだけ。リオンが話を振りレンヤが適当に答えるのだ。
今回も適当な場所を選び集合した。席につき注文を済ませ品が来るのを待っていた時のことだった。
「まだ飯は出てこねぇのか!」
「すいません、すぐにお出ししますからお待ちください!」
声を荒らげる強面の男にぺこぺこと頭を下げる給仕の女の子。
「こっちは急いでんだよ! さっさとしろ!」
「すいません! すいません!」
ひたすら謝る女の子を見て男はニヤニヤとしている。
「イチャモンつけて悦に浸りたいだけの矮小な男だねあれは。どうする?」
「……仕方ないな」
レンヤは立ち上がると女の子と男の間に割り込む。
「少しいいか? こいつは謝ってるんだし許してやれよ」
「あ? 急にしゃしゃり出てきやがって、なんだテメェ」
「『フリーデン』だ。面倒臭いからさっさと消えろ」
ちゃっかりと『フリーデン』の名を出す。こうすれば後処理は丸投げできるからだ。
「女を助けて正義のヒーロー気取りってか? 俺はそういうのが一番嫌いなんだよ……なっ!」
言い切ると同時に男の拳が飛んでくる。しかしレンヤにとってはあまりにも非力で遅すぎる。
手で簡単に拳を受け止め、そしてそのまま握り潰すように力を込める。
「消えろって言ったのが聞こえなかったのか?」
「あああ!! わ、分かった! 消えるから手を離してあだだだだ!!」
「ふんっ」
望み通りにすると男はふらふらと店を出ていった。出る際に出口近くにあったテーブルを蹴飛ばして壊していってしまう。
男がいなくなると緊張の糸が切れたのか給仕の女の子はぺたんと座り込んでしまう。レンヤは手を差し出す。
「大丈夫か?」
「は、はい」
レンヤの手を取り立ち上がる。女の子の頬が少し色づいているようにも見える。
「これは騒がせた詫びだ」
「え……」
レンヤはそっと金を握らせる。
「こ、これは頂けません!」
「いいんだ。先程の騒ぎで何人か店を出ていったようだしな。その分の詫びだ。それでも納得しないんだったら俺達の料理を多少豪華にしてくれればいい」
「あ、ありがとうございます!」
礼を聞くとレンヤは席に戻った。
「お疲れ様」
「労る気持ちがあるなら今度の仕事変わってくれ」
「僕とレンヤでは方向性が違うから無理だね」
レンヤは軽いため息をついた。
※※※
「ピンチを救ってくれた。しかもイケメンで『フリーデン』という優良企業に務めてる。性格も良し。確かに普通の女の子だったら惚れてもおかしくないですね」
「あの後ずっとレンヤに熱い視線を送ってたからね」
「レンヤって無自覚たらしよね。たちが悪いわ」
「お前らも充分たちが悪いぞ」
「「「どこが?」」」
「そういうところだよ……」
リオンが過去の話を語り始めた頃からひしひしとミクルーアの視線をレンヤは感じていた。嫉妬しているのかは分からないが、居心地はすこぶる悪い。
リオン達もわざとミクルーアに聞こえるように話している。
メルは同情半分、嫉妬半分のなんとも言えない気持ちになっていた。
「レン兄の話ですか!」
「ああ、お前はあいつらに似ないでくれよ」
「? 分かりました!」
目を輝かせているシルフィーナを見てレンヤの心が癒される。褒めるように頭を優しく撫でるともっとと頭を擦り付けてくる。このまま純真に育って欲しいものだ。
ついでとばかりにメルの紹介を済ませる。姫を前に緊張で硬くなっているのが笑いを引き起こす。
「ところで何故シルフィーナ様が?」
「そういえば連絡無しで来てたな。何の用だ?」
「そうです! 仕事の依頼を持ってきました!」
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