異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)

ドラゴンフライ山口(トンボじゃねえか!?)

8話

 まずは、異世界の勇者に頼らざる得なくなった経緯、つまり魔族皇国との大戦期の歴史解説から入ります。


「私たちが皆様に頼らなければならなくなった今日の帝国の現状の前に、まずこの世界の成り立ちから話させていただきます。皆様の世界の歴史とは大きく異なるかもしれません」


「悪いけどそういう難しい話にはついていけない。オレは抜ける」


 はい、歴史と聞いて早速1人おりました。
 副委員長はすでに爆睡モードになっていますし。ケイさん、降りるの早すぎますよ。いえ、退学とかが懸かっているわけではないし、やることに関して直接的な関係ないからと言いたくなる気持ちもわかりますけど。
 いいじゃないですか。自分たちの知らない世界の歴史の話ですよ? 自分はこういうのは大好物ですので、ちゃっかり戻ってきました。
 誰も気づいていません。さっきの空席埋まっているのに、向かい合っている皇女様たちも全く気づいていないですね。気づいたときの反応、これは面白くなる予感がしますね。


 戻って来た能面妖怪こと自分の存在に全く気づいていないまま、皇女様は我々の主観でいう異世界、クロノス神の背中に広がるこの世界の歴史。その一部である、魔族皇国との戦争の歴史を語り始めました。
 確かに、戦国時代となっている今の人族の国家群の状況を見るには、ダラダラ150年も続ける大戦期からたどる必要がありますよね。
 女神様は詳しく教えてはくれませんでしたが、皇女様の語る人族からの歴史は長い時をかけて多くの事が伝えられていました。エルフなら大戦前から生きている人も少なくないと言いますし、何百年の歴史が生き証人がある状態で語り継がれるのはやはり大きいのでしょう。
 何せ、エルフの寿命は500年に達するとも言いますし。す、すごいですね〜。こっちの歴史に当てはめると、戦国時代まで行きますよ。…こっちの戦国時代ではなく、我々の知る戦国時代ですからね。
 天族に至っては千年以上生きる個体もいるといいますし。
 女神様に詳しく教えてもらっていないのは、単に女神様があまりクロノス神様の仕切るこの世界に干渉も覗きもしないという律儀さゆえです。
 女神様、性格も美しいです。
 思い出したら頭から湯気が昇ってきました。今の顔、絶対に真っ赤っかですね。
 お前も人のこと言えない、と?
 いえいえ、相手は女神様ですよ。自分の片思いというか、信仰で終わりますって。
 相手は神様ですよ。そんな恐れ多い関係を本気で望むほど、自分の考えは無垢でも理想主義でも幻想家でもないですって。ヨホホホホ。
 能面被って『ヨホホホホ』と言っている変態に恋愛要素なんでつくわけないですよ。カクさんにフラグが立ったのは結構驚きでしたが、そこが終着でしょう。
 変態仮面奇術師にまでフラグが立ったら、その世界そのものを疑いますよ。


 ヨホホホホ。女神様を思い出すと、話が逸れてしまいますな。
 女神様にノックアウトされた自分に非がありますけどね。ヨホホホホ。


 皇女様の指示に従い、財務大臣であるアルブレヒトが地図を取り出しました。
 女神様にも見せていただいた、この世界の全図ですね。
 魔法には空を飛ぶものもあるので、文明の発達度の割に地図はかなりの正確さを持っていました。技術先進国であるネスティアント帝国の地図は、魔法的な測量と物理的な測量を組み合わせて描かれていたもので、空に上がり絵師が描いたような先代の大陸図と違い、非常に正確に記してあります。


 そしてその地図ですが、天界は人族にとって未知の領域なので記されておらず、人族の有する5つの大陸は16の国に分かれており、魔族の有する残す2大陸が巨大な海洋を隔てて存在していました。
 この辺りは女神様から聞いています。
 その魔族皇国が広がる2つの大陸。それを隔てる広大な海洋に接している国の1つが、ネスティアント帝国ですね。
 他にその海洋と接しているのは、ジカートリヒッツ社会主義共和国連邦と、アンカブリナ王国の2つとなっています。
 ネスティアント帝国の人たちが知っているかは不明ですが、ジカートリヒッツ社会主義共和国連邦でもクラスメイトが勇者として召喚されています。
 一応、150年前から続いている大戦期においてはこの5つの大陸の国々が1つにまとまっていたというのですが。


