異世界生活物語

花屋の息子

焼き物の別用途

 さて忘れてはならない物がもう一つある、洗いに回される鍋たちを横目に、俺は再度灰の山をまさぐる。
 覚えているだろうか鍋と供に俺はおもちゃも、あの業火の中に投じていた事を、それを回収するために。
 燃え残った枝を使って灰の山をいじくり回す事しばし、ようやくお目当てのものに行き着いた、硬いものに当たる手ごたえとカツッとした音があった。
 投入したものは100円ライター程度のサイズなので、探すのに手間がかかる、焼き物用の箱でもあれば良かったのだろうが、初焼きからそんなものが用意できないため、こんなさまを演じているのだ。
 灰にまみれたその物を、手に取ると勢い良く息を吹きかける。
「ふっー」
 こちらも鍋と同じように天目様の金属光沢が浮かんでいる。
 まとめて入れたものだから、一つ目が見つかれば後は簡単で、芋ずる式のように発見できた。
 ギンッ、発見した物を打ち鳴らしてみると、鍋よりも金属よりの音が響いた。
 混ぜ込んだ粉末収魔石の効果は間違いなくあるようで、軟化の逆で魔素を吸収する物を混ぜ込んだ事により単純に硬度が上がったか、それとも金属成分の付着?率が良かったのか、どちらかだろう。
 おもちゃと言ったが、それは鏃だ。アリにしろイノシシにしろ集団で襲ってくる相手に対して、接近戦をするのは俺はイヤだ。それならば接近しなければ良いのでは?の観点から、失敗しても良いやと作ったのがこの鏃なのだ。
 思いにかけづ出来は最上のものだったので、武器開発に良い弾みがついた。
 この矢を番えるのは、弓と言ってもボウガンタイプを想定している、弓の扱いはそれなり以上の錬度を要求されるし、和弓の狙いなど弓道をかじった程度の人が教えて、どうこうなるモノでは無いし、初期の火縄銃よろしく、出会い頭の数減らしが出来れば上出来だろう。音での威圧は出来ないが。
 この世界に来てからと言うもの、単純な弓矢を含めて飛び道具の類を見た事が無い、戦闘は接近戦のみで行なわれていて、後衛と言えるものも本当の意味で後列から槍を振るうだけ、後方から敵に向かって攻撃をする発想は、少なくともこの町には無い。
 それゆえに怪我も多く、回復軟膏も売れると言うものなのだが、本来の目的は怪我人を救う事では無く、あくまで民生用手荒れクリームが、クリーム本来の目的品なのだから、戦闘で怪我人が減ってそちらの売り上げが不振になろうとも、民生需要がなくならない限りは問題ではないのだ。
 むしろ怪我人など出なくなればそれに越した事は無いとすら思う訳で、生きている人が多ければ多いほど、俺が紹介する品が売れる事につながると言うものなのだから。
 試作品30本を見ながら顔はニタッとしてしまった。
 幸い俺の顔を見ていたのは灰だけで、変人扱いを受ける事は無かったのが、何よりの救いだ。
 今な顔を後世の人に伝えられてしまったら、何を言われるか解かったものではない、それこそ死の商人扱いを受けかねない、生の商人めざして死の商人と言われるのは、耐え難いのだ。

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