無い無い尽くしの異世界生活

花屋の息子

日本には戻れそうにありません、僕は1歳を過ぎました

 どうやら夢を見ている訳では無かった。転生先の世界に来てから一年半が過ぎ、子供の脳はどう言う構造なのかと思うほど言葉も理解できる様になっている、生前あれほど苦労した英語の授業に、子供脳の能力持って戻れないかと思うほどに。
 ただし発音はまだ旨く出来ないので、パパとママはなんとかクリアしたが、お姉ちゃんが「ねねちゃ」になって、祖父母は「じ~じ、ば~ば」なってしまうのは、ご愛敬と言うところだろう。
って何だか言っててかわいいな俺。
 前後するが、こちらの世界での俺の家族を紹介しよう、まずは父さんグラハム19歳、普段は畑仕事をしているが領主に使える兵士でもある、日本風に言えば一領具足が近いかもしれないな。
 次に母さんシーリス18歳、主婦で家の事をやっている、そのお腹は膨らみかけているので、もう半年くらいで弟か妹が出来る予定だ。
 姉さんの名はリース、3歳で俺をかまってくれている、イジメている訳ではないよね?
 父方の両親となる祖父母クライン36歳とハンナ35歳、祖父ちゃんは父さんと代替わりする前は、一領具足モドキだったらしい、今は畑仕事メインで頑張っている、祖母ちゃんはこの町一番の料理名人らしい、母に毎日料理特訓をしている、うちの家族はこんな感じだ。
 母方は別に住んでいるらしいが、まだ会った事無いんだよな。
 歳を言ったが、日本だったら何かと問題になりそうな年齢だよな、○4才の母的なあれで。
 そんで俺はと言うと、やっと歩けるようになったので、母や姉とお散歩が日課になり、やっと外に出て解った事は、ここがとんでもなく田舎だと言う事だった。
 まず家の密集率が低い、日本に住んでいた時も都会人どころか、生まれも育ちも長野の山間部だったけど、ここまでのド田舎ではなかった。
 家の作りも、戦後のバラック住宅の方が上等に見えるレベルで、板壁には隙間が開いている家だし、窓は板を太い枝で支えるタイプ、障子もガラスも見た事が無い、その所為で秋以降は家の中がかなり暗い、生まれてこの方ロウソクも見た事が無いから、文明レベルも相当に低そうだ、どうしてもと言う時の明かりは、皿に油を入れて芯に火を点ける灯明を使っている。
 水は川の水か井戸で、水道などという物は無いし、道路は土引きでかなりデコボコしている、正直歩き始めた俺にはキツイ道なのだ。アスファルトが懐かしいなんて思ってないんだからね。
 この土舗装は雨が降ればぬかるむし、乾季の今は風が吹けばホコリが舞い上がる、まあ周囲一面が畑だからそのせいもあるのだろうが、目に土ボコリが入って痛いのなんの、何度涙を流した事かわからない。
 そんな道をしばらく歩くと一軒の商店に着く、ここは馴染みの肉屋さんで、店主はこれで肉屋かよ、と言いたくなるほどの、ヒョロヒョロな男が営んでいる、肉屋なんだからしっかり食えよ。


「い、い、いらっしゃい。今日は何にしましょう?」


 その体型でキョドルなよおっちゃん、ヒョロさに余計箔が付いちまうじゃないか。


「この鹿のお肉と1ケムと、挽き肉100フルちょうだい」


 この鹿の肉は、この辺りでは一般的な肉らしく、ウチの食卓にもいつもの様に上がる、母が注文していたケムとフルは、ケムとキロがだいたい同じくらいフルは、グラムに当たる単位のようだ。


「毎度有り難うございます、鹿肉一ケム百フルで1200ピリンに成ります」


 ピリンはこの国の通貨で、千単位まではピリンで、万単位からは繰り上がって変わるらしいが、二歳児が万単位の金を見る機会など無い訳で、俺はまだ見た事は無い、千ピリン硬貨までは見た事があるのだが、この歳で金に興味を示のもどうかと思って触ってはいないので、材質は解らなかったけど、千ピリン硬貨は今の500円のような金属で出来ていて、コインと言うより色の鈍い甲州金のような、少し潰した平らな饅頭型をしている。
 百ピリン硬貨は、10円玉と同じ青銅?だろう、この下に十ピリン硬貨もあるが同じ青銅製だった。


