異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)

ドラゴンフライ山口(トンボじゃねえか!?)

5話

 










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 ヨブトリカ王国陸軍第二師団の独断により火ぶたを切った、ヨブトリカ王国とジカートリヒッツ社会主義共和国連邦による連邦王国戦争。
 奇襲による開戦から始まったこの戦争だが、本来は第二師団の暴走を諌める立場にあったヨブトリカ王国は、先王であるリチャード5世が殺害された事件である腐敗する王政に反発して軍が起こした反乱の二の舞になることを恐れ、腐敗した王政を打倒した軍部を王国民も支持したこともあり、クーデター鎮圧で王国宰相となったチャールズは逆に多数の人族国家と手を組んで大規模な戦争に発展させていく。
 戦争開始時は主力の集結が間に合わなかった連邦の国境軍を王国が圧倒し、瞬く間に国境地帯を占領する。
 だが、カブランカ大河の戦いで大きな被害を受けたことから戦線が停滞。
 戦況は気温の低下とともに戦線を拡大しすぎた王国軍を苦しめ、連邦軍の反撃が激しくなってきたことにより前線を見捨てて戦線の後退を余儀なくされるようになり、ヨブトリカ王国の未帰還者は増大の一途をたどっていった。
 社会主義を掲げるジカートリヒッツ社会主義共和国連邦の勢力を警戒したヨブトリカ王国の支援についている国々の思惑や工作もあり、王国内の戦意はその停滞する戦線に反して旺盛で、王国軍に志願する国民はあとをたたない。
 同盟国からも次々に物資や援軍が送られてきており、軍事力で大きく劣っていたヨブトリカ王国は格上の国であるジカートリヒッツ社会主義共和国連邦相手に戦争を継続できていた。
 だが、死者が増え新兵が入るごとに、王国軍の占領地などにもたらす蛮行は激化の一途をたどり、ついには同盟国の一角であるガーヴァナ教王国から、蛮族のような戦争を続けるならば連合から降りるという警告を受けてしまうに至る。
 ヨブトリカ王国王都に立つ王城の謁見の間にて、警告をしに来た教王国の神官であるエルフを前に、ヨブトリカ王国の現王であるウィリアム9世は思わず溜息を零しそうになってしまった。


「ジカートリヒッツ社会主義共和国連邦は、君主制を排斥する危険な思想にとりつかれた集団ではあるが、同時にいつ始まるかもしれない魔族皇国の最前線を支える人族国家にとってなくてはならない国家です。連邦を征服し、社会主義を排斥して新たな一国家として立て直すというならばともかく、魔族皇国の盾となる国家の国土を踏み荒らすための戦というならば、教皇は連合を降りると仰せです」


「ううむ…」


 エルフの神官が持ってきた数々の王国軍の占領地における蛮行や犯罪の証拠・証言に、ウィリアム9世は頭を悩ませた。
 中には物資を求めて同盟軍であるディアント公国やアンカブリナ王国の軍の宿舎に襲撃を仕掛ける部隊までいるという事態である。
 死者が出なかったこと、ヨブトリカ王国が謝罪と賠償をしたことで穏便に済んでいるが、農民上がりの新兵が増えるごとに蛮行ぶりが増すヨブトリカ王国軍との共同戦線を嫌がる同盟軍も多い。
 もともと上の騎士たちは騎士道精神など腐り果てた平時から治安維持の逆の行いをする酒と女に溺れる者ばかり、下は教育と無縁の貧困層ばかりの軍律などあってないような軍隊である。逆に騎士道を重んじる規律重視の軍は先の国王殺害事件の謀反により殆どがいなくなっているため、諌めるものがいない陸軍は犯罪者の集まりのような軍隊となっていた。
 それを隠すこともなく行うものだから、中立国や同盟国からも批判が来たのである。
 まるで、獣か神国の軍隊のようである、と。
 魔族との戦争に陥るたびに、人族を魔族以上に残虐に襲うことで有名な天族の神国軍に例えられることは、人族において最大の侮辱に当たる。
 本来王位を継ぐ予定などなかったものの、反乱で兄の先王が死んだことで転がり込んだような軍部に支配される王位に座らされているウィリアム9世は、それでもまずは目の前のこの戦争に勝つためにエルフの大使に頭を下げた。
 本来王たるものが他国の使者に頭を下げることは国の品位を格下げする行いである。
 しかし、望まぬ王位を継いだ、そして暴走を続け戦乱を望む国になっていたヨブトリカ王国の品位に執着などなく、この王国に失望をしているウィリアム9世にとってはヨブトリカ王国の品位などどうでもよかった。
 そのため、さすがに頭を下げられるとまでは思っていなった大使はそれまでの毅然とした態度を思わず崩してしまう。