「事の始まりは、5つの大陸を統べた人族とこの2つの大陸に広がる魔族の国家の大戦から始まります。その以前の歴史においても、人族と魔族、そして天界と呼ばれる場所に存在する天族という種族、3つの種族は幾たびも戦争を繰り広げたと言われています。ですが、それに変化が起こったのが、今より170年近く前のことです。その年、魔族皇国の皇主が代替わりを果たしたのですが、新たな皇主となった魔族は人族の大陸に対して本格的な侵略戦争を仕掛けてきました」


 どうにも、こちらの世界では侵略戦争とか大義のない戦争がまかり通っている様子です。
 まあ、戦争に大義がないのは自分たちの世界も似たようなものでしたしね。何かと理由をでっち上げてでも戦争している世界よりは、開き直っているとも取れるこちらのほうがまだ、マシかもしれませんけど。


「魔族はもともと人族をはるかに上回る力と数を有しているのですが、個人主義といいますか、そういった気質が強かったために結束をしないという特徴がありました。そのため、人族側にとってこの戦争は初めて相手が本気で攻めてきた戦争であると言えます」


 結果、何においても劣っていた人族の国家は瞬く間に滅亡。生き残った人族は各地に散らばり小さな組織を形成して抵抗を続けるものの、大陸の完全制圧は目前まで迫ったとのことです。
 このばらけた組織が、後の人族の新たな国家というか、この戦国時代と化した多数の国家の原型となったとのことですが。
 ネスティアント帝国は新興国なのでこの時点では影も形もなかったそうですが、ここにて抵抗を続けていた各勢力は後に初期の国家を形成したと言います。
 皇女様の話によると、帝教枢軸連合となった初期国家で今も残っているのは、ヨブトリカ王国、アウシュビッツ群島列国、ファグラニカ帝国、神聖ヒアント帝国、ガーヴァナ教王国、エマンティア大公国、ソラメク王国、オラキス公国とのことです。人族側で特に連合の中心となったのが、ファグラニカ帝国とガーヴァナ教王国で、それぞれの帝と教をもじり、それが帝教枢軸連合の由来となったとのことです。
 枢軸の由来は天族の名乗る神国にあります。クロノス神に仕える者としての高いプライドを持つ天族は、自分たちがこの世界の中心軸であり、彼らにとっての他種族である、魔族はクロノス神の代行たる天族に仇なす大逆者、人族は小生意気に国家を作る程度の知性はある家畜のような種族として認識していることです。連合はともかく、この大戦期において連合のことを天族は『神国軍』と称しており、もはや人族は勘定にも入れてなかったらしいとのこと。
 本当に、人族は両方から見下されているのですね、この世界だと。異世界においては無駄にプライド高くなるのは人間だと思っていたのですが、それはこの世界だと当てはまらないようです。
 まあ、それはともかくとして。


「この地図を見る限り、魔族を追い払うことはできたと思うが?」


 カクさんの質問に、皇女様は首を横に振りました。


「人族は独力で魔族を退けたわけではありません。魔族が全ての大陸を席巻することに危機を覚えた天族が、滅亡寸前であった人族に味方してくれたことで魔族を5つの大陸より追い払うことができたのです」


 これが、帝教枢軸連合軍の結成とダラダラと150年も続く大戦期の幕開けというやつですね。
 それまでは敵であった天族と手を組んだことによりできた連合軍は、大戦初期においてはそこから勝利と敗北を多く重ねつつも反撃を繰り広げたと言います。
 ただし、勝利は大抵連合軍が、敗北は大抵天族軍単独がやらかしたという記録が多いとのことですが。
 その要因は、戦い方にあったと言います。


「当時の人族は正攻法はほとんど仕掛けず、土地に慣れていなかった魔族軍を相手に補給線の分断と散開した兵力を用いた昼夜を問わない散発的な奇襲攻撃、罠を駆使した戦術などを駆使し疲弊を誘い、瓦解したところを散らばった戦力をかき集めての決戦に挑むということを繰り返したと言われています」


 …なるほど。
 いえ、真正面から戦えないならそれが一番ですよね。
 それを受けた魔族の兵、多分トラウマ背負ってますよ。


「ですが、誇り高い天族は当時の勝利の為にどんな手も使っていた人族を蔑み、天族軍は多くの場合において人族の戦い方には参加することなく独断で魔族軍と正面から激突を繰り広げては敗北を繰り返したため、勝利を重ねる連合軍とは時を経るごとに亀裂が生じ続けたと言われています。今では魔族の脅威こそ海の彼方に追いやることができていますが、天族との関係は大戦以前、いつ戦争に発展してもおかしくないものになっています」


