異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)
1話
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神聖ヒアント帝国帝都『リリクシーラ』。
南方大陸随一の国力を誇るこの人族の大国の都の中心部に、皇帝の居城が存在する。
人族の中でも古い歴史を持つこの国家は、この世界における最大の諜報機関を有しており、ありとあらゆる情報を集積している。
軍事力こそネスティアント帝国に劣るものの、その幅広い情報網から得られている情報の総量は、まさにクロノス神の背に広がるこの世界では最大のものである。
そして、現在のこの国は皇室を含め、国家の全てを魔族に乗っ取られていた。
展望よりリリクシーラを見下ろしている皇帝シャルル6世の隣には、神聖ヒアント帝国の乗っ取りを実行した魔族皇国元帥の一角、デネブが人族の姿で立っている。
不死鳥と呼ばれる転生魔法を駆使する魔族、フェニックスの亜種であるデネブは、炎より蘇る不死鳥の通常種と違い、橙色の炎ではなくそれをゆうに上回る白色の炎を纏っている。
デネブが通常のフェニックスと大きく違う点、亜種にのみある最大の特徴は、転生魔法を自己にしか行使できない通常種と違い、他者に対しても転生魔法を行使することが可能という点にある。
デネブの軍団は数でこそ21元帥の軍団の中で最も少数ながら、デネブの転生魔法により創立以来1人の死者も出しておらず、『不死鳥軍団』の異名も持っている。
転生魔法と蘇生魔法の大きな違いは、死した者の命を蘇らせるのが蘇生魔法であるのに対して、転生魔法は死者を新たな生命として創造し直すということにある。単純に生き返らせるだけの蘇生魔法と違い、転生魔法は生命の創造という側面が強い。蘇らせるだけの蘇生魔法と比べ、幼体からやり直せる転生魔法は蘇生魔法のはるか上位を行く存在の魔法である。
とはいえ、デネブ自身は若い。フェニックスは子供を授かった時、その無限に繰り返す生に終わりを告げ次代に託し、世界から去ることになる。フェニックスの子供は親から転生魔法を授かり、親の命を対価として生まれるのである。
デネブの母親は通常のフェニックスであった。デネブが亜種として生まれたのは、他の魔族同様に偶然、突然変異だった。
デネブが生まれた時、帝京枢軸連合との大戦はすでに事実上の終結を迎えていた。
それに対して特に思い入れのようなものはなかったが、デネブは魔族皇国をいっとき滅亡寸前まで追い込んだという人族に対して強い警戒心を抱いた。
フォーマルハウトと協力して神聖ヒアント帝国を乗っ取り人族が積み上げてきた技術力を目の当たりにした時、デネブは驚いたものである。
人族を見下す古い考えに凝り固まっている魔族皇国に対して、デネブはこのままでは魔族皇国が負けることを確信し、人族との本格的な戦争を行い占領するのではなく、裏から人族を支配していく方策を進めることにした。
巨大な諜報機関を有する神聖ヒアント帝国は、人族の国家の情勢に関しても多数の情報がある。それは裏からの占領作戦を進める上では好都合であった。
次の目標にどの国をするべきかと人族大陸各地に密偵を放ち、その情報を収集していた頃、ネスティアント帝国などに派遣していた密偵からとある報告が上がった。
ネスティアント帝国、ジカートヒリッツ社会主義共和国連邦、サブール王朝の三国が対魔族・対天族戦の切り札として異世界より勇者を召喚したという情報だった。
即座に調べたデネブだったが、ネスティアント帝国とジカートヒリッツ社会主義共和国連邦の密偵からは突如として連絡が途絶えてしまい、サブール王朝の密偵からは異世界より12人の勇者が召喚されたという情報が入ってきた。
連絡の途絶えた他の2つの国も同数の勇者を召喚しているとすれば、その数は36人にもなる。異世界の勇者に関しては、この世界の危機に瀕した時にクロノス神が召喚する英雄譚が多くあり、それと同格とみなすのであればその戦力は計り知れないものとなるだろう。
実際、ネスティアント帝国の侵略を進めようとしていた転移魔法による戦力投入。皇主が立案し、アンタレスが実行していた画期的な作戦も、ネスティアント帝国の召喚した勇者の手により阻止されてしまった。
