桜の下で出会うのは

雪莉

第五章「抑えきれなかった感情を」

「‥‥わらわは殺せんぞ」






そんな俺の心を読んだかのような発言が彼女の口からこぼれた。




ー否。



彼女は心を読んだのではない。



彼女の腕には短刀で切ったかのような生々しい傷。






赤黒いエキタイが傷口からあふれ出している。






そう彼女は俺の殺意を身をもって知ったのだ。




もちろん、腕を狙ったわけではない。







俺が自身の欲望を抑えきれず、首をめがけて切りかかるのを見て、彼女は自らの腕で瞬時に受け止めたのだ。





もしかすると、俺が行動に移す前にその殺意を感じ取ったのかもしれない。



だがどちらにしよ彼女の瞬発力の速さ、敵が襲い掛かってくる対応は人並み外れた能力を持っていることを物語っている。







しかし、俺はそんなこともお構いなしに左の手……




彼女と同体している短刀を持っている反対の手で、制服の胸ポケットに隠し持っていた折り畳みナイフを今度は彼女の胸をめがけて確実に、外さなぬよう狙った。




しかし、またもやそれをあっさりと防がれてしまった。



こんなことぐらい一人や二人、やってのける相手なんていた。






自分より体格のいい相手、強い武器を持った相手、見るからに手も足もでなさそうな相手。




そんな相手にも俺は、苦戦しながらも戦い、勝利してきた。






だが今回は違う。







本能が彼女と戦うことを拒絶している。




この相手には、彼女には牙を向けてはだめだと、禁じ手だと。






頭の中でうるさいぐらい警告が鳴っている。






なぜ彼女にそこまで危険人物視するのか自分でもわからない。


こんなか弱そうな彼女に、そこまでの恐れを抱くのが不思議で仕方がない。


しかし、これ以上反撃を続けると逆に自分が返り討ちにされてしまいそうでままならない。






いくつもの疑問が、俺の脳内に次々と浮び、その答えは考えるより先に新たな疑問を生み出していく。





そんな状況を俺はこらえきれず、こんな質問を投げかけてみた。

















「お前、何者だ‥‥‥‥‥」










「わらわか?







 わらわは雪鬼ゆき。それ以上の事は言えぬ」



鬼‥‥‥‥?。





鬼といったらよく悪者役で昔話に出てくる、あの鬼か?







「お兄ちゃん‥‥」




だとしたらなぜ今になって姿を現した。




鬼は妖怪の類。


妖怪は普通の人には見えないはず。




だったらなぜ俺らには鬼が見える。




「お兄ちゃん‥‥」







だめだ。




いくら考えたって、答えなんかかすりもしない。



頭の中で鬼という文字がぐるぐると凄まじい勢いで回る。



頭が痛い。





少しでも答えに近づけるように、妹の意見を俺は聞こうとした。





妹はその時を待ってました、といわんばかりにこういった。





「お兄ちゃん、よく聞いて。  
 桜‥‥。
 桜が、この時期に咲くはずがない。
 だって今は7月。 桜は緑一色に染まっている頃よ。
 なのにこの桜は桃色の花を満開に咲かせている。  」





‥‥そうだ。



この木に感じた違和感が、消えなかったのはそれだ。




夏に桜が満開なはずがない。




それは考えなくても分かる。



なのに俺はそんな当たり前のことを気づけなかった。







ひょっとすると、妹に指摘されなければ一生気づけなかったかもしれない。



そんな当たり前のことを指摘してくれた妹は、続けて言う。








「桜が、夏に、それもこんなに美しく咲いていたらニュースになるはず。
 だけど、そんなニュースは耳にしたこともない。
















 ねぇ、雪鬼さん。





 
           























































   この桜、特別な何かを秘めているのでは‥?  」



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