無い無い尽くしの異世界生活

花屋の息子

金属資源が~・・・

結局、ウチのじいちゃんの昔話は聞かせて貰えず、二つ名があるって凄いんじゃないの?もっと自慢しても良いのに、という気持ちだけが残った。
空を見上げ太陽の高さからすると16時くらいだろうか、安全な柵の内側に入ったは良いが、体以外の物は森の入り口に置きっぱなしになっているので、それを取ってこない事には帰るに帰れないが、戦闘員ではない普通のおっちゃん達は、さっきの戦闘の緊張から安全な所に着て開放されたせいか、余計にへたり込んでしまっているので、しばらくは使い物になりそうに無い、かと言って残している物は捨ててきて良い物でも無いので、取りに行かなければならないのだからさっさと立てよと言いたいところだが、この疲れきった顔を見せられてはそうも言えないしで、結果、回復待ちと言う事になった。
俺からすると壺さえ無事ならば、後は最悪どうにか出来るのだから、壺だけでも確保したい所なのだが、周囲の敵はいなくても森に近づけば、再度襲われる可能性がある場所に、疲労困憊の人間に行って来いとも言えず、心の中で地団太を踏むしか無いもどかしさに苛まれていた。
それからおっさんたちが回復したのが、体感で一時間後だったから笑い話のよう、この人たちは本当にこの世界の住人かよ?と言ってはいけないのだろうな。
やっとの思いでおっちゃんが柵から出るが、問題は出たところに転がっていた。蟻の残骸である、このまま放置したのでは腐敗するか新たな魔物を呼びかねない、そうそうに戦闘から回復して作業を始めた兵士達によって、すでに半数は埋められていたが、まだ半分は残されたままになっていた。
蟻の胴体には価値が無いのか、頭だけが落とされ回収されて詰め所に集められていたが、残った胴体は数体づつ切り株の間に掘られた穴の中に放り込まれていた。
この辺りは土が硬く朽ちきら無い太い根もあるため、廃棄用の穴を掘る作業も困難な様子だった。
その中から「おお~い、次はこの辺りにするか」と声が上がり、それに応えるように「イヤそこよりここの方が良いだろう」と、兵士達が穴の位置を決めている。
森へ行く道を確保しなければならないので、どこでも良いからと埋めたりは出来ないと言う事だろう、切り株が密集して荷車が通らず人が歩かない、穴を掘るには向かない場所をわざわざ選んで、掘っているのだから効率が良い訳は無いのだ。
しかしもったいないなと思ってしまう、何か胴体にも使い道は無いものなのか?日本人のもったいない精神で、ついそんな事を考えてしまう。


「ねえ、蟻って頭は持っていたけど、体の方は使えないの?」
「さあ知らないな、トムスンさんどうですか?」


近くにいたウェインが知ってるかと聞いてみたが分からなかった。そのままウェインの隣にいたおっちゃんAことトムスンさんにお鉢が回った格好だ。


「俺も何かに使えるなんてのは聞かね~な、蟻はあのあごが収穫に使うくらいなんじゃねえのか?」


ああ、ノコギリ鎌見たいので収穫していると思ったら、この蟻の大顎を使った加工品でしたか、確かに蟻の肉が食べたいかと聞かれれば、それはノーだろうし頭と比べたら傷の多い体の外殻は、もはや有用な素材には見えないので、やはりゴミとして埋めるしか方法が無いのかもしれない、そもそも勿体無くないのなら蟻も魔獣扱いになるのだろうから、魔物なんてどれもこんな物なのかもしれない、でも廃棄率9割って勿体無く感じますよ。


「マリオネルさん、悪いんだが荷車を一台貸してもらえないか」


考える人の立像と化していた俺をよそに、一人のおっちゃんが隊長さんに声をかけてきた。どうやら使っていた荷車の一台を蟻に破壊されたようで、木材を積み直さないと帰れなくなっているらしい、全く邪魔な魔物めトホホな事案をいくつもいくつも作りやがって。


「ああ詰め所の脇に止めてあるから使うと良い」


隊長さんから許可を貰ったおっちゃんは、詰め所の方へと走って取りに行った。さて詰らない事を考えていないで俺もみんなに合流しよう。
そして皆の元に合流した俺の前には、テンプレか?と言いたくなる光景が広がっていた。物の見事に壺の一つが無残なまでに砕かれ、中に入れていた虫はそのほとんどが蟻に食い散らかされていた、しかも最初に獲った満タンに入っていた方だから余計に性質たちが悪い。
「エド、気を落とすな、こんな事もある、こんな事でめげていたら生きていけないぞ」


父の励ましが聞こえるが俺の頭には入らず、左から右へと耳を通り抜けて行く気がした。さらには「おいエド、そんなに気にするな」とウェインを筆頭に何人かが「坊主元気を出せ」と、声を掛けてくれるが父の声すら上の空といった感じにしか聞こえていないのだ、他人の声が俺を引き戻したり出来る訳も無い、時間にしたら大した事の無い時間だが、俺の中でスイッチが入った気がした。


「ゆるさん、赦さんぞ~」


放心していた子供がキレたのを見て、大人たちの若干の安堵の混じった呆れ顔をする事を他所に、俺はどこかで聞いた事のある悪役の名言っぽく言ってしまったが、人間腹の底から怒りが湧き起こると案外こんな物なのかもしれない。
この怒りは必ず還してくれるぞ、俺を敵に回した事を後悔させてやる、首を洗って待ってろ『森』。
そんな俺をまあ大丈夫だろうとほおって、大八車を引いて戻ってきたおっちゃんの方に、破損した方から荷物が移され帰宅準備が整った。


「お~いエド行くぞ」


ウェインに促された俺の首根っこを掴むと父が肩車してくれた。ちなみに父の身長は190オーバーであるため、肩車をして貰うと非常に見晴らしが良い、怒りを腹の底の底に納めた俺は少しは晴れた気分で家路に付く事ができた。
サンキュー親父。

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