最強の元王子様は怠惰に過ごしたい?

若鷺(わかさぎ)

早速の面倒事

 どうにか復活したレンヤはアリシアと空き教室へと移動して話を聞いた。何を誤解したのか服を脱ごうとしたアリシアを制止させ尋問する。そして聞き出した内容を頭の中で整理した。

 ・アリシアが学園に入ったのはレンヤと一緒にいたかったから(姐さんも了承済み)
 ・ロゼッタを送り込んだのはアリシア
 ・ロゼッタを送り込んだ理由は決闘の際に賭けを持ち掛け、レンヤを手に入れる為
 ・ロゼッタの戦闘科での順位は十位
 ・アリシアは1-Aに所属しているのでいつでも会いに来ていい
 ・アリシアは学園の寮の一人部屋に住んでいるのでいつでも夜這いしに来ていい

 といった感じであった。

 ーーーー後半は要らないだろこれ。

 ちなみにレンヤはロゼッタに勝ちはしたものの、科が違うので順位を貰うということは無かった。とにかくアリシアは決闘を使った賭けによってレンヤを手に入れようとしたようだ。そしてたまたま扱いやすそうだったのがロゼッタだったのであろう。
 レンヤはふと思ったことを口にした。

「どうして俺にこだわる」
「だって癪じゃない? ここまで私になびかない男なんてほとんどいないのよ?」
「リオンがいるだろう」
「リオンは別。そもそもあいつは年上好きだし」
「いい加減コーデリアさんもリオンの求愛に気付いてくれるといいんだがな」
「全くね。そういえば……」

 なぜか話は逸れ始め、雑談が進んでいく。内容はほぼ仕事に関する愚痴であり、まるで残業をこなした後のサラリーマンのようである。
 しばらくすると昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り響いた。

「もうこんな時間なのね。私は戻るわ、それじゃ」
「ああ、退学するなら早めにな」
「お互いにね」

 軽い皮肉を言い合い、アリシアは部屋を出ようとしたが足を止めて振り返った。

「そうそう、最近『亡国の騎士』っていう胡散臭い連中が動き出したみたいだから気を付けなさい」
「あっそ」

 そして二人は教室へと戻った。





 午後の授業が始まった。いわゆる歴史の授業であり、担当はコーデリアだ。

「それじゃこれの説明を……レンヤ。……おいメル、レンヤを起こせ」
「ちょっとレンヤ、当てられてるわよ」
「………ふぁ……あぁ?」

 気持ちよく寝ていたところを起こされ、元凶であるコーデリアへ鋭い視線を送るが特に効きはしなかったようだ。

「ほら問題に答えろ。約八年ほど前にこのヴェンダル帝国と友好関係にあったが、他国の攻撃により惜しくも滅びてしまった国の名前だ」

 何の因果か、その問題がレンヤにぶつけられる。お互いに一定の信用を得るために、『機関』のメンバーは個人的な情報を仲間に公開している。当然コーデリアもレンヤの過去については知っている。
 よく見るとコーデリアの顔がにやけている。確信犯のようだ。

「……アルフォンス王国」
「正解だ! そのまま次の問題だ。アルフォンス王国の王族の血を引き継いだ者にのみ発現する能力は何と呼ばれている?」
「『異能』」
「その通り! それではその『異能』について話すが――」

 『異能』とはコーデリアが言った通り、アルフォンス王国の王族の血を持つものにのみ発現する能力で、常時発動型と任意発動型がある。人によって違いがあり、例としては「一定時間身体能力が五割増加」や「魔法を使う際の消費魔力が激減」といったものだ。当然レンヤも『異能』を持っている。

 そして魔法。
 この世界には魔法が存在している。体内に循環している魔力を用いて発動するもので、大雑把に分けて火、水、風、土、雷、氷、光、闇、無の計九種類の属性がある。人によって扱える属性は異なる。使う際には詠唱が必要となるが、この世界においては武器に予め魔法を付与――ストックしておくことで、魔法名を唱えるのみで発動できるような技術が生み出されている。

