パラノーマル的日々

ノベルバユーザー100696

パラノーマルな日常の

 キャップを被る少年が一人、両手から怪奇現象を産み出します。普遍的な世界でそんな事が急に始まるのでした。
 両の掌を上下違わせるようにしっかり合わせその両手を逆の形になるように同時にひねる、そして手のひらを対象に押し付けます。たったそれだけです。するとどうでしょうか。モノが吹っ飛ぶ吹っ飛ぶ。
    事実、少年が自転車をふっ飛ばしていました。自転車は少女の横を通り過ぎ暗い夜道に放り出されます。
「良い感じだ、凄いぞこの力! これで絶対やり返せる。」
「残念ながらそうはいかない。」
 夜中ながらの曇り空の下、街灯がコンビニ近くの違法駐輪自転車を照らしていました。その光量の向こう側、ついさっきのひしゃげた自転車に男が足を掛けながら話しかけてきました。
「誰だよ。」
「答えは、とりあえず同類で良いですか?」
 すぐさま走り出す男、彼は少年に警戒心はあるものの油断もあったと踏んでいましたが、彼にも「うわ」油断がありました。
 自転車を踏み抜いてバランスを崩した彼を少年は少し見るや背後に向かって走り出します。
「また油断。」
「捕まえるから黙らっしゃい!」
 少女に指摘を受けてもめげず、逃げた少年を即座に追います。
 どうにも人気のない路地、公園、夜道の通りを少年はひたすら駆けてもみますがどうにも振り払えず、隠れよう! 考えた彼はちょうど目に留まった工事用資材、ポールのような束の間に隠れます。
 息を殺し荒い動機を必死に静まり返らせ密かに通りすぎるのを待つのでした。ダッダッダッダッダとひたすら走るような音を聴き終えた彼は少し安堵の様子を見せます。
 しかし背中にそっと物質を感じた彼はすぐに振り向きました! 小さい手のひらがすっと離れて少女が後ろの穴からゆっくり身を引いているのです。後ろから回り込まれた事に呆気に取られたものの、すぐさま我に返った少年は急いでその場を離れます。
「まあ待て。」
 ですがすでに回り込まれていました。資材の裏から出てきた少年は勢いで後ろに逃げ込もうとするも先ほどの少女がしっかりと目線を送っていました。気後れした少年は思わずたたらを踏んでたじろぎます。
「何で逃げるかは知らんが用事はあるから手っ取り早くやらせてもらうよ。」
 焦った少年は、両の手を違わせるようにしっかりと合わせ互いを上下にひねる、そして手のひらを対象に押し付けます。たったそれだけです。するとどうでしょうか。モノが吹っ飛ぶ吹っ飛ぶ。
 ポールの雨の出来上がりでした。