ジカートヒリッツ社会主義共和国連邦の勇者はともかくとして、ネスティアント帝国の勇者は召喚当初こそ情報をまるで得られなかったものの、派手に動き回るおかげでかなりの数の情報を集めることができている。
神聖ヒアント帝国の諜報機関は魔族皇国の情報も多くを蓄積している。この国の諜報機関の有能さには驚かされるものだ。
そして、ネスティアント帝国の召喚された勇者の中で特に警戒している対象が、『北郷』という勇者と、『湯垣』という勇者である。
この2人の勇者は、アルタレスの侵略作戦を阻止しただけではなく、湯垣という勇者はフォーマルハウトの率いた神聖ヒアント帝国と魔族の混成軍の侵攻をアウシュビッツ群島列国の軍勢を味方につけて阻止し、北郷という勇者はソラメク王国にいた異世界よりの侵食者である迷宮の主ユェクピモと死神アンテョラミィを打倒してみせた。
異世界よりの侵食者の存在というのは、クロノス神の世界に生きるものたちをはるかに凌駕するという。それを打倒して見せたのであれば、人族の召喚した異世界よりの勇者は伝承にもある英雄たちと同格とみてもおかしくはない。
デネブは特に警戒を要するこの2人の勇者をなんとかして打倒するべく、思案を巡らせていた。
釣り出す手段は、無いわけではない。
情報によれば、この2人の勇者はどちらも人族特有の仲間意識が特に強く、人質を用いて釣れば必ずと言っていいほど食いついてくる。
だが、その餌が今のデネブにはない。
フォーマルハウトの方は魔力を枯らしており、魔族皇国に撤退している。
なんとかして餌を入手し、2人の勇者をつりだす算段を立てなければ…。
思案を巡らせるデネブに、シャルル6世が振り返る。
「大使殿、如何なされた?」
シャルル6世には精神支配の魔法がかけられていない。
占領当初はまだ2歳の子供だったシャルル6世は、魔族皇国からきた和平を求める大使という立場を利用して騙している形にある。
とはいえ、平和主義者であるシャルル6世は神聖ヒアント帝国の現状を何1つ知らないままに、デネブの都合のいい操り人形となっている。
実際に神聖ヒアント帝国を動かしているのはフォーマルハウトだが、今はいない。
今年で13歳になるシャルル6世に、デネブは安心させるように笑みを浮かべる。
「いえ、なんでもありません、陛下。ご心配をおかけします」
「何かあれば遠慮なく申せ。協力を約束しよう」
シャルル6世はデネブの返答に頷き、そう言ってから展望に目線を戻した。
シャルル6世の周囲は多くの密偵を生業とする影のものたちが護衛についている。
城の中にも多くの騎士がいるので、少なくともこの傀儡の皇帝の安全は確保されている。
「失礼いたします」
デネブはシャルル6世の近くを離れ、城の中へと戻った。
勇者を始末するために暗殺という手段を用いることも検討したが、密偵を始末されている以上、それは難しいだろう。
神聖ヒアント帝国内に呼び寄せることができれば、まだ可能性はある。
神聖ヒアント帝国が占領されているという事実は既にアウシュビッツ群島列国をはじめとした人族の国に知れ渡っているだろうから、その前になんとかして勇者をこの国におびき寄せる算段を立てたいところだった。
その時、背後に転移魔法が発動して、そこから魔族皇国79元帥の一角であるアルデバランの麾下の1人であるエルナトと、皇主の密命を受けて動いているはずの同じく元帥の一角であるポルックスの配下の1人であるカストルが現れた。
突然現れた珍しい組み合わせに、デネブは眉間にしわを寄せる。
「お久し振りです、デネブ公」
アンタレスによるネスティアント帝国侵攻戦にも参加していたというエルナトが何故きたのかは不明だが、他の元帥に従う魔族がこのちをおとずれることにデネブは好印象は抱けない。
2人の将帥を睨みつけると、エルナトはデネブの威圧に一瞬ひるんだものの、即座に気を取り直してここに至った要件を告げた。
「突然の訪問は謝罪いたします。しかし、検討いただきたいことがあるのです」
「何用か?」
苛立ちが滲み出るデネブだったが、エルナトはなんとか堪えつつもアルデバランからの共闘の提案を伝えた。
