ブラザーシスター★コンプレックス
№10 『初めての戦闘』
魔物の話は母に聞いたことがある。様々な場所に生息する生き物で、人族に外を為すものも居れば友好的な魔物も居るとか。前世界の動物はこの世界には存在せず、似たようなものは居るが、姿は似ていても名前から生態まで違う別の生き物だった。
そして、この目の前に居る魔物も同じ。頭はトンボ、前脚はカマキリ、胴体はカブトムシ、そして異常な大きさ。
あの前脚の鋭い鎌に当たれば例え≪身体強固≫で身体が固くなっていようとも、この五歳児の身体が真っ二つになる自信がある。攻撃は全て避けて、柔らかそうな間接を狙いたい所だ。
一直線に敵に突っ込む俺、距離は近づきファーストコンタクト。今の俺は≪身体強化≫で約三倍ほどの早さ、その大きい図体じゃ早く小さな的は狙えないだろう。
―――と思うがやっぱ無理!
手前で引き返すと、再び最初と同じ場所へ戻り振り出しに戻る。
頭では分かってる。分かってはいるのだが、怖すぎるだろ。
それでも男にはやらなきゃいけない事がある。覚悟を決めろ葵!
再び吠えて自分自身に覚悟を決めると、一直線に立ち向かう。
今度は引き返さず、予想通り大きな鎌が降りかかるが、俺を捉えられずに地面を抉る。その間に更に距離を詰め、敵正面には行かず右へと転回すると、敵の中央左脚の関節を拳で狙う。
拳がめり込む感触――― これも予想通り、関節は柔らかい。
貫通した拳を引き抜き、攻撃を終えた俺は一度距離を取ろうとバックステップで下がろうとしたその時、魔物は千切れかけの脚を気にすることも無く五本の脚で方向転換すると、俺目掛けて再び鎌を降り下ろした。
魔物の急転回に予測しておらず間一髪、後ろに転がるように避けると鎌は空を切り、地面を抉り土が爆発したかのように飛び散る。あの巨体であんな動きが出来るのか。
敵に感心しつつ体勢を崩した俺は何とか整えようとするが、魔物はそんな隙を与えてはくれない。降り下ろした鎌を地面ごと弾くように俺を蹴り飛ばしたのだ。
咄嗟に顔を守るようにと、両手でガードしたものの軽い身体は衝撃と共に宙へと吹き飛ばされる。10メートルほど吹き飛ばされ地面を転がるとようやく止まった。
クソ、両腕が痛い。折れてないのが奇跡か。
どうにか上体を起こして、敵を睨む。追撃は無い。敵もこちらを睨むように見つめていた。動くに動けないのだろうか、俺の攻撃で千切れかけていた脚は完全に千切れていて、緑の液体がポトポトと流れている。
今のは完全に不意を付かれたと言うか、初めて見る造形の魔物の動きに予想がつかなかった。はぁー全くあんな傷み冗談じゃない。
あれだけ頑張って脚一本かよ。残り三本と、前足の鎌二本を千切ってる間に俺は二度死ぬ勢いだな。初戦からハードすぎるだろ。
まじ異世界なめていたわ。魔物が居ることからいずれ戦う日もあるとは予想もしてたしその為に修行だってした。五歳とはいえ、ある程度の魔物なら勝てる自信もあった、今はもう無くなってしまったが。
こりゃ本格的に、倒しに行かず時間稼ぎするしかないな。人間欲出しちゃいかんってことを忘れてた。どうにか粘って、それまでにアイリスが村に着いて父じゃなくても誰かしらが助けに来てくれる。それに賭けるしかないか。
再び覚悟を決めて、足に力を入れ立ち上がる。
「ふぅ…… 第二ラウンドと行きますか!」
******
ローゼンside
俺はただ苛ついていた。
魔物の大量発生。そのせいで村人が6名負傷。現在は防衛警戒を発令し、目撃数や討伐数が次々に集会所になだれ込んでくる。
俺は武の民の師範代でシンギタイ村の長、それらの情報を正確にまとめ、村人に指示を送らないといけない立場。ゆえに、息子がまだ家に戻ってきていないという状況でもここを離れることが許されず、俺では無い他の誰かに息子の捜索は任せて、ただ待つしかなかった。
今にも我が子が危険におかされていると思うと、目の前にある大きな机を蹴り飛ばして助けに行きたい。師範代なぞ知ったことかと、真っ先に息子を見つけ、妻エリスの元へと向かいたい。
しかし、そんな思いはあっても黙ってここに居る俺にも、無性に腹が立った。
「師範代、南の薬草畑での目撃情報です。サイスインセクトで数は4」
「何っ!? そんな魔物まで? ムトウの班が一番近い。薬草畑へ向かい対処するように伝達を頼む」
「はい!」
返事をすると弟子は扉を開け、集会所を後にする。俺はその後ろ姿を見守ると、机の上に広げられた村の地図に丸をつけた。
「東の修練広場、西の川、西南の果樹園に南の薬草畑……… 村を囲うように出現している魔物は、偶然か?」
それに今確認されたサイスインセクト、鉱山地帯にしか生息しないBランクの魔物が? 冗談じゃない。
他に確認されたコキシネルやスターグアントも冬が終わり群れの大移動だとは分かるが、それでもその二種類の魔物が一緒に行動など聞いたこともない。
その群れにサイスインセクトまで混じっているとなるとこれは……
この村を狙う何者かの仕業―――
村とあれを300年守り続けた武の民、俺が師範代の代に、恐れられていた事態になるのか。そう思うと深くため息を吐く。
その時唐突に開く扉。また、報告かと見据えた先には映るのは小さい女の子だった。確か名前はアイリスか。
「師範代! ウォルカが、大変!」
「っっっ!! なんだとっ!?」
無意識に地図を広げた机を地図ごと叩き割ると、女の子に案内されるがまま集会所を飛び出した。
そして、この目の前に居る魔物も同じ。頭はトンボ、前脚はカマキリ、胴体はカブトムシ、そして異常な大きさ。
あの前脚の鋭い鎌に当たれば例え≪身体強固≫で身体が固くなっていようとも、この五歳児の身体が真っ二つになる自信がある。攻撃は全て避けて、柔らかそうな間接を狙いたい所だ。
一直線に敵に突っ込む俺、距離は近づきファーストコンタクト。今の俺は≪身体強化≫で約三倍ほどの早さ、その大きい図体じゃ早く小さな的は狙えないだろう。
―――と思うがやっぱ無理!
