魔王に連れられ異世界転移〜魔神になった俺の敵は神と元カノ〜

龍鬼

人ならざる者

「さぁ、中に入りましょう仁様。私の部下が待っています」


 サタンが戸を開けて中へと入る。仁もそれに続いて中へと入ると、内装も和風な造りとなっており、両隣には靴箱、玄関の床は石張りで従業員も着物と本格的である。


「「「「おかえりなさいませ、サタン様」」」」


 受付前で並ぶ四人の従業員が一斉に頭を下げた。
 並んでいるのは全員女の子で、年齢は一人を除いて二十歳未満に見える。


 特徴は左から順に赤髪の巨乳、青髪普乳、紫髪微乳、金髪絶壁。
 並びに悪意を感じるのは、仁だけではないだろう……。


「ただいまあかり。私が留守にしている間、何か変わったことは?」
「特にございません。そちらの男性が、今代の魔神様でしょうか?」
「そうです、彼が今代の魔神、桜舞仁様です。皆さん、ご挨拶を」
「初めまして桜舞仁様、私の名前は燈といいます。どうかよろしくお願いします、仁様」


 燈と名乗ったのは赤髪長髪、巨乳の女性。物腰柔らかな雰囲気で、見た目は二四、五に見える。四人の中では最年長だろう。
 彼女の立ち姿はしっかりとした大人のものでありながら、浮かべる笑顔には少し幼さが混じり、対面者の緊張を和らげる。


「ボクの名前はあおいだよ、よろしくね!」


 次いで挨拶をするのは、キラッ、という効果音が聞こえそうなウィンクとピースをする、青い髪のボクっ娘少女、碧。天真爛漫という言葉が似合いそうな、元気の良い活発そうな少女だ。


白亜はくあ、です……よろしくお願いします、仁様……」


 紫髪の少女、白亜。表情が仕事しないのか、感情の読めない眠たそうな顔で仁を見つめる。


雷華らいかと申します〜、仁様かっこいいです〜」


 満面の笑みを浮かべる金髪の幼女、雷華。見た目小学生ぐらいで、見た目年齢相応の幼さが言動に現れる。


「あと一人いるのですが、その子の紹介はまた今度にしましょう。仁様も、みなに挨拶を」


 挨拶を促された仁は四人を一瞥すると、興味なさげな様子で簡素な挨拶を返す。


「桜舞仁だ、よろしく頼む」
「素っ気ないですよ仁様、皆可愛い女の子なんですからもう少し優しくしてもいいと思いますよ?」
「無視しないだけマシだろ?」
「そう言うと思いました……。はぁ……私は仁様をお部屋に案内しますので、四人は下で準備をお願いします」


 呆れた表情のサタンは、溜息を吐いて四人に指示を出す。指示を受けた四人は、サタンと仁に向かって一礼しその場を離れる。


「さて仁様、お部屋に案内致しますので、私に付いてきてください」


 そう言われ、サタンに案内されたのは二階の奥の部屋。中は十畳半程の広さで、中央に足の短い木製のテーブル。部屋の奥には障子を挟み小さな机があり、その両隣には一人用のソファーが置いてある。


「まんま日本の旅館て感じだな、この部屋なのは人目につき辛いからか?」
「その通りです、基本的には二階の部屋まで客が埋まることはありませんし、このような場に魔神がいるとは誰も思いません。まぁそもそも、滅多に客は来ませんが……」


 言葉の最後に、影を落とすような呟きを漏らすサタン。仁はその言葉を、場所が悪いからという意味で受け取り、深く掘り下げることをしなかった。


「そりゃそうだ、俺でも意外過ぎて呆気に取られたしな」
「ですから安全性、秘匿性は保証致します。そして、仁様にはここで魔神として成長してもらいます。あぁそれと、すみませんが服を脱いでもらえますか? 上だけで構いませんので」
「分かった」


 仁は言われた通り制服を脱ぎ、上半身裸になる。そこに現れたのは、傷だらけの鍛え抜かれた肉体。見た目細身であった体躯は、その実しっかりと鍛えられ、引き締められた戦闘向きな身体をしていた。


 ペタペタ……。サタンが興味深そうに、それでいて楽しそうに仁の体に触れる。


「凄い身体ですね、競技用でも魅せでも無い、戦闘に適した筋肉です」


 ペタペタペタペタ


 仁の体にある無数の傷、その事には一切触れず、夢中な様子で身体中をまさぐり遊ぶ。


「本当に……いい身体です……」


 ペタペタペタペタナデナデナデナデ


 執拗なお触り、荒くなる息。これぞ正にセクハラオヤジと言わんばかりに、サタンは執拗に仁の体に触れる。
 執拗なお触りと、それによるくすぐったさに軽く苛立った仁は、サタンに注意を飛ばす。


