異世界生活物語

花屋の息子

販売の反響

 軟膏クリームを売り出してから1月が経ち、季節は初秋になり、カイバクも黄金に染まり始めている。
 そんな中、俺は納屋でもうもうとした湯気にもめげず、今日もクリームを作り続けている、というよりも、増産が追いつかなくなりつつあるのだ。
 あまり香りを身に纏う文化の無いところに、傷は治るし良い香りはするしで、一気に評判が広がり、東区はもとより、南区や北区の一部からも買いに来るようになったのだ。
 領軍の納品を滞らせる訳にはいかないので、そちらは優先して仕上げているが、民生品が需要ギリギリの生産になってしまった。


 一週目の始めは、問題なく操業出来ていたものが、その週末頃には一人ではきつくなって、生産開始二週目で一人作業を諦め、姉に本格的に工房入りをして頂いたのだが、危ない作業をさせる訳にもいかないので、まげわっぱの増産と詰め替えが主な業務になっている。


 そして三週間目、製法自体はそれほど難しいものでも無いし、見よう見真似と言うか、聞きかじりと言うやつで、パクリ商品を出した男が、北区でお縄になったらしい、特許権等が理由ではないのが悔しい所だが、理由は、使った数人の女性が、手にかぶれの症状を発症したのだ。
 そのせいで、領軍本部から俺のところまで調査が入った、作ったものの差し押さえが敢行されて、俺がブチ切れたのでは無い、買い物に来た奥様ブチ切れ、そこにさらに数人が加わり、その中の一人が近所に応援を呼びに行ったものだから、収拾が付かない事になったのだが、領軍もけして悪意からではない事、被害があったための行動だと説明して、ようやっと収束がついた。
 被害があった事から、危険物認定をした事を謝罪されて、抗議に来た人では被害が無い事から、更なる安全確認のために、俺の軟膏を偽者の被害者に使用してもらう事で、あわない人が居る可能性があるのかどうか確認する事になった。
 当然のように、俺が作った軟膏でカブレなどの、薬物有害反応どころか副作用が出る事もなく、その近隣の方にも試して頂いたが、どこで買えるのかと言われるほどの、効果を示す結果を残して、供給が追いついてもいないのに、余計な宣伝をさせられたと言うものだ。


 その騒動も治まって四週目、二人作業が不可能な状態となり、ウェインに応援に来て貰い作業に加わってもらい、一日に何度も肉屋に往復しながらの操業をした。
 肉屋のおっちゃんも、これほど話題になった軟膏には、多少の未練もあったのだろうが、例の男の話が広まったので、諦めたようだった。
 今は単純に、ゴミ捨ての手間がなくなって助かると喜んではくれているが、それを代わりに何度もやるこちらは、たまったものでは無いのだ。
 そんな事をしているせいで、箱車は着工にも至っていない、未だにズタ袋のお世話になっていた。


「エド薄いの足りなくなっちゃったよ」
「今作る。ちょっと待ってて」
「俺は草取りに行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
「こっちは、やっとくから頼む」


 毎日のようにてんやわんやの大騒ぎをしているのだが、製造に人手を取られて、誰が販売をしているのかと言うと、母が花売り娘ならぬ、軟膏売りの・・・をしている。
 祖母は流石に嫌がって販売には手を出さないが、家事を一手に引き受けてくれているので、母を刈り出す事が出来たのだ。
 子供達がとんでもなく忙しくしている中、大人たちも見かねたようで申し訳ない事だが、状況が状況になってしまったので、本当にゴメンとしか言えないが許して欲しい。


「エド~、後10個になったから、追加お願いね~」
「は~い、今持ってく。お姉ちゃん、これお願い」


 このように、忙しい毎日を過ごしているのだ。
 この状況は改善されるのか、改善されなければ、そろそろ身が持たない、と思う5歳の秋の事だった。

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