儚い雪に埋もれる想い

雪莉

悪夢からの現実

 
「美空、美空、美空」





 自身の名を連呼され、後方に目を向ける。



懐かしい声、懐かしい顔、懐かしい想い、懐かしい色。どれもすべてが懐かしく感じる。

「……ゆき」




そういって彼女に触れる。冷たくて気持ちいい温度。


やっぱり、君は変わっていない。





しかし、そう思ったのもつかの間。徐々に生温い感触に変化してゆく。また、彼女の顔が崩れていく。


これは、血……。

「なんで私を、殺したの」

 低く、この世で生きていると思えないほどの声で、そう囁かれた。



「待って!」
 





気が付くと、昨夜と同じ色の天井があった。



(昨日結局、出かけるのを明日にしたんだっけ。昨日の事だから、今日か)



 横を見ると、伽耶がいた。彼は、不安そうにこちらを見つめている。
 






 あれは……、夢か。



 気分が悪くなるような、最悪な夢だった。 



 私は今、青ざめているのだろう。伽耶が「大丈夫」と優しい言葉をかけ、背中を柔らかくさする。




緊張が解けた途端、不快感が押し寄せてきた。その感じが、たまらなく嗚咽を覚えさせる。


「おえぇぇぇ」


 



 昨日の食べた、サンドイッチが逆流すると思いきっていた。






だが、違った。




吐き出した赤いエキタイを見、驚いた。口の中は、鉄の味が広がっており、その苦さに顔を歪ませる。


「どう……して…」

私は、情けを見られた屈辱から、嘲笑するように口角を無理やり上げた。



 自分の味気無さを、馬鹿にするかのように大きな涙がこぼれてきた。


薬は、昨夜ちゃんと飲んだ。食事もちゃんと、バランスの取れたものを食べている。

水分補給だって、二時間に一回とこまめにとっている。


なのに、どうして。

血と涙と汗でぐちゃぐちゃになった顔は、伽耶のたくましい胸へと吸い込まれていった。



温かい心臓の音が、伝わってくる。



ドクン、ドクン、とリズムを刻むにつれて少し、落ち着いた。




 ふいに、思う。今日もまた、外に行かずじまいなど、格好がつかない。





今日こそは、無理にでも出かけてやる。だから、言葉にしてみた。


「ごめん、いこ」
 



 伽耶の胸から顔をあげると、大きな決心がついた。



 顔を冷水で洗い、綺麗にした。



後、あきらかにサイズが合っていないと思われるパジャマ代わりのパンツを、脱ぐ素振りをした。



「えっと、外に出ていますね」





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