異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)

ドラゴンフライ山口(トンボじゃねえか!?)

6話

 自分たちが説教を受けている間に、海藤氏は皇女様の案内の元、心配だからという事で先にケイさんを休ませているという部屋へと向かって行きました。
 鬼崎さんの説教をする間の剣幕に押され、周囲に残ってた双子の騎士をはじめとする兵隊さんがたは、誰一人動けずにいました。説教されているわけでもないのに、顔面が青くなっています。
 そして、自分たちといえば1時間の説教が終わる頃には燃え尽きた灰と化していました。


「私も皇女様の元に案内していただいてもよろしいですか?」


「は、はい…」


 説教を終えた鬼崎さんは普段通りの優しい顔に戻ると、双子騎士に案内してもらい部屋を後にしました。
 残された自分たちといえば、足が痺れて動けません。オロロロロ…。
 鬼崎さんが去り、双子騎士が去り、兵隊さんたちが心底同情しつつも崩壊した部屋の惨状を見てそれだけのことをやらかしたのだから何も言うまいという表情を向けつつ去ってから、残った自分たちは何をするのか?
 残った面子を考えれば、自ずと答えは一つですな。ヨホホホホ。
 何しろ、全くと言っていいほど懲りてませんから。


「…おい」


「…(ツーン)」


 どうして説教受けるに至ったのか、責任のなすりつけ合いが始まりました。
 ヨホホホホ。楽しくなりそうです。
 カクさんがそれに関する追求をするべく副委員長に声をかけましたが、副委員長は早速そっぽを向いて完全にシカトを決め込みました。


 とはいえ、それでもすぐさま再燃です。これは覆りません。
 シカトし続けるなら喧嘩にはなりませんが、こういう場合にカクさんは必ず禁句ワードを放り込んで爆弾に着火させるのです。お陰で絶対に無視できないワードに反応した副委員長が売られた喧嘩を買って、ラウンド3が勃発するというわけです。ヨホホホホ。


 予想通り、カクさんは爆弾を早速投下しました。


「狭量だ。身体的にも滑走路が相応しい」


「…オイ」


 早速爆弾投下しました。しかも毎回のように一番副委員長が気にしているナイチチを指摘する始末です。喧嘩を是が非にでも買わせたいという魂胆でもあるのでしょうか?
 あるならあるでそれこそ大歓迎ですけど。だって自分は面白いのですから。
 喧嘩は煽ってこそというものでしょう。なぜなら煽るのが一番面白いからです。ヨホホホホ。


 カクさんは、ドスの効いた副委員長の切れている声にも全く動じません。いつもの事ですが。
 中学校も同じで、しかもその頃からこのような関係だと聞きます。
 目が合ったら、声を聞いたら、罵声から始まり結局喧嘩になると。


 喧嘩を売りつけるカクさんは、さらに重ね掛けます。


「聞こえなかったのか。ではもう一度言おう」


 立ち上がれないのでお互い正座をしながらですが。
 カクさんは副委員長のピザ生地(周りに比べて発育の遅い箇所)を示して、重ね掛け爆弾を落としました。


「ピザ生地–––––」


「ギルティ…!」


 カクさんが言い終わる前に、副委員長のピザ生地–––––ではなく、本当にどこから取り出しているのかわからないサバイバルナイフの刃が閃きました。
 間一髪で、カクさんには届きませんでしたが。


 というか、カクさんも同じ例え出したんですね。ヨホホホホ。偶然とは面白いですな、ヨホホホホ。


 カクさんもあれだけ爆弾投下すれば襲いかかってくることは予測していたのでしょう。なんだかんだ言って、この2人も結構な腐れ縁のようですし。


「先に切りかかってきたのは貴様だ。確認したからな」


「指差すな。キモい」


「顎の骨裏返しにしてくれる!」


 はい、カクさんも切れました。
 ラウンド3、勃発です。
 カクさんもどこに仕込んでいたのか、いつの間にかその手にハンマーを持っていました。
 釘抜き付きハンマーです。釘抜き側で殴れば、確かに顎が裏返しになりそうですね。


