異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)
19話
アウシュビッツ群島列国の艦隊は、海上艦艇が158隻、潜航戦艦が176隻、航空戦艦が169隻、総員で17,000人という陸奥の一行よりもはるかに多い人数です。4桁の軍勢をこうして1つの戦場に集められるのは徴兵制を採用しているアウシュビッツ群島列国をはじめとする幾つかの国家のみだと聞きます。ネスティアント帝国は精鋭重視だそうですし。考えてみれば、ここに集っているアウシュビッツ群島列国の大軍勢はネスティアント帝国の常備軍の総兵力よりも多いみたいです。それだけで人族においては桁違いの軍勢ということが推測できますね。
ヨホホホホ。つまり、アウシュビッツ群島列国のこの艦隊は桁違いの大艦隊という事ですな。
そう考えていたのですが、斥候の報告を聞いた瞬間に、人族ではという括りを思い知る事となりました。
「敵艦隊の概算が出ました! 神聖ヒアント帝国海軍は海上艦艇が12、潜航戦艦が18、航空戦艦が15、推定兵員が400! 見たところ艦隊の規模は小さい方です!」
「魔族を抜かせばこちらが圧倒的に戦力は上だが…魔族の軍勢は?」
「はい! ヨルムンガンドを筆頭に、推定80万!」
「80万か…軽い数だな」
平然と言い切りましたよ、艦隊司令殿。
ヨホホホホ。あの城塞都市でさえ、15万の魔族でしたが、今度は80万…それでも軽いとか、魔族の兵力って何ですかね? 飽和状態もいいところではありませんか?
自分の感性と人族の感性はかなりかけ離れているのかもしれません。
前回はカクさんと副委員長の火力バカが炸裂したからこそ圧倒できました。
自分には戦闘能力がほぼありませんから、広域殲滅は不可能です。
はっきり言って、自分って戦力になりますかね?
とりあえず、何かあったとしてもいいように艦隊の前後に巨大な防護魔法を展開します。
これで迎え撃つ準備をするとしましょう。
防護魔法は一方通行用に加工しているので、砲撃は通るようになっています。
自分にできるのはせいぜいこのくらいですが、何もできないよりはマシでしょう。
艦隊の方はすでに戦闘態勢が整っています。
「野郎ども! 我らには勇者殿が付いている! 勝利を信じ、敵を叩き潰せ!」
「「「「「サー、イエッサー!」」」」」
アウシュビッツ群島列国の軍勢の士気は高く、負ける事はないと信じきっている様子です。
しかし、あれがアルデバラン様の用意した軍勢とするならば、その脅威は恐ろしきものと言えるでしょう。
何しろ、アルデバラン様は転移魔法を扱えます。その気になれば増援をいくらでも呼び寄せることも可能でしょう。
アルデバラン様本人がいるかどうかはわかりませんが、あれはアルデバラン様の軍勢と見ていいでしょうな。
すごい数の軍勢が海を渡り、その姿を現します。
「奴らを蹂躙する! 全艦、撃ち方始め!」
艦隊が一斉砲火を開始しました。
ヨホホホホ。すごい轟音です。
当初はどえらい数を聞いて気が動転していましたが、これならば勝てるのでは?などという根拠のない希望的観測を抱くに至りますね。それだけ人族の艦隊が奏でる砲撃はすごいものがあります。
普通に、ミサイルみたいなのもありますしね。ロケット式ではなく、燃料が魔力でかつ重力を無視できるように浮遊系の魔法まで施されたミサイルは、そのまま向かって行って爆発する兵器のようです。光線兵器などもある事から軍事技術力では我々の常識さえも凌駕してますね…。
「転移魔法用意! 奴らの直上に機雷のあられを降らせてやるぞ!」
「「「「「サー、イエッサー!」」」」」
すると今度は艦隊司令の号令の元、魔族の放つ強化魔法を魔力に触れるたびに大爆発を引き起こる魔力反応誘爆機能を備えた機雷を、あろう事か転移魔法を用いて直接直上に叩き込む攻撃を開始しました。
大爆発が巻き起こり、無数の水柱が上がります。
おお〜。これは、まさにケイさんの大好きなアニメに出てくるテクノロジーを用いた攻撃にそっくりではありませんか。
転移魔法を用いた回避不可能な瞬間移動による攻撃は、空挺戦術の究極の形と言えますね。
この異世界の皆さんの軍事力って、すごいですな…。
「ハッハー! クソ魔族どもが、少しは懲りたか!?」
艦隊司令もはしゃいでいるようです。
なれましたけど、寿命を自ら縮めて勝利を遠ざけているのではと疑いたくなるフラグメイカーぶりですね。
「野郎ども! このまま行けば勝てるぞ!」
「「「「「サー、イエッサー!」」」」」
皮算用は死亡フラグですけどね〜。
ま、自分がいる限りは死亡フラグを回収させるつもりはありません。
敵を倒す事はできずとも、味方を守り救う事ができるのが『治癒師』というものなのですよ。ヨホホホホ。
死亡フラグごとき、何度でもへし折って差し上げましょう。
しかしながら、魔族がこれで圧倒できるのならば人族でも勝てたでしょう。
勇者として異世界人の自分達に頼るくらいです。魔族がこの程度で押されるはずもありませんでした。