「こ、国王!? いえ、我々もそこまで要求は…」


「私の頭でよければいくらでも下げよう」


 本人にとっては幾ら貶されようが知ったことではない王国の品位などよりも、どうしても立て直したいことがある。
 軍が力に任せて他国を侵略し、それを支持する今の壊れた王国。
 民草の飢える腐った王政に立ち返るのも認められないが、だからと言って国を支える若者たちに武器をもたせて戦場に放り込み侵略を推し進める軍部が実権を握る今の王国も認められない。
 ウィリアム9世が目指しているのは、侵略を続ける国家でも、一部の特権階級が富を貪る国家でもない、民が権力を持つ国家である。
 海を隔てた異国には、民衆全てが参加して国の政治を定める共和制国家があるという。
 ウィリアム9世が目指すのは、ヨブトリカ王国を王家でも軍部でもない、民衆が国を動かす民主国家であった。
 王家の権力はすでに軍部が崩壊させている。
 あとは暴走する軍部から権力を剥奪する。
 そのためにまずはこの目の前の戦に勝ち、国を立て直すことから始めなければならない。
 ジカートリヒッツ社会主義共和国連邦は国家が経済を動かす体制である。権利も財産も国ではなく国民のものとするウィリアム9世の目指す民主主義にはそぐわない。
 彼が志す民主国家のためには、巨大な軍事力を持つ社会主義国家のジカートリヒッツ社会主義共和国連邦は超えるべき存在である。
 だが、ジカートリヒッツ社会主義共和国連邦の軍事力は強大だ。ヨブトリカ王国だけではまともに戦うこともできない。
 魔族皇国との戦争を視野に軍備を整えてきたかの大国に打ち勝つためには、どうしてもガーヴァナ教王国などの同盟国の支援が必要不可欠だった。
 軍部に勝つ前に、連邦との戦に負けてはいられない。
 ウィリアム9世は、そのためならば自分の頭など何度でも下げるし、ヨブトリカ王国の品格など地の底に叩き伏せても構わないと考えている。


「兵どもの蛮行もなんとかすると約束しよう! ゆえに、どうか…! ヨブトリカ王国に力を貸してくれ! 頼む!」


「国王…」


 躊躇いなく王として頭を下げたウィリアム9世に、ガーヴァナ教王国の神官のエルフは戸惑い、しかし王に頭を下げられた上に王国軍の蛮行を止める約束もされた以上は手切れにするわけにも行かなくなった。


「…一度、教皇に判断を仰がなければなりません。ひとまず、同盟は継続しガーヴァナ教王国は支援を約束しましょう」


「良い返事を得られるよう、わしも尽力しよう」


 ヨブトリカ王国はひとまず同盟に見捨てられることなく、連合軍の存続には成功した。
 だが、戦況は傾く一方である。
 神官は一度ガーヴァナ教王国に戻ると言い、謁見の間を後にする。
 ガーヴァナ教王国の教皇がどう出るかは不明だが、まだ数日の支援は取り付けられることが決まった。
 人族存続に大きく貢献してきたガーヴァナ教王国の権威は大きい。
 それが同盟をひとまずは存続するという言葉は、同盟側に少なくない影響を持つだろう。
 支援はしばらく続くものだと、ウィリアム9世は一安心した。


 …その時だった。


「何者だ! グアッ!?」


「ッ!?」


 突然、謁見の間の外で誰何と悲鳴の大声が上がった。
 さらに何かを争う音が聞こえる。


「何事だ!?」


 今しがたガーヴァナ教王国の大使であるエルフの神官が出たばかりだ。
 何が起きているのか不明だが、外での喧騒に巻き込まれている可能性が極めて高い。
 とにかく、ウィリアム9世は衛兵たちを招集しようとする。
 その指示を出そうとした瞬間、謁見の間の扉が吹き飛ばされた。