「アルデバラン様より、共に勇者を討ち取るための共闘案があります。どうか、検討いただけないでしょうか」
「勇者を…?」
苛立っていたデネブだが、勇者を討つという提案にその苛立ちが収まる。
何のつもりか知らないが、アルデバランがなんの脈絡もなくこのようなことを言い出すとは考えにくい。
それに、目下の課題である勇者を討つ事柄に関する案ならば、聞くに値すると判断した。
「言え」
許可を得たエルナトは、デネブにその案を伝えた。
アルデバランからの案というのは、神聖ヒアント帝国を利用して勇者をおびき寄せるというものである。
アルデバラン自身は湯垣という勇者と一戦交えており、彼のことを大層気に入ったらしく、湯垣に対してカストルを通じて一騎討ちの挑戦状を叩きつけてある。
場所は神聖ヒアント帝国の帝都。ここに勇者をおびき出し、復帰を果たしたフォーマルハウトの軍団も含めた部隊を持って潰すというものである。
条件として神聖ヒアント帝国の解放を提示している。これに関してはフォーマルハウトの許可も得ているという。
元々この国を占領したのはフォーマルハウトであるため、デネブはそれに関して口を出すつもりはない。
それに、万一に負けるような事態となれば、その時は手段など選ばずにその勇者を捕らえ、反故にして仕舞えばそれで完了する。
カストルによれば湯垣は反応を示しており、単身でここに来るはずだという。
一騎討ちと称すれば、別世界の勇者とはいえ子供でしかない勇者は確実に単身で赴くと推測される。
あとは、数によって包囲して、人質として神聖ヒアント帝国の者たちを盾とし、無抵抗を要求してから一方的に嬲り殺すだけ。勇者が耐えかねて神聖ヒアント帝国の者たちを見捨てて抵抗を示す場合には、勇者を血祭りにあげた後にその非道な選択を神聖ヒアント帝国の情報網を駆使して人族中に流布するつもりでいるという。
たとえ青臭い正義を振りかざして勇者が無抵抗で殺された場合も、神聖ヒアント帝国の者たちは血祭りとし、その噂は流布するつもりでいるという。
「–––––そして異世界よりの勇者を異界の侵食者にすげ替え、その信用を地の底に追い落とし、人族と勇者の抗争を演出して、異世界の侵食者と聞き介入してくるだろう天族を含めた戦争を誘発させて、人族の力をそぎ落としてから皇国を持ってして5つの大陸と神国を征服するという算段となっています」
どちらにせよ神聖ヒアント帝国は生贄として消失することになるが、一気に形勢を傾かせるまでいけるとも言える作戦だった。
…ただし、デネブは疑問に感じる。
「エルナト、1つ答えろ」
エルナトの属する軍団の元帥であるアルデバランは、皇国随一の脳筋であり、こと闘争に関しては卑劣な手を用いることを良しとしない性格の持ち主である。
一騎討ちを誇りとしているアルデバランがその卑劣な手段を用いるとは、デネブには思えなかった。
「アルデバランがその作戦を了承したのか?」
そのことについて尋ねると、エルナトはよどみなく返答した。
「了承も何も、これはアルデバラン様が立案した作戦です」
無機質な縦長の瞳孔を持つエルナトの目には、およそ感情と呼べるものがこもっていない。
その目を見て、デネブは理解した。
「…そうか」
これは、おそらくエルナトの立案している作戦である。
アルデバランは頭が切れる方ではない。このような作戦を考えつくとは思えない。
エルナトはアンタレスの指揮した侵攻作戦にて勇者に苦杯を舐めさせられ、一種の恐怖心さえ抱くようになっている。
特に、報告によれば湯垣という勇者は『治癒師』の職種を授かり、その生命線として多くの人族たちの命を救っている上に、フェニックスに劣らぬほどの不死性を持っているとまで言われる勇者の中でも特に大きな脅威となっている存在である。
いかに戦闘能力に優れているとはいえ、支援をなくした者たちはいずれ限界がくるだろう。
崩すのならば、城を守る兵器よりもそれらを支える土台となる補給から潰していく。
デネブは支援という存在がどれほど目立たない中で重要な役割を担っているかということに特に注目している魔族でもある。
それを潰すのに、出し惜しみや名誉などすておくべきかもしれない。