群れが光ったかと思った直後、次々に各種属性の莫大な数の艦隊の主砲に匹敵するようなブレス攻撃を始めとする遠距離砲火が襲いかかってきました。
「ま、まずい!?」
艦隊司令が慌てる目の前で、魔族からの砲火は自分の防護魔法に阻まれてしまいます。
ヨホホホホ。これで人族の艦隊は多くがやられたのかもしれませんが、しかし今回は勇者たる自分が付いています。簡単に被害を出せるとは思わないでいただきたいものですね。
「ヨホホホホ。この程度であれば自分の防護魔法が防いで見せましょう。攻撃手段がなくて申し訳ありませんが、自分は守り癒す事を使命とする職種です。お任せください」
自分の言葉に、アウシュビッツ群島列国の皆さんが大いに奮いたちました。
「「「「「オオオオオオオォォォォォ!」」」」」
「勝てる…勝てるぞ!」
「魔族がなんぼのもんじゃい!」
「野郎ども、奮起しろ!」
「おっしゃあ!」
「俺らには勝利の笑神様がついてるぞ!」
ヨホホホホ。笑神様ですか。
いや〜自分にはぴったりのあだ名ではありませんか。ヨホホホホ。
笑神どころか厄病神だろうが、と? いえいえ、疫病神というのは災厄を背負い招き寄せる神様の事です。人々から災厄を吸収して背負う神様な事であり、本来存在しないはずの惨事を起こして撒き散らしては面白がる自分では断じてありません。
さすがに自分と引き合いに出すのは疫病神様に失礼ですよ。疫病神様が可愛そうではありませんか。こんな変態の例えに引用されては。ヨホホホホ。
それもそうか、と? それもそうですよ、ヨホホホホ。
潜航戦艦の方も、次々に魚雷を放っています。
あと、氷柱ミサイルですね。すごいですな魔法というのは。地球の兵器ではまず再現できない攻撃手段です。ヨホホホホ。
興奮しながらその光景を眺めています。
怪獣の群れと大艦隊の戦争というのは、いや〜男のロマンをくすぐる良いものではありませんか!
まあ、怪獣映画とは違うので最初から最後まで出来れば人族の圧倒的優勢で終わって欲しいものです。当事者の側に立ってみると、苦戦など悪夢ですからね。
すると、轟音に耐えかねたのか、天族の方が起きたようです。
もぞもぞと動く様子が気配に感じ取れます。
今はどうでもいいですけどね。ヨホホホホ。
一方的な砲撃戦により、魔族の数が削れていきますが、彼らに撤退の二文字はないらしく、構わず進軍を続けています。
このままではいずれ激突する事となるでしょう。
自分の防護魔法がありますが、正直接敵してからの味方からの砲撃まで受けて仕舞えば、防護魔法が持つ自信はありません。
それまでにどれだけ魔族の軍勢を削れるかに、勝負の趨勢がかかっていますね。
少しでも時間を稼ぐべく、魔族の周囲に催涙ガスを放ちます。
100体程度の魔族が引っかかり、後続の足を崩して進行速度を落とします。
しかし、焼け石に水程度の効果しかありませんでした。ヨホホホホ。
「撃ちまくれ、野郎ども! たとえ国は違えど、俺たちはともに魔族に立ち向かう人族の仲間だ! これだけは魔族にはない俺たちの強みだろうがよ!? 奮い立て!」
「「「「「サー、イエッサー!」」」」」
艦隊司令の激励に、艦隊はさらに奮いたち砲撃を加え続けます。
機雷も大量に投下され、次々に水柱を立てます。
こういうときに活躍して見せるのがケイさんの職種とかでしょうが、残念ながら自分にはまともな遠距離攻撃手段はありません。
一騎討ちならばともかく、大規模な戦闘となればどうしようもないでしょう。
回復役として戦場を駆け回ろうにも、ここまで大規模な軍勢同士が激突しては自分の手には負えません。
範囲の治癒魔法もありますけど、あれの場合は半径数キロを軽く覆う事はできますが、敵味方問わずに癒すので戦場の真っ只中で使えばむしろ味方の危機を煽りかねません。
面白くない事を煽る趣味はありませんよ。ヨホホホホ。
「な、なんですの!?」
天族の方が本格的に起きた様子です。
無数に砲火を鳴らすアウシュビッツ群島列国の大艦隊の攻撃による音は、それこそ空気を揺るがす大音量のサウンドです。
天族の方が混乱するのも無理はないでしょう。
大艦隊の攻勢は止む事を知らず、数々の砲火は次々に魔族の大軍勢に猛威を振るいます。
しかし魔族の反撃もより苛烈となってきています。
防護魔法に揺らぎが発生しました。
「ヨホホホホ。艦隊司令殿、申し訳ありません。防護魔法は後、維持できたとしても五分ほどです…」
「旦那! ならばそれまでに敵に打撃を与えるまで! 野郎ども、気合入れろ!」
別に魔力が持たないわけではなく、防壁の維持と修復が間に合わなくなりつつあるのです。
距離が近づけば近づくほどに、魔族からの攻撃も明後日の方向を向いていた攻撃まで集中して自分の展開する防護魔法に直撃するようになってきています。
それで防護魔法が揺らぎ出しており、持って後数分となりつつあります。
その頃にはワイバーンらしき魔族を筆頭に魔族の先陣が防壁に到達して攻撃を仕掛けています。