「国王陛下–––––グアッ!?」


 とっさにウィリアム9世をかばった衛士長が礫を受けて倒れてしまう。


「ゴードン!? おのれ、いったい誰が…!」


 そう、歯を噛み締めるウィリアム9世の前に、破壊された扉から多数の王国軍が突入してくる。
 騎士ではない陸軍の軍装に包んだ彼らの肩章を見て、ウィリアム9世は即座にその所属を判別した。


「き、貴様ら…第二師団の…!?」


 ヨブトリカ王国陸軍第二師団。
 それは連邦との戦端を独断で開いた、連邦王国戦争の引き金を引いた師団である。
 彼らは今最前線で戦っているはずなのに、どうしてこのようなところにいる?
 混乱するウィリアム9世の視線の先で、兵士に遅れて謁見の間にその第二師団長であるトマス・ジェファーソンが現れた。


「ご機嫌麗しゅう、腐りきった王家のゴミ野郎陛下」


 あまりにも無礼極まりない登場をしたジェファーソンは、その手に拳銃を、もう片方の手に顔を殴られたような跡があり、両手を縄で縛られ猿轡を嵌められた、ガーヴァナ教王国の神官を引きずっていた。


「ジェファーソン! 貴様、何をやっておるか!」


 軍部を恐れて弱腰となっていた国王ではあるが、ウィリアム9世にも流石にガーヴァナ教王国の大使である神官のエルフにこのようなことをする王国の兵士を看過することはできなかった。
 だが、衛士長が倒された今、王城を制圧したジェファーソン率いる第二師団にの手より、ウィリアム9世を守るものがいない。
 ジェファーソンは激昂するウィリアム9世にたいして、仕えるべき王に向けるものではない敵意を込めた目を向ける。


「偉そうな口をほざくな、クソ王が! くだらねえことしやがって。ヨブトリカ王国の王たるものが、この半分天族みてえな人族の異端共に頭を下げるとは…ふざけてんじゃねえぞ」


 乱暴に床につき倒されるエルフ。
 それをジェファーソンは踏みつけようとする。
 ようやく同盟の存続がなるというのに、これでは全てが破綻してしまう。
 ヨブトリカ王国は連邦に完全に負けてしまう。


「ジェファーソン、貴様!」


 軍部の暴走で押し付けられた王位につき、国政には一切口を出せなかった傀儡の国王であるウィリアム9世は、初めて軍部に対して反抗を示す。
 エルフの大使を庇おうと、ジェファーソンめがけて王座から立ち上がり走り出す。


「陛下!」


 衛士長が手を伸ばすが、足をやられて立ち上がれない彼は届かぬ手を伸ばして叫ぶことしかできなかった。
 ジェファーソンがなぜここに来たのか、それがわからないほどウィリアム9世は愚かではない。
 軍部が実権を掌握するヨブトリカ王国を崩壊させようとしている企みに気づいたか、それとも人質を使って同盟側からさらなる支援を引き出そうというのか。
 どちらにせよ、それを邪魔する存在である王を殺しに来たのは明白である。


 それでも、ウィリアム9世は走った。


「バカが!」


 ジェファーソンが周囲の兵士に命令をする。
 彼らが銃を構える中、ウィリアム9世は止まらなかった。


「王を撃てるというならば撃ってみせろ!」


「陛下ぁ!」


 銃声が鳴り響き、ウィリアム9世は倒れた。
 その光景に、衛士長とガーヴァナ教王国の大使であるエルフの目が絶望と驚愕に彩られたものに変わる。


「下らねえ」


 そして、撃たれたウィリアム9世をジェファーソンはそう一言で吐き捨てた。
 それに衛士長が激昂する。


「ジェファーソン、貴様–––––」


 だが、彼の言葉は銃声に遮られる。
 眉間を撃ち抜かれた衛士長は、無念と怒りに満ちた表情のままその場に背中から倒れ、2度と動くことはなくなった。


「すっこんでろ、カス」


 銃口がまだ熱を帯びている拳銃を構えたまま、ジェファーソンは吐きすてる。
 そして、一度下ろしていた足を睨みあげているエルフに向けてあげた。


「生意気なんだよ、異端児が!」


「ッ!?」


 背中を蹴りつけられ、エルフのくぐもった悲鳴が上がる。
 だが、猿轡がその声をはりあげるのを妨害する。
 ジェファーソンがエルフを踏みつけながら、銃をその頭に向ける。


