おじさん→女子高生=?

キー坊

暗いのは夜だけでいい

目が覚めたという事実に軽い衝撃をうけたがボヤけた視界に映る数々の器具や管が自分の状態を如実に語っていた

「...ぃ....」
意識が戻り痛みを自覚したが痛いと口に出すことも出来なかった
いよいよ自分も終わりだなと感じたが一応生きているということはまだ大丈夫なのだろうか
そんなことを考えてると目覚めたことに気づいた看護婦が質問してくるが声が出せない。
声が出ないことに気づいた看護婦は俺の手に自分の指を握らせYESなら強く握ってと言い、分かったら握ってと言われたのであまり入らない力で手の中のそれを握った

それから容態の確認をされるたびに握ってはゆるめたりを繰り返した
あらかた確認が終わったのか看護婦は病室を後にした
そしてしばらくしてから自分よりやや年上に見えるくらいの白衣を着た医師だろう人が入ってきた

「やぁ本橋くんまずは目覚めてよかったよ。私は今回君の担当になった永瀬だ」
そういいメガネの位置を直しながら手元のカルテらしきものを見て言った

「君は右腕と左足、それと肋骨が骨折している。これはまだ良いとして問題は内臓だ。肺、腎臓、膵臓が少し損傷してるのと肝臓に至ってはガラス片が刺さっていたために大分酷い状態だった、正直生きてるのが奇跡みたいなものだよ」
それを聞いても驚きはなかった
正直自分でもあの状態で生きている方がむしろ驚きであり現代の医学の発展は凄いなとどこか他人事のように考えてたくらいだ

「正直君はもう1週間も生きられない、聞いたかもしれないが君は2週間眠っていたんだ」
そう、自分の感覚ではすぐに目覚めたように感じたが先程の看護婦にもそう伝えられて軽く驚いたのだ

「そこで君に提案がある」
そう言ってカルテの間に挟んでいたであろう1つの写真を見せてきた。そこに写っていたのは中学生くらいの可愛らしい少女が笑っていものだった

「彼女の名前は風見 栞(かざみ しおり)。この写真は3年前のものだがね、今は結構綺麗になってるぞ」
なぜ今自分にこれを見せたのか疑問に思い、永瀬の知り合いなのかと思い次の言葉を待った

「この子は前から私が担当してる子でね、昔から心臓が弱く小さな運動でもすぐに呼吸が乱れてしまうんだ。しかし1か月前に倒れて意識不明のままでとても危険な状態なんだ」
そこまで聞き察することができ言われる言葉も予想でき答え合わせのように永瀬は言った

「君の心臓を彼女に提供して欲しい」



永瀬は考える時間を与えるためなのか必要なことを告げて出ていってしまった
本当は人に伝えるのはダメなのだが俺にはどうしても伝えたかったようだ

正直答えは出ている。家族は母子家庭で育ててくれた母親は既に去年亡くなって家族はいない、特に目標がある訳では無い、強いていえば会社のヤツらに迷惑かけるなと思うがそれは生きててもどうしようもないことだからだ




次の日目覚めると多少掠れているが声は出せるようになっていて看護婦とは口頭でほんの少し応答できるようになった。やはり喋るのは苦しい

お昼を過ぎた頃ドアを開けて来た来客は俺を見て固まっていた

「先輩が...先輩が起きた...」
まるで人を幽霊のように言う後輩の鶴橋に「...ょ.ぅ..」と掠れながら挨拶をした
それが聞こえたのかどうか知らないが鶴橋はこちらに駆け寄ってきた

「よかっだぁ...!ほんどぉうによがっだぁ...」
そう泣きながら言う後輩を見て自分まで泣きそうになった、こんなに心配してくれたやつにこれから真実を伝えなきゃいけないのだから

そう思った矢先、永瀬がノックした部屋に入って来た

「やぁ本橋くんっと、来客かな?昨日の話を聞きに来たんだけどまた後の方が良いかな?」
それには大丈夫と答えた
正直鶴橋に説明する手間が省けるのだから

「それで決めたのかい?」

「うけ..たぃです...」
話が分からない鶴橋が永瀬になんの事かを聞いた

「本橋くんはもうもたない、だから彼に臓器提供を頼んだんだ」
それを聞いて鶴橋はこちらを見た
俺は鶴橋の目を見て頷いた

「そうっすか...先輩はもう決めたんですね...」
そう言って苦々しく笑った、その顔は最後に見たコーヒーを飲んだ時の顔によく似ていた

「本橋先輩ならそうするっすよね、だって先輩優しすぎるんすもん。仕事で遅くなった俺を手伝ってくれて、失敗して怒られてる自分を庇ってくれて、その後は決まって飲みに連れてってくれたりして、コーヒー飲ませてくる先輩は嫌だったっすけどね。」
そう言う鶴橋は頬をかいて笑っていたが目には雫が溜まっていた

「本当に俺本橋先輩の後輩で良かったです。今の自分は先輩のおかげなんです。だから...だからぁせんぱい...」

「まだまだせんぱいにおぞわりだいでずぅ..!だがらぁ、だから...」

「本当に今までありがどぅございましたぁ!」
鶴橋の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
泣き虫な後輩だなと相変わらず掠れた声で伝えたら

「せんぱいには言われたくないっすよ!」
と、返されてしまった。どうやら俺も泣き虫の後輩に感化されてしまったらしい

まったく生意気な後輩だな

それから三日後俺の34年の人生は幕を閉じた
手術までの意識が残ってる間生意気な後輩に腹が立ったので泣かないで笑ってやった
相変わらず最後まで泣き虫の後輩だったけどな

意識が暗闇に溶け込んでく中で確かに明るい何かを感じた、それがなにかは分からないがそれは夜空の星のように綺麗に思えたのだった



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