防護魔法は一方通行に設定しているので艦隊の砲火は通りますが、向こう側から通る事はできません。そちらの側から通りたければ強行突破でお願いします。ヨホホホホ。
アウシュビッツ群島列国の艦隊は最後の攻勢と言わんばかりに、砲火を撃ち荒らします。
天族の方が耳をふさぐ中、多数の砲火の撃ち合いが魔族の軍勢をより苛烈に攻めます。
しかし、魔族側は退く気配もなければ、味方に当たるのも御構い無しに防護魔法へと次々に攻撃をしてきます。
神聖ヒアント帝国の艦艇ならばともかく、味方の背中にも遠慮なく攻撃するとは、魔族には被害を抑えようという思考回路は存在しないようですね。
「何ですの何ですの何ですの…!? こ、これが人族の海軍!? これが、あの貧弱な人族の兵器だというの!?」
天族の方は結構驚いている見たいですね。人族に対する認識がかなり改まっている様子です。
現実逃避したところで、積み上げた人族の技術力は強いものです。それは確かに存在する事になりますから、つまりは人族と戦争するならばこれを相手取れという事になりますね。
天族の方も多少は懲りた事を願いましょう。
 
いよいよ防壁が崩れそうというときでした。
魔族の大群の中より、すごく強力な敵の気配を感じ取りました。
目をこらす先に、それは居りました。
「…あれは、無理ですね」
思わずつぶやきます。
何が無理か、と? それは、感じるのですよ。あの何十万もの魔族の大群の中で、明らかに次元の違う存在として、自分の気配感知がすごい反応をしているのです。
あれだけは本格的にまずい敵である、と。
警鐘ですな。
アルデバラン様と互角、いや下手したら若干上かもしれません。
いったい何かと言いますと、島と見間違えるほどに巨大なアノマロカリスです。それしか言いようがありません。
資料でしか見た事ないですが、太古の地球に存在したという海の支配者たる生物そのものの姿をしている山どころか島のような巨大な魔族が一体いるのです。
それが何かはわかりませんが、その魔族が攻撃態勢に入っていました。
口らしき場所に青白く輝く球体が形成されていきます。
その圧倒的な気配と言い、自分の中でそれが放たれれば防護魔法なんぞ紙防壁にすらならない事態になるという予感がしました。
超巨大アノマロカリスの標準がどこを向いているのかは分かりません。
しかし、警告だけはするべきと思い、自分は艦隊司令に急いで言いました。
「艦隊司令殿! 航空戦艦隊が危険です! 有人艦を直ちに海に下ろしてください!」
「!? わ、分かりました! 伝令!」
幸い超巨大アノマロカリスの攻撃はため時間が相当かかるようです。
艦隊司令の指揮のもと、航空戦艦が有人艦を優先的に海に降下させていきます。
なんとか有人艦である60隻を下す事ができました。後は無人艦を下ろすだけです。
そう思っていた矢先に、ついに超巨大アノマロカリスの攻撃が放たれました。
–––––!
一瞬、凡ゆる音が消し飛びました。
一瞬、凡ゆる光が飲み込まれました。
青白い球体から放たれた巨大な光線は、文字通り目では追えない速さで防護魔法を到達すると、それをやすやすと消し飛ばし、空に浮かんでいた100隻からなる無人の航空戦艦群を、たったの一撃で存在そのものを完全に焼却してしまいました。
かなりの間隔を開けていたにも関わらず、船や都市どころか山でも易々と収まりきりそうな極大の青白い熱光線は、残骸の1つもこぼす事なく掠った、ギリギリで外れると思われた航空戦艦でさえも余波で蒸発させて、跡形もなく消しとばしたのです。
防護魔法はその維持を不可能となり、艦隊もろとも消し飛んでしまいました。
「な…何だ、と…!?」
艦隊司令が唖然とします。
アウシュビッツ群島列国の艦隊も同様です。
人的被害が出なかったとはいえ、今の一撃はこちらの昂った士気を霧散させるのには十分すぎる破壊力でした。
その圧倒的な一撃は、敵だけでなく味方の士気までくじきました。
魔族の軍勢の方もまた、明らかに超巨大アノマロカリスの一撃に怯み、身が竦んだ様子で、防護魔法が解かれた先に進むことを躊躇っています。
というより、体が動かなくなったのでしょう。
戦場を一時の静寂が支配しますが、それを敵の超巨大アノマロカリスは待ってはくれません。
今度は明らかに海上艦艇、それもこの旗艦を狙う形で再び青白い巨大な火球を形成し始めました。
それを見た自分は、即座に艦隊司令に叫びます。
「艦隊司令殿! 動きを止めてはなりません、次が来ます!」
「…ッ!? わ、分かりました! 野郎ども!」
自分の叫び声に、旗艦の乗組員たちは我を取り戻してくれました。
艦隊司令の号令のもと、すぐに動き始めます。
あれを撃ち出されてはそこで終わりなので、魔族の兵が固まっている隙にアノマロカリスに攻撃を仕掛けるべく、艦隊が動きます。
初撃は航空艦隊を狙ってくれたおかげで何とかなりましたが、二撃目は海上を進む艦隊を狙っています。
それが撃ち出されれば艦隊は勿論、水平線のないこの世界においてはその遥か先にある大陸にも甚大な被害が出る事は火を見るよりも明らかでしょう。
