最強の元王子様は怠惰に過ごしたい?
星空の下で
孤児院で行われたレンヤの歓迎パーティー兼ジーナの帰還祝いパーティーは大きな盛り上がりを見せた。
ギルが酒を飲んで上機嫌になり、裸になろうとしたのをルリスに止められた。
孤児院の女の子達がやたらとクートに懐き、それを見たジーナが拗ねた。
それらを眺めながらミクルーアとメルは談笑していた。
ミクルーアとレンヤが出した料理が絶品であった為、メルとルリスが闘争心を燃やした。
最終的には王様ゲームをすることになり、その提案者でもあったギルが指名されまくったことで大変なことになっていた。
他にも色々なことがあったが、どれもがレンヤにとっては新鮮だった。
『機関』のメンバーともたまにこのようなことはするが、そこにはどこか堅苦しいものがあった。
しかし今この瞬間に行われているものは違う。ただ好きなように、気兼ねなく過ごせる。自由に食べ、自由に飲み、騒ぐ。
何よりも違ったのが友達という存在がいること。
レンヤはふと思う。
――――少し前の俺だったらありえなかっただろうな)
この雰囲気、この状況が嫌というわけではない。ただ慣れていないだけ。
慣れる時が来れば、それはきっと青春を謳歌していると言えるようになるのだろう。
暗殺者でもなんでもない、レンヤというただの一人の少年として。
しばらくしてパーティーはお開きとなった。
騒ぎすぎた反動から来た疲れのせいか、ギルとルリス、それにクートとジーナはテーブルに突っ伏すように寝てしまっている。
レンヤとミクルーア以外は学園の寮に住んでいるため門限が決められているが、まだ余裕はあるので当分はこのままでいるだろう。
レンヤは疲れてすっかり大人しくなった子供達を寝かすために寝室へと連れていった。
そしてミクルーアとメルは二人でキッチンにて皿洗いをしていた。特に会話は無く、蛇口から流れる水の音と食器同士が当たった際の音が小さく響いている。
「そういえば、レンヤって凄いね。なんで一般科に来たのか不思議」
静かな空気に耐えられなかったのか、メルが口を開いた。
「凄いって、何かあったんですか?」
不思議そうに首を傾げるミクルーアに、学園で起きた決闘について話した。
それを聞いたミクルーアは困ったような、それでいてどこか幸せそうな笑顔を浮かべた。
――――ああもう、レンヤくんは私を何回惚れ直させる気なんでしょうか
最愛の人が決闘を受けた理由が分かったからだ。レンヤの性格上、仕事はしっかりこなすためにも目立つ事は控えるはずだろう。でも家族、つまりは私達の為にそれを考えずに行動した。それがどうしようもなく嬉しかった。
だからといってメルに「それは愛の力です」などとは到底言えない。というか恥ずかしすぎて無理だ。
「まぁその人にはその人なりの理由があるもんね。それよりも……」
メルの目がキランと輝いたように見えた。こちらが本題と言わんばかりの様子だ。
「どうしてレンヤの事が好きになったの?」
「どうして、ですか……」
改めて考えてみても、ミクルーアには特に理由は思いつかなかった。
「気付いたら好きになってました」
「そうなの? なにかあったりしたんじゃないの?」
やはりそこは流石は女子と言うべきか、興味があるようでぐいぐいと聞いてくる。
確かになにかあったのではと聞かれれば、あったと答えられる出来事はいくつか存在する。でもそれは好きという気持ちが強くなるきっかけではあるが、好きになったきっかけではない。
本当に気付いたら好きになっていた。
元は王子と公爵家の令嬢という身分であり、婚約者という関係でもあった。しかしそれは政略的なものだ。だからといってレンヤの婚約者になるのが嫌だったかと聞かれればそうではない。本当に恋してしまったから。
一緒に遊ぶうちに、同じ時を過ごすうちに芽生えた気持ちだ。幼かった故にいつ芽生えたかは思い出せない。
だから答えは変わらない。
「気付いたら好きになっていたのは本当です。それからは、段々と好きの気持ちが強くなるばかりでした」
そう言って微笑むミクルーアの表情に、メルはげんなりとした。本当に幸せそうなその笑顔に、まるで惚気話を聞かされたのかような気分になった。自業自得だ。
「分かった。それ以上はいいから、ね?」
「そうですか?」
止めなければ本当にそのまま惚気話を聞かされていたであろう。メルはエスケープに成功した。
――――ミクルーアにレンヤのことを聞くのはやめよう。
一つ賢くなったメルだった。
すっかり外は暗くなり、ギル達は寮へと戻った。
レンヤは寝る準備を済ませると自室の、緊急時にすぐに飛び出せるように付けられた狭いバルコニーへと出て空を見上げる。
――――俺らしくないな
仕事の為に入った学園。淡々と素早く依頼を達成して学園を去り、暇な時間を謳歌するつもりだった。
そのはずだったのに、心のどこかではまだ学園にいたいという思いがあった。
今日のパーティーの影響なのか、ただ気が狂っただけなのか。理由は分からない。だけど期待をしてしまっている。自分は本当にこのままでいいのだろうか?