「…わかった」
デネブは、アルデバランと、そしてエルナトの案に協力することにした。
「我が軍団も参加しよう」
「感謝いたします」
首を垂れたエルナトの表情は、かすかに口角が持ち上がった。
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神聖ヒアント帝国の精鋭に、六甲騎士団という軍団がいる。
それぞれ『ノースカロライナ』、『サウスダコタ』、『アイオワ』、『ペンシルベニア』、『コロラド』、『ミシシッピ』の名を持つ6つの精鋭騎士団である。
その団長6名が一同に集う席だが、その日はコロラドの団長であるルメイの姿が見られなかった。
事実上の六甲騎士団のトップを務めているミシシッピの団長、シーボルトからルメイの欠席に関しての通達。会合はこれから始まった。
「召集に応じて貰い感謝致す。と、その前にルメイについてだ」
そう前置きをして、シーボルトはルメイの行方について伝える。
「ルメイだが…現在、異世界よりの侵食者と呼ばれる敵を排除するために、アウシュビッツ群島列国の要請を受け、ツヴァイク島に『コロラド』を伴い向かっている」
「異世界からの侵食者とはなんですか?」
シーボルトのセリフを遮り、声をあげたのは『ノースカロライナ』の団長で、この六甲騎士団団長の中では最年少であり唯一の女性でもある、セシリアである。
シーボルトはセシリアを一瞥すると、他の面々も同じように疑問にしていることを確認してから、異世界からの侵食者について説明を始めた。
「異世界の侵食者というのは、クロノス神の世界とは異なる世界からくる存在で、人族の伝承にもその記録を残している者たちだ。ヨブトリカ王国に伝わる迷宮の主ユェクピモ、サブール王朝に伝承を残す海獣エンズォーヌ、ガーヴァナ教王国の神典が定めた邪神マブラプトラ。世界が奴らに犯される度に、異世界よりクロノス神の加護を授かりし英雄たちが召喚されたという。彼らは伝説であるが存在した偉人でもあり、そして敵も同じく存在した過去の厄災だ」
その言葉に、セシリアは息を飲む。
異世界の侵食者はエルフの生き証人の証言などにもあるように、この世界の者をはるかに凌駕する化け物だという。人族はもちろん、やつらのまえでは魔族や天族もただの餌と成り下がると。
その存在がいる。
セシリアは、思わず声をあげた。
「シーボルト卿! ルメイだけでなんとかなる相手なのですか!?」
それに対して、シーボルトは首を横に振る。
「無理だろうな。その敵はすでにネスティアント帝国とソラメク王国を占領している。人族国家の2つを瞬く間に征服するほどの力を持つ存在だ」
「そ、それは…どういう…!?」
混乱するセシリア。
ネスティアント帝国とソラメク王国が占領されているというのは初耳である。
シーボルトは他の団長たちも見回して、そのことを伝える。
「敵はネスティアント帝国の召喚した勇者たちの中に紛れ込んでいた。仮面で姿を隠している男だが、奴は国を影から操り、人族の希望である勇者さえもその意思を剥奪して操っている。我々は、彼らを救わなければならない。ネスティアント帝国に潜入させていた密偵の報告にもある。信憑性は高いだろう」
シーボルトによれば、その侵食者が現れたのは魔族に対抗する切り札としてネスティアント帝国が勇者を召喚した際に起きたという。
人族の希望である勇者に紛れ込んだ異世界の侵食者は、彼らとネスティアント帝国を洗脳してから、それを聞いた魔族が人族ではなく侵食者を倒すためにと出した軍勢と、ソラメク王国を言葉巧みに操って激突させ疲弊させ、勇者を使い魔族を潰して人族の英雄に成り上がったという。
さらにはその手を幸運にも逃れた勇者が逃げ込んだジカートヒリッツ社会主義共和国連邦に対して、そここそが侵食者を勇者として召喚してしまった国として弾劾し、ネスティアント帝国とソラメク王国、さらにはアウシュビッツ群島列国も巻き込んで人族の戦争を誘発させようといっているという。
神聖ヒアント帝国はこの情報を入手、以前より接触を図っていた魔族皇国の助けを借りた軍勢を派遣するも、それも侵食者により壊滅に追い込まれた。
そして、侵食者はアウシュビッツ群島列国を占領するために動いていると。