そのためにはアノマロカリスがあの攻撃を放つ前に、それを阻止するしかありません。
幸いな事に、アノマロカリスのため時間は相当なものです。
魔族軍も混乱の中で動けないでいますし、妨害がない状態で進めるので接敵には十分間に合うでしょう。
「倒そうなんて無茶な考えは捨てておけ! とにかくあいつの攻撃を撃たせない事だけに集中しろ! 雷撃魔法で痺れさせるか、氷結魔法で凍らせるか、麻酔で眠らせちまうか。とにかく何でも試せ! 行くぞ野郎ども! 気合入れろ!」
「「「「「サー、イエッサー!」」」」」
「勝ったら大陸の英雄だ! 金も酒も女も好きなだけ本国から貰えるぞ! アウシュビッツ群島列国の海軍に入った時から、海に命かけると決めてるだろうな!?」
「「「「「もちろんでありやすぜ、提督閣下!」」」」」
「恐れるな! 立ちすくむな! 勇者の旦那もいる! 全艦突撃!」
呆然としている魔族軍の数は多いですが、木偶です。
敵軍の懐に入るなど、いざ復帰されて仕舞えば退路がなくなりますが、今はあの超巨大アノマロカリスを止める事が何よりも優先される事柄ですので、構わず急いで進みます。
一方で自分は神聖ヒアント帝国の艦に乗り込み、乗組員にかけられている洗脳の魔法を次々に解除しました。
「こ、ここは…?」
「ヨホホホホ。申し訳ないのですが、魔族を止めるために力を貸していただけませんか?」
「はい!?」
そして事情を説明し、次々に味方に引き込んでいきます。
もともと彼らも同じ人族ですからね。魔族戦とあれば結束して何歩というものでしょう。
旗艦に帰った自分に、艦隊司令は神聖ヒアント帝国の艦隊が並走してきた事に目を見張ります。
「ゆ、勇者殿!?」
「ヨホホホホ。ご安心を。自分が洗脳の魔法を解除してきました、彼らは味方です」
「おお! ありがたい、勝ちの目が出てきましたな!」
超巨大アノマロカリスの攻撃で洗脳の魔法をかけていた魔族までも驚いてすくんだおかげでしょう。かなり容易に解除することができました。
一方で超巨大アノマロカリスは艦隊が接近しているのも構わず、標準を変更しません。
どうやら最初から大陸を狙っていたようです。
だとすれば、囮は使えないので力で止める以外方法はないでしょうね。
いよいよ超巨大アノマロカリスに接敵します。
「突っ込んででも止めるぞ! 全艦隊、撃ち方始め!」
近づいてみると本当に巨大なそのアノマロカリスに、艦隊司令の号令のもと、人族の連合軍は一斉に艦隊の砲火を放ちます。
中には本気で突撃する艦もありましたが、その艦の大半は無人艦のようでした。
「接舷じゃ! 乗り込んで目を潰せ!」
有人艦も遠慮なしにアノマロカリスの巨体に突撃して、乗組員が上陸していきます。
もはや上陸であってますね。
超巨大アノマロカリスは巨大な島です。大きさは計り知れませんが、戦えない事はありません。
とはいえ、アノマロカリスにとっては何ともないようですが。
接舷した部隊はアノマロカリスの目を狙うようです。
自分もまた、アノマロカリスに乗り込みました。
アノマロカリスの巨体は、上陸部隊がいるにしてもまだまだ砲火を食らわせる狙いを定める箇所は事欠かない巨体なので、艦隊の砲撃は止むところを知りません。
しかし、アノマロカリスの甲殻には傷1つ付けられない様子です。
「機雷を直接奴の体に落とす! あの口に爆弾を放り込め! 転移魔法陣を起動しろ!」
艦隊司令も動いています。
機雷を直接アノマロカリスの顔面に落として爆発により妨害しようという魂胆なのでしょう。
次々に投下される機雷が、アノマロカリスの顔面で無数の爆発を起こします。
上陸したはいいものの、何もできないので旗艦に一度降り立ちます。
「やったか!?」
はい、かえってきたら早々に艦隊司令が言ってはならないワードを繰り出しました。
最初見たときはすごい大爆発だなと感じた機雷攻撃も、島サイズのアノマロカリス相手だと大した事ないように見えてしまいます。
残念ながら、アノマロカリスの攻撃を妨害する事すらできていませんでした。
「くそっ! 諦めるな、撃ち続けろ!」
艦隊司令の号令のもと、砲火はさらに苛烈さを増大させます。
しかし、アノマロカリスにはまるで効果がありません。
その上、さすがに立ち直ったのか、他の魔族たちも動き出していました。
その全てが艦隊を狙い、集まってきます。
「艦隊司令! 他の魔族も動き出しました!」
「万事休すか…!」
艦隊司令が伝令の報告を聞いて歯ぎしりしているのが聞こえます。
迫り来る魔族の軍勢を迎撃するために、アノマロカリスに集中していた火力を分散せざるおえなくなりました。
ただでさえ艦隊の全力砲火すらものともしないアノマロカリスに、これでは対処のしようがないでしょう。
自分もまた、艦隊司令同様に万事休すの思いです。
自分の防護魔法では、あれを防ぐ事も軌道をそらせる事もできません。
海の先にはソラメク王国とおそらくカクさんたちがいます。
何か、他に手はないのでしょうか?
