魔王に連れられ異世界転移〜魔神になった俺の敵は神と元カノ〜
悪童転移
卒業式、それは別れを惜しみ、新たな門出を祝う式典。
そんな式典の中で一人、去ることを祝われ、門出の失敗を嗤われる者がいた。
「桜舞の奴がいなくなると、清々するぜ」
「就職も失敗したようですし、ざまぁみろですよ」
桜舞仁。入学以来多数の傷害事件を起こしてきた問題児。病院送りにしてきた人数は数えきれず、死んだ者すらいると噂される程だ。
背中に教師や生徒達の、蚊の鳴くような罵倒と去ることへの安堵の声を受けながら、仁は独りで帰路につく。
「本人がすぐそこにいるってのに、突っかかるでなく陰口を叩くのか。なんともつまらない連中だな」
教師も生徒も、誰も彼もが仁にとっては微小な悪に写っていた。生徒同士のいじめ、教師の贔屓等、数えればきりがない。その悪を潰そうとすれば終わりが無い。
だから仁は、把握した限りの大きな悪だけを潰してきた。いじめの主犯を殴り顔を変形させ、内申点と交換に女子生徒を辱めた教師の睾丸を蹴り潰した。
その行為はどれも停学、ともすれば退学すらあり得る程に過激であるにも関わらず、一度として学校、警察の両方から罰された事がない。
──あんまり現実的じゃねぇが、警察や学校を黙らす力を持った誰かが裏で動いた、と考えるべきか? でもそんなことしてそいつに何の得がある?──
仁の思考はいつもそこで止まる。いくら考えたところで、その人物が誰か分からないからだ。親兄弟も友人もいない仁に、自分を手助けする物好きがいるなど信じられないことだった。
仁は考えても仕方ないことと切り捨て、これ幸いと言わんばかりに学内外問わず悪を見つけては潰していた。カツアゲする不良、ひったくり犯他様々。だが仁はその過激さから、一度として感謝の言葉を贈られたことはない。
それについて仁は、一度も不満を持ったことはなかった。彼は自分を正義の味方だと謳うことはなく、正義感の塊とも嘯くこともしない。何故なら、彼は自分自身すらも悪人のカテゴリーに当て嵌めているからだ。
「さて、これからどうしたもんかな。暫くはフリーター……もしんどいか? 俺の悪名とかこの辺じゃ知らない奴のが少ないだろうし」
就職に失敗した現実に目を向けて、これからのことを真剣に考え始める。ああでもない、こうでもないと思考を繰り返しているうちに、自宅であるマンションの一室にたどり着く。
いつも通りに鍵を開け、誰もいないであろう部屋に向かってただいまと帰宅を告げる。その瞬間……
「おかえりなさいませ、桜舞仁様」
見知らぬ女性の声に驚くと同時、部屋を出て即座に扉を閉める。驚きに早鐘を打つ心臓を宥めるべく、二回、深呼吸をする。
誰もいないはずの自宅から、見知らぬ女性の声がした。そんなものは軽いホラーでしかなく、仁でなくとも恐怖し、驚いたことだろう。
──いやいやいや! なんだよあれ、誰だよあいつ!? なんで、なんで俺の部屋に裸エプロン? の女がいるんだ!?──
扉を開けてすぐの玄関、そこに立っていたのは裸エプロンであろう見知らぬ女性。見たのは一瞬だが、白いエプロン以外に身に着けてるものはないように見えた。
本来であれば不法侵入で警察に通報するところなのだろうが、そこに思い至る程の余裕は今の仁には無い。
「俺の知り合いの女って言えば……一人、しかいないし……。そもそもさっきの女、多分俺より年上だよな?」
ある程度落ち着きを取り戻した仁が、扉から少し離れたその瞬間、扉が突然開いて中から手が伸びる。その手は仁の制服の襟を掴むと、彼を一気に部屋へと引きずり込んだ。
相手が女性で、しかも凶器らしき物を所持していなかったから、油断していたのだろう。仁は一切の抵抗を許されず部屋に引きずり込まれ、床に倒されてマウントを取られる。
「いきなり逃げるのは酷いのではありませんか、仁様? せっかく御奉仕してあげようと思いましたのに」
言いながら、女性はエプロンの肩紐に手をかける。エプロンからチラリと覗く胸元にも、くびれ付近にも下着の類は見られない。つまりエプロンの下は完全な裸体というわけだ。
腰まで伸びた、長く艶のある黒髪。エプロンを盛り上げる豊満なバスト、切れ長の瞳と整った顔立ち。こんな突飛な状況でさえ無ければ、見惚れていたことだろう。
彼女の美体から香る甘い匂いに仁の思考は鈍り、体から力が抜けていく。これは異常な状況であるはずなのに、仁はそれを受け入れようとしていた。
──なんだ、この匂い? 甘い、匂い……おかしいな……こんな状況なのに、なんかどうでもよくな……い!!──
このままではまずいと仁は勢いよく舌を噛み、痛みで無理やり意識を覚醒させる。強烈な痛みと口いっぱいに広がる血の味に、思考力だけは取り戻す。
「お前さん、誰だ……。なんでこんなことしやがる……!」
さっきまで頬を朱に染めていたその顔は驚愕に染まり、彼女は困惑の色を浮かべながらも嬉しそうに口元を緩ませる。
「驚きましたね、魅惑を破りましたか……。せっかくこんな恥ずかしい格好までしましたのに……。でしたら強硬手段です。並ぶ今、ifの未来、辿った過去は異なれど、存在確かな世界へ渡る【異世界紀行】!」
女性が呪文を唱えると、二人の下に魔法陣が浮かび、光りだした。
その光が一際強く発光すると、次の瞬間それは黒い穴となり、二人を落下させる。
「は? おい、あ……。あああああああああ!?」