             間

「おはようございます。」
 よい育ちをうかがわせる少年は登校途中の近所の顔見知りに声をかけていました。
    彼は気弱ではあるもののこう言った挨拶はなるべくするべきかと行動するものの、声が小さくてはスルーされることもあり、どこかしょうがないと毎日思う。そろそろ梅雨も終盤にかかる日々の中、それが少年の朝からの行動です。
    しかし彼は住宅街の向こう奥にある高等学校を目指さなきゃならないので歩みを止めることはあまりません。たまににおっかなそうな人や車が目の前を通ったり赤信号に止められてもそれは変わりません。
    オドオドしてる彼は足取りも行動も少しふらふらしているため「あっとわるいね。」なんて人に言われてぶつかっちゃうなんてことも
    ただ相手は少し見知った久しい顔に出くわしたようでした。同学年同教室の及川常義おいかわつねよし
 先月に自動車事故で彼は吹っ飛び足を骨折して入院とのことでしばらく顔を見せていなかった、が今ここに松葉杖で居ると言うことは完治はまだかな? と少年は及川に問いかけました。
「まあね。」
 彼の性格上、その怪我に対してはどうにもあっけらかんとしているので、こちらもあまり追求するべきじゃないかなと彼の身体に何故か違和感がありましたが、少年は気にもせず続けます。
「心配になって。」
「見舞いにも来なかったのに?」
「病院わからないし電話知らないし。」
 そんな答えには良いよどむしかない少年。
「なんてね、逆にこれからなんか祝ってくれる?」
「じゃあ」
 と少し考えて少年はジェスチャーとして片手に持った何かを引っ張る動作をしました。
「今度クラッカーを鳴らしてあげるとか」
「ちょっとまて、お祝いだが行き着く先がクラッカーはおかしいだろう!」
 こうフランクな彼の行動に少年は戸惑ってこんな事を言ってしまいました。 軽快に接してくれるのはいいのですが少年はそれに対して上手に返事ができません。冗談だって本気にしちゃうのです。
 二人でしばらく歩いて行くうちに前方にそこそこの人数の同高校の制服が集まっております。そして同じ学校に向かっているのです。
「よし、お先に」
    松葉杖の及川ですがその流れに合流しようと右脚を引きずりながら少し駆け出します。少年も度々戸惑いますがその行動に感化され追いつこうとしました。
    しかしそれも中断するように、横道から明らかに及川より小さな体躯の誰かが横切りぶつかり、ただ及川の方だけが倒れそうになります。
    しかしとっさに腕を引かれたようで転ぶことはありませんでした。
「大丈夫かい?」
「は、い。」
 及川は真横に立つ男に突然のことではあるものだがお礼を思うも、その風格にたじろぎます。顔立ちからどこか外国を思わせ髪色も目立つ白髪、なのに身に付けているものは和服の上、外国人が勘違いをして侍を真似ているという感覚を覚えさせる風体に警戒心とは違う緊張感を感じた。
 そもそもぶつかったのはこの人にか?
 いや違うはず。何かもっと小さくてこうゴツさもなかったような。
    そしてよく見てみれば、もう一人居ます。
    及川もさほど大きくはありませんが、比べてもその少女は小さいので彼はとても気がかりになりました。
「ごめんね、ぶつかって。大丈夫?」
    彼らしく気にかけた言葉を投げますが、少女はただ男の方を見て眉毛をしかめてみてるだけ。
    その様子にたじろぐ彼ですがフォローを入れるように男の方が話しかけて来ました。
「こっちこそ悪いね。キチンと見張ってなかったからぶつけちゃって。」
    どうにか及川に弁明する男ですが、少女の方がどうにも納得がいってないのか男を見るばかり。
    いや、それよりも「いいんです別に、怪我もなさそうなら。」どうにもあの少女に跳ね飛ばされたような気もする及川でしたがそれよりも少年の方が先に気にかけてきました。
「大丈夫かい」
 「え?   あ、まあね。この人が支えてくれたし」
    及川は指差して男の事を説明してくれました。無事を確認して安堵した少年ですが及川の方は自分の状態もあってか「やべ、早く向かわないと」と少女と男に対して礼を言っては急ぎ出しました。
「じゃあ僕もこれで。ありがとうございます。」
    そして少年も駆け出すのでした。

