カフェで織り成す異世界生活
第3話【新庄 誠】
「なるほど……」
周の右手には炎が、左手には吹雪がまとわれている。
テーブルを粉々にし、その破片を壁で遮った一連の流れの後、一同は外に出た。そして体に起こった異変の正体を探ろうとしていた。
そしてある程度実験を重ね、おおよその正体を突き止めることができた。
簡単に言えば、超能力である。店内にいた複数人が、それぞれ特殊な力を使うことが出来るようになっていたのだ。
「それ、どうやってんの……?」
唐田が不思議そうに周に聞く。
「なんて言うか、言葉じゃ表せないな。今まで無かった感覚なんだけど自然と扱い方が分かるって言うか、指とか腕を動かしてる感覚に近い」
「俺もそんな感じだ。まあ俺の場合、身体能力がバカみたいに上がっただけだからな。今まで体を動かしてたことの延長線上みたいなもんだ」
周が答えると、近くの木に逆さまにぶら下がっている古賀も付け足すように言う。
周が使えるようになった能力は概念で言えば魔法に近いものだ。炎や電気、風など自然現象に近いものを無の状態から空間に出現させることが出来る。
古賀の能力は至ってシンプルで、身体能力の超強化といった具合のものだ。身体の強化に伴い、三半規管や動体視力の向上も見られた。
「うーん……」
唐田は悩ましげに腕を組む。
「お前も同じ感覚だろ?」
「そうだけど、何か納得がいかない」
もちろん唐田も超能力が使えるようになっている。唐田の能力は元の世界で言うところの『瞬間移動』に当たるものだ。
ある地点Aからある地点Bまでを無条件で瞬時に移動することが出来る。
だがやはり無条件ではあるが無制限ではない。
「ちょっともう1回見せてくれないか?」
「えー、これ少し疲れるんだけど……」
周の要望に唐田はしぶしぶ従う。疲れることは疲れるが本人は未知の力に割と肯定的だと思われる。
「そこから古賀のいる木の枝まで移動して戻ってきてみてよ」
「もー、はいはい。行くよ」
唐田は音も立てずに一瞬で古賀がぶら下がっている枝の上へ移動する。
「うおっ、それいいなー。便利過ぎる」
「あなたのも、相当便利でしょ。数十人分の労働力がまかなえるわ」
「え……俺、労働力換算されてんの?」
唐田は枝から飛び降りると空中で消える。そしてまた、元いた位置へ戻ってきていた。
「私もここらへん強くなってるかも」
そして、こめかみ辺りを指差す。
どうやら能力の発動に伴い、その力を扱えるように脳も強化されているらしい。いやこの場合は脳が何らかの変質・強化されたため特殊な能力が使えるようになった、と考える方が自然だ。
「すごいなあ、みんな」
「ええ、我々はどうも感覚が鈍っているのか……」
マスターと吉田は周達の様子を見ながら言う。今のところ能力を使えるようになったのは周、唐田、古賀、新庄の4人。
ある程度の時間能力を使用すると、それぞれに称号が表示される。だがそれは現実で目に見えるわけではない。頭に直感的に浮かんでくるのだ。
周は『魔法師(ソーサラー)』
唐田は『飛び師(テレポーター)』
古賀は『闘技師(バトラー)』
新庄は『道化師(クラウン)』
まだ能力が発動出来ていないマスター、吉田、佐々木は発動に何らかの条件が必要なのかもしれない。ここに来て4人だけしか能力が使えないなんてことはないだろう。
あとの3人に関しては後々検証しなければいけないだろう。だかその前にするべき事がある。
「周辺の探索?」
「はい。今置かれてる状況が分からない以上、どれだけ情報を集められるかが鍵となると思うんです」
全員が集まったところで周が提案をする。
「確かにこれからどうすればいいか検討も付かない状態だからね」
「辺りに町か村でも見つけられれば何とか食いつなぐことも出来るかと」
「そもそもそんなものがここにはあるのだろうか?」
「おそらくは……」
マスターの問いに周は頷いて見せる。
町や村があるかどうかは正直言って分からない。だが、この世界がどういった形体でどういった仕組みで出来ているのかを知らなければ、このままでは1ヶ月後には全員が死ぬ。
町や村があろうが無かろうが行動に移さなければ待つのは死なのだ。
「もし町か村を見つけることが出来ればこの世界のことを知る良い情報源になるね」
新庄が言う。話す内容がそのスーツ姿とは全くと言って良いほど似合わない。
「これから探索しに行く上でリーダーを決めた方が良いと思う……」
口を開いたのは佐々木だ。眼鏡の奥に見える目は両目で色が違って見える。オッドアイと呼ばれるものだ。オッドアイの人間を見たのは初めての事で、最初は少し驚いたが、それ以降は然程気にならない。
「リーダー……」
マスターが腕を組み片手を顎に添える。