 エルフという人族は、天族とのハーフが種族として確立した人族の一種という迷信が存在する。天族には交配による繁殖をする機能は存在しないため、これは完全な迷信である。だが、総じて普通の人族よりも魔法や聖術の扱いがうまく、老いはほとんどない長命の種であるエルフをそう捉えた人族が過去におり、それが残した迷信がここまで続いているのである。
 だが、その能力が天族を連想させるのか、ハーフという迷信は広がり、古い考えに固まっている人族には敵という認識をされ嫌悪されてしまっていた。


 ジェファーソンはその典型的なタイプである。
 そして、彼は人族が天族よりもはるかに優れた存在であり、エルフはその天族にさえ劣る劣化品でしかないという非常に偏った妄想に取り付かれている人物でもあった。
 エルフを毛嫌いする人族は多いが、優劣を勝手に定めて優越感に浸る人族はほとんどいない。
 人族は長い支配と侵略の歴史を味わっている種族であり、その根幹には常に人族よりもはるかに優れる魔族と天族には勝てないという劣等感がある。それが事実だと認識していたからこそ、技術と知恵で魔族と天族を上回る日を目指して進歩してきた種族である。彼のような逆の思想を持つ者こそ、むしろ異端児である。


 だが、異常者であるジェファーソンは、先人が長い歴史の中でようやく作り上げた技術の結晶である銃をさながら人族の特権のように言い張り、生物としてはるかに劣る存在の人族は、天族よりもはるかに優れているという技術が生んだ力におごっていた。
 ジェファーソンにとって、エルフは見るのも汚らわしいという劣等種である。
 ゆえに、ガーヴァナ教王国の大使であろうとも、エルフというだけでその銃を突きつけ傷つけることに何のためらいもなかった。


「お前は人質だが、死んだことを知る術などガーヴァナ教王国にはないからな。死ね」


 銃声が、鳴り響いた。


 エルフは思わず目を瞑る。
 だが、銃声が聞こえたのに全く痛くない。
 恐る恐る目を開けると、そこにはエルフをかばうように覆いかぶさったウィリアム9世がいた。


「ご無事ですかな、大使どの…」


 消え入りそうな声で問いかけるウィリアム9世。
 その体から流れる温かい血が自分の体に流れてくるのを感じ、エルフは必死で声を上げようとした。
 しかし猿轡がそれも邪魔をする。
 だが、ウィリアム9世は安心したような顔をした。


「ご無事で、よかった…」


「クソ王、てめえ!」


 ウィリアム9世の邪魔に激昂したのは、ジェファーソンである。
 即座に次弾を撃とう術式の構築をしようとする。


「遅い!」


 だが、その前にジェファーソンを睨みあげたウィリアム9世が、動いた。
 ジェファーソンの銃は発砲ごとに術式の再構築が必要であり、殺傷性と扱いやすさに優れる代わりに、連射性と術式によって貫通力が大きく劣るものである。
 ウィリアム9世はジェファーソンが術式を構築しようとしている間に、銃撃を幾つもその身に受けたとは思えない動きを見せて、彼の腰に下げていた剣を引き抜きその喉に突き刺した。


「グハッ!? …ッ、こ、の!」


 再度鳴り響く銃声。
 ウィリアム9世は胸元を撃たれ、ジェファーソンは喉を貫かれ、互いに相討ちになってその場に倒れる。


「師団長!」


 慌てて駆け寄ろうとする第二師団の兵士。
 その1人の胸元を掴んだジェファーソンは、歯を赤くしながら最後の力を振り絞る。


「俺1人で、死んで、たまるか…!」


「ガッ!?」


 そして、あろうことかジェファーソンはその兵士に銃口を向けて発砲したのである。
 一番に駆けつけた兵士は、その身を案じた師団長のあまりにも理不尽な理由によって道連れとして殺され、それに困惑した兵士たちは駆け寄るのをやめた。
 それにジェファーソンが狂った目を向ける。