                                              間

    あのまま無事に登校するつもりでしたが、少年が後ろの視界をギリギリ絞ってみるとなんだか付いてくる二人組がいました。
    どう見てもさっきの男と少女です。
    周囲の同じ学園生が思わず噂したりチラ見してしまうほどに目立っています。少年もどうにも気になるのですが声をかけるのも少々気が引けます。
    松葉杖なのにちょっと急ぎ足で歩いていたのか、前を歩いていた及川にも追いつきました。
「んー?」
「あ、あはは。」
    及川に追いついて出た少年の一言はとりあえずたどたどしい物で彼にも不審に思われます。
「どうしたの?」
「いやー、ちょっとね。」
    彼の行動に不信感を覚えた及川は少年の行動の裏付けとして彼の周囲を確認しました。
    ガッツリと目線がいってしまいましたがよく見ればあの二人組。急いで視界を少年に戻して彼はこう話しました。
「転校生?」
「ありえないから。」
    そう思いつつもチラッと見てみればやはり同じ方向に向かってるのが見えます。彼らも頭の中で方向のナビゲーションを組み立ててみますが、本当に同じ方向ならこのままだと確実に彼らの母校に着くことになりそうです。
「ねえ、ちょっと聞いてみてよ。」
「ぼ、僕が!?」
    唐突の及川の言葉にこれまでで一番驚きますが、及川はどうにもあの二人組が苦手なようで少年に押し付けてきます。どうにも戸惑うこと続きですが結局強要される形で再度話しかけることになりました。
「あの。」
    声が小さいのかスルー確実で二人組は進んでいきました。
「あの、二人組さん!」
    仕方がないので少年は普段とは違う声量を出して二人を引き止めます。
「なんだい?」
    真っ先に男の方が足を止めた直後に少女も足を止めて少年を見てくれました。
「この先うちの高校なんですけど向かうんですか?」
「そうなの?」
    発言からしてどうにもそんな情報など得ていない口ぶりに戸惑いながらも少年は話を続けます。
「この辺学生が多いんで目立ちますし、その」どうにも目立つから気になるとまで言いたいのですがその格好が目立つと指摘していいのかと、少年にとって言い淀む事が出てきました。
「あなたの格好目立つのよ。」
    とうとう小さい少女もそこを指摘してしまいました。格好もそうですが髪色だって目立つし   
少女だって目立つので大差はありません。
    けれども男の方はあっけらかんとして目立つからどうしたと開き直るように少年に聞きました。
「怪しまれますもちろん。」
「用意されたのこれだけなのよね。」
     どちらにしても言い草から変えられる様子もなく彼は思い悩みます。
「どうにかは後でにして、君は何かご用で?」
「え?」
「まさか、格好だけの指摘じゃないでしょ?」
     その問いかけに少年は言い淀みます。これに
何しに行くのか?  なんて聞いたりしたらどうなるのかちょっと不安が出てきたのです。
「なら、先に自己紹介だ。」
    とその前に男の方が両手を広げたりしてはにこやかにそう言い始めました。こんな相手の名前もわかってないんじゃ、話しづらいじゃないかと提案し出したのです。
「シニアシルバ、シニアでいいよ。」
「セリアです。」
道堂正之助とうどうまさのすけです。初めまして。」
    それぞれが名乗った事によって互いの空気も少々緩和されたのか道堂も少し雰囲気がやわらぎました。
「で、なんだっけ?」
「あー、えっと何しに学校に行くのかなって。」
    その問いかけに二人は顔を合わせて何か考えましたが少々間を置いてから話し始めました。
「やっぱり学校だったんだ。」
「通りで子供が多いはず。」
    二人はどうにも何も知らないような口ぶりで事を進めていきました。せっかく名乗りあったのに本当に何しにきたのか道堂はもっと不安になってきました。
「じゃあこんな朝早くからなんでこんな」
    と次の事を聞こうとした時、ハッと道堂は思い返します。時間やばくない? と。
「なんでかと言われれば」
「聞いといてなんですけどごめんなさい! 遅刻しちゃう!」
    彼は早々に切り上げる事にしてとっさに走り出しました。まだ間に合うはずと走るしかないのです。
「忙しない子だなー。」
「どちらにしても行くべきは学校ね。」
「調査開始ってわけね。」
    そしてふたりも目的地を目指し始めました。