「…ひどい話だな」


 聞いていなかったと思われたケイさんが、思わずそう漏らしました。
 鬼崎さんやカクさんも呆れ混じりといった表情を浮かべています。


「5つの大陸より魔族を追い払うことに成功した頃、連合側はここで戦を打ち切るか魔族領に侵攻するかで意見が割れました。度重なる勝利で勢いづいた天族側は、侵攻に反対する人族側の連合軍を半ば脅迫する形で魔族大陸への侵攻を決定しました」


 …うん。バカでしょ。
 素人目にもわかりますよ。
 勝利を重ねていたのは、土地勘のない魔族軍相手にゲリラ戦法駆使して疲弊を誘い限界を迎え瓦解したところで決戦を挑むことによりなんとかなってきたのでしょう。もともと人族は魔族相手に正攻法で戦えば負けるしかないのですから。それが功を奏したのが勝利となり、何の下準備もなく正面から戦を仕掛けたのが敗北になったのでしょうよ。皇女様の話によると、人族の大陸を戦場とした戦となると、連合側が負けたのは大抵がいきなり正面から決戦挑んだ天族軍の独断による戦闘とのことですし。戦場は天界ではなく人族の大陸なのだから、天族軍はある意味足を引っ張っていると言っても過言ではないようですね。
 それが分かっているなら、あちらの大陸で同じように勝利を重ねることができると本気で思っていたのでしょうか?
 この時点で、まだ大戦の前半期といいますし。
 天族のことを女神様から聞いた話で勝手に理知的で頭がいいと思っていましたけど、この話を聞くと脳筋の集まりにしか思えなくなります。


 しかし、天族の後ろ盾なくてはまた魔族によって蹂躙される事になるのはわかりきっている人続側は、苦しい立場だったのでしょうな。
 どうやら魔族には人族を捕虜にする習慣は無いらしく、兵民問わず殺すか犯すしかしなかったとも言われているそうですし。皇女様によると、魔族側には天族は不倶戴天と敵としてみなすものの、人族は奴隷か畜生としてしか見ていない感性が非常に強いらしく話し合いすらしてくれないそうですし。天族も人族は劣等種どころかクロノス神が産んでしまった失敗作の種族だとか言って狩りや慰み者とする為の徴収という名の誘拐の対象にしているそうです。
 この世界において、人族は本当に迫害の対象になっているみたいですね。


「その侵攻は、なんとなく分かるが…結局、どうなったんだ?」


「敗北しました」


 カクさんの質問に、皇女様は真っ先にこう答えました。
 結論ですね。
 あ、カクさん気まずくなって視線をそらしました。


「連合軍は魔族大陸への侵攻を決定し、海を渡り初戦を制して海岸を確保しました。ですが、その日の夜に連合軍内で天族が人族の兵舎を襲撃するという事態がありまして…」


「…え?」


 鬼崎さん、思わず聞き返しました。
 いえ、自分も全くの同意見です。
 何があったんですか? 天族軍、今度は何をやらかしたんですか?


 皇女様の説明によると、当時の連合軍はゲリラ戦を繰り返したことによる名残か、もともと人族の正規軍人は最初の戦争でほとんどが死んでしまったことなどもあり極端な兵士不足となっていたことから、少年や女性の兵士も珍しくなかったそうです。
 えーと、つまり…そういうのに夜這いをかけたがっていた天族の軍勢が勝利で湧いたその晩に人族に襲いかかったとのことでした。


「昼の初戦、本当によく勝てたな!?」


 思わずカクさんからツッコミが入りました。
 いや、戦争なので不謹慎な感覚ですけど…。
 我々から見たらギャグのレベルですよ、その体たらく!


 その後は、言わずもがな。
 散々夜襲を受けていたことにトラウマ背負っていた魔族軍が、反撃とばかりに馬鹿げたことをしている連合軍に襲いかかったと言います。連合軍はほとんど抵抗できず、敗退したそうです。
 結果、最初の魔族領土侵攻は大敗で終わりましたとさ。


 人族よりはるかに強く、はるかに多い魔族にとって、自らの支配する大陸に人族が攻めてきたというのはよほどの屈辱であったらしく、そこからすぐに人族領への侵攻が始まりました。
 兵士が不足していた人族は、非力で少数でも戦える術を得るために、このころから魔法よりも技術を高める方向へ発展の舵を切り出していたそうです。
 この時点で蒸気船の建造を成功させていた連合軍でしたが、初陣となる海戦においては空と海中にも行ける魔族軍に完全に制空権を取られた状態で戦うこととなり、その海戦では魔族が得意とする魔法による飽和攻撃を受け壊滅的な被害を受けたそうです。