 さらに魔法の発動の補助をしてもらうために精霊と契約する者もいる。それぞれの属性の力を宿した精霊は位が決められており、上位になる程強力になる。各属性毎の中で位が一番上である精霊王と契約した者は単騎で一国を滅ぼせるほどになるという。
 しかし精霊の性格はかなり気まぐれであり、更には見える人がほとんどいないので契約することは生半可なことではない。

 その後もコーデリアの授業は続いたが、レンヤは再び眠りに入り、周りから呆れた目で見られていた。
 そして授業が終わり休み時間となる。

「レンヤって案外勉強も出来るんだ」
「案外とはなんだ、案外とは」
「自分の授業態度を思い出して」

 休み時間になると、基本的には隣の席になったメルとの会話が主になっている。メルはギルの妹ということは関係しているのかは定かではないが、積極的に話しかけてくる。

「寝れる時に寝とく、それが俺のルールだ」
「授業は寝れる時に含まれないでしょ……」
「お、なんだなんだ? 何の話してるんだ?」
「兄さんは関係ないから」

 レンヤの前の席であるギルが会話に入ってくるが、メルがすぐに突っぱねた。心なしか彼女は拗ねたように見える。それに兄であるギルが気付くのは当然の事であろうか。

「折角レンヤと話してるのに邪魔するなってか? おいおい、こいつには嫁がいるんだぞ」
「別にそんなんじゃない!」
「一夫多妻が許されてるとはいえ、新婚ほやほやだぞ?」
「兄さん!」

 楽しそうに笑うギルと顔を真っ赤にしているメル。ギルは両手を挙げて降参の意を示しながらその場を離れた。

 実際のところ、メルは少しではあるがレンヤの事が気になっていた。顔は整っている。性格は面倒臭がり。これだけ聞くと何とも言えない感じではあるが、昨日の歓迎パーティーでミクルーアが楽しそうに、そして幸せそうにレンヤについて話しているのを見て羨望を感じた。
 兄とルリスがいちゃつくところは散々見てきたが、レンヤとミクルーアは本当に心の底から繋がっている。兄とルリスが普通のカップルであるとするならば、あの二人はもっと深い底知れぬ何かがある。まだ年頃の女の子だからか、そのような関係に憧れを抱いていた。固く結ばれた離れることのないような運命のような関係に。

 メルはすることが無くなりぼんやりとしていた、その時。

 バン!と教室のドアが開かれ、軍服のような服を着た男が二人入って来た。腰には剣を携えている。

 突然のことに教室内は騒然となっていた。レンヤだけは目を閉じて再び眠りにつこうとしていたが。

 教室の前後の扉の前に男達が立ったことで脱出することが不可能となったとき、学内放送の開始を知らせる音が響いた。

 《あー、あー。よし。この学園は我ら『亡国の騎士』が乗っ取った! 命が惜しければ我々が今から提示する要求を呑んでもらう!》

 どうやらアリシアが言っていた胡散臭い連中とやらに学園を占領されてしまったようだ。放送を聞いた生徒たちは事態を把握し、怯えの表情を見せていた。

 ーーーーま、なるようになるだろ

 一方レンヤは特には動揺してはいなかった。自分が動く必要性は無いので、ただ傍観に徹すればいいと判断した。
 この学園には将来有望な戦闘科の生徒もいれば、その教師もいる。更に貴族の子もそこにはいるので緊急事態に備えて騎士団に連絡する手段をちゃんと持っているであろうからだ。要するに、自分が出る幕ではない。そこにはただ単に面倒臭いという気持ちも含まれてはいるのだが。
 自分が関係していることならともかく、これは学園側の責任問題だ。

 《我々は今は亡き国、アルフォンス王国の王子がこの学園に通っているとの情報を手に入れた。その者を差し出せば全員を解放すると誓おう!》

 レンヤは気だるげに立ち上がった。

 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品