見知らぬ女性に馬乗りされ、力が入らないまま穴に落ちる。常識を超えた現実に仁は戸惑い、仁は叫び声を上げるしかなかった。
そんな式典の中で一人、去ることを祝われ、門出の失敗を嗤われる者がいた。
「桜舞の奴がいなくなると、清々するぜ」
「就職も失敗したようですし、ざまぁみろですよ」
桜舞仁。入学以来多数の傷害事件を起こしてきた問題児。病院送りにしてきた人数は数えきれず、死んだ者すらいると噂される程だ。
背中に教師や生徒達の、蚊の鳴くような罵倒と去ることへの安堵の声を受けながら、仁は独りで帰路につく。
「本人がすぐそこにいるってのに、突っかかるでなく陰口を叩くのか。なんともつまらない連中だな」
教師も生徒も、誰も彼もが仁にとっては微小な悪に写っていた。生徒同士のいじめ、教師の贔屓等、数えればきりがない。その悪を潰そうとすれば終わりが無い。
だから仁は、把握した限りの大きな悪だけを潰してきた。いじめの主犯を殴り顔を変形させ、内申点と交換に女子生徒を辱めた教師の睾丸を蹴り潰した。
その行為はどれも停学、ともすれば退学すらあり得る程に過激であるにも関わらず、一度として学校、警察の両方から罰された事がない。
──あんまり現実的じゃねぇが、警察や学校を黙らす力を持った誰かが裏で動いた、と考えるべきか? でもそんなことしてそいつに何の得がある?──
仁の思考はいつもそこで止まる。いくら考えたところで、その人物が誰か分からないからだ。親兄弟も友人もいない仁に、自分を手助けする物好きがいるなど信じられないことだった。
仁は考えても仕方ないことと切り捨て、これ幸いと言わんばかりに学内外問わず悪を見つけては潰していた。カツアゲする不良、ひったくり犯他様々。だが仁はその過激さから、一度として感謝の言葉を贈られたことはない。
それについて仁は、一度も不満を持ったことはなかった。彼は自分を正義の味方だと謳うことはなく、正義感の塊とも嘯くこともしない。何故なら、彼は自分自身すらも悪人のカテゴリーに当て嵌めているからだ。
「さて、これからどうしたもんかな。暫くはフリーター……もしんどいか? 俺の悪名とかこの辺じゃ知らない奴のが少ないだろうし」
就職に失敗した現実に目を向けて、これからのことを真剣に考え始める。ああでもない、こうでもないと思考を繰り返しているうちに、自宅であるマンションの一室にたどり着く。
いつも通りに鍵を開け、誰もいないであろう部屋に向かってただいまと帰宅を告げる。その瞬間……
「おかえりなさいませ、桜舞仁様」
見知らぬ女性の声に驚くと同時、部屋を出て即座に扉を閉める。驚きに早鐘を打つ心臓を宥めるべく、二回、深呼吸をする。
誰もいないはずの自宅から、見知らぬ女性の声がした。そんなものは軽いホラーでしかなく、仁でなくとも恐怖し、驚いたことだろう。
──いやいやいや! なんだよあれ、誰だよあいつ!? なんで、なんで俺の部屋に裸エプロン? の女がいるんだ!?──
扉を開けてすぐの玄関、そこに立っていたのは裸エプロンであろう見知らぬ女性。見たのは一瞬だが、白いエプロン以外に身に着けてるものはないように見えた。
本来であれば不法侵入で警察に通報するところなのだろうが、そこに思い至る程の余裕は今の仁には無い。
「俺の知り合いの女って言えば……一人、しかいないし……。そもそもさっきの女、多分俺より年上だよな?」
ある程度落ち着きを取り戻した仁が、扉から少し離れたその瞬間、扉が突然開いて中から手が伸びる。その手は仁の制服の襟を掴むと、彼を一気に部屋へと引きずり込んだ。
相手が女性で、しかも凶器らしき物を所持していなかったから、油断していたのだろう。仁は一切の抵抗を許されず部屋に引きずり込まれ、床に倒されてマウントを取られる。
「いきなり逃げるのは酷いのではありませんか、仁様? せっかく御奉仕してあげようと思いましたのに」
言いながら、女性はエプロンの肩紐に手をかける。エプロンからチラリと覗く胸元にも、くびれ付近にも下着の類は見られない。つまりエプロンの下は完全な裸体というわけだ。
腰まで伸びた、長く艶のある黒髪。エプロンを盛り上げる豊満なバスト、切れ長の瞳と整った顔立ち。こんな突飛な状況でさえ無ければ、見惚れていたことだろう。
彼女の美体から香る甘い匂いに仁の思考は鈍り、体から力が抜けていく。これは異常な状況であるはずなのに、仁はそれを受け入れようとしていた。
──なんだ、この匂い? 甘い、匂い……おかしいな……こんな状況なのに、なんかどうでもよくな……い!!──
このままではまずいと仁は勢いよく舌を噛み、痛みで無理やり意識を覚醒させる。強烈な痛みと口いっぱいに広がる血の味に、思考力だけは取り戻す。
「お前さん、誰だ……。なんでこんなことしやがる……!」
さっきまで頬を朱に染めていたその顔は驚愕に染まり、彼女は困惑の色を浮かべながらも嬉しそうに口元を緩ませる。
「驚きましたね、魅惑を破りましたか……。せっかくこんな恥ずかしい格好までしましたのに……。でしたら強硬手段です。並ぶ今、ifの未来、辿った過去は異なれど、存在確かな世界へ渡る【異世界紀行】!」
女性が呪文を唱えると、二人の下に魔法陣が浮かび、光りだした。
その光が一際強く発光すると、次の瞬間それは黒い穴となり、二人を落下させる。
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