カフェで織り成す異世界生活
第2話【いつもの顔ぶれ】
「よく耳にするのは異世界『転生』だけど、転生は生まれ変わるってことだから、この場合は異世界『転移』が正しい表現だと思う」
「じゃあ、ここは日本じゃない別のどこか……ってこと?」
「そういうことになるね。しかも店ごとの転移」
周は何故か自分でも驚くほど落ち着いている。普通ならこんな状況、到底理解できないものなのだろうが、不思議と頭が冴えている。
「とりあえず店の中に戻ろう」
転移したのは『カフェ 岩波』まるまるだ。店ごと店内にいた客も、マスターも、店員の唐田もまとめて飛んだらしい。
店内に戻ると目覚めているのはまだ周と唐田だけのようだ。確認したが眠っているだけで死んでいるわけではない。
まずはマスターを起こす。
「ん……うーん。唐田くん……か。いつの間にこんなところで寝ちゃってたんだろう……」
「マスター。私達は他の人達を起こすから、外の様子を見てきて。話はそれからです」
マスターの岩波 智<いわなみ さとし>は50代の太り気味の男性で、比較的穏和な性格だ。全くの気のせいだが、店のコーヒーにも料理にもその気質が現れている気がする。
「……え? 外? どうしてだい?」
「いいから、1度見てきなよ。おかしなことに巻き込まれちゃったみたいよ」
マスターは唐田の言っていることがいまいち分かっていない。それもそうだ、何故か眠ってて目覚めたら外を見ろと、自分がどんな状況なのか把握するには説明が足りなすぎる。
だが店内にいるのはマスターと唐田、周の他に4人。いちいち1人ずつ説明するのは骨が折れる。
全員を起こしたあと今置かれている状況を共有するのがベストな選択である。
唐田もそのことは理解しているようだ。
「若林くんはそっちの2人をお願い」
頭にハテナを浮かべたマスターを尻目に周と唐田は二手に分かれ、客を起こす。
全員に外を確認してもらった後、カウンターの近くに集め状況を説明する。憶測の段階ではあるが異世界にいるのではないかというのが周の主張で、それが最も濃厚である。
マスターと共に他の4人も概ね状況を理解する。
その後、自己紹介をし合い顔と名前を一致させる。
店内にいたのは、
新庄 誠<しんじょう まこと>(28歳)会社員。
佐々木 楓<ささき かえで>(20歳)大学生。
吉田 廉太郎<よしだ れんたろう>(56歳)出版社編集。
古賀 真人<こが まさと>(17歳)高校生。
職業も年齢もバラついているが、この店に来れば大体目にする顔ぶれだ。
「確認だけど、僕らがこの店に入ったときはこんなんじゃなかったよね?」
手を軽く挙げ、発言をしたのは細身の男性、新庄 誠だ。スーツに身を包んでいるため、おそらく会社帰りだったのだろう。
「はい、それは間違いないと思います」
周が答える。
「私には全然内容が入ってこないなあ……」
「同感です。仕事柄、異世界なんてのが舞台になる作品があることは知っているんですが、なにぶん部署が違ったもので……」
マスターに共感するように吉田が口を開く。2人とも50代も半ばを過ぎているため、異世界転移なんてあり得ない状況に相当困惑しているようだ。
それに比べて大学生の佐々木と、高校生の古賀は落ち着いている。ちなみに古賀 真人は周や唐田と同じ高校に通っている。
やはり映画・アニメ・小説などで異世界モノに触れてきたため、免疫があるのだろう。
「これから……どうすればいいんだ……」
マスターは悲観しうなだれる。それに当てられ、店内は静まり返る。嫌な静まり方だ。
まずは本当に異世界に飛ばされたのか確認し、今後の身の振り方について話し合わなければならない。最悪の場合、生涯をここで閉じることになるかもしれないのだ。
「……なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけねぇんだ!」
声を荒らげたのは古賀だ。大人ぶってはいるが齢17、精神の安定度で言えばここの誰より劣る。
「くそっ!」