                                              間

    登校時間にも間に合ってから道堂は無事に授業を受け続けています。及川もどうやらあの足取りですが先に着いていたようで授業を何事もなく受けていました。
   今朝にはあんなことがあっての登校でしたがとりあえず学業は全うしようとしています。
   そんな中の休み時間。及川が外の空気を吸いたくてベランダに寄ってみました。そしてふと校庭の方に目がいったりしたら、どう見ても目立つ先ほどの二人組の片割れ、男の方が閉まった校門の向こうに仁王立ちしてました。その異様な光景に及川は冷や汗が出てきます。少し視線を変えると教室内にて双子の和光兄妹と話し込んでいる道堂が見えたので呼び寄せる事にしました
「どうしたの?」
「校庭をみてみな。」
   彼も直後にその指示の意味がわかりました。
「シニアさん。」
「知ってんの?」
「目的聞く前に来ちゃってさ。」
「どっちにしてもあれ捕まんないのかな。」
   ただどうにも周囲には警官などの姿は見えないようなので未だ立ち尽くせるようです。どちらにしても目立ちはしてるのである意味時間の問題だと及川は思います。ただそう思ったのも束の間、向こうが気づいたのか及川と道堂に手を振ってきました。
   その行動に呆気を取られます。なんせここは五階のクラスなのですから相当視力が良くなてくては人なんて見分けられるはずないのですから。
「ねえ、及川くん。」
   ただそんな中、道堂は及川に後ろを見る事を促してきました。及川もそれに従い後ろを振り返りますが「なにさ?」と聞くしかありません。
「え? いや今女の子が。」
「どこに、いやそれよりもさ」
「ねえどうしたの?」「なんかあるの?」と先ほど道堂と談笑していた双子が気になったのかすでに窓辺に出ていました。そして双子も校門の目立つ存在に気付いたのか少し騒ぎ出しました結果。ほかも数人つられてベランダに顔を出してきました。
「何あれ外国人?」「銀髪だ銀髪。」「白でしょ。」「遠すぎて顔わかんなーい。」「誰か見てくれば?」「言い出しっぺいけよ。」「望遠鏡あるよ。」「双眼鏡な。」
   なんて軽く騒ぎ出したもんだからすでにベランダはごっちゃごっちゃしだしました。
「あれ、道堂?」
    その時、道堂はクラスを抜けて廊下の突き当たりにある、長方形の扉もない小さなベンチ部屋まで来ていました。なぜかというと。
「君はセリアちゃんだっけ?」
「覚えてたの正之助。」
    流石に今朝の自己紹介からこんな可愛いい名前忘れられないと道堂は思うのでした。
「どっちにしても都合は悪いから話しかけないでくださいね。」
「え、どいういう事?」
「聞かれるのも都合が悪いのだけれど。」   
    少女は表情をしかめるも何か思いついたようで指を鳴らします。
「お願い、見られたのだから少し手伝って欲しいの。」
「それよりも、こんな所に女の子一人で来ちゃダメだよ。シニアさんも校庭で待ってるし。」
「待たせてるの。話を逸らさないで。あなたにこれから協力してもいたいのよ。」
「えー」そもそのこの子は何を考えてここにいるのか検討がつかないので色々と迷い戸惑いながら話を聞こうとしましたが
「あれー? 道堂くん授業始まるよー」
    と親切な女子生徒が話しかけて来ました。
「あ、ごめんねセリアちゃん。あとで聞くよ。」
    そして二人は急いで教室に戻るのでした。
「ところで誰と話してたの?」
「セリアちゃんって女の子。」
「は?」
「え、なに?」
「空想癖でもあるのかなって。」
「ないけど。」
「変な独り言ね。」
    少女の態度が腑に落ちないのですが彼に疑心を抱かせるに十分でした。独り言と言われ空想癖もあるなんて言われて、よくよく考えてみればセリアのことは聞かれもしなかった。見えていたはずなのに。
 それはこの世ではありえない異なる出来事が起きた事を道堂に考えさせました。

                                              間

    幽霊なんて存在するっけ?
   そう思ったりしたら授業にも覚束ない状態になって道堂は一度ノートにまとめ上げる事にしました。
 先ほどの出来事を踏まえて、まずはシニアさん。彼は及川くんにも見えていたはずなので幽霊説はなく、そういえばセリアちゃんも及川くんにはぶつかっていたので幽霊であることはないはずでした。
 ただクラスメイトに姿が見えていないようでそういえば、ベランダの時は及川くんはセリアちゃんに気づけなかったのです。
   そうなると、と考え出す道堂ですがどんどん訳がわからなくなり、さらに授業どころではなくなって来ました。
   幽霊とか心霊現象とか超能力とかそこまでおぞましいこともないはず。では一体なんだというのか。
   ちょっと考えるために深く目を閉じて見ますが、次に目を開けると小さな折り紙が置いてました。正方形に綺麗に潰されてあるそれにとてつもない冷や汗と奇妙さを持ちながらも道堂は汗ばむ右手を少し握っては開きながら、パッと開いて見る事にしました。
   待ってなんてられないから筆談にさせてもらうわ。
   彼の席は最後尾真ん中の真ん中、前も右も左も見て見ますがなんの反応も痕跡も見当たりません。周囲の誰かが置いたならそれなりの反応も示すはず。それすらないのです。
   とにかくどうしようもないので待って見る事にしました。するとその甲斐あってか次のメモが飛んで来ました。誰もいないはずの真後ろからです。
   ゆっくり振り向いて見ると誰もいないことがわかります。人の形なんて何も視界に映らずただ、置き手紙があるばかり。
   不思議に思うでしょうけど現実よ。姿なんて見えないでしょうけど、すぐ側にいるわ。
   すでにこちらの行動を察しているのか、内容はこちらの返答を待たないものでした。ともかく続きを読むしかなさそうです。
   あなたに噂を流して欲しいの、隣のクラスにそれをお願いするわ。なるべくいろんな人に、伝えて欲しいのよ。
   そして内容というのは