視界に広がっているのは雲一つない綺麗な星空。この空を見ていると、レンヤの心が自然と落ち着いていく。
「レンヤくん」 
「ミアか」
ぼーっと空を眺めていたレンヤの隣にミクルーアがやってきた。
「綺麗ですね」
ミクルーアは風に流されそうになる髪を片手で抑えながら呟く。その姿は儚げで、思わずレンヤは見惚れてしまった。
それに気付くことなく、ミクルーアは惚けてしまっているレンヤと手を繋ぎ指を絡ませた。そして目を合わせてきた。
「私に隠し事は通用しませんよ?」
「……そんなの無いぞ?」 
「まずは、レンヤくんが隠してる悩み事一つ目に対する答えです」
レンヤの否定を気にすることなく、ミクルーアは語り始める。
「私の事は気にしないでください。実は私も学園に通わないかと姐さんに誘われたんですよ? でも断ったんです」
それはなぜか。
「レンヤくんの帰る場所でいたいから」
『機関』に拾われる前、レンヤは自分のことを見捨てなかった。身体が弱かった自分の為にそれこそ何でもした。犯罪に手を染めた。
『機関』に拾われた後も自分と、そして子供達の為に身を粉にして働いてくれた。最近は落ち着きを見せているというか、だらけ始めているが。
いくら『機関』からの仕事とはいえ、人を殺すというのは精神面においてかなり辛いものがあるだろう。元は王子であり、ただの幼い子供だったのだから。最初は憔悴しきっていた。心が折れかけた時もあった。それでも孤児院に帰ってくるとレンヤは無理にでも笑顔を作ろうとする。
自分を安心させる為に。
そんなレンヤが学園に通うことになった。普通ではない日常を送ってきたレンヤにとってそれは、分からないことだらけの連続であろう。
時に悩み、時に憂い、時に協力し。
きっとこれまでになかった様々な経験をする。
だからこそ自分はレンヤの帰るべき場所になろうと思った。
例え何が起きても、あなたの帰る場所はある。何があっても受け入れる。受け止めてみせる。だから安心して自分の好きなように学園生活を送ってほしい。普通の日常を、青春を楽しんでほしい。
これがミクルーアの本心だ。
そしてレンヤも自分と同じようなことを考えているのだろうと予測した。
根は優しいレンヤのことだ。同年代であり、本来ならミクルーアも学園に通っているのが普通である。だからこそ、仕事とはいえレンヤだけが通うのは申し訳ないと思っていたのだろう。
その予測が当たっていたことは、レンヤの反応からすぐ分かった。
お互いを長い間見てきたからこそ、お互いを想いあってるからこそ分かること。
「そして二つ目です」
繋いでいた手を解き、今度はレンヤの手を両手で包み込む。
「レンヤくんの手は汚れてなんかいません。大きくて、温かくて、私が大好きな手です」
パーティー中のギル達の姿が、レンヤにはとても眩しく見えた。
勉学に励んだり、恋をしたり、たまにはぶつかり合ったり。その先には輝くような未来があるのだろう。希望があるのだろう。
その反面、レンヤは自分が別世界の住人であるということを再認識した。
レンヤの手は汚れている。それは今まで殺めてきた人の血で。騙してきた人の悔恨で。
仕事だから、生きる為だからと言い訳はしない。レンヤ自身が自ら背負った業だ。洗っても洗っても落ちることは無い。見た目は綺麗であっても、そこには見えない汚れがあった。
――――本当に皆の中に混ざってもいいのだろうか?この俺が?