攻撃手段がなく、支援しか脳のない自分には何もできないという、今までは感謝こそすれ愚痴ることはない自分の与えられている力を、この時初めて悔やみます。
そうこうしている間にも、アノマロカリスの火球が光線を放つ時は刻一刻と迫っていました。
ヨホホホホ。つまり、アウシュビッツ群島列国のこの艦隊は桁違いの大艦隊という事ですな。
そう考えていたのですが、斥候の報告を聞いた瞬間に、人族ではという括りを思い知る事となりました。
「敵艦隊の概算が出ました! 神聖ヒアント帝国海軍は海上艦艇が12、潜航戦艦が18、航空戦艦が15、推定兵員が400! 見たところ艦隊の規模は小さい方です!」
「魔族を抜かせばこちらが圧倒的に戦力は上だが…魔族の軍勢は?」
「はい! ヨルムンガンドを筆頭に、推定80万!」
「80万か…軽い数だな」
平然と言い切りましたよ、艦隊司令殿。
ヨホホホホ。あの城塞都市でさえ、15万の魔族でしたが、今度は80万…それでも軽いとか、魔族の兵力って何ですかね? 飽和状態もいいところではありませんか?
自分の感性と人族の感性はかなりかけ離れているのかもしれません。
前回はカクさんと副委員長の火力バカが炸裂したからこそ圧倒できました。
自分には戦闘能力がほぼありませんから、広域殲滅は不可能です。
はっきり言って、自分って戦力になりますかね?
とりあえず、何かあったとしてもいいように艦隊の前後に巨大な防護魔法を展開します。
これで迎え撃つ準備をするとしましょう。
防護魔法は一方通行用に加工しているので、砲撃は通るようになっています。
自分にできるのはせいぜいこのくらいですが、何もできないよりはマシでしょう。
艦隊の方はすでに戦闘態勢が整っています。
「野郎ども! 我らには勇者殿が付いている! 勝利を信じ、敵を叩き潰せ!」
「「「「「サー、イエッサー!」」」」」
アウシュビッツ群島列国の軍勢の士気は高く、負ける事はないと信じきっている様子です。
しかし、あれがアルデバラン様の用意した軍勢とするならば、その脅威は恐ろしきものと言えるでしょう。
何しろ、アルデバラン様は転移魔法を扱えます。その気になれば増援をいくらでも呼び寄せることも可能でしょう。
アルデバラン様本人がいるかどうかはわかりませんが、あれはアルデバラン様の軍勢と見ていいでしょうな。
すごい数の軍勢が海を渡り、その姿を現します。
「奴らを蹂躙する! 全艦、撃ち方始め!」
艦隊が一斉砲火を開始しました。
ヨホホホホ。すごい轟音です。
当初はどえらい数を聞いて気が動転していましたが、これならば勝てるのでは?などという根拠のない希望的観測を抱くに至りますね。それだけ人族の艦隊が奏でる砲撃はすごいものがあります。
普通に、ミサイルみたいなのもありますしね。ロケット式ではなく、燃料が魔力でかつ重力を無視できるように浮遊系の魔法まで施されたミサイルは、そのまま向かって行って爆発する兵器のようです。光線兵器などもある事から軍事技術力では我々の常識さえも凌駕してますね…。
「転移魔法用意! 奴らの直上に機雷のあられを降らせてやるぞ!」
「「「「「サー、イエッサー!」」」」」
すると今度は艦隊司令の号令の元、魔族の放つ強化魔法を魔力に触れるたびに大爆発を引き起こる魔力反応誘爆機能を備えた機雷を、あろう事か転移魔法を用いて直接直上に叩き込む攻撃を開始しました。
大爆発が巻き起こり、無数の水柱が上がります。
おお〜。これは、まさにケイさんの大好きなアニメに出てくるテクノロジーを用いた攻撃にそっくりではありませんか。
転移魔法を用いた回避不可能な瞬間移動による攻撃は、空挺戦術の究極の形と言えますね。
この異世界の皆さんの軍事力って、すごいですな…。
「ハッハー! クソ魔族どもが、少しは懲りたか!?」
艦隊司令もはしゃいでいるようです。
なれましたけど、寿命を自ら縮めて勝利を遠ざけているのではと疑いたくなるフラグメイカーぶりですね。
「野郎ども! このまま行けば勝てるぞ!」
「「「「「サー、イエッサー!」」」」」
皮算用は死亡フラグですけどね〜。
ま、自分がいる限りは死亡フラグを回収させるつもりはありません。
敵を倒す事はできずとも、味方を守り救う事ができるのが『治癒師』というものなのですよ。ヨホホホホ。
死亡フラグごとき、何度でもへし折って差し上げましょう。
しかしながら、魔族がこれで圧倒できるのならば人族でも勝てたでしょう。
勇者として異世界人の自分達に頼るくらいです。魔族がこの程度で押されるはずもありませんでした。
群れが光ったかと思った直後、次々に各種属性の莫大な数の艦隊の主砲に匹敵するようなブレス攻撃を始めとする遠距離砲火が襲いかかってきました。
「ま、まずい!?」
艦隊司令が慌てる目の前で、魔族からの砲火は自分の防護魔法に阻まれてしまいます。
ヨホホホホ。これで人族の艦隊は多くがやられたのかもしれませんが、しかし今回は勇者たる自分が付いています。簡単に被害を出せるとは思わないでいただきたいものですね。