                                              間

「一昨日から自転車壊しがいるんだって。」
    道堂は隣のクラスにいる双子の妹にその事を話しだしました。彼女は自転車通学ではないのですが、その友人間には必ずいるはずなのでとりあえずいろいろ話を織り交ぜながら注意を促していく事にしました。
    そして織り交ぜた内容には他のも壊して回ってるかもとか、いろいろ危険性がある事を示唆しながら話を交ぜていきます。
 曰く自転車破壊は本当のことだが他にも可能性を示唆する事によって噂の拡散率は上がるはずだからと、その上注意喚起のみなので拡散もしやすいはずと予測して放たれた噂。
 しかも何故か不思議な尾ひれを付けるように言われました。両手で触っただけで吹っ飛ばして壊すらしいと。
 これに関して道堂とんでも無く困惑していましたが、これを流すことによって格段に犯人を特定できるらしいようです。手段がバレているぞという事で確かに動揺を誘えるかもしれないと道堂も考えますが、なに分その立たせる煙がとんでもだった事には内心あの少女はイカれているかもしれないと考えちゃいました。
    けれども結果、三日後にはセリアの思う通りに道堂の学年にはありとあらゆる器物損壊魔がいる事の噂が広がっていきました。しかも尾びれも加わって。
「やることは終わった?」
「ええ、もちろん終わらせたわ。」
 そして校門にて落ち合った二人はそのまま視線を校庭に向けて居ました。今朝出会った二人のうちの一人、松葉の彼がまた知らない三人組と一緒にいるのをしばらく眺めます。側から見れば普通の友人関係に見えますが彼らには松葉の彼の様子が少々おかしく見えました。
   しかし彼女達は次の行動を翌日にしました。
   一方その日の夕方、道堂はセリアの目的が掴めずトボトボと帰り道を行くしかないのでした。どうしてあんな小さな子が注意喚起する為に学校に来たのか。それどころか、クラスにいても全く誰にも気づかれていなかった。
   夜になりベットに入る頃にはどうでも良くなってましたが、遠くでサイレンが聞こえたりするとふと昼間のことを思い出しては頭が再び巡ってきたりしたのでした。

                                              間

   翌日の学校にて、昼食時間の後セリアは呼び出す形で道堂を昨日と同じ場所に集めたのです。
   何をするのかと言うと今度は昨日みたいに回りくどいことはなく直球でした。
「この噂を広めたのはただの注意喚起じゃないの、校内にいる犯人の動揺を誘うためです。」
    本当に直球な事を言うのですから道堂は鳩が豆鉄砲どころか国会議事堂の屋根が吹き飛んでいったくらいの唖然とした言葉を投げられたのでした。ただ信じられない道堂はそんなまさかと返事をします。
「は、犯人なんてこの学校に。」
「事実いるのよ。そういえば、昨夜何人か人間にも被害があったみたいだし」
    次々出てくるとんでも話に道堂は思わずベンチに座り込み、両頬を抱えて黙想し始めます。この子は何者なのか。何が目的か。
「どうしてこんな事をしているのかと聞きたいかもしれないけれど、それより犯人を燻り出さなきゃ。」
「これ以上何か学校にするんですか!?」
「危険なことはしないわ。それより協力して欲しいのよ」
   この一言はどうにも道堂に躊躇をうかがわせます。これ以上この子に付き従って良い方向に向くのか。確証も信頼も自信も何もない中での判断を余儀なくされてきた道堂です。
「な、にをですか。」
「犯人の目星はついてるの。この学校に、嘘つきの松葉杖の子は今どのくらいいるのかしら?」
「そんな誘導尋問あってたまるか!」
    もう彼には一人しか思いつきません。こんな二者択一にもならない事が道堂にとってとても息苦しい事でした。学校の中から犯人を疑わなきゃいけないと思ったら、それがクラスメイトの一人なのです。
「そもそも動機は何だよ。」
「人間関係っぽいけどね。」
「どうやってその自転車の破壊と昨日の事件が同一犯だって。」
「今の彼にその手段があるのよ。ふざけた話だけどね」
「そもそも入院してた彼は昨日学校に来たばっかだよ? 松葉杖だってしてるのにリスクがありすぎる。」
「退院して直ぐには会ってないでしょう? それに彼の嘘を見破ってみればそれはメリットになるわ」
 苦悩の表情を浮かべる道堂にセリアは少し眉間を歪ませますが、彼から出てきた言葉は彼の性格を表した言葉でした。
「確証が取れればいいんですね。」
「なに?」
「犯人なんていない確証が取れれば、もうこれ以上この学校に変なことはしないんですね!」
   彼は何を考えているのでしょう。セリアはあまりそこを探る事を考えませんが、この協力者なりにやりたいのだろうとは思いを汲み取ってみることにしました。
「どうする気なの?」
「僕がいいと言うまでは手を出さないでください、全て僕がやり遂げて証明します。」
   そうして彼は実行を放課後に移すことにして、昼休みのチャイムが終わる前からすでに着席をして時を待つことにしました。
 松葉杖の生徒なんてこの数日でたった一人しか彼は見かけてないのです。他を探そうと思うのですがセリアはわざわざこの学年に絞ってきました。ならばもう始めるしかありません。
    彼なりの行動を。