「1人じゃ、死なねえぞ…!」


 そして銃口を次の味方に向けようとする。


「あ、だぁああああ!」


「グアッ!?」


 だが、その銃口を向けられた兵士は殺されてしまうという恐怖からパニックに陥り、ジェファーソンをその手の銃で撃ち殺した。
 急所を撃ち抜かれたジェファーソンは、死体となりながらもさらに数発の襲撃を受け、味方の銃によって命を落とした。


「ンンッ!」


 そのやりとりに目も向けなかったエルフは、ウィリアム9世に体を引きずりながら寄って、その虚ろとなった目に必死に出ない声をかける。
 ウィリアム9世は、もはや何も見えないようだがその声は耳に届いたらしく、安心したような顔をした。


「大使どの…おぉ、ご無事、でしたか…」


「ンン! ンンンッ!」


 エルフの大使が必死で声をかけ続けるが、ウィリアム9世はもう何をしても無駄な状態である。
 血の気が引き白くなっていく中で、それでもエルフの無事を安堵するように、途切れ途切れながらも声を紡ぐ。


「大使、どの…まことに、申し訳なかった…。他国の使節に…王国は、あってはならないことを…して、しまった…。謝り、まする…」


「ンンンッ!」


 もうしゃべらないで!
 そう叫ぶが、ウィリアム9世の耳には言葉としては届かない。
 ウィリアム9世はすでに耳も聞こえなくなっており、エルフが触れている手の感覚もない。
 それでも彼女が近くにいることを感じ取り、伝えたい言葉を何とか伝えようとする。


「されど…どうか、ヨブトリカを…この国を…見捨てないで、ください…。王家、が…絶えても…ワシは…せめて…民には、生きて…い…て…」


「ンンンッ!」


 民主国家を目指した傀儡の国王ウィリアム9世は、そう言い残して、そして最後まで言葉にすることができぬまま、志半ばで生涯に幕を下ろした。
 王家が崩壊したヨブトリカ王国は、暴走を続ける軍部に都を完全に乗っ取られてしまい、さらには王都に駐留していた大使や援軍にきた高い地位の将、外交官などを人質として同盟側に戦争支援の継続を要求。教王国などの同盟の参戦を継続させ、急速に孤立していく。
 ヨブトリカ王国は王族の死とともに滅亡し、クーデターを起こした第二師団を駆逐して、あらたに王国海軍を中心とした王政打倒を掲げる左翼派の海軍軍部が国の全てを掌握する軍事国家として生まれ変わり、連邦王国戦争をさらに苛烈なものに変えていくのであった。
 ヨブトリカ王国改め、ヨブトリカ軍国初代国家元帥となった元王国海軍元帥アンドリュー・カンニガムは国家総動員法を発令し、人命を含めた軍国全ての資源を戦争に投資する政策を展開し、軍備の増強を図る。
 そしてヨブトリカ軍国は連邦にする冬季攻勢を断行。
 人族国家間の戦争では類を見ない、同盟国の援軍を含める兵員10万からなる大規模な攻勢作戦の発動を決定した。
 これが膠着化した連邦王国戦争に大きな波紋を立てることとなる。










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 そうして変化していったヨブトリカ軍国の首都にて、外套に頭まで覆うように着込む怪しげな外見の1人の人影があった。
 微かに覗く顔からは、細く華奢でヒゲのない口元が見える。
 外套で分かりにくいが、その身は女性にしても小柄であり、まるで子供のようだ。
 地球であれば中学生でも通せる、いや下手したら小学生でも通せるかもしれない外見を持つその人物は、己の貧相と言える体格に少なくないコンプレックスを抱いている。
 だが、今はそれどころではない。
 彼女がいた帝都にもたらされたとある情報から、本来ならば絶対に動きたがらない彼女が自ら1人で飛び出るほどの事態が、この国で起きている。


「環菜…」


 大事な親友が行方不明になっている。
 それだけではなく、彼女の現在いるその国は他の仲間がいる隣国と戦争を始めている。
 その上、異世界の侵食者というあらたな脅威までこの国には来ている。
 千里眼を通じて得た彼女の危険を感じ、居ても立っても居られなくなったこの人物は、単身帝都からヨブトリカ軍国まで来ていた。
 路地の裏手に入り、地図を確認するためにその人影はフードを下す。
 その下には、ネスティアント帝国に召喚された勇者の1人である、土師はせ 若菜わかなの顔があった。

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