 確かに、空とか海中に戦力を配置して攻撃できるというのは、戦場において大きなアドバンテージとなるというのは我々の知る人類の歴史でも多く出ていますからね。制空権を取られた戦場はワンサイドゲーム状態になるといいますし。


 こうして易々とまたも侵略を受けることになった人族ですが、この2度目の侵攻を今度は季節という大きな味方をつけて魔族軍に挑んだと言います。
 ここに季節とかあるのでしょうか?
 そんな疑問も浮かびましたが、どうやら人続側の大陸には魔族側と違い冬がある大陸もあるといいます。
 冬があるというのが、やはりここが異世界だなと感じることですね。
 何はともあれ、またもなれない土地を進軍してきた魔族軍相手に、焦土戦法と雪中戦に引きずりこむ戦いをし、連合軍は魔族軍に大きな損害を与えることに成功しました。
 しかし、魔族軍も諦めるということを知らないようで、この侵攻においては制海権と制空権を取り全滅してはさらなる戦力を送り込むという数に物を言わせた物量戦法で挑んできたそうです。
 この世界でも例に漏れず、戦力の逐次投入は愚策以外の何物でもないはずなのですが、何しろ魔族の軍勢は軍隊蟻のような無尽蔵に近い戦力と痛みも凍えもしも恐れない人族とは根底から異なる精神があります。雪に凍えるのも確かですが、凍死するまで寒いことに気付くことなく進軍するという芸当もやってのけるため、もとより数で圧倒的に劣る連合軍の方が疲弊するようになり、遂には5つの大陸のうち4つが完全に制圧されるまでに追い込まれたと言います。
 その頃には頼みの綱である雪も溶けてしまい、人族は滅亡の危機に陥りました。
 何回滅亡の危機迎えれば気がすむのか…。いえ、人族のせいではないですよね。


「…何というか、すごい歴史だな」


 カクさんが呟いています。皇女様には聞こえていないようですが。
 それは自分も同意見ですけどね。


 さて、人族の連合軍はこの危機をどう乗り切るかということで、天族に頼るしかありませんでした。
 天族としても、やはり地上全てを魔族に席巻されるのは許し難い事態だったらしく、とある条件をつけて人族の味方に立ったそうです。
 その条件というのが、当時のエマンティア大公国公主とガーヴァナ教王国の教皇を天界に差し出せというものでした。
 この2人の国主は、絶世の美女と謳われていたそうです。
 すごく酷い条件でしたが、本人達も5つの大陸の奪還という人族の悲願のために人柱となることを希望し、帝教枢軸連合軍は再結成されました。どうも、天族は魔族領侵攻作戦失敗後に人族を一時見捨てていたようです。
 人のこと言えませんが、本当に天族は碌なことしませんね! 魔族大陸侵攻も元を辿ればあなた方が始めたことでしょ! そう言いたくなりましたね。


 さて、天族の力を借り受けた人族でしたが、この先の戦争は凄絶なものとなったそうです。
 人族の大陸という舞台に、天族と魔族は考えなしに莫大な戦力を繰り返し投入し続けて戦争を続けたとのことです。


「もとより魔族と天族は不倶戴天と敵同士。彼らの戦争の舞台は、多くが人族の大陸でした」


 大戦期において、この時代が最も壮絶な時代だっととのことで、だいたい大戦期である150年のうちの70年以上が当たったそうです。被害は両軍ともに莫大なものとなり、赤い砂漠と焼け野原が5つの大陸を覆い尽くしたとまで言われたそうです。
 結果、天族側が勝利し、魔族は2つの大陸へと退きました。
 さすがにこの時ばかりは天族も魔族領へ侵攻するという選択はできなかったようで、ここから約30年、魔族皇国と帝教枢軸連合は休戦の時代を迎えました。


 この休戦の間に、人族は再建を進めていきます。
 荒廃した大陸は見違えるように緑に溢れ、技術革新も爆発的な速度で進歩し、最盛期の1パーセントにも満たないほどに減少し100万人を切っていた人口も回復したそうです。


 そして、人族大陸への侵攻を諦めていなかった魔族は、30年たった頃に再び侵攻してきました。
 時同じくして、天族側も魔族との決着をつけるべく魔族大陸へと侵攻していきました。
 再燃した戦争は、人族ではなく魔族と天族の直接対決から火ぶたを切って落とされたそうです。
 この初戦の結果は、魔族の勝利。侵攻してきた天族軍をあえて魔族大陸に引き込んで勝利したと言われているそうです。皇女様によると、この戦に関しては人族側にはあまり多くの情報が来なかったと言います。


