異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)
14話
「な、なんだこれはアァァァァァ!?」
翌朝、自分は部屋の惨状に驚愕の声を上げたカクさんの大声を目覚ましとして、目が覚めました。
言わずもがな。こういうことをしでかす可能性が一番低かったはずの我らが常識人の鬼崎さんがやらかした部屋の破壊の惨状を見てのことですね。
お前のせいだろ!と? …ぐうの音も出ませんね〜。ヨホホホホ。
走って戻ってきたカクさんが、自分のくるまっている毛布を剥ぎ取って胸ぐらに掴みかかってきました。
「おい、変態–––––イィ!?」
そして、自分の面がホラー要素も込められる生成の面になっていたことにびっくりして、凄い勢いで跳びず去りました。
ヨホホホホ。漫画みたいなアクロバティックな動きです。スマホがあったら、写真に収めていたことでしょう。
まあ、気持ちはわかりますよ。
朝起きたら、部屋が半壊しているのですから。
寝ている間に何があったのかさっぱり知らないカクさんからしてみたら、何者かの襲撃を受けた後のように見えるでしょう。慌てたくもなりますって。
しかも、惨状は雷跡みたく黒焦げ。流石にカクさんと副委員長の喧嘩でもこんな惨状になることはないでしょうから。
…いや、ありえますね。カクさんと副委員長ならやりかねません。
兎にも角にも、まずは起きます。
ヨホホホホ。朝ですな〜。
「イシシシシ。おはようございます」
「…なんだ、貴様か」
飛び退いたカクさんは、何を思ったのか刀に手をかけていました。
どうも、自分のことをこの惨状を作り出した謎の襲撃犯とでも思ったようです。
まあ、この惨状の元凶は自分ですけど。
ですが、自分は謎の襲撃犯でもなければ惨状を作った犯人でもありません。作ったのは鬼崎さんです。誘導したのは自分ですけど。ヨホホホホ。
しかし、カクさんのリアクションもなかなかに面白かったですよ。
ヨホホホホ。朝から良いものを見させていただきました。
「…おい、変態奇術師」
「何でしょうか、仮称『H氏』?」
「そのネタはもういい!」
朝からテンションが高くなっているカクさんから鋭いツッコミを頂きました。
いいと思いますけどね。カクさんもあだ名で呼んでくれたのです。
仮称『H氏』。カッコいいと思いませんか?
カクさんが突然刀を抜いて、切っ先をこちらに向けてきました。
「貴様、今度は何を考えている?」
「おや、バレましたか」
「当たり前だ、変態奇術師!」
問答してから〜の、刀を振り下ろしてきました。
ヨホホホホ。自分もカクさんとはそれなりの付き合いというものです。
ヒラリと回避するなどお手の物。無駄に回転加えつつ颯爽と避けました。
何故回るのかについては、簡単なことですよ。
やられると癪にさわる動作だからです。ヨホホホホ。
「–––––あ」
結果、自分の使用していたベッド(帝国の物)が、カクさんの刀の一刀両断で真っ二つになった上に、勢い余って床にも切り込みを入れました。
「また、やってしまった…!」
カクさん、膝をついて頭を抱えてしまいました。
…ヨホホホホ。まあ、よくあることですよね?
召喚2日でここまで破壊を繰り返す輩なんているわけないだろ!と? 
いや…それはまあ、そうなんですけどね…。その、不可抗力といいますか…いちおう、被害は抑えているつもりなんですよ。
煽っていただろ!ですか? …は、反論の余地がないですね。ヨホホホホ。
「…真面目な話をしよう」
「…そうですね」
カクさんが刀を収めて提示してきた案に、自分も頷くことにしました。
さすがに、朝っぱらからこれ以上破壊工作をしてもなんの利益もないはずです。
…いや、この部屋は昨日の時点で破壊されているので今更ベッドを叩き斬られていたとしても、さほど目立つことはないと思いますよ。
とりあえず、自分はソファに、カクさんはベッドに腰を下ろして向かい合いました。
真面目な話というのは、もちろん異世界に飛ばされたというこの現状の中でどういう行動に出るかということに他なりません。
「さて…その前に1ついいか?」
議題に入ろうとしたカクさんが、その前にと言葉を止めました。
どうぞと促した自分に、カクさんは生成の面を示してどうしたのかということについて尋ねてきました。
「昨日の時点では持ってなかったよな? 他の面は。その面、おそらく『生成』だろ?」
「ヨホホホホ。よくご存知で」
「貴様が以前つけていたのを見たことがあるからな。1年の冬ごろにマイブームとしていただろう」
カクさんの言う通り、この生成の面は去年の冬にも結構な回数で使用していました。
しかも無駄に曲がり角やトイレ、教室の扉などで誰かと鉢合わせすることがあり、白式尉などに比べてより怖い面だったこともあり、一部の生徒にトラウマを埋め込んで騒動になった前科のある面なのです。
般若は平気なのに生成はトラウマになるというのは、なかなか面白い事実ではありましたね。
生成の面に関しては、その一件で使用禁止を学校に言い渡されていたので、2学年になってからは一度もお披露目していない面なのです。
カクさんはこの面の出所について尋ねてきました。
「異世界転移の際に面を持ち込んだのか?」
「ヨホホホホ。いえいえ。これはこちらで作成したものです。他にも十は作れましたよ」
「…1日でできるものなのか?」
普通はできませんよ。
でも、まあ自分の場合は特別なやり方で作っているので短時間での作成が可能なのですよ。ヨホホホホ。
そういうことにしておきまして、カクさんの追求を交わしました。
カクさんの方も、面に関してはどうでもいい事柄と判断しているらしく、深くまで追求はしてこなかったです。
追求しないのはありがたいことなのですが、なんか釈然としませんね。
まあ、別にいいでしょう。
さて、真面目な話題に移るとしまして、話し合うことは山のようにありますね。
「カクさん、そろそろ真面目な話題に入らせて貰っても?」
「貴様に言われるまでもない」
ベッドを破壊して落ち込んでいた状態からは脱却できた様子です。
早速、カクさんは魔法を使用してこの世界の人族大陸、そのネスティアント帝国を拡大した地図を作成して広げました。
つくづく便利な魔法ですよね。カクさん、それのどこが武士ですか?