                                              間

 ゆっくりと彼の背後に近寄ります。楽しげに笑っている彼は道堂に気がつく事なく話し続けています。周囲の人も彼の悪ふざけだろうと何だか付き合ってくれますが、彼がクラッカーを持ち出した時には思わず表情が強張って行きました。
 悪いけれど止められるわけにはいかないので速攻で行動します。パアァン! と予想にも及ばない程デカイ音が鳴ったため周囲はもちろんでしたが鳴らした本人も度肝を抜かれてしまいました。
 ちなみにキチンと狙い定めた及川も度肝を抜かれて思わず前に駆け出します。そして鳴らした本人を確認できた及川。
「いや、用意できたからね」
「まさか実行するとは思わねーよオイ!」
 本当に急な事に落ち着いた及川と周囲から問い詰められる道堂ですが、彼もまた及川のある行動を確認できました。嘘とはこれなのか。歩いた。彼は松葉無くして歩いた。
「ねえ及川くん。」
 これはもう引き返せないかもしれない。
「なんだい?」
「いや、最近変な事を吹き込まれてさー。」
   とりあえずこんな事はさっさと済ませるに限るので、とにかく軽やかなステップを見せるように一気に話を進めます。
「とっても変わった子に器物損壊魔っていうか昨日の夜人を襲ったて言うかそんな危険人物がこんな学校にいるって言うしなんか及川くん疑ってる奴らなんかいたりするし、そもそもこんなところで犯人探ししたって僕たちにはどうしようもないのにもー酷い話が飛び交っててもー参っちゃうよハハハハハハハハ。」
    軽快というよりは単純に水の勢いだけをよくして流すように話の内容を打ち出しただけでした。
   どうにも回りくどい言い方なんて思いもつかなかったのでどうせならと勢いでいこうと言う計算に変わっていただけでした。
「そっくり言ってやるわ、そんな直球に聞く奴がいてたまるか」
 途中に聞こえた相変わらず周囲から見えない少女の言葉にうるさい! と思うも乾いた笑いを続けるしか今の道堂には思いつかないのですが、そんな中でちらっと彼の様子を見て見ることにしました。
   修羅と言うんでしょうか嵐の前の静けさと言うんでしょうか、どうにも道堂の当たって欲しくない予感は動き出したようで、その及川の佇まいに一気に冷や汗が出てきます。
「お、及川くん。」
「どこだよ。」
   彼は両の掌を違わせるように合わせ、道堂との間にある机に近寄ります。
「何が?」
「お前に!」
   次の瞬間に及川が机を下から突き上げたと思えばそれは宙を舞い、教室のガラスを突き破ってベランダに投げ出されました。
    程々に教室に残っていたクラスメイトも突然何が起こったのかわからず呆然とその大元を見るばかり。全ては及川に注目があつまっていました。
「答えろ、そんな事を話したのは誰だ。」
    焦りか怒りか他の何かか、感情を絞れないほどに及川表情は固く、すべて道堂に向けられいました。道堂はこれからどうするかなんて一向に考えていませんでした。だって彼がこんなことするなんて信じていなかったから。それだけです。
「一体誰なんだよ。」
「落ち着いてよ、どうしてだよ及川くん。」
「どうしてだってなんて。」
   するとベランダからまた一つ鈍い音が聞こえました。しかも、それはいつからそこにいたのか、立っていたのはありえない人物でした。
「シニアさん。」
「来てくれ!」
    道堂は唐突に腕を引かれて教室を出ようとしますが、また不思議なことに目前には姿見。勢いがあったために止まることなんて出来ず、ぶつかってしまいました。
 するとどういうことでしょうか、風景は一新されとても高いフェンスの軍団に囲まれて大空も刻々と夕方を迎えようとしているような景色でした。
 そしてこんなにも空に近いのは明らかに高いところに移動したようで、すぐ側のフェンスから下を見てみれば見覚えのあるトラック校舎があります。
   どうやらいつのまにか出入り禁止にされている屋上に連れてこられてしまったようです。