「ヨホホホホ。この程度であれば自分の防護魔法が防いで見せましょう。攻撃手段がなくて申し訳ありませんが、自分は守り癒す事を使命とする職種です。お任せください」
自分の言葉に、アウシュビッツ群島列国の皆さんが大いに奮いたちました。
「「「「「オオオオオオオォォォォォ!」」」」」
「勝てる…勝てるぞ!」
「魔族がなんぼのもんじゃい!」
「野郎ども、奮起しろ!」
「おっしゃあ!」
「俺らには勝利の笑神様がついてるぞ!」
ヨホホホホ。笑神様ですか。
いや〜自分にはぴったりのあだ名ではありませんか。ヨホホホホ。
笑神どころか厄病神だろうが、と? いえいえ、疫病神というのは災厄を背負い招き寄せる神様の事です。人々から災厄を吸収して背負う神様な事であり、本来存在しないはずの惨事を起こして撒き散らしては面白がる自分では断じてありません。
さすがに自分と引き合いに出すのは疫病神様に失礼ですよ。疫病神様が可愛そうではありませんか。こんな変態の例えに引用されては。ヨホホホホ。
それもそうか、と? それもそうですよ、ヨホホホホ。
潜航戦艦の方も、次々に魚雷を放っています。
あと、氷柱ミサイルですね。すごいですな魔法というのは。地球の兵器ではまず再現できない攻撃手段です。ヨホホホホ。
興奮しながらその光景を眺めています。
怪獣の群れと大艦隊の戦争というのは、いや〜男のロマンをくすぐる良いものではありませんか!
まあ、怪獣映画とは違うので最初から最後まで出来れば人族の圧倒的優勢で終わって欲しいものです。当事者の側に立ってみると、苦戦など悪夢ですからね。
すると、轟音に耐えかねたのか、天族の方が起きたようです。
もぞもぞと動く様子が気配に感じ取れます。
今はどうでもいいですけどね。ヨホホホホ。
一方的な砲撃戦により、魔族の数が削れていきますが、彼らに撤退の二文字はないらしく、構わず進軍を続けています。
このままではいずれ激突する事となるでしょう。
自分の防護魔法がありますが、正直接敵してからの味方からの砲撃まで受けて仕舞えば、防護魔法が持つ自信はありません。
それまでにどれだけ魔族の軍勢を削れるかに、勝負の趨勢がかかっていますね。
少しでも時間を稼ぐべく、魔族の周囲に催涙ガスを放ちます。
100体程度の魔族が引っかかり、後続の足を崩して進行速度を落とします。
しかし、焼け石に水程度の効果しかありませんでした。ヨホホホホ。
「撃ちまくれ、野郎ども! たとえ国は違えど、俺たちはともに魔族に立ち向かう人族の仲間だ! これだけは魔族にはない俺たちの強みだろうがよ!? 奮い立て!」
「「「「「サー、イエッサー!」」」」」
艦隊司令の激励に、艦隊はさらに奮いたち砲撃を加え続けます。
機雷も大量に投下され、次々に水柱を立てます。
こういうときに活躍して見せるのがケイさんの職種とかでしょうが、残念ながら自分にはまともな遠距離攻撃手段はありません。
一騎討ちならばともかく、大規模な戦闘となればどうしようもないでしょう。
回復役として戦場を駆け回ろうにも、ここまで大規模な軍勢同士が激突しては自分の手には負えません。
範囲の治癒魔法もありますけど、あれの場合は半径数キロを軽く覆う事はできますが、敵味方問わずに癒すので戦場の真っ只中で使えばむしろ味方の危機を煽りかねません。
面白くない事を煽る趣味はありませんよ。ヨホホホホ。
「な、なんですの!?」
天族の方が本格的に起きた様子です。
無数に砲火を鳴らすアウシュビッツ群島列国の大艦隊の攻撃による音は、それこそ空気を揺るがす大音量のサウンドです。
天族の方が混乱するのも無理はないでしょう。
大艦隊の攻勢は止む事を知らず、数々の砲火は次々に魔族の大軍勢に猛威を振るいます。
しかし魔族の反撃もより苛烈となってきています。
防護魔法に揺らぎが発生しました。
「ヨホホホホ。艦隊司令殿、申し訳ありません。防護魔法は後、維持できたとしても五分ほどです…」
「旦那! ならばそれまでに敵に打撃を与えるまで! 野郎ども、気合入れろ!」
別に魔力が持たないわけではなく、防壁の維持と修復が間に合わなくなりつつあるのです。
距離が近づけば近づくほどに、魔族からの攻撃も明後日の方向を向いていた攻撃まで集中して自分の展開する防護魔法に直撃するようになってきています。
それで防護魔法が揺らぎ出しており、持って後数分となりつつあります。
その頃にはワイバーンらしき魔族を筆頭に魔族の先陣が防壁に到達して攻撃を仕掛けています。
防護魔法は一方通行に設定しているので艦隊の砲火は通りますが、向こう側から通る事はできません。そちらの側から通りたければ強行突破でお願いします。ヨホホホホ。
アウシュビッツ群島列国の艦隊は最後の攻勢と言わんばかりに、砲火を撃ち荒らします。
天族の方が耳をふさぐ中、多数の砲火の撃ち合いが魔族の軍勢をより苛烈に攻めます。
しかし、魔族側は退く気配もなければ、味方に当たるのも御構い無しに防護魔法へと次々に攻撃をしてきます。