まあ、侍の仕事には測量などもあったのであながち間違えではないと思いますけど。
ネスティアント帝国にて作成された地図を用いているだけあり、帝国内とその周囲に関する地理は都市名から村落に至るまでこと詳細に描かれています。
ネスティアント帝国の帝都に関しては、東は荒れている海が広がり、北と西にはそれぞれ大河と峻険な山がありその自然を生かした要塞の防衛線が展開されています。物流の多くは南の大街道と東の空港を利用した交易を展開しており、魔族の侵略に備えるべく空港毎には帝都の防衛軍を含め80隻を超える航空戦闘艦の艦隊が常駐しており、周囲の要塞の駐屯軍と合わせれば半日以内に大規模な戦力を帝都に展開させることが可能となっています。しかも、南の大街道には関所という名の要塞都市群が立ち並び、他の三方向に比べてならば攻めやすいものの守りに関しては鉄壁も鉄壁、どうやってこんな要塞都市を攻め落とせばと言いたくなるような守りに特化した立地を得て聳えていました。
そして、何よりもこの帝都には『バリギュエータ』と名付けられている超巨大な列車砲台が2つも備え付けられています。
これに関しては起動要塞とも言える巨大な魔族の一種である『タイタン・ゴーレム』や『ジャイガント』、巨躯を誇る『ミノタウロス』や『ヨルムンガンド』に対抗するするために作られているとのことです。
原理はレールガンに近いようですね。雷撃魔法と風魔法を駆使し、極限まで砲弾に加速を与え同時に反動と重量を殺す事により、列車砲として実用化を果たした強力な電磁砲と言います。
兵器も大半は遠隔操作によるもので、航空戦艦に際しても乗員はその大きさの割に非常に少なく、無人で動かせる艦艇もあるとのこと。帝都の防衛軍が重役の近衛や治安維持を兼ねつつも帝都に広がる巨大な防衛網を運転可能なのも、これに起因するとのことです。自動運転・遠隔操作技術に関しては、こちらが完全に負けていますね。
対魔族戦争を繰り広げてきたことと、魔法と技術を混合させて発展してきた人族の歴史により、こと兵器に関しては自分たちの知る21世紀の地球の軍事力と全く違う方向のオーバーテクノロジーで進歩を遂げてきた様子です。
その情報をどこで仕入れた、と? …ヨホホホホ。さて、どちらでしょうか?
一応密偵狩りをしていた際にはそれなりの自由行動を取っていましてので。それ以上は答えられませんね〜。ヨホホホホ。
事細かに記された帝国の防衛機構。
地図を見下ろしながら、カクさんは溜息を零しました。
「これでも、魔族が本気を出せばまともには戦えないほど脆弱だというのだからな」
「ヨホホホホ。自分たちにこの要塞を攻略しろと言われても無理ですと答えるしかないですよね」
帝都の防衛機構の状況を確認した自分たちは、ぶっちゃけ俺たちいらなくないか?という感想を抱きつつあります。
それでも召喚されたということは、ひょっとしたら自分達には自分たちの役割、圧倒的な個の戦力を生かす戦いを展開する機会があるのかもしれません。魔族との戦争自体、自分たちの認識に当てはめればSF映画に出てくるような怪獣や宇宙生物とかが圧倒的にこちらより数が多い状況で攻めかかってくるというものの様ですし。むしろ、それに蒸気船とかで戦った人族の力と勇気がすごいと思います。
帝都の人口は約8万人。帝国全体に視野を広げればおよそ105万人の人族が暮らしています。
自分たちが皇女様に対して協力することを告げた場合、これだけの数の人々の命運を背負うことになりますね。
ゆえに、考える時間を貰った以上は、その選択を後悔せずに済むまで、納得できる答えを見出せるまで悩み続ける事となるでしょう。
当事者ですが、自分は流れ者ですよ。女神様に1人でも多くの生還を果たしてみせると言ったので、鬼崎さんたちが帝国を救うか見捨てるか決断した場合、どちらの決断であれ自分はついていくだけです。
自分はこれでも治癒師です。仲間を助けられずにいては、パーティの命綱の名折れというものでしょう。
これよりは帝国を勇者として助けるかどうかの選択をすることになるわけですが、そのための最初の方針をみんなが合流する前に自分たち2人で少しでも考えておこうという目的で始まった朝の会合ですが、カクさんは早速頭を悩ませています。
「奇術師。貴様なら何から始める?」
「早速ですか」
そして、早速ヘルプコールをしてきました。
自分だって、いつでも求められている答えを返せるわけではありませんよ。その時々で個人としての意見を出しているにすぎませんから。
カクさんがこの様子では先を思いやられます。
頭いいのだから、自身の意見も出してくださいよ〜。
しかしまあ、この先伸ばし返答考えたの自分ですし、そこからの方針もある程度の案を作り上げてはいます。
というわけで第一段階ですが。やはり何から調べていくことにするかに関しては、とりあえず仲間の情報収集からが良いのではないでしょうか?
