最強の元王子様は怠惰に過ごしたい?
欲の少女
はぁぁぁ……と、かなり深い溜息を零しながらレンヤは振り返る。
「何の用だ、greed」
「その名前で呼ぶのはやめて、レンヤ」
苦い顔をする少女。
greedと呼ばれたことから分かるように、彼女はレンヤ達と同じく『機関』に所属している。見た目は背丈が低く、橙褐色のぱっちりとした瞳に深い青色の髪を片方に纏めて上げて垂らしている。
まるで小動物のようだ――そう思わせるような幼さを感じさせる彼女はまさに男なら守ってあげたくなるような、か弱い女の子であろう。
だが実際はそうではない。
「別にお前が何をしようが構わんが、街中で目立つような事はやめろ」
「しょうがないじゃない、もうお金が無いって言うんだから。もうちょっと貢がせられると思ったのに」
ちっ、と舌打ちをする少女。
この言動から察せられる通り、かなりあくどい性格をしている。
彼女が『機関』から主に任せられる仕事の内容は情報収集。
レンヤも時折受けることがある仕事ではあるが、彼女は自身の魅力を最大限発揮して行う。
重大な情報を持っているであろう者――男に近付きたぶらかす。そして引き出せるだけ情報を引き出した後はポイッ。それが彼女の仕事のスタイルだ。
そして、その行為はプライベートでも行われている。仕事でなくとも貢いでくれそうな男に近付くという行為を繰り返す彼女は機関内においても問題視されているが、本人は気にしていない。
「アリシアちゃん、あまり好き勝手してはいけませんよ?」
「分かってるわよミクルーア。私はおじさま方に素敵な夢を見せてあげてるだけ。それに――」
彼女、アリシアはレンヤの胸に飛び込んだ。あっ、とミクルーアは声を漏らす。
「私が興味あるのはあなただけ。レンヤだけなの……」
瞳を潤ませ、甘えるような猫なで声を出し上目遣いでアリシアはレンヤを見つめる。低い背に反して大きく実った二つの膨らみを押し付けるということも忘れていない。
男の理性を揺さぶり、劣情を誘い出すようなアリシアに、周りにいた野次馬の男連中の視線が強くなる
「離れろ。鬱陶しい」
しかしレンヤには通用しなかった。
アリシアの肩をぐいっと押し、離れさせる。
レンヤが落ち着いた対応を出来るのには、無駄な感情を排除する術を身につけているというのもあるが、一番の要因は過去にある。
前世において長年世話をしてくれた家政婦たち。転生した後に長年世話をしてくれた侍女。
どちらもレンヤは信じていたにも関わらず、最後には裏切られた。権力や自身の欲望の前では人はいとも容易くこちらを見捨てる。
だからこそレンヤは人を簡単に信頼したり、心を開いたりすることはない。
現在レンヤが心を開いているのはミクルーアと姐さんに孤児院の子供達、そして一応『機関』の者達となっている。
だがレンヤはあくまで姐さん以外の『機関』の者に関しては仕事仲間としてしか信頼はしていない。当然アリシアもその中に含まれているため特別な感情などは持っておらず、やましい気持ちを抱くことは無い。
さらに今のレンヤはミクルーアに夢中であり、なおさら他の女性に目を向けることは無いだろう。
「ぶー。折角レンヤの為に初めてだって取ってあるのにー」
「要らん。俺がそういうことをするのはミアだけだ」
「レンヤくん!?」
あざとく頬を膨らませ不満を漏らすアリシアに、レンヤがサラッと爆弾を投下する。突然の展開にミクルーアは戸惑いを隠せない。
「あら? もしかしてもしかした感じかしら?」
「ああそうだ。既に指輪も買った」
左手の指輪をアリシアに見せると、まるで鑑定するかのようにジロジロとそれを見つめてくる。
「ふーん、どうやら本当のようね。でも私は諦めないから」
そう宣言するアリシアの瞳から感じ取れるのは本気。レンヤは正直いい迷惑だとは思ったが、それを口にすると彼女がさらに突っかかってくるだろうと思い踏みとどまった。