神聖ヒアント帝国の艦艇ならばともかく、味方の背中にも遠慮なく攻撃するとは、魔族には被害を抑えようという思考回路は存在しないようですね。
「何ですの何ですの何ですの…!? こ、これが人族の海軍!? これが、あの貧弱な人族の兵器だというの!?」
天族の方は結構驚いている見たいですね。人族に対する認識がかなり改まっている様子です。
現実逃避したところで、積み上げた人族の技術力は強いものです。それは確かに存在する事になりますから、つまりは人族と戦争するならばこれを相手取れという事になりますね。
天族の方も多少は懲りた事を願いましょう。
 
いよいよ防壁が崩れそうというときでした。
魔族の大群の中より、すごく強力な敵の気配を感じ取りました。
目をこらす先に、それは居りました。
「…あれは、無理ですね」
思わずつぶやきます。
何が無理か、と? それは、感じるのですよ。あの何十万もの魔族の大群の中で、明らかに次元の違う存在として、自分の気配感知がすごい反応をしているのです。
あれだけは本格的にまずい敵である、と。
警鐘ですな。
アルデバラン様と互角、いや下手したら若干上かもしれません。
いったい何かと言いますと、島と見間違えるほどに巨大なアノマロカリスです。それしか言いようがありません。
資料でしか見た事ないですが、太古の地球に存在したという海の支配者たる生物そのものの姿をしている山どころか島のような巨大な魔族が一体いるのです。
それが何かはわかりませんが、その魔族が攻撃態勢に入っていました。
口らしき場所に青白く輝く球体が形成されていきます。
その圧倒的な気配と言い、自分の中でそれが放たれれば防護魔法なんぞ紙防壁にすらならない事態になるという予感がしました。
超巨大アノマロカリスの標準がどこを向いているのかは分かりません。
しかし、警告だけはするべきと思い、自分は艦隊司令に急いで言いました。
「艦隊司令殿! 航空戦艦隊が危険です! 有人艦を直ちに海に下ろしてください!」
「!? わ、分かりました! 伝令!」
幸い超巨大アノマロカリスの攻撃はため時間が相当かかるようです。
艦隊司令の指揮のもと、航空戦艦が有人艦を優先的に海に降下させていきます。
なんとか有人艦である60隻を下す事ができました。後は無人艦を下ろすだけです。
そう思っていた矢先に、ついに超巨大アノマロカリスの攻撃が放たれました。
–––––!
一瞬、凡ゆる音が消し飛びました。
一瞬、凡ゆる光が飲み込まれました。
青白い球体から放たれた巨大な光線は、文字通り目では追えない速さで防護魔法を到達すると、それをやすやすと消し飛ばし、空に浮かんでいた100隻からなる無人の航空戦艦群を、たったの一撃で存在そのものを完全に焼却してしまいました。
かなりの間隔を開けていたにも関わらず、船や都市どころか山でも易々と収まりきりそうな極大の青白い熱光線は、残骸の1つもこぼす事なく掠った、ギリギリで外れると思われた航空戦艦でさえも余波で蒸発させて、跡形もなく消しとばしたのです。
防護魔法はその維持を不可能となり、艦隊もろとも消し飛んでしまいました。
「な…何だ、と…!?」
艦隊司令が唖然とします。
アウシュビッツ群島列国の艦隊も同様です。
人的被害が出なかったとはいえ、今の一撃はこちらの昂った士気を霧散させるのには十分すぎる破壊力でした。
その圧倒的な一撃は、敵だけでなく味方の士気までくじきました。
魔族の軍勢の方もまた、明らかに超巨大アノマロカリスの一撃に怯み、身が竦んだ様子で、防護魔法が解かれた先に進むことを躊躇っています。
というより、体が動かなくなったのでしょう。
戦場を一時の静寂が支配しますが、それを敵の超巨大アノマロカリスは待ってはくれません。
今度は明らかに海上艦艇、それもこの旗艦を狙う形で再び青白い巨大な火球を形成し始めました。
それを見た自分は、即座に艦隊司令に叫びます。
「艦隊司令殿! 動きを止めてはなりません、次が来ます!」
「…ッ!? わ、分かりました! 野郎ども!」
自分の叫び声に、旗艦の乗組員たちは我を取り戻してくれました。
艦隊司令の号令のもと、すぐに動き始めます。
あれを撃ち出されてはそこで終わりなので、魔族の兵が固まっている隙にアノマロカリスに攻撃を仕掛けるべく、艦隊が動きます。
初撃は航空艦隊を狙ってくれたおかげで何とかなりましたが、二撃目は海上を進む艦隊を狙っています。
それが撃ち出されれば艦隊は勿論、水平線のないこの世界においてはその遥か先にある大陸にも甚大な被害が出る事は火を見るよりも明らかでしょう。
そのためにはアノマロカリスがあの攻撃を放つ前に、それを阻止するしかありません。
幸いな事に、アノマロカリスのため時間は相当なものです。
魔族軍も混乱の中で動けないでいますし、妨害がない状態で進めるので接敵には十分間に合うでしょう。