 喧嘩して鬼崎さんを呼び寄せたら今度こそ地獄を見るというのに、懲りない人達ですな。
 そうは思いましたが、そんなことを恐れてこの面白い喧嘩の野次馬降りるつもりは毛頭ありません。ヒョッヒョッヒョッ。
 むしろここはどっちつかずで余計な油を注ぎまくるのが、要するに煽るのが自分というものなのですよ。


「カクさんも滑走路も頑張って下さいね〜」


「能面、メガネを預かっていろ」


「こいつの次、お前をギルティ」


 カクさんが放った老眼鏡を受け取る。
 と、同時に副委員長を完全に敵に回してしまいました。


 いやいや、滑走路は平坦でななきゃダメでしょう?
 凸凹や凹凸、穴とか天敵じゃないですか。
 副委員長さんのナイチチは、貧乳教教祖にふさわしいでしょう。ヨホホホホ。


「オイ、ウザイの」


「ヨホホホホ。何でしょうか?」


「潰す」


「もう潰れてますよね? おっと、潰れる前になかったですよね」


「…死ね」


 適当に副委員長の言葉を聞き返すと(わざと言った)、いきなりナイフを一つ投げつけられました。
 自分もカクさんのことが言えないと? ヨホホホホ。勿論わざとですよ。
 飛んで来たナイフをひらりと躱し、立ち上がろうと試みます。


「ヨホ!?」


 ですが、足が痺れて無理でした。
 カクさんも副委員長も同様のようです。


「…マヌケ」


 副委員長さんに笑われてしまいました。
 反論できないので、甘んじて受けるしかありませんね。『マヌケ』の称号。


「貴様も同じだろうが」


「…は?」


 ですが、対岸のカクさんはすかさず爆弾を投下しました。
 おかげで副委員長の矛先が移りましたが。
 カクさん、1人で置いていかれるのがよほど寂しいようですね〜。ヨホホホホ。


「おい、奇術師。また変なこと考えているだろ」


「おや? まだ読まれましたか」


 いつの間にか自然と翁の顎髭に手が伸びていたことに気づきます。
 カクさんもやっぱりよく見ていますね。さすがムッツリですな。ヨホホホホ。


 怒ったカクさんがハンマーを投げつけてきました。


「ッ!?」


 で、見事に自分の腹にクリーンヒットしました。
 想像以上の威力に、言葉が詰まりました。
 自分、お腹を抱えて撃沈します。ヨホホホホ…。


 残った2人は、当然また喧嘩を始めます。
 もはや会話や挨拶と同義なのでしょうか? あの2人にとっての喧嘩は。
 まあ、見ものですので止めませんけどね。今は撃沈しているので止めようがないですけどね。
  
「これで邪魔は消えた。今度こそ貴様の減らず口を塞いでやろう」


「ムッツリ。死ね」


 カクさんはパイプレンチを、副委員長は肉切り包丁をまたもやどこからともなく取り出して、喧嘩を再開しました。足が痺れているのでお互い正座でですが。


 1、2回に打ちあうだけですでに部屋が軋みを上げ始めています。
 そして風圧に押されて、自分は転がるように飛ばされました。それを利用しある程度の距離をおきます。
 今回は防護魔法も展開していないですし、この部屋は消し飛んでしまうでしょうな。
 消し飛んでしまうのも仕方ない事かもしれませんけどね。ヨホホホホ。説教確実ですね、ヨホホホホ。鬼崎さん絶対に怒りますよね、このままだと。
 …面白いので止めなくてもいいですよね。ヨホホホホ。


 2人は2人で喧嘩の真っ最中ですな。
 あまりにも腹が痛くなったので、女神様より授かりし治癒魔法を用いて治しておきました。ついでに足も治したので、もう痺れていません。胡座に座り直して、観戦に移ります。
 せっかく仕留めたのに!とカクさんが悔しがりそうですので、今回は煽らずに静かに観戦するとしましょう。


