ブラザーシスター★コンプレックス
№11 『無双』
*****
もうどれ程の時間、命を懸けた激しい鬼ごっこを繰り広げただろう。
最後の鎌を引きちぎり、敵の脳天めがけて拳を降り下ろした。硝子が割れるような音と同時に大きな眼はひび割れ、降り下ろした拳を抜くと頭部に空いた穴からは噴水のように緑色の液体が溢れ出す。
「まさか、関節以外もこう脆かったとは……」
もっと早く気づいていれば、最初の一匹との鬼ごっこで時間を取られず囲まれる前に逃げ出せたのにな。俺を中心に修行場には同じ姿形をした昆虫型魔物が数十匹手足を引きちぎられた状態で転がっていた。
勿論、全てトドメの拳を頭部に打ち付けられており行動不能となっている。
えっ? 逃げていただけなのに何故だって?
確かに関節が弱点だと思い、好きあらば狙いながら逃げに徹していた俺だったが、間違えて胴体を蹴ってしまった時に固いと思っていた敵の輝く装甲は、意図も簡単に壊れ、大きな図体は宙を浮き、二メートルほど吹き飛んだ事から俺に勝機が見えたのだ。
それからはもう無双状態である。
敵の攻撃さえ当たらなければどうと言うことは無い。避け続けていたお陰か、初見とは違い動作や攻撃パターンも読めるし、後は千切っては破壊、吹き飛ばしては拳を突き付けの繰り返しで、ふと周りを見てみると既に敵は屍と化し、生きている魔物は居なくなっていた。
「これで、終わりか?」
額から垂れる汗を、服の袖で拭う。しかし、拭ったその袖もヒンヤリと濡れていた。見てみると俺の全身は緑の液体まみれで、嗅いだことの無い酸っぱい臭いを放っていた。
「こりゃ帰ったら水浴びだな」
ため息と共に魔力を抜くとどっと疲れが押し寄せ、その場に座り込む。
あー疲れた。
初めての戦闘だったが、これは圧倒的勝利と言えるだろう。液体まみれにはなってしまったが、よくやった方だと思う。
「ウォルカ!!」
「えっ?」
突如聞こえる声に反応して振り替える。そこには森の茂みから抜け出し、今まで見たことの無い表情の父が俺目掛けて突進してくるではないか。
ヤバイ、ぶつかる! と、思い目を瞑ると、優しい男の香り? と体温に包まれた。暫くの沈黙。俺はその状況を理解するのに少し時間がかかった。
「父さん……?」
「大丈夫か? どこか怪我はないか?」
「わっわっわ!」
これまた想像がつかないパニック状態の父に、俺の身体の至るところをチェックされる。もちろん外傷は無く無傷だ。
「良かった……」
と、呟くと安堵の溜め息と同時に尻餅を付きその場に座り込んだ。
確かにこの状況は、俺にもし子供が居て、かなり仕事をしたゴキブリホイホイの中のようなグロテスクな場所に一人で居たらテンパるだろうな。うん、間違いない。そりゃ心配してパニックおこすわな。
安堵に包まれている父を横目に周りを見渡す。それにしても冷静に見るとヤバイ現場だなこりゃ。
父が俺の肩を握ったまま黙っていること数分。どうにか落ち着いた所で改めて父によるこの状況の質問責めに合い、今までの経緯を簡潔に話した。
いつものように修行をしていて、魔物と遭遇、大人を頼って逃げるもアイリスと出会い、逃がすために一人で残って、敵が弱かったため倒したと。
「そうか…… よくやった」
五歳には到底出来そうもない出来事の説明に納得してくれたのか、そう言うと父は俺の頭に手を置き、そっと頭を撫でる。
これは誉められているんだよな? ふっふ、当たり前だぜ父よ。しかし、眼は笑っておらず真剣そのもので俺の目を見据えている事に気づく。
「でもな、ウォルカ。今度からは勝てる見込みがあろうが無かろうがアイリスちゃんを逃がした後はお前も逃げてくれ。今日の話をエリスが聞いてみろ、俺との修行でも心配する心配性のエリスだ。ウォルカを家に監禁すると言いかねない。それに俺もどれだけ心配したことか……」
確かに父の言う事はごもっともだ。今回は倒せると分かってしまったから戦いそして勝ったから良かったが、最初はアイリスを逃がす時間稼ぎだった。人間、欲を出すとよろしくない事ばかりだ。今回はたまたま運が良かっただけかもしれない。
前世でも『欲を出すな、引き際が肝心』と、パチンコパチスロで何度として経験したのに生まれ変わっても学習してなかったわ。
それに、発狂する母の姿が容易に目に浮かぶし。俺も反省するべきだな。
「分かったよ、父さん」
「ああ、お前はもう十分戦えるだろうが、まだ五歳だ。自分がまだ子供だと言うことを忘れるなよ?」
そう言うと、父は立ちあがり
「さぁ、帰ろう。ウォルカ、お前は水浴びしないとな」
すっかり忘れていた。思い出すと異臭がまた気になってしまう。因みに父も抱きついたときにベトベトになっていた。
もうどれ程の時間、命を懸けた激しい鬼ごっこを繰り広げただろう。
最後の鎌を引きちぎり、敵の脳天めがけて拳を降り下ろした。硝子が割れるような音と同時に大きな眼はひび割れ、降り下ろした拳を抜くと頭部に空いた穴からは噴水のように緑色の液体が溢れ出す。
「まさか、関節以外もこう脆かったとは……」
もっと早く気づいていれば、最初の一匹との鬼ごっこで時間を取られず囲まれる前に逃げ出せたのにな。俺を中心に修行場には同じ姿形をした昆虫型魔物が数十匹手足を引きちぎられた状態で転がっていた。
勿論、全てトドメの拳を頭部に打ち付けられており行動不能となっている。
えっ? 逃げていただけなのに何故だって?