一通りの騒動を聞いたセシリアたち六甲騎士団の面々は、激昂した。
「外道が!」
机を強く叩き、苛立ちを露わにするセシリア。
彼女にも噂が流れてきていたのだが、それは和平を望み大使を送っている皇主の意向に逆らい暴走した魔族に対して、人族を守るためにネスティアント帝国の勇者たちが立ち向かい、これを撃退して都市を守り抜き、その後には無償で復興事業に協力してくれたという美談だった。
だが、実際には洗脳された勇者を用いた卑劣な侵食者の手のひらで動かされた罠だったのである。
そのために犠牲になった人たち、国々を思えば、彼女の心境は怒りに満ちていた。
魔族との和平の道を模索している神聖ヒアント帝国では、それに反対する反乱が発生している。その制圧に毎日馳け廻る六甲騎士団だが、その報告を聞けばそれどころではなかった。
「すぐに行かなければ!」
「応!」
立ち上がったセシリアに、賛同するようにアイオワの団長であるランスロットも立ち上がろうとする。
だが、それに待ったをかけるこえがあった。
「待て、2人とも」
シーボルトである。
「セシリア、お前には別任務がある」
「ふざけるな!」
突然のシーボルトの命令に、侵食者の討伐以上の何があるとセシリアは激昂する。
だが、シーボルトは首を横に振り、その命令を出した。
「セシリア、お前には反乱軍に接触してもらう。人族–––––ひいてはクロノス神の背中に広がるこの世界のためだ。神聖ヒアント帝国は、今内乱などしている暇ではない!」
「–––––ッ!」
シーボルトの命令に、セシリアは反論を飲み込んだ。
神聖ヒアント帝国の反乱軍の首領は、セシリアの師でり育ての父親でもある元ノースカロライナ団長のロンメルである。
説得できるのはセシリアしかいない。
そのことを理解して、そして何を優先するべきかを解した彼女は、頷くしかなかった。
「任せられるか?」
「…承知、しました」
セシリアは、団員を1人もつれることなく、交渉のために反乱軍のアジトに単身で向かっていった。
セシリアが去った後、シーボルトから侵食者を迎撃する算段が魔族広告より来ている旨を伝えられ、詳細はルメイとセシリアの帰還後にするということで、六甲騎士団の団長会議は終了する。
彼らが去った後で、シーボルトは想定通りにことが進んでいることに笑みを浮かべた。
「フォーマルハウトの采配通りにことは進んでいますね。人族とは愚かな者たちだ…こうも簡単に騙すことができるとは。さて…これで結果を残せればアンタレスの後釜に着くのは某となるだろう。皇主にも良き報告ができそうだ」
邪悪な笑みを浮かべる彼の額には、3つ目の目が縦に裂けて覗いていた。
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アウシュビッツ群島列国にある島、『ツヴァイク島』。
そこに空より舞い降りる無数の天族の姿があった。
ひときわ尊大な立ち姿を見せる天族に、下位の天族の兵士が報告に上がる。
「ガヴリール様、各軍の配置が整いつつあります」
それに、ガヴリールと呼ばれた天族は、頷く。
「ああ、怠りなくな。我が愛しの姫を取り戻す聖戦の初戦だ、抜かりなく行え」
「はっ!」
敬礼をし、天族の兵士はガヴリールの元から立ち去る。
それを一瞥することもなく、ガヴリールは準備の進む無人島の様子を見ていた。
その手には、彼の想い人でもある座天使の残した指輪が握られている。
「もうすぐ…君を取り戻せる。待っていてくれ、ティアレナ」
座天使の一角、ガヴリールは人族の勇者に囚われてしまった愛しの天族のことを思い浮かべながら、やってくるであろう誘拐犯の迎撃の準備を進めていた。
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魔族と天族と人族が思惑を重ねる中、カストルのもたらしたメッセージから1人の勇者がその地を訪れるために単身南下してくる。
様々な思惑が渦巻く中、彼らに共通していることは、やってくる勇者が敵であるという認識だけであった。
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