夢幻物語 守護者過去録 第2断章

森近 名森

第1章

 遥か昔にて、この地に戦争が起きた。この話はその戦争の98年程前の話である。この地には守護者という国を守る特殊な役職がある。 戦争の101年程前に初代守護者は、ある妖怪との戦いにて殉職したとされている。次に続く2代目はまだおらず、その候補は3年ほど前に大学を卒業した鹿辺 望霧かのべ のむという人間の青年である。守護者や守護者候補には、仕事の一点化を避ける為に補佐をつけるというのが決まりとなっていて、その補佐は、佐嗣 小次郎さつぐ こじろうという備前長船長光びぜんおさふねながみつの2尺8寸(約87.5cm)の刀の化身である。初代が死ぬ前の約3年ほど前にこの世界に現界した。

 季節は秋。ある日のあけぼのに彼らは黒電話にて呼び出された。望霧は、急いで食事を済まし、規程に定められた黒のスーツに身を包み、夢幻境中央部の結界管理局に向かった。彼が着いた頃には、もう既に夢幻境建界者であり、夢幻境守護者監査官を務めている生雲 護いずも もりという平安の貴族の衣類である十二単に似たようなものを身に纏っていた。そして目の前にはいつもの麻着物を纏っている小次郎が既にいた。ちなみに彼は、仕事などで服が汚れるのを嫌い、昔の百姓などが着る麻着物を愛用している。望霧は早く任務を終わらせたいのか、着いては直ぐに任務を聞こうとした。しかし、理由は別にある望霧の目の前に小次郎と別に彼の幼馴染である九山 冷花くざん れいかと大学時代の友人である針間 鋭治はりま えいじと堀 須綾(ほり さあや)と十間 和摩とま かずまがいたからだ。望霧は冷花とは、幼馴染であるのでよく会う事はあったが、大学時代の友人とは、守護者候補になっても会う機会はあったが少しばかりであった。彼は、いつもここに居るはずのない彼女らがなぜここに居るのかそれを聞きたいが為に護を急かしていたのだ。だが、護は何一つ早まらせる事なく普段のようにゆっくりと話を切り出した。
「今回みんなに集まってもらったのは他でもない本来守護者がやるべき任務の依頼よ。だけど今現在守護者は居ない。だから、守護者候補と守護者候補補佐が代行として任務を遂行するのだけれど、今回の任務は2人だけでは不可能であるとこちらで判断した…」
護が言い切るや否や望霧は遮るかの如くなんで⁈と疑問の言葉を投げたが、護は彼を制止させるかのように話をそのまま続けた。
「理由は3つ程あるわ。その1つは、今までの任務とは比べて非常に難易度が上がること、今回の任務では、もう既に死人が4人出たからよ。」
その言葉を聞いて皆が少し騒ついた。しかし、護は気にすることなく話を続ける。
「もう2つは、今回の任務は、月羅の民が関わるから、あなたたちも月羅の民の恐ろしさは知っているでしょ。そして、最後に3つが、敵の正体がいまだに不明であるからよ、4人も死人が出たのにも関わらず、敵の姿はおろか能力すら不明、しかも、犯人は5年も続けて度々犯罪を積み重ねてきたのにも関わらず捕まっていない。だから、今回の任務は、死を覚悟して挑んでちょうだい。」
望霧はまだ納得がいってなく、1つ護に質問をした。
「何故この者たちを呼んだのですか?護様。」
「あなたを殺されないようにするためよ。人が多ければ、対象を絞れないからね。」
望霧は、すぐさま周りの人を押しのけて、護の目の前に行き、机を強く叩き、声を荒げた。。
「つまり、こいつらは、俺に身代わりってことですか!こいつらに死ねと命じているのですか!」
護の顔は、より神妙な感じになっていた。護は、彼の言葉など耳に入れず、話を進めた。
「では、任務の詳細を話すわね。……」                               


 任務の内容は、月羅の民が起こしたと思われる殺人事件の調査と討伐である。月羅の民とは、月に住む特殊な一族である。特徴としては、左胸部あたりに卯の梵字の痣があり、目が紅く染まっている。その目ゆえに赤眼の悪魔とも呼ばれている。しかし、眼が紅いのは月羅の民の中でも高位の者だけである。彼らの目的は、この国もといこの夢幻境の支配である。


 話が終わり、小次郎以外のみんなは任務を遂行するために単独行動を始め、部屋から出た。出るときに針間が望霧に対し、死んだら殺す。お前を倒すのは俺の役目だ。と去り際にそう言って任務に向かった。彼は、大学に入学した時から、望霧に勝ったことがない。それ故である。その他のみんなも去り際に望霧と少しばかり会話をして、針間に続いて任務へ向かっていった。望霧は、作り笑顔を辞めた時、なんで…とそう言葉を零した。護は、望霧に突然
「化け物には、化け物でしか倒すことは出来ない…。」
そう言った。それに反応して望霧が振り返ったが、もうその場に護は居なかった。

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