最初に学園に入ると知った時は、知り合う人全員とどうせ浅い関係になると思っていた。時間が経てば忘れ去られるだろうと思っていた。
だが、今日のパーティーを通じて、どこか確信めいたものがあった。いつかレンヤの秘密を打ち明ける時が来るような、そんな確信が。
だからこそ、離れるなら早いほうがいいだろう。それこそ明日にでも。
「この手は確かに何人もの命を奪ってきました。そして、何人もの命を救ってきた、とても綺麗な手です。私の言葉が信じられませんか?」
――――ずるいだろ、それは。
最愛の人にそんなことを言われては、信じられないと答えられるはずがない。
それにも関わらず、心が軽くなったのを感じた。
――――適わないな
ニコニコとこちらを見ている嫁に、苦笑しながら降参だと告げる。全てはミクルーアにはお見通しなのだ。
「何度俺を惚れ直させるつもりだ、ミア?」
「こちらこそ、何度私を惚れ直させるつもりですか、レンヤくん?」
互いに見つめ合い、笑う。
その後二人で星空を眺めていたが、ミクルーアが寒さでぶるっと身を震わせた。
「そろそろ中に戻るか」
「そうですね。……あ、でもその前に」
ミクルーアが軽く背伸びをし、唇を触れ合わせてくる。
「私に隠し事をした罰です。後は何をすればいいか分かりますよね?」
弾んだ声で、そしてどこか期待したような熱に浮かされた目をしていた。
レンヤは衝動的にミクルーアを抱きかかえた。向かうは自室のベッド。レンヤの突然の行動に、ミクルーアは頬を染めつつも抵抗はしない。
二人の夜は、まだこれからだ。
ギルが酒を飲んで上機嫌になり、裸になろうとしたのをルリスに止められた。
孤児院の女の子達がやたらとクートに懐き、それを見たジーナが拗ねた。
それらを眺めながらミクルーアとメルは談笑していた。
ミクルーアとレンヤが出した料理が絶品であった為、メルとルリスが闘争心を燃やした。
最終的には王様ゲームをすることになり、その提案者でもあったギルが指名されまくったことで大変なことになっていた。
他にも色々なことがあったが、どれもがレンヤにとっては新鮮だった。
『機関』のメンバーともたまにこのようなことはするが、そこにはどこか堅苦しいものがあった。
しかし今この瞬間に行われているものは違う。ただ好きなように、気兼ねなく過ごせる。自由に食べ、自由に飲み、騒ぐ。
何よりも違ったのが友達という存在がいること。
レンヤはふと思う。
――――少し前の俺だったらありえなかっただろうな)
この雰囲気、この状況が嫌というわけではない。ただ慣れていないだけ。
慣れる時が来れば、それはきっと青春を謳歌していると言えるようになるのだろう。
暗殺者でもなんでもない、レンヤというただの一人の少年として。
しばらくしてパーティーはお開きとなった。
騒ぎすぎた反動から来た疲れのせいか、ギルとルリス、それにクートとジーナはテーブルに突っ伏すように寝てしまっている。
レンヤとミクルーア以外は学園の寮に住んでいるため門限が決められているが、まだ余裕はあるので当分はこのままでいるだろう。
レンヤは疲れてすっかり大人しくなった子供達を寝かすために寝室へと連れていった。