   及川はどうにも混乱しておりますが道堂はこの仕業ができる人物に心当たりがありました。とにかく辺りを見回して色々と探していると見覚えのある明るい黒髪の少女が反対のフェンスからこちらを見ているのがわかりました。
   まだ様子は見てくれているようなのでこの隙に畳み掛けないといけません。
「及川くん。」
「そうだ道堂聞いてくれ。」
   しかし真っ先に言葉を挟んだのは及川でした。
「変な噂とか流して俺を疑わせた変な奴がいるんだろう。最近つけられてるし、危機が迫ってる気がする。だからよ、力を貸してくんねえか。あいつらを追っぱらいたいんだ!」
   彼の焦りから出てくる言葉に道堂も動揺していますが、それ以前に及川の姿にどうにも心揺さぶられる自身がいて、どうするべきか考えていきます。彼自身はどうにか冤罪だと道堂に信じて欲しいのでしょう。訴えかけてくるその姿勢に道堂もやるべき事を決めました。
「わかった道堂くん。」
「それじゃあ。」
「説得してみせる。」
「は?」
    道堂はセリアの方に向き直り、彼のために新たに踏み出す事を決めました。
「セリアさん! シニアさん! 彼はきっと何もやってません。だって彼には動機がない。どう見たって無実なんですよ。一体誰が見たって言うんですか。あんな噂を拡げたって意味はなかったんです。うちのクラスに犯人なんていなかったんですから!」
   道堂はハッキリと自分の思う事、考え、そして信じることがあるからこそこの主張を上げていきました。
「なあ、道堂。あの噂を拡げたのはアイツラじゃないのか?」
「ごめん、そそのかされたんだ。ただの注意喚起だと思ってたし」
「しかも今何してんだ、アイツらに声なんて届かないだろ」
「原理はわからないけれど居るんだ。そこにハッキリと。」
「あー? 本当だ、なんで居るんだよ。今見えて来たわ。」
「あの子達は僕に委ねてくれた、だから僕も僕の思いをしっかりと返そうと思う。及川くんはそんな人じゃないって。」
「じゃあなんで黙ってたんだ。あいつらとつるんでたこと。」
    そして及川は道堂の手首を取り上げ、まるで人質を取るかのような態勢に移り変わります。
「それ以上寄ってみろ。こいつをここから吹っ飛ばすぞ!」
「急にどうして。」
「どうしてだと、笑わせるんじゃねえ!    完全にグルじゃねえか。何がそそのかされただ、何が動機がないだ。俺に黙ってやってることまだあるんじゃねえか!」
「何を黙ってろって言うんだ。」
「だいたいさっきの言うこと全てな。種を植えなきゃ実がならねえように、俺を信じる根拠が一切なかっただろうに。ただ聞かされて無闇に水を与えてるだけだ、地面を掘り返さない貴様はバカだって言いたいんだよ!」
「君が嘘をついてたことかい?」
「そうだよ嘘に。いや、待て。隠してはいたが嘘はついてないぞ。」
「君がもう完治してるのに松葉杖を付いていたことは隠し事がかい?」
「なんで?」
「違和感はあったよ。ギプスがないんだもの。確信したのは言われからだけど。」
「やっぱりお前も嘲笑ってたんだな! ぶっ飛ばしてやる!」
「そんなことして、何になるって。」
「知らねえよ、少なくともこんな状態にはならなかったろうな。」
「そんなわけないだろう。」
   口論も佳境の中。どこからか少女とも少年とも思えないこの中から出てくるはずのない声が聞こえて来ました。逆光で表情は見えにくいのですがそれでもそのシルエットは特定の人物を表していました。
「シニアさん。」
「降りて来て、子供じゃないんだから。」
「どっちにしてもさ、君は連れ出そうとしたんだ。一人でも逃げていいのに。なぜなんだい?」
「友人に助けを求めて何が悪い!」
「その友人を今盾にして居るじゃないか!」
   そう言ったときにはすでにシニアはその場に居ません。とても高くとても遠く、彼が跳びだしたしてすぐに着いたのは及川と道堂の目と鼻の先でした。
「凄いだろ。」