アリシアが実際にレンヤのことを想っているかというと、実はそうではないと言える。なのになぜレンヤに拘るのか。
それは彼女のプライドが関係している。容姿に絶対的な自信を持っている彼女は、今まで積み上げてきた男を落とすテクニックを利用して、欲しいものはなんだって手に入れてきた。
彼女が頼み込めばどんな男も媚びるようにすぐに用意してくれる。そんな私に手に入らないものは無い。そんなことさえ思っていた。
だがそんな彼女のプライドを打ち崩す存在が現れた。
それがレンヤである。
どんなアピールをしてもレンヤは鬱陶しい、面倒臭い、自分でやれ、など果てには自分の言葉に耳を貸そうとすらしない。
だからこそ彼女は興味を示したのだ。いつか絶対にレンヤを手に入れてやると。ある意味彼女はレンヤに惹かれていると言ってもいいのかもしれない。
「ミクルーアも気を抜かない方がいいわよ。いつの間にか私がレンヤを奪っちゃうかもしれないから」
「! 駄目です!」
意味ありげに笑うアリシアに、ミクルーアは抗議の目を向ける。
そんなミクルーアを気にすることなく、またねレンヤと別れの言葉を残して去っていく。
レンヤはなぜか嫌な予感がしていたが、今は絶対に離さないとばかりに腕にに抱きついてきているミクルーアの相手をするのが最優先だと、安心させるように頭を優しく頭を撫でるのであった。
余談ではあるが、日付が変わる頃までミクルーアはほとんどレンヤから離れることは無かった。
※※※
レンヤ達と別れたアリシアはすぐさま通信機を起動した。
「姐さん、私も学園に通うから」
『緊急の通信かけてきて何を言ってるのかな~? アリシアちゃんには別の仕事があるでしょ~?』
「そんなの今はどうだっていいの。手続き、よろしくね」
『ちょっ、アリシアちゃ――』
姐さんの返事に興味はないとばかりに、通信を切ったアリシアはニヤリと口元を歪めた。
「レンヤ、あなたは絶対に私のモノにしてみせる」
「何の用だ、greed」
「その名前で呼ぶのはやめて、レンヤ」
苦い顔をする少女。
greedと呼ばれたことから分かるように、彼女はレンヤ達と同じく『機関』に所属している。見た目は背丈が低く、橙褐色のぱっちりとした瞳に深い青色の髪を片方に纏めて上げて垂らしている。
まるで小動物のようだ――そう思わせるような幼さを感じさせる彼女はまさに男なら守ってあげたくなるような、か弱い女の子であろう。
だが実際はそうではない。
「別にお前が何をしようが構わんが、街中で目立つような事はやめろ」
「しょうがないじゃない、もうお金が無いって言うんだから。もうちょっと貢がせられると思ったのに」
ちっ、と舌打ちをする少女。
この言動から察せられる通り、かなりあくどい性格をしている。
彼女が『機関』から主に任せられる仕事の内容は情報収集。
レンヤも時折受けることがある仕事ではあるが、彼女は自身の魅力を最大限発揮して行う。
重大な情報を持っているであろう者――男に近付きたぶらかす。そして引き出せるだけ情報を引き出した後はポイッ。それが彼女の仕事のスタイルだ。
そして、その行為はプライベートでも行われている。仕事でなくとも貢いでくれそうな男に近付くという行為を繰り返す彼女は機関内においても問題視されているが、本人は気にしていない。
「アリシアちゃん、あまり好き勝手してはいけませんよ?」
「分かってるわよミクルーア。私はおじさま方に素敵な夢を見せてあげてるだけ。それに――」
彼女、アリシアはレンヤの胸に飛び込んだ。あっ、とミクルーアは声を漏らす。
「私が興味あるのはあなただけ。レンヤだけなの……」
瞳を潤ませ、甘えるような猫なで声を出し上目遣いでアリシアはレンヤを見つめる。低い背に反して大きく実った二つの膨らみを押し付けるということも忘れていない。