感情が高ぶり、古賀がテーブルを叩いた、その瞬間大きな破裂音と共にテーブルが勢いよく砕け散る。床に叩きつけられたテーブルの破片がこちらまで飛んでくる。
一瞬の出来事にも関わらず周にはその光景がはっきりと、そして正確に把握できた。
咄嗟に動いた周の体は、今まで感じたことのない熱が内から溢れていた。無意識に右手が前に伸びる。腕を伸ばすと同時にカウンター席を包むように半透明な壁が出現する。その壁が飛び散ったテーブルの破片から皆を守ったのだ。
ただでさえ訳の分からない状況に追加される新たな謎。
開いた口が塞がらないを体現したのはこれが初めてかもしれない。皆同様に目を丸くさせ、古賀の方を見ている。
しかし誰よりも驚いているのはどうやら古賀の方だ。
「いや、俺……え?」
軽くテーブルに拳を下ろしただけなのに、それを受け止めたテーブルは粉々に。テーブルが老朽化していたわけでもなく、単純な腕力によって破壊されたのだ。しかも古賀本人はその腕力に全くの無自覚である。
だがそれよりも、周の腕から展開された壁の方がより説明がつかない。結果として皆を守ったのだが、これも本人の意思はまるで介入していない。
もちろん周は今まで特殊な力を使えたなんてことはないし、魔法とも言えるこんなことが起きるなんて微塵も予想できなかった。
古賀に至っても、元からその腕力を有していたとは考えにくい。催眠や幻覚といったことも考えられるが、あまり現実的ではない。いまさら現実的かどうかなんて無駄な物差しなのかも知れないが。
何にせよ、また1つ話し合いのタネが増えてしまった。
この異世界に飛んだことによって体に異変が起きたのか、それとも元から使えたがここに来た事自体がトリガーとなっているのか。
頭は回り続けるが、これといった解はおそらく出ないだろう。
異世界に飛ばされた時点で、『現実』や『常識』といったものは意味を成さなくなり、これまで培ってきた概念、観念は全て捨て去らなければいけないのかもしれない。
全てをここから始める必要がありそうだ。
「じゃあ、ここは日本じゃない別のどこか……ってこと?」
「そういうことになるね。しかも店ごとの転移」
周は何故か自分でも驚くほど落ち着いている。普通ならこんな状況、到底理解できないものなのだろうが、不思議と頭が冴えている。
「とりあえず店の中に戻ろう」
転移したのは『カフェ 岩波』まるまるだ。店ごと店内にいた客も、マスターも、店員の唐田もまとめて飛んだらしい。
店内に戻ると目覚めているのはまだ周と唐田だけのようだ。確認したが眠っているだけで死んでいるわけではない。
まずはマスターを起こす。
「ん……うーん。唐田くん……か。いつの間にこんなところで寝ちゃってたんだろう……」
「マスター。私達は他の人達を起こすから、外の様子を見てきて。話はそれからです」
マスターの岩波 智<いわなみ さとし>は50代の太り気味の男性で、比較的穏和な性格だ。全くの気のせいだが、店のコーヒーにも料理にもその気質が現れている気がする。
「……え? 外? どうしてだい?」
「いいから、1度見てきなよ。おかしなことに巻き込まれちゃったみたいよ」
マスターは唐田の言っていることがいまいち分かっていない。それもそうだ、何故か眠ってて目覚めたら外を見ろと、自分がどんな状況なのか把握するには説明が足りなすぎる。
だが店内にいるのはマスターと唐田、周の他に4人。いちいち1人ずつ説明するのは骨が折れる。
全員を起こしたあと今置かれている状況を共有するのがベストな選択である。
唐田もそのことは理解しているようだ。
「若林くんはそっちの2人をお願い」
頭にハテナを浮かべたマスターを尻目に周と唐田は二手に分かれ、客を起こす。
全員に外を確認してもらった後、カウンターの近くに集め状況を説明する。憶測の段階ではあるが異世界にいるのではないかというのが周の主張で、それが最も濃厚である。
マスターと共に他の4人も概ね状況を理解する。
その後、自己紹介をし合い顔と名前を一致させる。
