燦爛なる高貴武装の舞踏会

黒イライ

02.入学

僕の目の前には白く輝く剣と漆黒の剣が交差していた。
そして二つの剣は姿を変え人の形を象った。

現れたのは短い白銀の髪を後ろで一つにまとめ、黒いセーラー服を着ている同い年ぐらいの少女だった。何故にセーラー服。

「こんにちは、少年くん!私は《舞切》。さっき見た通り双剣型の高貴武装ノブリスマキナだよ。私のことは舞って呼んでねっ!」

えぇ……あの雰囲気出しといてこんな友好的な感じなんて聞いてないよ。それにこの子(?)ちょっと前屈みになって上目遣いで話してくるから……何か見えそう!見ないけど!

「は、はい。よろしくお願いします…」

びっくりして全然上手く話せなかった。

「むー、私に対しては敬語じゃなくてもいいよぉう。堅苦しいの苦手なのー」

舞切……もとい舞が頬を膨らませて口を尖らせる。

「じゃあ敬語は無しでいくけど……本当にいいの?」

 「別にいーのいーの。決めるのは私なんでしょ?だったらそれでいいんだよ、少年くんっ!」

「あと、その少年くんって。僕は楓雅暁人。よろしくね」

 「うんっ!分かった、少年くんっ!」

結局少年くんは直らないのかい。まあ別に呼び方は何でもいいけど。

「というか、そろそろあっち戻らなくてもいいの?少年くん。みんな待ってるよ?」

確かにそうだ。舞と話してたから仕切りの外のみんなを放ったらかしにしてた。

「うん。じゃあ行こう」

「らじゃー!」

その後仕切りを出てからみんなの様子を見てみると聖と《紅蝶羽》さん以外は一様に言葉を失っていた。
まあみんな驚きの連続だっただろうしなあ。僕の《高貴な心》の異質さに舞のこと。その前には聖と蝶羽のこともあったしねえ。

「いやいやー…私、今までの人生でもトップファイブに入るくらいにはびっくりしたよー。まさかうちの学園にいる高貴武装の中でもトップクラスの高貴武装が一気に所有者を得たんだからねー」

うーん、まあ舞に限っては多分僕の《高貴な心》ぐらいじゃないと多分扱えないと思うんだよね。後で舞に聞いてみれば多分分かるけど。

「まあ色々トラブル?はあったけど、何はともあれ君達は高貴武装の持ち主になりました。高貴武装に選ばれた者として相応しい生活を送りましょうねー。では、みんな体育館で入学式を行うのでみんな体育館に行ってくださーい」

それで話は終わりとばかりに会長は部屋から出て行く。他の三人もそのまま出て行った。神谷くんの槍の高貴武装、大きくて大変だなあ、とか思ってたらなんと小さくなって短剣ぐらいのサイズになっていた。便利なことで。

