桜の下で出会うのは

雪莉

第三章「桜と彼女に抱く感情」

「お‥‥にい……ちゃ……ん」




 妹は今にも消えそうなか細い声で俺を呼び、今まで走っていた足をゆっくりと止めた。




いつもより様子が変な妹を見ると足が小刻みに震えていた。


足にあった視線をふと上げると、今まで見たこともないような大きな桜が堂々と立っていた。

その木を見て、安心感を感じないと言ったら嘘になるかもしれない。



 しかし、ひどく不気味で、それには吐き気すら感じた。






だか、妹が怯えていた理由は他にもある。




その木に座り込んでいる若い女。






いや、立っていることすらままならなくへたり込んでいる若い女といったほうが正しいのかもしれない。


弱々しく見える彼女だか、凛と美しく、しかし人を蔑むような冷たい目をしていた。






 そんな姿はまるでこの世界に絶望し、肩を落としているようにも見えたが、この世界を憎んでいるかのようにも見えた。







「………………」




「………………」

















「……………… マァーダァなのか?」




 長く続いた沈黙を破った彼女は、マァーダァと普段耳にしない言葉を口にした。





Morder。




 なんとかアルファベットには出来たが、意味は分からない。





 いや、スペイン語で「一口」だった気が……。





でも、もっと他の意味があったはずだ。




英語、スコットランド語、オランダ語…………。





 どこの言語すら分からないのに、意味が分かるはずがない。




どんな意図があるのも想像が付かない。










 ひょっとすると妹……莉央の知り合いかもしれない。


しかし、そんな望みはすぐに消えた。





妹は、彼女を見て震えていたのだ。





つまり、それだけの恐怖心を彼女に持っているということ。







知り合いだったのならば、酷い事をされたと考えられる。


だが、そんな出来事を妹の口から、周囲からも俺の耳に届いてはいない。






 それにしてもおかしい。




妹が人に恐怖心を抱くのだろうか。















たしかに彼女は、この桜みたく美しながらも不気味だ。



しかし、彼女に俺は嫌悪どころか、親しみすら感じた。








この感情似てる。





これは、俺が殺したいと思ってしまう相手に抱く感情にとてつもなく似ているのだ。



 だめだ‥‥‥。





感情が抑えきれない。



彼女がしに怯える顔。


血の気が引いた死に顔。


白が目立つ服が赤に染まる姿。









 見たい。






想像するだけで高ぶってしまう。



しかし妹がいる今、衝動に駆られて動くわけには行かない。




 だが見たい。









見るためにはコロナサイトイケナイ。










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