 こうして人族の大陸へと進んだ魔族の前に、かつての戦では一方的に打ちのめされて終わった人族の海軍が立ち塞がりました、
 ただし、休戦していた30年で人族の海軍は桁違いの進歩を遂げており、ふんだんな対空・対大型魔族兵器を搭載した艦隊を揃えていたというのが、かつてとの大きな違いだったそうです。
 魔法と技術を混同させ、大きな進歩を遂げた人族の海軍は、魔法ばかりに頼っていた時代遅れの魔族の軍勢をこの海戦において一方的に叩きのめす大勝利を得ました。
 制空権もなしにどうやってと思いましたが、そこは異世界独自に発展を遂げた技術がものを言います。この海戦で、人類は航空戦艦と潜航戦艦という新兵器を投入したとのこと。特に航空戦艦については、当時新興国であったネスティアント帝国が開発・量産を果たしたとのことです。 


 魔族皇国と帝教枢軸連合の長きにわたる大戦期は、ここから大きく動いて行ったとのことです。
 爪も牙も羽もなく、力も魔法も劣り、数も少なかった人族は、ここにきて虐げられていた時代から立ち上がる時を迎えました。
 クロノス神も人族のことはかなり気に入っていたようですね。
 天族も元帥が自ら率いた大規模な軍勢を送り込み、本格的な魔族大陸への侵攻が行われました。
 この時の侵攻は前回の大ポカと打って変わり、連合軍は魔族軍を圧倒し続けたそうです。
 人族を長く苦しめ続けた魔族皇国の皇主も討ち果たし、連合軍はまさに完全勝利の目前まで迫った、まさに人族の黄金時代でした。


 皇主を討ち果たしてから、残る旗頭である皇太子を倒すべく、魔族大陸最強の要塞に侵攻してそこも陥落寸前まで追い込みます。
 ですが、守備軍が最後の攻撃として要塞から打って出た日と同じくして、皇太子がかき集めた魔族の最後の正規軍が天族軍の元帥が人族国家の首脳達と共に集まっていた駐屯地に玉砕覚悟の攻撃を仕掛けてきたのです。
 この時、なぜ連合軍の国家元首の多くが集まっていたのか。
 それについてカクさんが尋ねると、皇女様はこう答えました。


「私の祖母である先代ネスティアント帝国皇帝はこの戦場を生き残った数少ない証人であり、私もその真相を聞かされています。あの日、天族の元帥は魔族並びに魔族皇国と大陸の戦後の処遇についての会議を行うために、人族の国家元首達を招集しました。人族が魔族に滅ぼされなかったのは、天族の力添えがあってこそです。その天族軍の元帥の呼び出しとあっては、人族に拒否権はなく、国家の首脳陣が最前線に集結するという状況は、こうして出来上がりました。
 それを魔族軍に知られ、結果襲撃を受けたのが、魔族皇国の再建につながったのです」


「…勝ってもねえのに何してんだよ」


 ケイさんの呆れた一言に、皇女様はただ面目ないと顔を伏せました。
 我々は、誰も皇女様も人族も責めてませんて。
 結果、侵略戦争なんて続けられるような状況ではなくなってしまった連合軍は魔族大陸から撤退し、長く続いた大戦から資源の奪取や空白となった領土のかすめとりを目論んだなど、様々な理由により人族国家の連合軍は瓦解。人族の国家同士で戦争をするようになり、内戦に等しい戦国時代へと突入したとのことです。
 連合が瓦解して脅威が去ったすきに魔族は立ち直り、皇国は生き残っていた皇女を主として再興を果たしかつての2つの大陸を統べる大国に返り咲きました。一方で、散々だった連合軍の足引っ張っていた筆頭格である天族との関係は急速に悪化し、今ではいつ人族との戦争に発展してもおかしくないと言います。その脅威にさらされるであろうサブール王朝では、こちらも勇者を召喚していますね。
 いつしか150年も続いた戦争は勝敗つかずのうやむやとなり、こうなったとのことでした。
 この辺りは女神様から聞いた通りですね。


「…以上が現在の人族の歩んできた歴史です」


「「「「「「………………」」」」」」


 一通り歴史を聞いた一同は、いろいろと考えが交錯しており、静かになっています。
 確かに、壮大な歴史ではありますよね。

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