そしてミクルーアとメルは二人でキッチンにて皿洗いをしていた。特に会話は無く、蛇口から流れる水の音と食器同士が当たった際の音が小さく響いている。
「そういえば、レンヤって凄いね。なんで一般科に来たのか不思議」
静かな空気に耐えられなかったのか、メルが口を開いた。
「凄いって、何かあったんですか?」
不思議そうに首を傾げるミクルーアに、学園で起きた決闘について話した。
それを聞いたミクルーアは困ったような、それでいてどこか幸せそうな笑顔を浮かべた。
――――ああもう、レンヤくんは私を何回惚れ直させる気なんでしょうか
最愛の人が決闘を受けた理由が分かったからだ。レンヤの性格上、仕事はしっかりこなすためにも目立つ事は控えるはずだろう。でも家族、つまりは私達の為にそれを考えずに行動した。それがどうしようもなく嬉しかった。
だからといってメルに「それは愛の力です」などとは到底言えない。というか恥ずかしすぎて無理だ。
「まぁその人にはその人なりの理由があるもんね。それよりも……」
メルの目がキランと輝いたように見えた。こちらが本題と言わんばかりの様子だ。
「どうしてレンヤの事が好きになったの?」
「どうして、ですか……」
改めて考えてみても、ミクルーアには特に理由は思いつかなかった。
「気付いたら好きになってました」
「そうなの? なにかあったりしたんじゃないの?」
やはりそこは流石は女子と言うべきか、興味があるようでぐいぐいと聞いてくる。
確かになにかあったのではと聞かれれば、あったと答えられる出来事はいくつか存在する。でもそれは好きという気持ちが強くなるきっかけではあるが、好きになったきっかけではない。
本当に気付いたら好きになっていた。
元は王子と公爵家の令嬢という身分であり、婚約者という関係でもあった。しかしそれは政略的なものだ。だからといってレンヤの婚約者になるのが嫌だったかと聞かれればそうではない。本当に恋してしまったから。
一緒に遊ぶうちに、同じ時を過ごすうちに芽生えた気持ちだ。幼かった故にいつ芽生えたかは思い出せない。
だから答えは変わらない。
「気付いたら好きになっていたのは本当です。それからは、段々と好きの気持ちが強くなるばかりでした」
そう言って微笑むミクルーアの表情に、メルはげんなりとした。本当に幸せそうなその笑顔に、まるで惚気話を聞かされたのかような気分になった。自業自得だ。
「分かった。それ以上はいいから、ね?」
「そうですか?」
止めなければ本当にそのまま惚気話を聞かされていたであろう。メルはエスケープに成功した。
――――ミクルーアにレンヤのことを聞くのはやめよう。
一つ賢くなったメルだった。
すっかり外は暗くなり、ギル達は寮へと戻った。
レンヤは寝る準備を済ませると自室の、緊急時にすぐに飛び出せるように付けられた狭いバルコニーへと出て空を見上げる。
――――俺らしくないな
仕事の為に入った学園。淡々と素早く依頼を達成して学園を去り、暇な時間を謳歌するつもりだった。
そのはずだったのに、心のどこかではまだ学園にいたいという思いがあった。
今日のパーティーの影響なのか、ただ気が狂っただけなのか。理由は分からない。だけど期待をしてしまっている。自分は本当にこのままでいいのだろうか?