店内にいたのは、
新庄 誠<しんじょう まこと>(28歳)会社員。
佐々木 楓<ささき かえで>(20歳)大学生。
吉田 廉太郎<よしだ れんたろう>(56歳)出版社編集。
古賀 真人<こが まさと>(17歳)高校生。
職業も年齢もバラついているが、この店に来れば大体目にする顔ぶれだ。
「確認だけど、僕らがこの店に入ったときはこんなんじゃなかったよね?」
手を軽く挙げ、発言をしたのは細身の男性、新庄 誠だ。スーツに身を包んでいるため、おそらく会社帰りだったのだろう。
「はい、それは間違いないと思います」
周が答える。
「私には全然内容が入ってこないなあ……」
「同感です。仕事柄、異世界なんてのが舞台になる作品があることは知っているんですが、なにぶん部署が違ったもので……」
マスターに共感するように吉田が口を開く。2人とも50代も半ばを過ぎているため、異世界転移なんてあり得ない状況に相当困惑しているようだ。
それに比べて大学生の佐々木と、高校生の古賀は落ち着いている。ちなみに古賀 真人は周や唐田と同じ高校に通っている。
やはり映画・アニメ・小説などで異世界モノに触れてきたため、免疫があるのだろう。
「これから……どうすればいいんだ……」
マスターは悲観しうなだれる。それに当てられ、店内は静まり返る。嫌な静まり方だ。
まずは本当に異世界に飛ばされたのか確認し、今後の身の振り方について話し合わなければならない。最悪の場合、生涯をここで閉じることになるかもしれないのだ。
「……なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけねぇんだ!」
声を荒らげたのは古賀だ。大人ぶってはいるが齢17、精神の安定度で言えばここの誰より劣る。
「くそっ!」
感情が高ぶり、古賀がテーブルを叩いた、その瞬間大きな破裂音と共にテーブルが勢いよく砕け散る。床に叩きつけられたテーブルの破片がこちらまで飛んでくる。
一瞬の出来事にも関わらず周にはその光景がはっきりと、そして正確に把握できた。
咄嗟に動いた周の体は、今まで感じたことのない熱が内から溢れていた。無意識に右手が前に伸びる。腕を伸ばすと同時にカウンター席を包むように半透明な壁が出現する。その壁が飛び散ったテーブルの破片から皆を守ったのだ。
ただでさえ訳の分からない状況に追加される新たな謎。
開いた口が塞がらないを体現したのはこれが初めてかもしれない。皆同様に目を丸くさせ、古賀の方を見ている。
しかし誰よりも驚いているのはどうやら古賀の方だ。
「いや、俺……え?」
軽くテーブルに拳を下ろしただけなのに、それを受け止めたテーブルは粉々に。テーブルが老朽化していたわけでもなく、単純な腕力によって破壊されたのだ。しかも古賀本人はその腕力に全くの無自覚である。
だがそれよりも、周の腕から展開された壁の方がより説明がつかない。結果として皆を守ったのだが、これも本人の意思はまるで介入していない。
もちろん周は今まで特殊な力を使えたなんてことはないし、魔法とも言えるこんなことが起きるなんて微塵も予想できなかった。
古賀に至っても、元からその腕力を有していたとは考えにくい。催眠や幻覚といったことも考えられるが、あまり現実的ではない。いまさら現実的かどうかなんて無駄な物差しなのかも知れないが。
何にせよ、また1つ話し合いのタネが増えてしまった。
この異世界に飛んだことによって体に異変が起きたのか、それとも元から使えたがここに来た事自体がトリガーとなっているのか。
頭は回り続けるが、これといった解はおそらく出ないだろう。
異世界に飛ばされた時点で、『現実』や『常識』といったものは意味を成さなくなり、これまで培ってきた概念、観念は全て捨て去らなければいけないのかもしれない。
全てをここから始める必要がありそうだ。
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