手前で引き返すと、再び最初と同じ場所へ戻り振り出しに戻る。
頭では分かってる。分かってはいるのだが、怖すぎるだろ。
それでも男にはやらなきゃいけない事がある。覚悟を決めろ葵!
再び吠えて自分自身に覚悟を決めると、一直線に立ち向かう。
今度は引き返さず、予想通り大きな鎌が降りかかるが、俺を捉えられずに地面を抉る。その間に更に距離を詰め、敵正面には行かず右へと転回すると、敵の中央左脚の関節を拳で狙う。
拳がめり込む感触――― これも予想通り、関節は柔らかい。
貫通した拳を引き抜き、攻撃を終えた俺は一度距離を取ろうとバックステップで下がろうとしたその時、魔物は千切れかけの脚を気にすることも無く五本の脚で方向転換すると、俺目掛けて再び鎌を降り下ろした。
魔物の急転回に予測しておらず間一髪、後ろに転がるように避けると鎌は空を切り、地面を抉り土が爆発したかのように飛び散る。あの巨体であんな動きが出来るのか。
敵に感心しつつ体勢を崩した俺は何とか整えようとするが、魔物はそんな隙を与えてはくれない。降り下ろした鎌を地面ごと弾くように俺を蹴り飛ばしたのだ。
咄嗟に顔を守るようにと、両手でガードしたものの軽い身体は衝撃と共に宙へと吹き飛ばされる。10メートルほど吹き飛ばされ地面を転がるとようやく止まった。
クソ、両腕が痛い。折れてないのが奇跡か。
どうにか上体を起こして、敵を睨む。追撃は無い。敵もこちらを睨むように見つめていた。動くに動けないのだろうか、俺の攻撃で千切れかけていた脚は完全に千切れていて、緑の液体がポトポトと流れている。
今のは完全に不意を付かれたと言うか、初めて見る造形の魔物の動きに予想がつかなかった。はぁー全くあんな傷み冗談じゃない。
あれだけ頑張って脚一本かよ。残り三本と、前足の鎌二本を千切ってる間に俺は二度死ぬ勢いだな。初戦からハードすぎるだろ。
まじ異世界なめていたわ。魔物が居ることからいずれ戦う日もあるとは予想もしてたしその為に修行だってした。五歳とはいえ、ある程度の魔物なら勝てる自信もあった、今はもう無くなってしまったが。
こりゃ本格的に、倒しに行かず時間稼ぎするしかないな。人間欲出しちゃいかんってことを忘れてた。どうにか粘って、それまでにアイリスが村に着いて父じゃなくても誰かしらが助けに来てくれる。それに賭けるしかないか。
再び覚悟を決めて、足に力を入れ立ち上がる。
「ふぅ…… 第二ラウンドと行きますか!」
******
ローゼンside
俺はただ苛ついていた。
魔物の大量発生。そのせいで村人が6名負傷。現在は防衛警戒を発令し、目撃数や討伐数が次々に集会所になだれ込んでくる。
俺は武の民の師範代でシンギタイ村の長、それらの情報を正確にまとめ、村人に指示を送らないといけない立場。ゆえに、息子がまだ家に戻ってきていないという状況でもここを離れることが許されず、俺では無い他の誰かに息子の捜索は任せて、ただ待つしかなかった。
今にも我が子が危険におかされていると思うと、目の前にある大きな机を蹴り飛ばして助けに行きたい。師範代なぞ知ったことかと、真っ先に息子を見つけ、妻エリスの元へと向かいたい。
しかし、そんな思いはあっても黙ってここに居る俺にも、無性に腹が立った。
「師範代、南の薬草畑での目撃情報です。サイスインセクトで数は4」
「何っ!? そんな魔物まで? ムトウの班が一番近い。薬草畑へ向かい対処するように伝達を頼む」
「はい!」
返事をすると弟子は扉を開け、集会所を後にする。俺はその後ろ姿を見守ると、机の上に広げられた村の地図に丸をつけた。
「東の修練広場、西の川、西南の果樹園に南の薬草畑……… 村を囲うように出現している魔物は、偶然か?」
それに今確認されたサイスインセクト、鉱山地帯にしか生息しないBランクの魔物が? 冗談じゃない。
他に確認されたコキシネルやスターグアントも冬が終わり群れの大移動だとは分かるが、それでもその二種類の魔物が一緒に行動など聞いたこともない。
その群れにサイスインセクトまで混じっているとなるとこれは……
この村を狙う何者かの仕業―――
村とあれを300年守り続けた武の民、俺が師範代の代に、恐れられていた事態になるのか。そう思うと深くため息を吐く。
その時唐突に開く扉。また、報告かと見据えた先には映るのは小さい女の子だった。確か名前はアイリスか。
「師範代! ウォルカが、大変!」
「っっっ!! なんだとっ!?」
無意識に地図を広げた机を地図ごと叩き割ると、女の子に案内されるがまま集会所を飛び出した。
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