少年愛玩ドール

成瀬瑛理

舞踏会

オーランドの屋敷に訪れた頃には、すでに盛大な舞踏会が開かれていた。屋敷では宮廷専属オーケストラによる、バイオリンの優雅な演奏が奏でられた。多くの貴族が集まると、彼らは歌や踊りや会話や娯楽を楽しんだ。そして、華やかな雰囲気に包まれた舞踏会の中、多くの貴婦人の目を奪った者がいた。彼が現れると女性達は、華やかな扇子を扇ぎながらヒソヒソと話をした。
「まあ、なんて美しい殿方かしら? あんなに美しい美少年は見たことがありませんわ。まるでアポロンの美の彫刻のようだわ!」
「あの優雅で美しい顔立ちに、金髪に青い瞳はまさしく洗礼された美少年の証……! 薔薇のように美しくて、見ているだけで体が熱くなりそうよ。あんな美しい殿方に私、一度でもいいから抱かれたいわ。ああ、ローゼフ様。なんて美しい方なのでしょうか?」
貴婦人達は彼を見つけるなり、騒ぎ立ててはしゃいだ。彼女達はローゼフの放つ、気高さを纏った薔薇のように美しい魅力に心を躍らすと、誰もが彼に恋をした。手が届きそうで届かない。そんな憧れを抱かせるような王子様みたいな存在だった。女性達の熱い視線が自分に注がれると、男性達は彼に敵意を剥き出した。ローゼフは心の中でやれやれと呟くと、つまらなそうな顔で長椅子に腰をおろしたのだった。
「見て、ローゼフ様は今ひとりのようだわ。わたくしダンスを申し込みましょうかしら? ああ、彼の美しい瞳の眼差しで見つめられたいわ!」
彼女達が彼を見ながらヒソヒソと会話をしていると、一人の若き女性が彼に近づいてダンスを申し込んだ。
「あの……」
「なんだ?」
椅子に座っている彼の目の前に、黒髪の長い少女が話しかけてきた。彼女はローゼフに声をかけると自らの名前を名乗った。
「わたくしベアトリーチェと申します。ローザンヌ家のクルドア公爵の娘でございます――」
彼女はそこで自分の名前を彼につげると、ドレスのスカートを広げて礼儀正しくお辞儀をした。彼女の立ち振舞いは完璧なレディだった。ローゼフは、彼女の顔をジッと見つめると不意に思い出した。
「ああ、知っているよ。美しくなったね、ベアトリーチェ。まるで見違えるようだ」
「まあ、わたくしをご存知ですの……!?」
「ああ、知っているとも。キミが8歳の頃から私は知っていた。私の母とキミの母は、よき親しい仲だったようだ。母上からキミの話はよく聞かされていたよ――」
「まあ、マリアンヌ様が私のことを……!? 嬉しいですわ。お母様に話したら喜ぶに違いありませんわ……!」
「ああ、そうだな……」
ローゼフはベアトリーチェの喜ぶ様子に、僅に微笑を浮かべて相づちをしてみせた。
「ローゼフ様。よろしければ私と一曲、ダンスを踊ってくれませんでしょうか?」
「ダンスか…――。しかし私はダンスはやらない主義なんだ」
「まあ、そうなんですの……!?」
「ああ……」
「とても残念ですわ……。私、貴方と踊るのをずっと楽しみにしていましたのに…――」
彼女はそう言って話すと、とても残念そうな表情で瞳をふせた。ローゼフは彼女の悲しむ表情を目の前に気持ちが少しかわった。
「ベアトリーチェ……」
「ご無礼をお許し下さいローゼフ様。では、わたくしはこれで…――」
彼女はそう言い残してお辞儀をすると、彼の傍から離れていった。ローゼフは長椅子から立ち上がるとそこで彼女に声をかけた。
「待て、ベアトリーチェ! 女性からのダンスの申し込みは勇気がいることだ。キミがよければ私と一曲踊ろう。さあ、美しいベアトリーチェ。私の手をとりたまえ…――!」
彼はそう言って声をかけると、彼女に向けて左手を差しのべた。彼の堂々とした紳士的な立ち振舞いは、周りにいた女性達の熱い視線を一瞬で奪った。そして、ローゼフとベアトリーチェが踊ることを知ると、女性達は悔しそうに自分のハンカチを噛んで羨ましがったのだった。ベアトリーチェはローゼフに一緒に踊ろうと言われると、明るい表情で彼に返事をした。
「まあ、なんてお優しいのかしら……! ありがとうございますローゼフ様。わたくし今、とても心から感激しておりますわ……!」
ベアトリーチェはそう言って彼の差し出された左手をとると、幸せそうな表情で可憐に微笑んだ。周囲が2人のダンスに注目するなか、ローゼフはそのまま彼女をダンスホールへと導いた。そして、彼女の手を引いて堂々と中央にエスコートをすると、ベアトリーチェの細い腰に左手を置き、そして彼女の手を右手でとった。2人の距離がグッと縮まると、ベアトリーチェはローゼフを近くに感じた。そして胸の鼓動が急に高鳴ったのだった――。

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