宇宙の星くず

春田 よぎり

58話目 寒くなってきましたね。

これから先
涙をさらって行く
手があるなら
それは
あの人のそれであればいいと思う
手が冷たい人は
心も冷たい
とか
聞いたことがあるけれど
迷信だなぁと
小さく零す
記憶の中のそれは
ずっと外で
しかも夜で
冬だったから
冷たくて
強ばってて
女の中でさえ
小さい部類に入る
僕の手よりふたまわり
大きな男の手
産毛をなでるような距離
カサカサしてて
部分部分カチコチで
それなのに
笑っているように柔らかいから
少しこそばゆかった
優しいでしょうと思う
あれが優しくなければ
どれが優しいのだろう
もちろん
がさつに
乱暴に撫でる手もいい
許されている気がするから
強く抱きしめられるのもいい
痛いくらいが丁度
けれど
僕が求めるのは
あの人のそれだったのだ
あれは一番だと思う
優しい手もいいけれど
普段の半笑いで
僕の肌で暖をとられる時
どんなに
女の子扱いされて
どんなに
大事にされるよりも
とても
恥ずかしいような
温かい気持ちになっていた
変でしょう
冷たくてゾワゾワするのに
とても嬉かった
結局
あの人ならなんだって良かったのだ
ようは気持ちの問題です
心の距離が
一番近かったってだけの話です
あの人の隣に立っていた
認められていた
それが嬉しくて
あの人と
二人三脚で走っていた
出会った頃は
あんなに小さかったくせに
終わりの25センチ
むかつくほどの猫背で
僕を見下ろして
悲しみを隠すように
困った顔をしていたね
サヨナラのときだった
一つ年下でも
あの人はちゃんと
筋肉質な立派な男で
女扱いされなくても
僕もちゃんと
折れそうな手首の女で
それが
普通だったけど
二人の距離を表すみたいで
僕は悲しかった
だから
忘れないから
君も
忘れないでと笑った
使い古された言葉は
過去の何かとは
比べるまでもなく
濃度が違っていた
舌がビリビリ
痺れるくらい甘ったるい
外国のチョコレートみたいで
あの人も
そういうふうに
何も答えなかったから
少し困った
同じ顔をしていたかな
田舎の静かな空気は
肺が痛いくらい
冷たかったね
二日くらい前から
ずっと一緒にいたいとか
君をポケットに入れて
連れて行けないものかとか
無意識に
思ってたけど
溢れそうでも言いたくなくて
最後
抱きしめた温もりだけを
体に閉じこめた
僕の平熱が高めなのは
これが理由だと思いたい
その方が
ロマンチックでいい
そうであるから
大丈夫だと思った
大丈夫になりたかった
それなのに痛くて
それなのに寂しくて
何年経ってるんだろう
友人と話しつつ
あの時だと思った
半分とかじゃなくて
あの人は僕だったのか
っていう
時空を超えた
遠回りの
僕の自覚と執着

          

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