「ふんふっふっふー」

「あらあら、舞ったら鼻歌なんて歌っちゃって、何がそんなに嬉しかったんですの?」

 「えへへー、だって私に所有者が出来たの三百年ぶりだよ?嬉しいに決まってるよっ!蝶羽は何年ぶりだっけ?」

「私は二百六十年ぶりですわ。私の所有者は舞の所有者より長生きしましたからね」

いや、二百六十年とか三百年とか年数おかしいな。

「舞や蝶羽さんって寿命とかないの?」

「うーん、どうなんだろ?老いとかは感じないから無いんじゃない?でも、破壊されたら死んじゃうよねー」

「破壊されても再生する高貴武装もいますわよ。私は数回なら再生可能ですわ」

「私は時間はかかるけど何回も再生出来るよ。でも、そもそも私達壊れたことないし、まず壊れる程の攻撃なんて受けないからねー」

まあ確かにこの二人より強い高貴武装なんて殆どいないんだろうけどね。

「暁人くん。私のことは蝶羽、と呼び捨てで構いませんわよ?私も敬語とか使われるのは嫌ですわ」

うーん、でも何となく《紅蝶羽》さんの呼び捨ては躊躇うなぁ…。何か年上っぽいしお姉さんって感じだ。

「呼び捨てはちょっと…。敬語は無しにしますから」

「あら、それは残念。まあ別にいいですわ。とりあえず、よろしくお願いしますわ」

「うん、よろしく。蝶羽さん」

「皆さん、お話も程々に。早く体育館に行きますよ。入学式が始まってしまいます」

「あら、それはごめんなさいね」

「ごめんね聖ちゃん!」

僕達が話してるのを聖が窘め、僕達も他のみんなに遅れて出発する。



その後体育館に移動して新入生の列に座る。勿論事情を話して舞と蝶羽さんの分の椅子も用意してもらった。教員の人は大分驚いていたけど。
この学園は中等部がある学園で僕達は高等部からの編入となる。編入する人数は大体五十人くらいらしい。
そして入学式が始まって滞りなく進み、残すは学園長の話だけとなった。学園長のシャクテ・ルーラは五十年前の《舞踏会》の制覇者だ。《舞踏会》を制覇した時は時は二十三歳だったから今は七十歳を超えているはずなのだが、容姿はその頃から変わっていない。これは《舞踏会》で授かる神の恩恵に拠るものではないかと噂されたが、本人曰く高貴武装の恩恵ということだ。

「あ、シャクテだ。久しぶりに見たなー」

「そうですわね。あの子も最近は忙しそうでしたし」

舞と蝶羽さんが学園長を見て呟く。

「お二人は学園長とお知り合いなのですか?」

聖は興味があるような顔をして二人に聞く。まあ傍目から見たら聖の表情は分からないだろうけど。長年の付き合いの僕じゃないと気づけない。

「ええ、そうですわ。あの子とは、あの子が小さい頃からの付き合いですわよ。小さい頃は自信なさげにおどおどしてたのに、今ではあんな自信満々の表情をしちゃって。人も時を経たら変わるものですわねぇ」

蝶羽さんがまるで孫娘を見ているかのようにシャクテについて話す。今の彼女の姿しか知らないと蝶羽さんの言葉は俄かに信じがたい。今の彼女は勇ましく、そして堂々と胸を張っている。僕や聖は現役時代、《舞踏会》を制した頃の彼女は知らないが、それでも《舞踏会》を目指す者にとっては憧れに違いない。僕は別にそうでもないけど、聖は彼女の《舞踏会》での戦いぶりをビデオで何回も見ていた。ここにいる新入生の中でも憧れていない者の方が珍しいくらいだろう。

すると、学園長がこちらをチラリと見た。一瞬驚いたような顔をしたがすぐに顔を引き締める。恐らく、舞と蝶羽さんが所有者を選んだことは知らなかったのだろう。旧知の仲なのだから驚いて当然だ。二人の話だと二百五十年以上も所有者がいなかったらしいし。
色々考えてた間に、学園長の話は進んでいた。

「────皆さんはこれから編入生として入学される訳ですが、皆さんには一週間後に、高貴武装に選ばれるチャンスが得られる試験を受けることが出来ます。勿論受けなくてもいいですが、試験を受ける勇気もない人には高貴武装も寄ってきませんけどね。では、話は以上です」

その試験、ほとんど強制みたいなもんでしょ。だって受けなかったら高貴武装が寄ってこないなんて言われたら、《舞踏会》を目指す生徒からしたら受けない訳にはいかない。まあ僕は舞がいるから関係ないけど。

「あ、言い忘れてたことがあった」

学園長がステージから降りる途中で思い出したようにマイクの所まで戻る。

「《高貴な心》が大きかった五人はもう高貴武装に選ばれたと思いますが、あなた達にもやることはあるのでお忘れなきよう」

……なんだと。折角楽出来ると思ってたのに…。

「へー、何やるんだろ?楽しみだねっ。少年くんっ!」

「あ、ああ、うん。そうだね」

舞が満面の笑みを浮かべて僕に話し掛ける。これはまた反応に困る。でも、高貴武装に選ばれた限り仕方ないと言えば仕方ないのかなぁ。

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