視界に広がっているのは雲一つない綺麗な星空。この空を見ていると、レンヤの心が自然と落ち着いていく。
「レンヤくん」 
「ミアか」
ぼーっと空を眺めていたレンヤの隣にミクルーアがやってきた。
「綺麗ですね」
ミクルーアは風に流されそうになる髪を片手で抑えながら呟く。その姿は儚げで、思わずレンヤは見惚れてしまった。
それに気付くことなく、ミクルーアは惚けてしまっているレンヤと手を繋ぎ指を絡ませた。そして目を合わせてきた。
「私に隠し事は通用しませんよ?」
「……そんなの無いぞ?」 
「まずは、レンヤくんが隠してる悩み事一つ目に対する答えです」
レンヤの否定を気にすることなく、ミクルーアは語り始める。
「私の事は気にしないでください。実は私も学園に通わないかと姐さんに誘われたんですよ? でも断ったんです」
それはなぜか。
「レンヤくんの帰る場所でいたいから」
『機関』に拾われる前、レンヤは自分のことを見捨てなかった。身体が弱かった自分の為にそれこそ何でもした。犯罪に手を染めた。
『機関』に拾われた後も自分と、そして子供達の為に身を粉にして働いてくれた。最近は落ち着きを見せているというか、だらけ始めているが。
いくら『機関』からの仕事とはいえ、人を殺すというのは精神面においてかなり辛いものがあるだろう。元は王子であり、ただの幼い子供だったのだから。最初は憔悴しきっていた。心が折れかけた時もあった。それでも孤児院に帰ってくるとレンヤは無理にでも笑顔を作ろうとする。
自分を安心させる為に。
そんなレンヤが学園に通うことになった。普通ではない日常を送ってきたレンヤにとってそれは、分からないことだらけの連続であろう。
時に悩み、時に憂い、時に協力し。
きっとこれまでになかった様々な経験をする。
だからこそ自分はレンヤの帰るべき場所になろうと思った。
例え何が起きても、あなたの帰る場所はある。何があっても受け入れる。受け止めてみせる。だから安心して自分の好きなように学園生活を送ってほしい。普通の日常を、青春を楽しんでほしい。
これがミクルーアの本心だ。
そしてレンヤも自分と同じようなことを考えているのだろうと予測した。
根は優しいレンヤのことだ。同年代であり、本来ならミクルーアも学園に通っているのが普通である。だからこそ、仕事とはいえレンヤだけが通うのは申し訳ないと思っていたのだろう。
その予測が当たっていたことは、レンヤの反応からすぐ分かった。
お互いを長い間見てきたからこそ、お互いを想いあってるからこそ分かること。
「そして二つ目です」
繋いでいた手を解き、今度はレンヤの手を両手で包み込む。
「レンヤくんの手は汚れてなんかいません。大きくて、温かくて、私が大好きな手です」
パーティー中のギル達の姿が、レンヤにはとても眩しく見えた。
勉学に励んだり、恋をしたり、たまにはぶつかり合ったり。その先には輝くような未来があるのだろう。希望があるのだろう。
その反面、レンヤは自分が別世界の住人であるということを再認識した。
レンヤの手は汚れている。それは今まで殺めてきた人の血で。騙してきた人の悔恨で。
仕事だから、生きる為だからと言い訳はしない。レンヤ自身が自ら背負った業だ。洗っても洗っても落ちることは無い。見た目は綺麗であっても、そこには見えない汚れがあった。
――――本当に皆の中に混ざってもいいのだろうか?この俺が?
最初に学園に入ると知った時は、知り合う人全員とどうせ浅い関係になると思っていた。時間が経てば忘れ去られるだろうと思っていた。
だが、今日のパーティーを通じて、どこか確信めいたものがあった。いつかレンヤの秘密を打ち明ける時が来るような、そんな確信が。
だからこそ、離れるなら早いほうがいいだろう。それこそ明日にでも。
「この手は確かに何人もの命を奪ってきました。そして、何人もの命を救ってきた、とても綺麗な手です。私の言葉が信じられませんか?」
――――ずるいだろ、それは。
最愛の人にそんなことを言われては、信じられないと答えられるはずがない。
それにも関わらず、心が軽くなったのを感じた。
――――適わないな
ニコニコとこちらを見ている嫁に、苦笑しながら降参だと告げる。全てはミクルーアにはお見通しなのだ。
「何度俺を惚れ直させるつもりだ、ミア?」
「こちらこそ、何度私を惚れ直させるつもりですか、レンヤくん?」
互いに見つめ合い、笑う。
その後二人で星空を眺めていたが、ミクルーアが寒さでぶるっと身を震わせた。
「そろそろ中に戻るか」
「そうですね。……あ、でもその前に」
ミクルーアが軽く背伸びをし、唇を触れ合わせてくる。
「私に隠し事をした罰です。後は何をすればいいか分かりますよね?」
弾んだ声で、そしてどこか期待したような熱に浮かされた目をしていた。
レンヤは衝動的にミクルーアを抱きかかえた。向かうは自室のベッド。レンヤの突然の行動に、ミクルーアは頬を染めつつも抵抗はしない。
二人の夜は、まだこれからだ。
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