ブラザーシスター★コンプレックス

鉄筋農家

№01 『世界の理』





『目覚めなさい』






酷い頭痛のなか、微かに声が聞こえる。
まるで二日酔いの気分だ。
頭を押さえながらも何とか上体を起こして声の主を探す。




辺りを見渡すと、そこには同じ方向、均等な隙間を挟んでまるで人為的に並べられたかのように俺の家族が眠っていた。




「おい、こんな所で寝てたら風邪ひくぞ……」


俺の言葉に誰一人として答えてはくれない。


「何がどうなってこんなところに……」


確か四人で買い物して、ケーキを買って、帰り道になにかあったような。
確か、突然トラックが突っ込んできてとっさに守ろうと……






それからの記憶がない。






だとしたら考えられることは一つ、これが夢では無く現実だと言うならば、あの時、俺は皆を守りきれなかったらしい。


幸せに終わりが来るのはある日突然だ。
どこかで聞いた台詞がふいに頭をよぎった。




『朱音、翠、優黄、目覚めなさい』




妹と弟を呼ぶ声はどこか遠い場所から、とうの昔に死んだあの優しい母を思い出す、そんな声がした。
俺の声では起きなかった三人が声に誘われ、ほぼ同時にむくりと起き上がると、周りを見渡し、俺を見つめる。


「葵兄ちゃん……」


優黄は俺の名を呼ぶと、涙を流しながら抱きついた。
その光景を見ていつも冷静な朱音も、引きこもりであまり話さなくなっていた翠も同じように抱きついてくる。






そうか、ここは天国でみんな死んでしまったのか。






俺は、この時間が最後の神様からの贈り物だと思い、泣きすがる兄弟達を思いっきり抱き寄せた。


「ごめん…… 痛かっただろ? 守りきれなくてごめんな……」


俺は声を絞るように出すと、三人の涙腺は崩壊したように溢れだした。辺りには何もない、真っ暗な無が広がる世界で俺たち四人の兄弟は泣き続けた。今までの恥ずかしさなどはなく、ただただ涙と感情を預けた。


どれだけ泣き続けただろうか、涙が枯れるのではないかと思うほど。




『―― 葵』






再び声が聞こえる。いったい何処から? 立ち上がって先ほど声が聞こえたであろう方向を向き、声の主を探す。


「どこの誰かは分かりませんが、最後に家族に会わせてくれありがとうございました」


『いいえ、ですがこれが最後では無いのです。葵』


「最後ではない? 貴方は誰ですか、何故俺たち兄弟の名前を? これから俺達はどうなるのですか?」


何を言っているのか、泣けるだけ泣いて落ち着きはまぁ取り戻したがまだ現状を把握できていない。唯一俺達のこれからを知るであろう謎の声に疑問という疑問をぶつける。


『私には名乗る名などありません。が、『世界の理』と呼ばれています。』


世界の理? 神様とかじゃないのか。名乗った人物の想像が全く出来ない。


『まず、あなた方のこれまでとこれからの話をしましょう。あなた方が思っている通りの世界では死にました。


運転手の不注意による信号無視によるものです。私はあなた方の事を産まれた時から気に掛けていました。それはこちらの手違いで産まれついた世界が違っていたから。気付いた時には四つの魂は同時に一人の女性にたどり着いてしまった。


それからは順番に産まれ、すくすくと育ちましたね。今までがこれまでの話です』


世界の理は呼吸を吸うように一拍置いた。
突然の長々しい話に、理解と整理ができない頭の中、俺たち四人を置き去りにして自称『世界の理』さんの話は進む。


『そしてここからがこれからの話。
手違いがなければこの日死ぬという運命を持った魂はあなた方では無かった。


もっと生きられたのにそれはあんまりじゃないか、と言う事であなた方は生まれ変わる期間の3億年を繰り越して再び産まれて貰います。


本当に産まれるはずだった世界で、四人とも産まれも国も異なってしまいますが、あちらの世界で培った絆はどこかで必ず繋がります。勝手なことを言いますがこれは決定事項です』






『――――どうかもう一度生きてほしい』








訳の分からない無茶苦茶な理由と要求に戸惑いながらも、身体は宙を浮き始めた。
おい、これはもう行くのか、行く流れなのかその異世界とやらに。


「ちょっと待て! 俺はもう離れたくない!」


そう言って俺は朱音、翠、優黄に手を伸ばす。


朱音は真っ赤な目を隠しながら冷静に、
「ふん、兄貴、また会えるわよ」


翠は人をバカにしたような表情で鼻で笑う、
「ほんと…… 葵兄は…… 寂しがり屋だね」


優黄は満面の笑みで俺達に微笑みかけた
「お兄ちゃんお姉ちゃん、絶対だよ?」


四人は強く手を握り合う。
強い意志と伝わる想いを胸に、上へと登る身体は止まる事を知らず、固い絆を確認しそして、信じながら俺の視界に映る三人の姿は同時に消えた。


そして俺も最後の最後まで見届けると、意識は完全に途絶えた。






*****






『ありがとう、そして、ごめんなさい』




誰も居ない空間にほっそりとした声が響いた。
無が永遠と広がる世界は次第に凝縮し――――― そして滅びた。

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