自分たちのできることの把握は、この帝国を救うか否かの選択を講じる上で重要な項目の1つに当たると思いますので。
「…そうだな。まずはそこから始めるか」
カクさんは丸ごと採用しました。
ヨホホホホ。別に数式でないのだから、自分の意見も間違うことが多くあると思いますよ。正解があるかでいうなら、微妙な問答になりますけど。
…正解なんてないですよね。後悔しない選択をするというのが自分たちの目的なのですから。
選択肢を得たカクさんは、先ほどまでの意見でません状態からは即座に脱して、すぐに方針を決めていきます。無から1を生むのは不得手でも、1を100や1000に上げていくのは得意なタイプですよね、カクさんは。
「必須項目は職種だろう。職種は使える魔法にもかなり影響が傾いている様子だし、魔法の扱い方によって何ができるかも大きく変わってくる。全員で互いの情報を共有すれば、役割分担や連携も取れるしな」
「そうですね〜。ヨホホホホ。ではまず吉報を1つ」
カクさんの判断は早いですね。
それに対応してと言いますが、偶然に近い産物としてこちらも職種の情報を既に得ています。
鬼崎さんが知っていてカクさんが知らないというのはフェアでないでしょうから、ここは情報交換ということで教えて差し上げましょう。
ということで、自分の方から鬼崎さんの昨日に聞き出した職種の事をカクさんに教えることにしました。
「なんだ?」
あからさまに不信になるカクさん。
そんな、毎回ふざけた情報は出しませんて。自分だってごく稀に吉報と称して本当に吉報を届けることくらいあります。
ごく稀にじゃダメ、と? 存じておりますよ〜。わざとですから。ヨホホホホ。
「昨日の時点で鬼崎さんから職種を教えてもらいました。勝手にカクさんの職種も伝えましたけどいいですよね?」
「…いや、まあ。別に困る様なことではないからいいのだが…。しかし、早い上にまともな報告をしてきたのだな今回は」
カクさんから辛口を頂きました。
それはともかくとして、今回は本当に文字通りの吉報です。吉報と書いて冗談と読むとかはないですから、ご安心を。ヨホホホホ。
「鬼崎さんの職種は『魔導剣士』です。魔法と剣術を同時に駆使し、ロングレンジとショートレンジ、どちらの間合いでも戦闘が可能なアタッカーとしては万能の性能を持っていますね…この部屋の惨状も彼女の雷が生み出しましたから」
「魔導剣士か。確かに強力だ–––––って、おい! これ、鬼崎がやったのか!?」
カクさんはツッコミも冴えている様子です。
「まあ、勘違いでしたけど」
「勘違いで済むレベルじゃないだろ…」
カクさんには、鬼崎さんに副委員長の確認を頼んであることを伝えます。
今日のうちに、自分もケイさんと海藤氏の職種を聞いてくる手筈になっていることについても伝えます。
「そうか。なら、そちらは頼めるか?」
すると、カクさんは別で行くところがあるらしく、自分に後を頼むといってきました。
どういうことかというのを尋ねると、カクさんは物部君たちから話を聞いてくるとのことでした。
「リズからすでに向こうの6人が何をしているのかも聞いている。国防大臣の元で職種の扱いを学んでいるという事もな。彼らが何をできるかによっても、帝国を守る選択をした際には戦いやすくなるだろう」
「なるほど。了解です〜。皆さんには伝えておきますので」
カクさんなりに、何をするべきかについては決まっている様子です。
仲間の情報収集ができたら、また次の方針を固めるために今度は6人、もしかしたら物部くんたちも含めて12人で話し合うことになりそうですね。
「では、すぐに行ってみる」
「ヨホホホホ。お気をつけて、と言うまでもないですよね」
「貴様も抜かりなくやれよ」
「ヨホホホホ。お任せ下さい」
こうして初手の方針を固めた自分とカクさんは、それぞれの向かう先へと半壊している部屋を後にしました。
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