確かに関節が弱点だと思い、好きあらば狙いながら逃げに徹していた俺だったが、間違えて胴体を蹴ってしまった時に固いと思っていた敵の輝く装甲は、意図も簡単に壊れ、大きな図体は宙を浮き、二メートルほど吹き飛んだ事から俺に勝機が見えたのだ。
それからはもう無双状態である。
敵の攻撃さえ当たらなければどうと言うことは無い。避け続けていたお陰か、初見とは違い動作や攻撃パターンも読めるし、後は千切っては破壊、吹き飛ばしては拳を突き付けの繰り返しで、ふと周りを見てみると既に敵は屍と化し、生きている魔物は居なくなっていた。
「これで、終わりか?」
額から垂れる汗を、服の袖で拭う。しかし、拭ったその袖もヒンヤリと濡れていた。見てみると俺の全身は緑の液体まみれで、嗅いだことの無い酸っぱい臭いを放っていた。
「こりゃ帰ったら水浴びだな」
ため息と共に魔力を抜くとどっと疲れが押し寄せ、その場に座り込む。
あー疲れた。
初めての戦闘だったが、これは圧倒的勝利と言えるだろう。液体まみれにはなってしまったが、よくやった方だと思う。
「ウォルカ!!」
「えっ?」
突如聞こえる声に反応して振り替える。そこには森の茂みから抜け出し、今まで見たことの無い表情の父が俺目掛けて突進してくるではないか。
ヤバイ、ぶつかる! と、思い目を瞑ると、優しい男の香り? と体温に包まれた。暫くの沈黙。俺はその状況を理解するのに少し時間がかかった。
「父さん……?」
「大丈夫か? どこか怪我はないか?」
「わっわっわ!」
これまた想像がつかないパニック状態の父に、俺の身体の至るところをチェックされる。もちろん外傷は無く無傷だ。
「良かった……」
と、呟くと安堵の溜め息と同時に尻餅を付きその場に座り込んだ。
確かにこの状況は、俺にもし子供が居て、かなり仕事をしたゴキブリホイホイの中のようなグロテスクな場所に一人で居たらテンパるだろうな。うん、間違いない。そりゃ心配してパニックおこすわな。
安堵に包まれている父を横目に周りを見渡す。それにしても冷静に見るとヤバイ現場だなこりゃ。
父が俺の肩を握ったまま黙っていること数分。どうにか落ち着いた所で改めて父によるこの状況の質問責めに合い、今までの経緯を簡潔に話した。
いつものように修行をしていて、魔物と遭遇、大人を頼って逃げるもアイリスと出会い、逃がすために一人で残って、敵が弱かったため倒したと。
「そうか…… よくやった」
五歳には到底出来そうもない出来事の説明に納得してくれたのか、そう言うと父は俺の頭に手を置き、そっと頭を撫でる。
これは誉められているんだよな? ふっふ、当たり前だぜ父よ。しかし、眼は笑っておらず真剣そのもので俺の目を見据えている事に気づく。
「でもな、ウォルカ。今度からは勝てる見込みがあろうが無かろうがアイリスちゃんを逃がした後はお前も逃げてくれ。今日の話をエリスが聞いてみろ、俺との修行でも心配する心配性のエリスだ。ウォルカを家に監禁すると言いかねない。それに俺もどれだけ心配したことか……」
確かに父の言う事はごもっともだ。今回は倒せると分かってしまったから戦いそして勝ったから良かったが、最初はアイリスを逃がす時間稼ぎだった。人間、欲を出すとよろしくない事ばかりだ。今回はたまたま運が良かっただけかもしれない。
前世でも『欲を出すな、引き際が肝心』と、パチンコパチスロで何度として経験したのに生まれ変わっても学習してなかったわ。
それに、発狂する母の姿が容易に目に浮かぶし。俺も反省するべきだな。
「分かったよ、父さん」
「ああ、お前はもう十分戦えるだろうが、まだ五歳だ。自分がまだ子供だと言うことを忘れるなよ?」
そう言うと、父は立ちあがり
「さぁ、帰ろう。ウォルカ、お前は水浴びしないとな」
すっかり忘れていた。思い出すと異臭がまた気になってしまう。因みに父も抱きついたときにベトベトになっていた。
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