男の理性を揺さぶり、劣情を誘い出すようなアリシアに、周りにいた野次馬の男連中の視線が強くなる
「離れろ。鬱陶しい」
しかしレンヤには通用しなかった。
アリシアの肩をぐいっと押し、離れさせる。
レンヤが落ち着いた対応を出来るのには、無駄な感情を排除する術を身につけているというのもあるが、一番の要因は過去にある。
前世において長年世話をしてくれた家政婦たち。転生した後に長年世話をしてくれた侍女。
どちらもレンヤは信じていたにも関わらず、最後には裏切られた。権力や自身の欲望の前では人はいとも容易くこちらを見捨てる。
だからこそレンヤは人を簡単に信頼したり、心を開いたりすることはない。
現在レンヤが心を開いているのはミクルーアと姐さんに孤児院の子供達、そして一応『機関』の者達となっている。
だがレンヤはあくまで姐さん以外の『機関』の者に関しては仕事仲間としてしか信頼はしていない。当然アリシアもその中に含まれているため特別な感情などは持っておらず、やましい気持ちを抱くことは無い。
さらに今のレンヤはミクルーアに夢中であり、なおさら他の女性に目を向けることは無いだろう。
「ぶー。折角レンヤの為に初めてだって取ってあるのにー」
「要らん。俺がそういうことをするのはミアだけだ」
「レンヤくん!?」
あざとく頬を膨らませ不満を漏らすアリシアに、レンヤがサラッと爆弾を投下する。突然の展開にミクルーアは戸惑いを隠せない。
「あら? もしかしてもしかした感じかしら?」
「ああそうだ。既に指輪も買った」
左手の指輪をアリシアに見せると、まるで鑑定するかのようにジロジロとそれを見つめてくる。
「ふーん、どうやら本当のようね。でも私は諦めないから」
そう宣言するアリシアの瞳から感じ取れるのは本気。レンヤは正直いい迷惑だとは思ったが、それを口にすると彼女がさらに突っかかってくるだろうと思い踏みとどまった。
アリシアが実際にレンヤのことを想っているかというと、実はそうではないと言える。なのになぜレンヤに拘るのか。
それは彼女のプライドが関係している。容姿に絶対的な自信を持っている彼女は、今まで積み上げてきた男を落とすテクニックを利用して、欲しいものはなんだって手に入れてきた。
彼女が頼み込めばどんな男も媚びるようにすぐに用意してくれる。そんな私に手に入らないものは無い。そんなことさえ思っていた。
だがそんな彼女のプライドを打ち崩す存在が現れた。
それがレンヤである。
どんなアピールをしてもレンヤは鬱陶しい、面倒臭い、自分でやれ、など果てには自分の言葉に耳を貸そうとすらしない。
だからこそ彼女は興味を示したのだ。いつか絶対にレンヤを手に入れてやると。ある意味彼女はレンヤに惹かれていると言ってもいいのかもしれない。
「ミクルーアも気を抜かない方がいいわよ。いつの間にか私がレンヤを奪っちゃうかもしれないから」
「! 駄目です!」
意味ありげに笑うアリシアに、ミクルーアは抗議の目を向ける。
そんなミクルーアを気にすることなく、またねレンヤと別れの言葉を残して去っていく。
レンヤはなぜか嫌な予感がしていたが、今は絶対に離さないとばかりに腕にに抱きついてきているミクルーアの相手をするのが最優先だと、安心させるように頭を優しく頭を撫でるのであった。
余談ではあるが、日付が変わる頃までミクルーアはほとんどレンヤから離れることは無かった。
※※※
レンヤ達と別れたアリシアはすぐさま通信機を起動した。
「姐さん、私も学園に通うから」
『緊急の通信かけてきて何を言ってるのかな~? アリシアちゃんには別の仕事があるでしょ~?』
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