儚い雪に埋もれる想い

雪莉

その笑顔を目視

 その傷を見て静止していると、あんなに強要されていながらも、後ろを躊躇なく美空は振り返ってしまった。



百瀬の顔は、美空の背中と正反対に、血の気を引いていた。


貧血になっていても、おかしくないくらいに。
 


 ぱちん、と手を鳴らす。美空が、百地を驚かすために。


びくっと、痙攣に似た動作を見せた百地はまた、あの顔に戻ってしまった。


紅い瞳の切ない顔に。



 「先輩…、もう僕だめですね。やっぱり先輩を守れなかった。ていうか、守る資格なんてなかったのかな」



やや自嘲的な苦笑いで、そう吐き捨てた。


 一体何のことか分からなかった美空だが、何かを察したようだ。
 

「ちょっと待っていて。そしてそこに座って、伽耶」


美空は、百地の髪の毛をふわりと撫でると、キッチンへと消えていった。
 




五分ぐらい、経ったくらいだろうか。

美空は、何か怪しく黄色い、しかしほんのり橙色の何かを、マグカップに入れて持ってきた。



「これ、飲めば元気になる。味の好みは分からない。だけど、私は美味しいと感じている」



百地はその言葉を信じ、湯気が立ったそれを口に運ぶ。

酸味が程よく、しかし甘い。真冬に似合うこの適度な温かさも、懐かしく感じる。

ただただ、猫舌の人を苛めるだけの熱い飲み物ではない。



かといって、この暖房もついてない部屋にいる人を、寒く感じさせるぬるさではない。



そう、飲めば体の。いや百瀬の心の芯まで温めてくれるような、今の状況にぴったりの温かさの飲み物。


プラスアルファ、栄養を取れる。



こんな、優れた飲み物を作れるのかと、驚きの目で美空を見ると、久しぶりの笑顔が見られた気がした。


えっへへ、とはにかんだ笑顔を。




「ちょっと適度の温度にするのに、時間かかっちゃった。二カ月くらいのブランクはあるけど、味は二ヶ月前と比べて、劣ってないはず。どうだった?」


いつもより、輝きを増した大きな瞳を、百瀬の瞳に合わせた。



それが高校時代の美空と重なり合った。



しかし、彼はそれに触れず、話をがらりと変えた。




「やっぱり、先輩は変わってないです。何年経っても。僕はその変わらない先輩の笑顔に、惚れたんです。だから、だからもっとその笑顔で最後まで、僕が死ぬまで見せてください。約束、ですよ」




 いまにも泣きそうな顔で、なおかつそんな永遠に近しい約束をされる。







戸惑う美空は、百瀬の二度目の告白を黙って飲み込んだ。


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