「逝け!」


「貴様が逝け!」


「変態!」


「そういう意味じゃない!」


 まあ、自分が煽ろうと煽るまいとヒートアップしていくのには変わりないですけどね。
 もはやお互い喧嘩の相手しか見えていません。ヨホホホホ。これだけ言うと、お熱いカップルのやり取りにしか聞こえませんね。実際はそんな甘い話ではないのですが。


 床の石もボロボロで、既に凸凹状態です。足場はかなり不安定となっていますが、カクさんも副委員長も喧嘩をやめるつもりは毛頭ないらしく、真剣に打ち合っています。


「くたばれ!」


「ギルティ…!」


 …口汚く罵りあいながら、内容が薄くて中学生の悪口にしか聞こえませんが、それでも真剣に喧嘩していますよ。多分。証拠に、この部屋が壊れていってますから、余波だけで。
 天井知らずの破壊行為ですな。異世界召喚に際する勇者補正、なかなかの高性能と見受けます。
 そういえば副委員長のさっきから言っている『ギルティ』ですが、気になりますね。新しい口癖でしょうか?
 どうであれ、似合ってますよ。ヨホホホホ。


 一応距離は取っていたのですが、なにぶん喧嘩しているのは超人と化した異世界人の高校生(勇者)です。流れ弾として飛び交う破片の嵐は、容赦なく自分にも牙を向いてきます。
 それらを防護魔法で防ぐのではなく、支援魔法を用いて自身の身体能力や動体視力、反射性能を強化することにより、回避という形で凌ぎつつ観戦しています。
 一応、何もしないわけにもいかないので、早めにこの勇者補正付きの体の能力にも慣れなければいけませんから。不思議なほどに違和感が薄いのですが、やはり歯車が微妙にかみ合っていないというか持て余している感じはまだ否めないので。備えあれば憂いなしと言いますし。ヨホホホホ。


 礫が不思議なほどにゆっくりと見えますし、自分の体もそれにしっかりと反応できています。面で視界を限られている自分にとっては、嬉しい性能ですな。ヨホホホホ。
 たまにガラスの破片とか、制服のボタンとか飛んで来ますけど。
 よく見ると、カクさんの上着の第二ボタンが毟り取られていました。
 副委員長に一矢やられた様子ですな。本人は気づいていないみたいですが。ヨホホホホ。


「このウジ虫!」


「…トロマ」


 カクさんの大振りの一撃が副委員長に躱されました。
 おかげで勢い余って、パイプレンチが残り少なくなりつつある石の床に衝突しました。
 あれは柱も通してあるので、壊れては部屋が完全に崩壊します。


「しまっ–––––!」


 予想通りというべきか、耐えきれなくなった部屋は完全に崩壊しました。
 ドンガラガッシャーン!
 …確実に聞こえましたよね、これ。
 説教タイム確定ですな、ヨホホホホ。


「…馬鹿じゃん」


「貴様ッ!」


 静かな副委員長の悪態に、カクさんが速攻で反応しました。
 流石にやったのが自分なのでそれを考えてか一瞬言葉が詰まりましたが、相手が相手なだけにそんな穏便に片付くことはありませんでした。


「貴様が躱すからこうなったのだろうが!」


「…は?」


 はい?
 い、今のは流石にないと思いますよ。
 その言いがかりには、自分は勿論の事さしずの副委員長でさえ言葉を失ってしまいました。
 カクさんとて、副委員長でもなければこのような言いがかりにはならなかったでしょう。
 曲がった事が嫌いなのがカクさんですから。
 ですが、副委員長が相手となると、こういう理不尽を是が非にでも通したがるのです。
 ちなみに、副委員長も同様です。カクさん相手なら、どんなおかしなことでもいちゃもんなどに変えてしまいます。
 副委員長はカクさんほど堅物ではないですし、それ以前に怠けてばかりいる人ですので、その頻度とかには違いがありますが。まあ、五十歩百歩ですな。どちらにしろ、それはねえだろと客観的に見れば言いたくなるものばかりです。


 当然、そんなことを言われた副委員長が黙っているはずがありません。
 カクさん以外の相手なら「面倒くさい、パス」とか言って完全にスルーしそうですけど、カクさんが相手ならば一言も見逃さないのです。
 本当、どこまで犬猿の仲なのでしょうか?