「倒そうなんて無茶な考えは捨てておけ! とにかくあいつの攻撃を撃たせない事だけに集中しろ! 雷撃魔法で痺れさせるか、氷結魔法で凍らせるか、麻酔で眠らせちまうか。とにかく何でも試せ! 行くぞ野郎ども! 気合入れろ!」
「「「「「サー、イエッサー!」」」」」
「勝ったら大陸の英雄だ! 金も酒も女も好きなだけ本国から貰えるぞ! アウシュビッツ群島列国の海軍に入った時から、海に命かけると決めてるだろうな!?」
「「「「「もちろんでありやすぜ、提督閣下!」」」」」
「恐れるな! 立ちすくむな! 勇者の旦那もいる! 全艦突撃!」
呆然としている魔族軍の数は多いですが、木偶です。
敵軍の懐に入るなど、いざ復帰されて仕舞えば退路がなくなりますが、今はあの超巨大アノマロカリスを止める事が何よりも優先される事柄ですので、構わず急いで進みます。
一方で自分は神聖ヒアント帝国の艦に乗り込み、乗組員にかけられている洗脳の魔法を次々に解除しました。
「こ、ここは…?」
「ヨホホホホ。申し訳ないのですが、魔族を止めるために力を貸していただけませんか?」
「はい!?」
そして事情を説明し、次々に味方に引き込んでいきます。
もともと彼らも同じ人族ですからね。魔族戦とあれば結束して何歩というものでしょう。
旗艦に帰った自分に、艦隊司令は神聖ヒアント帝国の艦隊が並走してきた事に目を見張ります。
「ゆ、勇者殿!?」
「ヨホホホホ。ご安心を。自分が洗脳の魔法を解除してきました、彼らは味方です」
「おお! ありがたい、勝ちの目が出てきましたな!」
超巨大アノマロカリスの攻撃で洗脳の魔法をかけていた魔族までも驚いてすくんだおかげでしょう。かなり容易に解除することができました。
一方で超巨大アノマロカリスは艦隊が接近しているのも構わず、標準を変更しません。
どうやら最初から大陸を狙っていたようです。
だとすれば、囮は使えないので力で止める以外方法はないでしょうね。
いよいよ超巨大アノマロカリスに接敵します。
「突っ込んででも止めるぞ! 全艦隊、撃ち方始め!」
近づいてみると本当に巨大なそのアノマロカリスに、艦隊司令の号令のもと、人族の連合軍は一斉に艦隊の砲火を放ちます。
中には本気で突撃する艦もありましたが、その艦の大半は無人艦のようでした。
「接舷じゃ! 乗り込んで目を潰せ!」
有人艦も遠慮なしにアノマロカリスの巨体に突撃して、乗組員が上陸していきます。
もはや上陸であってますね。
超巨大アノマロカリスは巨大な島です。大きさは計り知れませんが、戦えない事はありません。
とはいえ、アノマロカリスにとっては何ともないようですが。
接舷した部隊はアノマロカリスの目を狙うようです。
自分もまた、アノマロカリスに乗り込みました。
アノマロカリスの巨体は、上陸部隊がいるにしてもまだまだ砲火を食らわせる狙いを定める箇所は事欠かない巨体なので、艦隊の砲撃は止むところを知りません。
しかし、アノマロカリスの甲殻には傷1つ付けられない様子です。
「機雷を直接奴の体に落とす! あの口に爆弾を放り込め! 転移魔法陣を起動しろ!」
艦隊司令も動いています。
機雷を直接アノマロカリスの顔面に落として爆発により妨害しようという魂胆なのでしょう。
次々に投下される機雷が、アノマロカリスの顔面で無数の爆発を起こします。
上陸したはいいものの、何もできないので旗艦に一度降り立ちます。
「やったか!?」
はい、かえってきたら早々に艦隊司令が言ってはならないワードを繰り出しました。
最初見たときはすごい大爆発だなと感じた機雷攻撃も、島サイズのアノマロカリス相手だと大した事ないように見えてしまいます。
残念ながら、アノマロカリスの攻撃を妨害する事すらできていませんでした。
「くそっ! 諦めるな、撃ち続けろ!」
艦隊司令の号令のもと、砲火はさらに苛烈さを増大させます。
しかし、アノマロカリスにはまるで効果がありません。
その上、さすがに立ち直ったのか、他の魔族たちも動き出していました。
その全てが艦隊を狙い、集まってきます。
「艦隊司令! 他の魔族も動き出しました!」
「万事休すか…!」
艦隊司令が伝令の報告を聞いて歯ぎしりしているのが聞こえます。
迫り来る魔族の軍勢を迎撃するために、アノマロカリスに集中していた火力を分散せざるおえなくなりました。
ただでさえ艦隊の全力砲火すらものともしないアノマロカリスに、これでは対処のしようがないでしょう。
自分もまた、艦隊司令同様に万事休すの思いです。
自分の防護魔法では、あれを防ぐ事も軌道をそらせる事もできません。
海の先にはソラメク王国とおそらくカクさんたちがいます。
何か、他に手はないのでしょうか?
攻撃手段がなく、支援しか脳のない自分には何もできないという、今までは感謝こそすれ愚痴ることはない自分の与えられている力を、この時初めて悔やみます。
そうこうしている間にも、アノマロカリスの火球が光線を放つ時は刻一刻と迫っていました。
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