リーダーを決めるのは悪くない提案だ。複数人で行動する場合、その統率力が結果に良し悪しを与える場面も少なくないだろう。
だがリーダーは、誰にするかで大きく変わる。下手な人選を行えばそれはチーム崩壊を招きかねない。
この場合誰がふさわしいか。
年齢順でいけば、マスターか吉田ということになるが、この世界に置いてはリーダーに向いているとは言えない。
残った5人の中で一番上なのは新庄だ。新庄ならば見た目、言動もろもろ頼り甲斐がある。リーダーになったとしても誰も文句を言わないだろう。
「しん───」
「若林くんが良いんじゃないかな」
周の言葉を遮り新庄が言った。
「若林くんなら異世界に関して僕達よりも知識があるようだし、スムーズに事を運んでくれそうだ」
「確かに、まあ、バカではないわ」
唐田も新庄の案に乗っかる。
「俺は構わねえぜ。余計な役職には付きたくねえしな」
古賀も新庄の案には前向きのようだ。
「良いんじゃないかな。私らじゃあ何が何だか分からなくてテンパっちゃいそうだし」
笑いながらマスターと吉田も賛同する。
「私も良いと思う」
佐々木も頷く。
どうやら周はここの人達を少し見くびっていたようだ。普通ならば年下の、それも知り合って間もない者をリーダーに指名することも、それに賛成することもしないだろう。プライドがあるからだ。プライドがあるから自分より年下の者を低く見て自分の方が優位であると自分に言い聞かせる。
だがそれをしない。今の状況を考え最も適切な解を生み出せる。
周も心底では思っていた。この状況下に置いては自分がふさわしいのではないかと。だが言える訳はない。そもそもそれは無意識下における思考だったのだ。
皆も思っていた。誰をリーダーにすれば一番良いのかを。だが新庄がいた。新庄は若い組の中で一番年上で、考えることができ、能力も扱える。普通の集団ならば皆有無を言わず新庄をリーダーにする。
しかし、そこを新庄がうまくまとめて見せた。キーマンである新庄が動くことで皆の真意を汲み取って形にしたのだ。
周は笑っていた。誰かに気づかれるほど表情は動いていなかったが、微かに笑っていた。
新庄という人間に武者震いを覚えていた。その震えに思わず笑みが溢れていたのだ。
不安と未知がうごめく不明瞭なこの世界に向けて、新庄という人間は7人を1つのチームとして静かに根を張ったのだ。
周の右手には炎が、左手には吹雪がまとわれている。
テーブルを粉々にし、その破片を壁で遮った一連の流れの後、一同は外に出た。そして体に起こった異変の正体を探ろうとしていた。
そしてある程度実験を重ね、おおよその正体を突き止めることができた。
簡単に言えば、超能力である。店内にいた複数人が、それぞれ特殊な力を使うことが出来るようになっていたのだ。
「それ、どうやってんの……?」
唐田が不思議そうに周に聞く。
「なんて言うか、言葉じゃ表せないな。今まで無かった感覚なんだけど自然と扱い方が分かるって言うか、指とか腕を動かしてる感覚に近い」
「俺もそんな感じだ。まあ俺の場合、身体能力がバカみたいに上がっただけだからな。今まで体を動かしてたことの延長線上みたいなもんだ」
周が答えると、近くの木に逆さまにぶら下がっている古賀も付け足すように言う。
周が使えるようになった能力は概念で言えば魔法に近いものだ。炎や電気、風など自然現象に近いものを無の状態から空間に出現させることが出来る。
古賀の能力は至ってシンプルで、身体能力の超強化といった具合のものだ。身体の強化に伴い、三半規管や動体視力の向上も見られた。
「うーん……」
唐田は悩ましげに腕を組む。
「お前も同じ感覚だろ?」
「そうだけど、何か納得がいかない」
もちろん唐田も超能力が使えるようになっている。唐田の能力は元の世界で言うところの『瞬間移動』に当たるものだ。
ある地点Aからある地点Bまでを無条件で瞬時に移動することが出来る。
だがやはり無条件ではあるが無制限ではない。
「ちょっともう1回見せてくれないか?」
「えー、これ少し疲れるんだけど……」
周の要望に唐田はしぶしぶ従う。疲れることは疲れるが本人は未知の力に割と肯定的だと思われる。
「そこから古賀のいる木の枝まで移動して戻ってきてみてよ」
「もー、はいはい。行くよ」
唐田は音も立てずに一瞬で古賀がぶら下がっている枝の上へ移動する。
「うおっ、それいいなー。便利過ぎる」
「あなたのも、相当便利でしょ。数十人分の労働力がまかなえるわ」
「え……俺、労働力換算されてんの?」
唐田は枝から飛び降りると空中で消える。そしてまた、元いた位置へ戻ってきていた。
「私もここらへん強くなってるかも」
そして、こめかみ辺りを指差す。