   そうしてすぐにシニアは手を突き出し及川の額にデコピンを放ちました。綺麗に中心めがけて当たった及川は頭を綺麗にのけぞらせてそのまま後ろに座り込みます。立ち上がれない彼はそのままシニアを睨むだけです。
   シニアは近づき及川に手を伸ばそうとしました。けれども及川は彼らから死角になるように背中で両の掌を違わせながら合わせ、上下にひねり。そしてシニアに襲いかかりました!
   けれどもシニアにはそんなものは何のその、いとも簡単に真正面から止められてしまいます。立ち上がって向けた両手も両手首を掴まれた及川はそのまま微動だにも出来ず、今までで一番の焦りを憶えました。
「お、いかわくん!」
「なんでだよ!    どうしてこうなっちゃうんだ!    お前らだってアイツらだって、人のことをなんだと思ってるんだ。入院してても見舞いにはこない、退院しても全員無関心。あげく学校に来た早々嘘だったけど怪我をしてるふりをしてもそれを笑った上に原因はそのアイツらだぞ!    頭おかしいんだよこの世の中にいるやつは。」
    今まで溜まっていた思いが爆発したようで彼は喋り続けます。もう心の中に何もとどめて置けないのでしょう。
「そして手に入れた力でやっちまったのかい君は。」
「一人だけな! 川に突き落としてやったよ。後はびびって自滅してさ、全員そのまま階段から落ちちまってさ。笑ってやりたかったね!」
「冗談にならなかったんだろう、その力は人に使ってはならない。」
「だとしても俺の特別な力だ! 好きにさせろよ!」
 しばらくは取っ組みあっていたその手から、今は抵抗する意思も伝わってこないことをシニアは話をしていくうちにゆっくりと感じてきました。
「けれど、もう使わないよ、満足したから。この力はやっぱり危ないんですね。それに使っていると嫌なことを思い出す」
「ああ、そして俺たちにはそれを取り除いてやることができる。」
    そう宣言した彼を信じてシニアは手首を離してやることにしました。
「万事解決しそうね。」
「よかった。」
    と後ろで見て居た二人も安堵しようとしましたが道堂はふと思ったことをセリアに聴き込みました。
「及川くんの言って居た特別な力ってどうなるの?」
「あたし達が消すわ。まあまだ残ってるから彼には油断しないで欲しいのだけ。」
    そう言葉を口に出したところでふとセリアは思い返しました。かれは先ほど能力の発動条件を満たしていた。それがまだ消えたわけではないはず。
「シニア! 彼を支えて!」
   なんて言ったのも束の間、へたり込んだ及川は両手を地面に押し付けてしまいました。
   するとどうでしょうか。その体は空中に浮かび上がり飛んで行ってしまったのでした。
 地面にとても大きい凹みがありますが衝撃よりも及川の方が軽かったのか、吹っ飛ばす力は及川に作用してしまったようです。
   そして彼はフェンスに直撃の上、古びて居たのか押しのけてそのまま学校の校庭に落とされようとしています。
   気を抜いてしまったとんでもない出来事に道堂は阿鼻叫喚すらあげ損ないました。
   全てがゆっくりしているように思える程、校庭が見えてしまった及川は目をつぶりますがガクンと体が一瞬沈んだだけでどこも痛くありません。すこし首が締まる感覚がありますがどうにも無事なようで目を開けば宙に浮いていました。
「下手に動いたら全身赤くなるぜ。」
    そう聞こえた方を見るとシニアはとっさに動けたのか必至に及川の服を掴んでいました。
「及川くんは無事?」
「そのためにも手伝ってよ!」
    セリアを見るといつの間に取り出したのかロープを引っ張っていました。その先につながっているのはもちろんシニアのようです。その後慌てて道堂が加勢するも夜風も強く吹き始めてとても怖い体験を交通事故以上にした及川は、引き上げられても顔を真っ青にするほど放心してますが、なんとか救助も二人組の目的も達成することが出来たようでした。



















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