異世界生活物語

花屋の息子

寝床の入れ替え

 世界地図を見た母は、たまには年相応な事もするのねと少しうれしそうだった、なんせ小さい時から手をかけない様にして来たことで、俺に対する子育ては拍子抜けしていたのだ、たまに掛けさせてくれる手間は母にとっては、親やってるって実感が湧くから嬉しいらしい。
 それでも俺子供だし仕方ないよねとはなら無い、中身はそれなりのお年なのだからはっきり言って、子供のそれとは比べ物にならないくらいしょげていた。
「オネショするなんてエドもまだ子供ね」
 普段からかえない分こういう時は、ちょいちょいからかってくる姉を言い返せない、オネショ自体もここ一年以上していなかったから、結構ショックが大きい。
 幸いな事に新しいワラは沢山あるし、寝床を新調するには丁度いい時期での出来事だったのかもしれない。
 んな事あるか~、めっちゃくちゃ恥ずかしかった、30すぎのオネショなんて恥ずかしくない訳が無い、それはもう顔から火が出るどころか、火事かと思ったくらいだ、頭は30のそれでも体は子供なのだ、どんなに疲れていようがトイレに行くのだけは、今後忘れないようにしようと心に誓った。
 それはそれとして、今のように布団を乾せば良いというものでも無いのが、この世界の常識、ここのところ俺がやらかさないから、寝床のストックも作り置きが無いので、朝食後寝床作りとなった。
 これは女性や子供の仕事で、成人男性は手を出さない、理由は簡単で男が作ると固くなりすぎるから、寝心地が悪いのだ、寝床はコンパクト牧草そのものといった感じなのだ、ただし重量は三分の一の10キロ程度だが、長方形の木枠に蔓を2本配置したところにギュウギュウとワラを詰めていく、それを踏み固めたりするのだから男の体重で力いっぱい踏んだ日には固まりすぎてしまう、女性や子供が作ったものであれば少し甘い作りになるため、寝床として丁度良い柔らかさに仕上がるのだ。
「丁度いいから全員の代えも作ってしまいましょ、そろそろ代えなきゃと思っていた頃だったし」
「そうだね、それじゃリースとエドはワラを持ってきておくれ」
 流石に子供の体重や力でコンパクト牧草を作るのは出来ないので、寝床作りではワラ運びのお手伝いが子供の仕事だ、子供が運んだワラを均一に箱の中に押し詰めていく、それを蔦で縛ったら完成だ。
 これを大人一人分にすると6個ほど、子供用で4個必要になるのだから、残り35個、腕の長さから言って、子供が運べるのはせいぜい5キロ納屋の裏につんであるワラを運んでバラバラにしてなかなかの作業量だ、途中からは母たちもワラを運ぶ、流石の子供の体力も20個分も運べば半減なのだ。
 作ったから終わりで無いのが寝床換えのきつい所で、古い寝床を外に出さなければならない、半年も使えばつぶれて小さくはなるが、それに反してそれなりに重くもなるわけで、大きさは6割くらいだが重さは1割り増しになっている、部屋の外にさえ出せば良いのだがそれでも重いのよ。
 出来上がったものは、夕方に帰ってきた父たちが部屋へと運び込んでくれる、4っづつヒョイヒョイと掴んでは持って行く父を見て、あと十年十五年で父のように成れるかは不安が残るが、成らなければこの過酷な世界で生きていけないのだから、そのあたりは日本の恵まれた生活が懐かしい。
 運び込んだ帰りに古い方を外に積み上げてはの繰り返し、一日仕事をした人間の体力ではない。
 この使い古しの寝床は燃やされて灰になって畑に撒かれるのだが、今回はこれを堆肥にしてみようと思って全部譲り受けた、自家用の畑の隅に明日にでも父に運んでもらったら積み上げておくだけなのだが、夏の暑さで良く醗酵してくれるだろう、秋の刈り入れ後には全面とは行かないが畑に撒ける。
 本来であれば屋根を付けたところでやりたいが、実績も無いのでこれで我慢だ、問題は切り反しが出来ないから表面は使い物にならない事くらいだろうか、それとも父に鋤で助けてもらうか、途中までの出来で判断するしかないのが苦しい所だ。
 この世界では堆肥の文化が無かったのが驚きだった、微生物の知識は浸透していないのだが、物は腐るし酒はあるから醗酵も存在する、しかしその醗酵を酒造り以外ではあまり活用していない、家畜もいないのだから、チーズなども無いので活用機会は限られているのだろうが、堆肥を使えばもう少し収量を上げる事は可能だろう、森で捨ててくる細い枝や葉も堆肥として活用できるかもしれない、このあたりはこちらの世界に来ても、日本の「モッタイナイ」精神は健在だ、と言うか労働対価を増やしたいと言うのもあるのだ。
 さあ人口増加に役立ってみますかね。



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