「擽ったいんだよ、いつまでも触ってんな。それより、何かするんじゃなかったのか?」
「抱かせてください!」


 ダメだこいつは……。そう思うものの、それを言葉にする気力は既に削がれていた。


「さて、冗談はさておき……」
「お前目がマジだったぞ」
「冗談はさておき!」
「あ、はい……」


 これ以上突っ込んでも無駄だと判断し、仁は引き下がる。


「今から仁様の体に変魔の印を刻みます」
「変魔の印?」
「はい、先も言いましたように仁様の体は悪魔としては不完全なものです。そのため、今の状態では人としてそこそこ強い程度です。ですが悪魔体に変身すれば、上級悪魔に並ぶ強さを手にできます」


 悪魔にも階級があり、知能、魔力、共に低いのが下級。


 下級よりも全てのスペックが高く、下級悪魔達を纏めることもあるのが中級。


 人と同じ姿で、全身もしくは体の一部だけを悪魔体に変身させるのが上級悪魔。


 そしてその上に、サタン他六人の王級悪魔が存在する。


「上級悪魔の強さってどの程度のものなんだ?」
「ある程度バラつきはありますが、一体の上級悪魔にSランク冒険者が最低四人必要になるぐらいには強いですね。仁様にも分かりやすいよう説明するのでしたら、猛スピードのトラックを片手で止める筋力と、レーシングカー以上の速さを持つ、とでも思ってください」
「それ結構な化け物だよな……。まぁいい、それより冒険者のランクってのはS、A、B、Cか?」
「上はSの上にEXTRAがあり、下はFまであります」
「随分と幅が広いな。んで、その変魔の印てのは俺が自力じゃ変身できないから刻むのか?」
「その通りです、因みに変身アイテムとしてこの短剣を使用してもらいます」


 そう言って取り出したのは鍵のような形の短剣。刀身は黒く、柄はリング状になっている。


「形から察するに変魔の印に刺す、ってことでいいのか?」
「その理解力の高さ、説明が楽で助かります。では変魔の印を刻みますね」


 サタンの右手が魔力を纏い紫に光る。その手をそっと仁の左胸に当てると、直径十センチ程の魔法陣が浮かぶ。不思議な文字が円を描き、その中心には十字架と鍵穴模様がある。


「これ刺したら死ぬやつじゃないですかねぇ……?」
「仁様は元が人間ですので死んで転生する、という意味の儀式が必要でして。これはそれを簡略化したものです」
「成る程、ここにさっきの短剣を刺したら悪魔体になれると」
「はい、試しに変身してみてください」


 仁はリング部分に指を通す。必要とはいえ自殺紛いの行動をするのには少し躊躇いがある。


「覚悟決めるか……」


 仁は小さく深呼吸して、短剣を胸の鍵穴模様に突き刺した。


 覚悟していたような痛みはなく、魔神の魔力が全身を駆け巡り肉体を変化させる。


 一瞬、黒い靄が体全体を覆い、悪魔化と同時に靄が晴れる。


 視界が高くなるのと同時、体が重くなったのを感じる。


『体が、重いな……』


 屈伸したり腕を伸ばしたりと、体の感覚を確かめる。
 重りをつけた、というよりも、体重が大幅に増えたような感覚が仁を襲う。


「体が重い、程度ですか?」


 サタンの顔が驚愕に染まる。


『ん? まぁな、てか身長伸びたな。一九〇ちょいか?』
「え、えぇそれぐらいでしょうか……。鏡を創造して姿を確認してみてはどうでしょうか?」
『そうだな』


 空いたスペースに手を向けて軽く振ると、靄が現れて縦長の鏡が作られる。


『割とスッキリした姿だな』


 体は全体が灰色で、上半身は動きやすいよう薄くスッキリとした鎧姿。心臓部からは十字架のように線が伸びている。


 逆に下半身は蹴りの威力増強と、踏ん張りを効きやすくするためか、厚く重い装備となっている。


 頭は最早ただののっぺらぼう、目、口、鼻。耳すらも無い。


『これは鎧姿が裸って感じか? 着てるんじゃなくて鎧がそのまま肉体みたいな。上下で装備の重さが違うのは嫌いじゃないし、下半身がしっかりしてるのは個人的にはグッドだな』


──普通は体が重い、なんてものでは済まないはず……。倒れてもおかしくないですし、本来は動けないはずなのに……!──


 サタンの頭の中を疑問符が埋め尽くし、背中には冷たい汗が流れる。


「本当は筋力強化の魔法をかけて動けるようにする予定でしたが、その必要は無さそうですね」
『出来ればその魔法かけてほしいんだが……』
「さぁ準備も出来たのでみんなの元に行きましょう」
『無視ですかそうですか』

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