 こんな感じの2人を見ていると、喧嘩するほど仲がいいということわざを疑いますね。
 いえいえ、この2人が特別なだけで、その例に当てはまる関係というものも多く見てきましたとも、自分。この2人を見ている時には疑わしくなりますけど、本気でそんなことを思ったりはしませんとも。


 この2人は、無視すればいいのにとか、喧嘩になるのだから口に出すなよとか周りにしてみれば言いたくなる事も、必ず遠慮など一切なしに口にしては喧嘩に発展させます。
 副委員長も無視できなくても論破してやればいい筈なのですが、そんなことはせずにわざわざ同レベルまで落ちて口喧嘩をします。喧嘩して、また建物壊して、鬼崎さんの説教を免れなくなったというのに、それを完全に忘れて喧嘩に発展します。この2人の場合、一番の欠点は知り合ってしまったことではないでしょうか。
 まあ、自分としては面白いからいいんですけどね。ヨホホホホ。


「お前がヘッタクソなだけだろ」


「黙れ猿!」


「…死ね!」


 足の痺れからも脱却したらしく、2人とも立ち上がって喧嘩を始めました。
 ヨホホホホ。部屋壊したばかりなのに、全く懲りてないですね〜。ヨホホホホ。
 あと口喧嘩の内容が幼稚ですね。ヨホホホホ。
 飽きませんね〜、この2人は。ヨホホホホ。


 支援魔法は一旦解除して、ここからは本格的に煽ることにします。


「副委員長、頑張ってくださいね〜。自分が保証しますよ。副委員長は、貧乳ではなく、教祖にふさわしきマッターホルンのごとき理想形で–––––」


「その能面割らせろ!」


「ヨホホホホ。当たりませんよ〜。ヨホホホホ」


 副委員長を応援しようとしたら、ナイフが投げつけられました。
 そんなものに当たる自分ではないので、軽く躱します。
 まあ、わざと切れるような言葉を選んだのは自分ですけどね。


「よそ見とはいい身分だな、貧乳!」


「…あ゛?」


 おっと、副委員長がブチ切れました。
 ここまでに何回繰り返したでしょうな? 血管、減ってませんか?


 その時、ふと背中から強烈な悪寒を催す視線を感じ取りました。
 それも、知っている気配です。こちらに、歩いてきています。
 2人は気づいていませんが、自分はそれが誰であるかすぐにわかりました。


「ヨホホ…」


 振り向かなければならないのですが、振り向けません。
 喧嘩に夢中な2人。
 そこに迫る足音。
 この気配は、間違いなくあの方ですね。
 お、終わりました…。
 覚悟してましたけど、いざ近づいてくると、ですね…。こう、逆らい難い恐怖が湧いてくるといいますか…。
 それでも煽るのやめませんけどね!


「お2人とも、正念場ですよ〜。ヨホホホホ」


 通路から出てきた鬼崎さんは、まっすぐに自分の背後まで近づいてきて、肩に手をかけました。


「ゆーがーきーくーん?」


「…ヨホホホホ。お2人とも、もっと派手にやってくださいまし!」


 振り向きたくありません。
 振り向きたくありませんので、現実逃避します。聞こえないふりをして、さらに煽ります。
 墓穴掘ってると? 自覚はしてますが、それでも喧嘩を煽るのはやめられないのですよ。ヨホホホホ。


 しかし、鬼崎さんは見逃してくれませんでした。
 自分の首に手をまわすと、チョークスリーパーを極めてきました。


「無視しないでね?」


「ヨホッ!? ゴ、ゴゴ…き、鬼崎さん…ギ、ギブ…」


「これは罰です♪」


「………!!!」


 タップを試みましたが、聞く耳持ってくださいませんでした。
 より力を込められて、自分、落とされました。


 そのあと2度目の猛説教を3人仲良く受けたのは、言うまでもありません。

「異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く