「また宜しくお願いします」


 お金を払って物を受け取ると、元気の無い声でお礼を言われた。
 来た道を帰りながら、姉が俺が感じたのと同じ質問を母にしたのだ。


「ねえママ、お肉屋のおじさん、お肉ちゃんと食べてるのかな?、いつも元気ないけど?」


 そう言うと母のツボに入ったのか、ケラケラと笑いだして周囲の目線を集めてしまったが、母は気にせず。


「そうね、いつも元気ないわね、あなたたちはお肉大好きだから元気いっぱいね、いっぱい食て早く大きくなってね」
「うん、いっぱい食べて大きくなる~」


 姉が元気良く答えると、母は嬉しそうに微笑んだ、ここは俺も応じた方が良いだろう、姉の真似をしているようで微笑ましく見える。


「ぼくもいっぱいたべる~」
「エドもいっぱい食べてね」
「うん」


 自分でも猫かぶり気味かと思うけど、二歳にもならない子供が、俺とか使ってたらおかしいかなって事で僕で通しているのだ。
 コ○ン君の気苦労が分かる気がするよ。
 うちでは主食用のエンバクと副菜となる野菜は、畑で作っているから肉以外は自給自足をしている、肉は父や祖父が農閑期になれば自分で採ってくるが、農繁期の今は畑が忙しいため購入している。
 今買ったこのシカの肉だが、奈良に居るような何とも愛らしい、かわいい鹿ちゃんなどではない、3ヶ月ほど前に、祖父と父で仕留めて来たのを見た日から、しばらくオネショが止まらなくなるほどの、非常識に恐ろしいバケモノだ。
 このあたりでは一般的な魔獣らしいが、このシカの名をホーンディアーと言う、大きさだけで言えば鹿の二倍程度なのだが、額には妖刀かと思うほどの赤黒い一本角と、死んでるにもかかわらず見開いて血走った目、眉間に入った威嚇皺と、そのどれを取ってもオシッコをチビル理由には事欠かないレベルの、化け鹿、始めて見たその時はバッチリ卒倒したさ。
 しかしその見た目とは正反対に、味はめちゃくちゃ美味い、味は牛肉に近いが、牛のような臭みは無くサシも入っている訳では無いが、パサつかないためので、いくらでも食べられる肉なのだ。
 そのほかに食卓に上るのは、口の中にエイリアンかと言うほどに、大量の牙や歯が生えた肉食ウサギの魔獣、ファングラビがいる。
あの口を見ればウサギさんなどと思う者は絶対いない、この世界の人間に本物のウサギは可愛いのだと言ったところで、頭がおかしいヤツ扱いを受けるだろうな。カワイイのに。
 こちらも見た目とは裏腹に味は大変よろしい、肉食獣は臭みがあると聞いた事があったが、地鶏に似た濃厚な旨みとさっぱりとした味わいで、現世に戻って料亭に持ち込みたいと思ったほと旨かった。
 これ以外にも魔獣はいるが、父たちが採ってきていないので、どう言うモノが居るのかは解らない、大きくなったら俺が倒す?何て思っていたら家についてしまった。
 母は姉に畑にいる父から、野菜を貰ってくるようにお手伝いを頼み、俺を連れて家の中に入る、流石にまだ二歳に達しない俺ではお手伝いは無理だ。
 この世界で残念なのは毎日の料理だが、味自体は美味しいのだが、はっきり言ってバリエーションが少ない、現代日本に居たら何処に行っても料理のバリエーションには、ケチを付けたくなるのも仕方の無いのかもしれないけどな。世界一美味い物が食べたければ、銀座に行けとか言うらしいし。
 まあ救いは、朝食はから揚げ弁当で、昼はコーヒーだけまともなのは夜だけと言う生活をしていた身からすれば、現在の方が余程充実した食生活をしているのだから、生前何をして居たんだと自分で自分を罵りたいなどと思ってしまうのだ。

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