どうやら能力の発動に伴い、その力を扱えるように脳も強化されているらしい。いやこの場合は脳が何らかの変質・強化されたため特殊な能力が使えるようになった、と考える方が自然だ。
「すごいなあ、みんな」
「ええ、我々はどうも感覚が鈍っているのか……」
マスターと吉田は周達の様子を見ながら言う。今のところ能力を使えるようになったのは周、唐田、古賀、新庄の4人。
ある程度の時間能力を使用すると、それぞれに称号が表示される。だがそれは現実で目に見えるわけではない。頭に直感的に浮かんでくるのだ。
周は『魔法師(ソーサラー)』
唐田は『飛び師(テレポーター)』
古賀は『闘技師(バトラー)』
新庄は『道化師(クラウン)』
まだ能力が発動出来ていないマスター、吉田、佐々木は発動に何らかの条件が必要なのかもしれない。ここに来て4人だけしか能力が使えないなんてことはないだろう。
あとの3人に関しては後々検証しなければいけないだろう。だかその前にするべき事がある。
「周辺の探索?」
「はい。今置かれてる状況が分からない以上、どれだけ情報を集められるかが鍵となると思うんです」
全員が集まったところで周が提案をする。
「確かにこれからどうすればいいか検討も付かない状態だからね」
「辺りに町か村でも見つけられれば何とか食いつなぐことも出来るかと」
「そもそもそんなものがここにはあるのだろうか?」
「おそらくは……」
マスターの問いに周は頷いて見せる。
町や村があるかどうかは正直言って分からない。だが、この世界がどういった形体でどういった仕組みで出来ているのかを知らなければ、このままでは1ヶ月後には全員が死ぬ。
町や村があろうが無かろうが行動に移さなければ待つのは死なのだ。
「もし町か村を見つけることが出来ればこの世界のことを知る良い情報源になるね」
新庄が言う。話す内容がそのスーツ姿とは全くと言って良いほど似合わない。
「これから探索しに行く上でリーダーを決めた方が良いと思う……」
口を開いたのは佐々木だ。眼鏡の奥に見える目は両目で色が違って見える。オッドアイと呼ばれるものだ。オッドアイの人間を見たのは初めての事で、最初は少し驚いたが、それ以降は然程気にならない。
「リーダー……」
マスターが腕を組み片手を顎に添える。
リーダーを決めるのは悪くない提案だ。複数人で行動する場合、その統率力が結果に良し悪しを与える場面も少なくないだろう。
だがリーダーは、誰にするかで大きく変わる。下手な人選を行えばそれはチーム崩壊を招きかねない。
この場合誰がふさわしいか。
年齢順でいけば、マスターか吉田ということになるが、この世界に置いてはリーダーに向いているとは言えない。
残った5人の中で一番上なのは新庄だ。新庄ならば見た目、言動もろもろ頼り甲斐がある。リーダーになったとしても誰も文句を言わないだろう。
「しん───」
「若林くんが良いんじゃないかな」
周の言葉を遮り新庄が言った。
「若林くんなら異世界に関して僕達よりも知識があるようだし、スムーズに事を運んでくれそうだ」
「確かに、まあ、バカではないわ」
唐田も新庄の案に乗っかる。
「俺は構わねえぜ。余計な役職には付きたくねえしな」
古賀も新庄の案には前向きのようだ。
「良いんじゃないかな。私らじゃあ何が何だか分からなくてテンパっちゃいそうだし」
笑いながらマスターと吉田も賛同する。
「私も良いと思う」
佐々木も頷く。
どうやら周はここの人達を少し見くびっていたようだ。普通ならば年下の、それも知り合って間もない者をリーダーに指名することも、それに賛成することもしないだろう。プライドがあるからだ。プライドがあるから自分より年下の者を低く見て自分の方が優位であると自分に言い聞かせる。
だがそれをしない。今の状況を考え最も適切な解を生み出せる。
周も心底では思っていた。この状況下に置いては自分がふさわしいのではないかと。だが言える訳はない。そもそもそれは無意識下における思考だったのだ。
皆も思っていた。誰をリーダーにすれば一番良いのかを。だが新庄がいた。新庄は若い組の中で一番年上で、考えることができ、能力も扱える。普通の集団ならば皆有無を言わず新庄をリーダーにする。
しかし、そこを新庄がうまくまとめて見せた。キーマンである新庄が動くことで皆の真意を汲み取って形にしたのだ。
周は笑っていた。誰かに気づかれるほど表情は動いていなかったが、微かに笑っていた。
新庄という人間に武者震いを覚えていた。その震えに思わず笑みが溢れていたのだ。
不安と未知がうごめく不明瞭なこの世界に向けて、新庄という人間は7人を1つのチームとして静かに根を張ったのだ。
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